東京都立呪術高等専門学校に入学したミョウジナマエは夏の終わり頃から虎杖悠仁と付き合い始めていた。

二人は思春期らしく、最初の一週間は手を繋ぐだけに留め、その後に漸くキスを交わし、互いに抱きしめ合う程度の"清い"お付き合いをしていたが、一ヶ月もすると箍が外れてしまった。
週に何回か、真夜中にひっそりと互いの部屋を行き来し、肌を重ね合うようになっていた。互いの精神状態によっては行為に及ぶことのない日もあったが、そういう時でも狭い一人用ベッドの上で互いの体を抱きしめ合い、熱いキスを幾度となく交わしていた。

今夜も人気のなくなった頃にナマエはこっそりと悠仁の部屋に忍び、出迎えた彼に抱きつき、程良く筋肉のついた胸板へと頬を擦り寄せた。

「悠仁くん、好き……」

「うん、やっぱまだ照れるわこれ。まぁ、俺も好きだけどさ……いや、ナマエ可愛すぎかよホント」

悠仁は、ぎゅっと力を込めて自分に抱きついてくるナマエの背に腕を回し、頭頂部へと口付ける。

その動作はぎこちなく、男らしく引き締まった頬が赤く染まっているのは、彼の言葉の通りに照れ故のものだろう。

生を賭けて呪いを祓うことを生業とするこの世界にいても、純真さの垣間見える反応をする悠仁が大好きなナマエは、悠仁の未だにぎこちない愛情表現に胸を膨らませた。

「悠仁くんのそういうところ、好き……」

「え、どこ?そういうところって?あ、聞いてもいいの?こういうの聞くのって野暮だよな?」

「聞いてもいいよ」

恋愛経験不足故か、気を遣って質問をすることが問題ないかさえ聞いてくる悠仁にナマエは淡く微笑み、少し身を引いて悠仁の顔を見上げた。その時初めて悠仁の頬がほんのり赤く染まっていることに気がついたナマエはとくりと胸を高鳴らせる。

「あのね、私が悠仁くんに好意を示す度に照れてくれたり、ちょっとぎこちないハグとキスをしてくれるところ好きなの。悠仁くん、器用で適用力高いけど、こういうのにはすぐに慣れないところがすごくいい」

「ん、それって貶してるの?俺、童貞っぽいってこと?」

「ええ!違うよ!そういうことじゃなくて……」

落ち込んだように眉と肩を落とす悠仁にナマエは焦り、慌てて否定する。

「んー、よくわかんねぇけど、ナマエに凄いところ見せてやらねぇとな!」

「きゃっ」

悠仁は俗に言うお姫様抱っこの形でナマエを横に抱きかかえた。

今まで男性に抱きかかえられる経験のなかったナマエは、突然悠仁の見せた男らしい行動に更に胸を高鳴らせ、憧憬の入り混じった光る瞳を悠仁に向ける。

「映画とかでよく俳優が軽々と女優を持ち上げるの観てたけどさ、やっぱ軽いんだな。女の子って。いや、ナマエがちょっと軽過ぎなのか?」

悠仁は重さを測るようにナマエをゆっくりと上げ下げし、こともなげに言う。

話の流れから、「女の子は意外と重い」とでも言うのかと思ったが、こういうところで「軽い」と言い、本当に軽そうに自分を抱き上げてくれる悠仁がかっこよくて堪らない。

ナマエは熱に浮かされたような表情を浮かべ、悠仁の肩にしがみつき、筋肉に膨らむ胸板に頬を押し付けた。

「ん、ナマエどうした?」

悠仁は顔を背けるナマエを覗き込むようにして聞く。

「悠仁くんがかっこよ過ぎてムリ……」

「えっ!ナマエにムリとか言われんのショックなんだけど!」

「だって、本当にかっこよくて……王子様みたいに素敵で、心臓もたない……!」

「あっそれは照れるわ……」

ナマエのムリという単語だけを拾って衝撃を受けたような悠仁だったが、ナマエの捕捉で漸くその意味を噛み砕くことができた為か顔を綻ばせる。

ナマエはそんな悠仁を誘惑するように上目で見つめる。

「一緒にベッドの上でイチャイチャしよ?明日早いから十五分くらいイチャイチャしたら部屋戻るね」

「あ、うん……まぁ、王子様って言われたからには王子様然とするよ!ってことで、ナマエ姫。一緒にスマホでゲームでもしねぇ?一つの画面共有するやつ。俺今日我慢するのキツいからさ」

早速王子様らしかぬことを言う悠仁であったが、そんな悠仁の素直な性格に惹かれているナマエは笑顔で頷いた。




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