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翌日は日曜日だった。二人で簡単な朝食を食べながら今日の予定について確認し合う。

「僕は今日は14時までの勤務ですから、そのあとは空いてますよ」

なまえに用事があれば合わせるつもりでいたし、なければ日用品の買い出しに行こうと思っていた。柔軟剤のストックが切れていたような気がした。

「俺は特にないですけど。でも明日から仕事だし、スーツ取りに行かなきゃ」
「取りにって、彼のアパートですか?」

途端に胸元がざわつく。なまえは悲しいような困ったような複雑な表情を見せ、視線を外し俯いた。

「今日の午後は出かけるって言ってたし、いないと思うから」

流石に顔を合わせるのは気まずい。気にしていない風を装えば良いとは思ったが、なまえは自分にそこまで出来るとは思えなかった。本格的に荷物を引き上げるのはまた準備が整ってからにするとして、今日は短時間で最低限のものだけ持ち出したかった。

「それなら僕のバイトが終わってから行きましょう。付き合いますよ」
「でも…」

なまえはまだ何か言いたげだったが「ご馳走様」と立ち上がって食器をシンクに持っていこうとすれば、それ以上に言葉を発することはなかった。

安室が出かけた後、なまえも本屋や薬局に行くというから鍵を預けた。また後でポアロで受け取れば良いだろう。あまりにも無防備すぎるかと思ったが、一晩過ごして安室には感じていたことがある。それは彼は決して詮索をしないということだ。自分の素性を話すことなど今のところあるはずもないが、“安室透”として作り上げたプロフィールですら昨日の帰りがけに話したこと以外、話題にはしてこない。探偵なんて職業、聞きたいことが山ほどあるはずなのに一切踏み込んだ質問はしてこなかった。そんな彼の性格に安室はどことなく安心感を覚えていた。



13時頃になって姿を見せたなまえの手元には確かに本屋の紙袋があって、雑誌を買ったようだった。表紙を覗き込んでみたら、それは最近流行りのDIY特集だった。

「そういうの好きなんですか?」
「やったことないんですけどね。挑戦してみてもいいかな、と思って」

気持ちは新生活に向いているようだった。自分は手先は器用な方だし、こういうのも得意だ。一緒に何か造ったらきっと楽しいだろう。

「で、ご注文は?」
「ハムサンドと」
「ミルクティーですよね」

遮って言うと一瞬驚いた後、ふふっと笑みを浮かべる。安室は嗚呼、この笑顔だ。と思った。いつもあの彼に見せていた笑顔だ。

なまえにハムサンドを提供して、カウンター内に戻る。そして食器を洗いながら彼の様子を伺う。サンドウィッチを両手で持ちながら食べる姿が小動物みたいだなと思って、少しだけ口元が緩んでしまった。

しかし、それはほんの一瞬だった。気づいてしまった。また薬指にはまるあの存在に。それを認識した瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。

彼を縛り付けるその存在を、捨ててしまいたいと思った。




2018.08.25

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