純情の裏側


※スコッチの本名ネタバレがあります!サンデー43号未読の方、単行本派の方、ネタバレが苦手な方は十分にお気をつけください。この話を読まなくても続きに支障はありません。
今回、降谷零は名前だけの登場です。







「んっしょ…」

埃っぽい資料室で、本棚に積み上げられた古書をダンボールにしまっていく。何年も使っていない本なのだろう。きっと誰にも使われたことのないまま背表紙が日焼けしているだけのもの。上にはふわふわと埃が溜まっていて、それらを乾いた布で拭き取った。

「先生これは?こっちの箱で良いんですよね?」
「あー、うん。大丈夫」

校舎の改築に伴って、準備室や資料室も移動になる。今日はその事前準備だ。教員の中でも若手のみょうじが駆り出されたわけだが、流石に一人では手が足りない。社会科の他の教員は年配者が多く、腰を痛める可能性もあることから各クラスの学級委員も引っ張り出されていた。

みょうじと共に、この部屋の担当になったこの生徒──諸伏景光は、あの降谷が特に親しくしている友人。彼もまた優秀な学生の一人だ。今回の準備で一緒になると知って声を掛けた時、『宜しくお願いします』と笑顔で快諾してくれたのをよく覚えている。もちろん、その後ろから感じた降谷の視線も。だからこそ、彼に交代を頼み込んで降谷が来ると思って身構えていたのだが、その当ては外れたらしい。

「悪いね、諸伏。受験勉強で忙しいのに」
「俺、大学受験しないんで大丈夫ですよ」
「そうなの?」
「えぇ。警察官になるので」

所謂、進学校と言われる当校にいながら大学に進学せずに警察官になるとは珍しい。しかし、進路など生徒各々の自由だ。ましてや、夢があるからこそ周りに流されずに目標へ突き進めるのだろう。なんとなくみんなが大学に行っているからという理由で進学するより、その方が身になる。素直で誠実で真面目。そして、学級委員としても仕事が的確で早い彼が警察官になったら、市民のヒーローのような警察官になるのだろうと容易に想像がついた。

「みょうじ先生さ、降谷が来ると思ってました?」
「っ、……どうして?」
「俺が来た時、ほっとしたような顔してたからさ」
「…さぁ?どうかなぁ」

後ろの棚を片付ける彼の方を向くこともなく答える。背後の気配がぴたっと止まった。空気が張り詰める。降谷の友人というだけあって、諸伏になんの警戒もしていないわけではない。だから、なるべくこの話題は早く終わらせたかったのに。しかし、彼はそれを許すつもりはないらしい。

「先生、降谷のことどう思ってるんですか?」
「どうって……大切な生徒の一人、だよ」

それ以上でもそれ以下でもない。それはあの夏の日に降谷に迫られ、唇を許してしまった時にも感じていたことだ。やはり降谷は彼に全てを話しているのだろう。

「大切な生徒、か。だったら降谷を突き放してやってくれませんか」

彼に意識を向ければ突き刺すような視線を感じる。出来る限り冷静に。気にしていない風を装って手を動かした。ダンボールがいっぱいになったの見て、また新しい箱を組み立てる。

「俺は小さい頃からあいつのことずっと見てきたけど、あんな苦しそうな姿は見たことない」
「………」
「気持ちがないなら、はっきり言ってくれませんか。そうじゃなきゃ、あいつの諦めがつかない」

友だちとして教師に、それも男に恋をしてしまった彼を心配しての言動か。それはまるで美しすぎる友情。箱を組み立て終わって腰を上げれば、いつの間にか背後を取られていた。まずい、嫌な予感がすると気づいた時には既に手遅れだった。

「なっ…!」
「先生は俺がこうしたらどうするんですか」

彼の筋肉質な腕がみょうじの体に回された。みょうじが反応できずにいる間に、彼は耳元に唇を寄せ、低音で囁く。

「みょうじ先生……好きです」
「っ!?やめなさい!離して!!」

全身の力を込めて彼の体を突き飛ばせば、金属製の棚に勢いよくぶつかって古書がばらばらと落下した。彼の頭や肩に何冊か当たって、足元に散らばる。
彼の方からちょっかいを掛けてきたと言っても、これはやりすぎた。降谷のことがあったにせよ、手加減すべきだった。教師が生徒にこんなこと…責められたら許されるものではない。

「諸伏…?」
「…いったぁ」
「ごめんなさい…」

大丈夫かと、彼の制服についた埃を拭おうと伸ばした手を瞬時に捕らえられる。あの痛みで呻いていた姿はフェイクだったのだ。

「俺のことは突き放すくせに、降谷にはしないんですね」
「………」

鋭い視線に、ぎりぎりと握られる手首。彼の真剣な表情に、痛いなんて言葉も出せるはずもなかった。

「本当に大人はずるい」

否定することすら許されずに、そっとあの刺すような瞳から目を逸らして下唇を噛み締めた。




…to be continued


2018.09.23

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