Morning view


朝の柔らかな光に誘われて目を覚ます。真っ白いはずの天井に、カーテンの隙間から差し込んだ朝日が波打つように反射している。重く気だるい四肢を動かすのが煩わしくて、彼がいるはずの側に顔だけを向けた。しかし、そこにその存在はなくて、シーツの皴だけが視界に映る。熱い夜を過ごした翌朝、いくら仕事が朝早くからだろうと何も言わずに出かけることなど今まで一度もなかった。申し訳なさそうに自分を起こして「行ってくるよ」と優しいキスをくれるのだ。視線をそっとずらして下方を見れば、体を起こしてじっとしている彼がいた。眠気に耐えているらしい。翌朝に疲れが残ってしまうのは歳かな、なんて話していたのはつい最近のことだ。

健康的な小麦色の肌。鍛え上げられた筋肉。程よく張っている背中の筋を眺めて、この体が自分のものであることになまえは幸福感を抱いた。二の腕も胸筋も、日頃のトレーニングのおかげで綺麗に仕上がっている。それでもスーツを纏えばシュッとスレンダーな着こなしになるのは、彼は洋服を着た時のことも考えて鍛えているのだろうかと、いつもなまえは不思議で仕方なかった。

その男らしい体に触れたくなる。彼の体温を直に感じたくなる。でも、もしかしたら彼は仕事のことを考えている最中かもしれない。自分が目覚めたことにも気づいていないようだったから、伸ばしかけた手をゆっくりと引っ込めた。そして、少し熱くなった自分の気持ちを冷ますように、寝返りを打って彼に背を向けた。

「寝たふりなんて、可愛い嘘をつくんだな」

布擦れの後、そっと自分の体に這わされた降谷の手の平。途端に胸が大きく跳ね上がる。

「今起きたとこだよ」
「寝ようとしていたじゃないか」
「眠いんだから仕方ないよ」

脇腹から鳩尾を通って、胸を撫でる彼の手に肺を鷲掴みにされたように息ができなくなる。背中が降谷の体と密着して焼けつくような熱を感じた。

「なまえ…」

密着していた体が離れて、背筋を辿るように降谷の唇が落とされる。

「んぅ……」
「朝からそんな声出すんだな」
「だって…」

下の方からゆっくりと、優しく丁寧に啄まれていく。肩甲骨に辿り着くと噛みつかれて、一瞬痛みが走る。なんてところに痕を付けるんだ…

「なまえ、感じすぎ」
「零くんがわざとやるからでしょ」

そんなの言い訳だってわかってた。彼の一つ一つの動作にこんなにも感じてしまうのは、たくさんの快感を教え込まれてしまったから。降谷は痕を付けて満足したのか、啄むのをやめてもう一度体を密着させてなまえを抱きしめた。

「こっち向いて、なまえ」
「零くん…」

反転して体の向きを入れ替えれば、彼の胸に押し付けられるようにまた強く抱きしめられる。今朝の彼は随分と甘えたらしい。目の前に降谷の逞しく少し盛り上がった胸板が広がる。そっと耳を寄せて鼓動を感じる。なまえはこれが大好きだった。降谷の胸の中心を指で転がして静かに唇を寄せた。

「なにするんだ」
「いつもの仕返し」
「こら」

悪戯な唇は塞いでしまえばいい。挑発的な目を向けるなまえに降谷も同じ目を返してキスを注いだ。お互いにお互いを求めるように。示し合わせたかのようにその接吻は激しさを増していく。

「…はぁっ……もう、だめだよ…」

これ以上は本当に止められなくなってしまう。昨夜もあんなに深く愛し合ったというのに、まだ足りないとばかりに降谷を求めようとする自分が怖かった。何故、と不満げに視線を寄せる降谷の頬は少しだけ紅潮していて、これもまたきっと同じ色をしているのだろうと思った。

「今日は休みなんだし、いいだろ」
「うーん…」

少し悩んだふりをして、彼から視線を外してまた彼を見る。「やっぱりだめ」と告げれば降谷はあからさまなため息をついてみせた。

「今日はどこか出かけようよ」
「例えば?」
「そうだなぁ。例えば、零くんが観たがってた映画とか」
「いいのか?なまえ、アクションもの好きじゃないだろ」
「いいよ、大丈夫」

なまえは特段アクションものが嫌いというわけでなかった。大きな音や激しい光にいちいち驚いてしまうだけで、ストーリーが嫌いだとか苦手だとか言うわけではないのだ。「映画観て、買い物もして、本屋も行きたいし」と、止まらなくなったなまえの唇をそっと親指で撫でる。

「わかったから、あと十五分このままで」

降谷の腕の力が抜けて、徐々に重みが増す。その重さが愛おしくて、なまえは思うのだった。十五分と言わず、三十分寝かしてあげようと。愛しい恋人の寝顔を見上げて、自らもそっと瞼を閉じた。もうすぐ時計は八時半を指そうとしていた。




(別題:Fの日常)

2018.08.08

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