のどかな憂い事
いつもとは少し違う味付けのお昼ごはんを食べて一息ついていると、ポケモンセンターの食堂にあるテレビの音が、わたしの耳に届いてきた。
それは、今日カナズミジムのツツジさんというジムリーダーさんが、チャレンジャーさんを見事に打ち負かしたというニュース。
ポケモンジムには多くのチャレンジャーさんがやってくるとはいえ、このあたりではニュースにするようなことが他にはなくて、だからポケモンジムにチャレンジした、なんて毎日のように起こるニュースがトップニュースになっていたりする。そんなところを見ると、なんだかとても田舎なとこに来たんだなぁ、と感慨深くなったりする。まぁ、もともとわたしはいつも都会にいたというわけでもないのだけど。お父さんにくっついて住んでいたところは、都会も田舎も、色々あった。
「いやぁ、今日のツツジさんのバトルは見事でしたねぇ! ノズパスの技で決まったフィニッシュは実に見物でした。ですが、これに臆せず、多くのトレーナーたちがそうであるように、皆さんにもぜひジムに挑戦してもらいたいところです!」
「そうしていつかはチャンピオンに挑む……! トレーナーといえばこれですからね!」
「えぇ、それにもちろん、コンテストライブも……」
キャスターさんたちはにこやかにそんな会話をしていて、なんていうか、そう。わたしの中にとん、と石を投げ込まれて、大きな波紋ができたようだ。だってわたし、そう。わたしの旅には大きな目標っていうものがない。
なんとなく、なんとなくではじめた旅なのだ。
ポケモンジムに挑戦すること、チャンピオンを打ち負かすこと。ポケモンコンテストライブで活躍して、アイドルになること。
今、テレビのなかでキャスターさんが言っていたことがこれだ。
頭の中でそれぞれを思い浮かべてみると、なんとなく、どれもこれもしっくりこない。もっとなにか、別のものがわたしにはあるのじゃあないだろうか。そんなふうに、思ってしまう。
そもそもコンテストライブの方はよく分からない。こちらでもやっぱり最近話題になり始めたものらしい。いわゆる、センスがいるのだろうな。わたしには無縁なことかもしれない。
「わたしの、旅の目的ってなんだろう」
ぽつり。つぶやいた声は思ったよりも大きくて、足元でポケモンフーズを食べていた依綱がわたしを見上げてくる。
『アマノ?』
「依綱、あの、ね。あんまり気にしないで。ちょっと不思議に思っただけなの」
『そう?』
「うん。そうなの」
『なら、いいや』
納得したような依綱の背中をするりとなでると、金色の短めの毛並みがとても気持ち良い。ずっとこのまま手にこの毛並みを感じていたいくらいだ。
ううん、いや。考えなくてはいけない。あやふやなままで旅をするのはなんだかとてもいけないこと、恥ずかしいことのように感じて、わたしだけのわたしの旅の目的というものを、とにかく早く見つけなくてはいけないなぁと思った。
周りに人がいなくて、よかった。
あんまりぼんやりしていたせいで、依綱とも、普通におしゃべりしてしまった。
飲みかけのお茶を一口飲む。しっかり冷えていたはずなのに、なんだか、もうぬるい。