キミは可愛いお嬢さん

   

「なァ、マルコ」

「なんだよぃ……」

「ソレ、重くねェの?」

「結構重いな」


俺が淹れた珈琲を飲みながら質問に答えたマルコの頭の上にへばりつくように寝そべっている末妹、シスの姿に洗った皿を拭きながら俺は苦笑した。

シスは寝そべってはいるが寝ているわけではないようで、その真紅の瞳はパッチリと開かれて食堂内をキョロキョロと視線を忙しなく動かしていた。


「シスー、重いってよー?降りてやったら?」

「……」


そう言ってみると忙しなく動き回っていた真紅の瞳がジッと俺に向けられる。シスはマルコの暇を見つけるといつもこうして頭に乗っかってはぐでぇん…とだらけた格好をしている。

最初こそ、降りろって叱っていたマルコだが今ではもう諦めたのか何も言わずに好きにさせている。

その姿にイゾウが「長男様はお嬢に甘いねぇ…」と笑っていたけどそう言うお前も甘いだろ、とは口が裂けても言わなかった。


「なんだったら木の実でお菓子でも作ろうか?」

「…!」


どこから採ってくるのか、シスが気に入ってる木の実の入った籠を持ち上げれば、彼女は目に見えて嬉しそうに顔を上げると軽やかにマルコの頭から飛び降りようとして、マルコに掴まって机の上に降ろされてた。


「飛び降りるなっていつも言ってるだろぃ」

「…!!」

「怒っても怖くねえよぃ」


プンプンと体全体を使って表現するシスが可愛いのは同意するけど、あんま過保護になるのはどうかと思うぞ?

いや、過保護の度合いが酷いのはマルコよりもエースとデュースの二人だな。

そう思いながらシスにどの木の実がいいか聞けば、彼女は籠の中に落ちるんじゃないかってくらい身を乗り出すと木の実を選び始めた。

真剣に選ぶ様子は本当に可愛くて、正直疲れた体が癒される。可愛い末妹を見つつ、マルコを盗み見ると目尻を下げて優しい顔をしていた。

シスが来てから見るようになったマルコのその表情に未だに慣れない俺はそっと視線を真剣に木の実を選んでいるシスに戻す。

すると丁度選び終わったのか濃いピンクの木の実を持ってきたが、その木の実は初めて見るものでどんな味がするのか分からないから籠の中から同じのを取って一口食べてみた。


「うわ……美味っ」


ウットリする甘さの奥で微かに感じる苦み、酒のつまみにしてもイケそうな味の木の実に感動しているとクイクイと服が引っ張られた。

引っ張られた方に目を向けるとシスが首を傾げながら片手を口の近くにやって俺を見上げていた。あざとい仕草に俺は変な声が出そうになったけど、咳払いをして誤魔化した。


「んじゃあ、すぐに作っから待ってろ」

「!!」


コクコクと頭を上下に振るシスにほっこりしつつお菓子を作る作業に入った。


*****


シスの選んだ木の実を持って厨房に入って行くサッチを見送るとシスがサッチの齧った木の実を食っていた。

人の食い掛けでも平気で食う辺り、コイツもエースと同じで食い意地が張っているんだろうな、と既に冷めた珈琲を飲みながら俺は思った。

そしてふとこの前シスがサッチのリーゼントにぶら下がってた時の事を思い出した。


「ギャアアアアァアァァッ!!!?」


突然聞こえたサッチの悲鳴に厨房に虫でも出たのかと思って食堂に行くと、悲鳴を聞いてやって来た他の隊長達(エースはまだ寝てんだろう、姿が無かった)もいた。


「何事だよぃ」

「はようさん、マルコ。サッチの悲鳴はお嬢の悪戯が原因みだいだ」

「シス?」


可笑しそうにクスクス笑うイゾウの指差す方に目を向ければサッチのフランスパン(リーゼント)に抱き着いてぶら下がっているシスの姿があった。

ぐしゃぐしゃになったフランスパンを見て、俺も笑ってしまう。どうも俺達の妹は見た目とは違ってやんちゃのようだ。


「ちょ、シス!やめて!サッチさんのリーゼントが崩れるってか崩れてる!!」

「!!」


ギャーギャーと一人騒ぐサッチと楽しそうに体を揺らせてるシス(ミハールが言うには笑ってるそうだ)にその様子を見て面白がる俺達だったが、サッチが猫を捕まえるように首根っこを掴んでシスを捕まえた。

掴まった途端、ぐしゃぐしゃになったフランスパンから手を離すのでシスの体はぷらーんとなっている。

ボサボサ頭にされたサッチは怒っているようだが、シスは反省の色を見せずになんで怒ってるの?と言いたげに首を傾げる。


「あーぁ、もうちょっと見れると思ったんだけどなァ」


つまんないの、と言いながら両手を頭の後ろにやるハルタに同意していると大きな欠伸をしながらエースがやってきた。どうやら今まで寝ていたらしい。


「はよー。なんかあったのか?」

「エース、今頃起きてきたの?さっきまで面白いのが見れたのに」

「面白いの?」

「お嬢がサッチのリーゼントを台無しにしてたんだよ」


イゾウがそう言って目線でサッチの方を指すとエースがそっちを向くと、寝起きとは思えない速さであっという間にサッチの手からシスを奪い返していた。その早業に数名から拍手が上がる。


「あっ!?エース何すんだ!!」

「それはコッチのセリフだ!!なんつー持ち方してんだよ!!」


シスを守るように抱きしめつつサッチに威嚇するエースを見て誰かがエース隊長の過保護が始まったってのが聞こえた。


「シス、あのフランスパンは食えないって教えただろ?」

「?」

「フランスパンじゃなくてリーゼントだって言ってんだろ!!つーか叱るならちゃんと叱れって!!」


そんなコントみたいなやり取りを見てるのも面白いが、こちとら腹が空いている。俺は大きな溜息を吐いてから三人に近づいて、いい加減にしろと声を掛けた。蹴らなかったのは余計な騒ぎにしないためだ。


それで仕込み途中だったことを思い出したサッチが髪を整えて飯の準備に戻ったんだよな、と思い出していると丁度菓子が出来上がったようで皿にマフィンを乗せて戻ってきた。

皿の上に乗ったマフィンを見て大喜びしながら駆け寄っていくシスを見ていると、マフィンを一つ持って俺に駆け寄ってきた。


「美味しそうだねぃ」

「……」


そう言って頭を撫でてやれば嬉しそうに体を動かし、持っていたマフィンを俺の口に押し付けてきた。


「……くれるのか?」


そう聞けばコクコクと頷くのでとりあえず、一口食ってみると甘さが目立つがその中に苦みもあるので食えないことは無かった。

ビターチョコレートのような感じだな、と思いつつ空になったカップを置いてマフィンを受け取る。


「美味いよぃ」


シスはその返事にニッコーと笑うと自分もマフィンを頬張り始めた。

俺達は互いにニヤけた顔を見て呆れたが、幸せそうにマフィンを食ってるお嬢さんの為にも何も言わず、俺は渡されたマフィンを食った。


201812042214