小さな探偵

     

午後の授業を受けながら盗聴を続けているとメッセージが届いたらしくスカートの中でスマホが動いた。

画面を確認すると坂本から“放課後はアジトに集合でいいんだよな?”と来ていた。
チラリと隣の坂本に目を向けると下を向いてスマホを弄っていた。

こんな風にしてるからテストで泣く羽目になるというのに、坂本は学習しないなぁ、と思いながら画面に目を戻すとメッセージがかなり進んでいた。

それを目で追いながらメッセージが終わった所でスマホを仕舞った。


*****


放課後になって屋上に行くと誰もいなかった。

あれ、早く来すぎたかな?と思いながら座れそうな場所に座って、皆が来るまでの間に荷物の確認をする。パレスと言うあの城の中で自由に動けるようになるべく無駄なモノは持って行かないようにするため、教科書やノートと言ったものは机の中に置いてきた。

ガサゴソと鞄の中身を漁っていると竜司、杏、暁の順で屋上にやってきた。


「これでみんな集まったな。んじゃ行くか」

「待て。まだ行くのは早い」


スマホを取り出しながらいきなりGOサインを出した竜司にモルガナがストップを掛けた。
それに対して竜司はなんで、と言いたげに顔を顰めてモルガナを見る。
しかし葵依はモルガナが言いたいことをなんとなく分かっているので口を挟まずに一人と一匹のやり取りを麦チョコを食べながら見守ることにした。


「なんでだよ。あとは盗むだけなんだろ?」

「パレスを甘く見るな。まずは準備だ」

「あのペルソナって力がありゃどうにでもなるだろ?」

「それが甘く見てるってことだよ。下手したら死ぬんだぞ?パレスに行くのは、準備を整えてからだ」


死ぬという単語に杏の顔が少しだけ青くなった。
しかし葵依は昨日の兵士たちのことを思い出しては、油断して挑んだら高確率で死ぬだろうな、とどこか他人事のように考え、城の様子を思い出した。

潜入し、杏を探している最中に聞こえてきた複数の悲鳴と呻き声。
考えたくもないが、あれはもしかしたら誰かが拷問にでも掛けられていたのかもしれない。

日本で拷問、だなんてあの人が知ったら激怒しそうだなぁ。なんて考えていたら話が進んでいた。


「―――店なら知ってるぜ?」

「じゃあ、そっちはまかせた」


何を竜司に任せたのだろうか、隣に座る杏に聞いたら武器の調達を任せたらしいと聞いて、思わず竜司の事を見てしまう。
竜司にそんなパイプ、あっただろうか?

疑問に思いながら首を傾げているが、話はどんどん進んでいく。


「あとはパレスで消耗した時のためにクスリを調達しておくか…」

「クスリ?そんなのどうやって?」

「大丈夫だ、当てはある。アン殿は楽しみに待っててくれ。暁とワガハイは四茶に用がある。今日は一旦解散だ!」


そう言って行く気満々のモルガナに暁が説明しろと、説明を要求したが。


「いいから来い!ワガハイだけじゃ近づけないんだよ!」


と一蹴され、説明もないまま暁は四軒茶屋に行くことになってしまいムスッとした顔をしていた。暁の監視という仕事もある葵依は彼が何をしようとしているのか、それに“クスリ”の調達と聞いて黙っているわけにはいかない。もしもモルガナの言う“クスリ”が非合法のものであれば暁には悪いが通報させてもらう。


「ねえねえ!私も来栖君についてっていい?」

「え?…構わないけど」

「そんじゃ、行こっか」


杏と竜司が何か言ってくる前に暁の手を掴んで屋上から飛び出した葵依は周りから向けられる好奇の目を気にせずに学校から出た。

暁の手を掴んだまま裏道を通って駅前まで来ると葵依は暁の手を離した。


「それで四茶まで行くんだよね」

「そうだぜ」

「ちなみにどうやってクスリを調達するの?」

「それはついてからのお楽しみってやつだ!」


暁の鞄の中にいるモルガナに訊ねた葵依は答えをはぐらかされてしまい、そう簡単に教えられないってことはヤバいものなのだろうか?と勘ぐってしまうがすぐに先入観は仇となる、という言葉を思い出し、笑顔でじゃあ楽しみにしとく、と答えた。

電車に揺られながら暁と軽くしゃべりながら四軒茶屋に向かいモルガナの案内で商店街にやって来た。


「暁、昨日ルブランで会った客、覚えてるだろ?ゴシュジンとユイが言ってた適当なクスリを出す医者だよ」

「覚えてる」

「なんとなくピンと来てんだ。そんな怪しい噂が立つ医者なら相談に乗ってくれんじゃないかってな」


モルガナの言っている医者については葵依も知っていた。
以前仕事の一つに彼女が関わっていたので調べたことがある。
そして調査の結果、彼女は白だった。
それ以降、彼女の事を調べてはいなかったが、まさかここで彼女の元を訪れることになるとは思っていなかった。
実際に彼女と接触するのはこれが初めてだから別に問題は無いのだが、はてさて彼等はどうやって彼女からクスリを貰うつもりなのだろうか?

そう思いながら暁と一緒に診療所のあるビルに向かった。
ビルの入り口でモルガナが暁にどうやってクスリを手に入れるかを聞き、暁の答えは適当に誤魔化すだった、それを聞いた葵依はお手並み拝見、と思いながら彼の後に続いてビルの中に入って行った。

診療所の中は狭く、受付にはここの院長であり目的の人物-武見妙-が座っていた。
寝不足なのか、疲れからなのか彼女は気怠そうにしている。
彼女はこちらに気付くと目線だけ寄越して初診ですか?と訊ねてきた後、暁の顔を見て首を傾げた。


「あら?貴方どこかで…」

「ルブランで見たんだと、思います」

「ふぅん。まあどうでもいいけど…。それで、本日はどうなさいました?」

「全身が怠くて…」


暁が答えると武見はジッと暁の顔を見た。
嘘だという事がバレているのだろう、彼女は医者を務めているだけあってそう言う事には敏感だし、それが見抜けない間抜けでもない。


「…まあいいわ。では診察室へどうぞ」


少しだけお互いに見つめ合っていた二人だが武見がそう言って診察室へ暁を案内し、着いて行こうとした葵依に武見が貴女はここで待っててください、と言われてしまい、仕方ない、と思いながら暁の鞄に盗聴器を仕込んだ。


「……じゃあ来栖くん、私は外で待ってるね」

「ああ」


暁に声を掛けて診療所を出た葵依は近くに電信柱の近くに移動してイヤホンを着ける。
そこからは武見と暁の声が聞こえてくる。内容は暁の診察をし、ストレスだろうと言われている所だった。確かに彼にとってここでの生活は色々とストレスだろう。そう思う葵依だが、同情したりはしなかった。ここで彼に同情したり哀れんだりして彼が救われるというわけではないのだから。だったら普通に接してあげればいい、腫物を扱うようにするのではなくそう言った方が彼も気が楽になるだろうし…。まあ現在進行形で盗聴をしている奴には言われたくないだろうけど。

思考が脱線してきていることに気付いて頭を振ってから耳を澄ますとどうやら取引は難航するでもなく、あっさりと成立したようで拍子抜けしたが葵依は耳からイヤホンを抜き取った。

葵依が危惧していた“クスリ”ではないと分かったのでこれ以上聞いている意味がなかったからだ。一先ず安心していると険しい顔をした男がビルに入って行くのが見えた。


――あの男は確か……なんでここに…?ってああ、武見先生に何か言いに来たのか


男を見ていたら何やら気になる会話が聞こえてきてそちらに顔を向けると葵依のいる場所の近くで初老の男性に眼鏡を掛けた小学生が話を聞いている所だった。

それだけなら何も可笑しい所はないのだが、話している内容が明らかに可笑しかった。


「ほら、ニュースで言ってる地下鉄の事故じゃなくてもいいんだけど、何か知らない?」

「ああ、あの事故か…。不気味だよなあ、事故や事件を起こした人、突然可笑しくなったらしいじゃないか、取り調べの最中に倒れて灰人になった奴もいるようだ、巷では精神暴走事件と呼ばれている騒ぎだよ。坊やも気を付けるんだよ?」

「うん!おじいさん、ありがとう!」


そう言うと少年はにっこりと笑顔でお礼を言った。
何故あんな子供がそんな事を調べているのだろうか、訝しむように見ているとその少年と目が合った。そして葵依は彼が誰なのか思い出した。


−−ああ、3/31に明智の推理を聞いて飛び出してった子だ


先月の事を思い出しなから彼を見ていると、コナンはそのまま立ち去るわけでもなく、今度は葵依に近づいてきた。


「ねぇねぇお姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「…眼鏡を掛けた少年、お姉さんに聞きたいことってなぁに?」


膝を折って目線を合わせながらそう聞けば彼は一瞬だけキョトンとした顔をしたがすぐに精神暴走事件について何か知っていることは無いか、と聞いてきた。


「うーん、知ってることかぁ……この前の地下鉄脱線事故とかそれだよね。ちなみにキミはどうしてこんな物騒な事を調べてるの?」

「えっと僕、小五郎のおじさんに頼まれてて情報を集めてるんだよ」

「そっか、小五郎のおじさんってもしかして、毛利探偵のこと?」

「うん、そうだよ!」

「毛利探偵のお使いだったのかぁ。……ならお姉さんの秘蔵の情報を教えてあげよう」


そう言って葵依コナンの耳元に口を近づけて、小声で既に風見に渡してある情報の一部を教えた。
それを聞いたコナンはその大きな目を更に大きくして驚いた。
言い終えると彼はバッと葵依の事を見てきた。
警察関係者に幅広い人脈を持っているこの少年であればこの情報もきっと手にするだろう、なら今持っていても別に問題はない…と思う。


「お姉さん、この情報……どこから……?」

「ふっふっふっ、お姉さんは忍者なのさ!情報集めなんてお手の物!必殺仕事人とは私のことなり!」


大袈裟にそう言うとコナンから冷たい眼差しを貰ってしまったが、そんなことでへこたれる葵依ではない。


「ねぇ、お姉さ……」
「櫻井、お待たせ……ってあれ?」

「あ、来栖君お帰り〜」


診療所から出てきた暁がタイミングよくコナンの声を遮ってくれたので葵依は暁に近づいて、彼に付けた盗聴器を素早く回収した。


「それで診察はどうだった?」

「え?……あ、うん、しばらく通う必要があるって……」


しばらく通う、ということはしばらくはクスリの調達に困ることはないということだろうと解釈した。


「そっかぁ……あ、そうだ!この子が最近の事故について何か知らないかって言うんだけど、来栖君は何か知ってる?」


そう言ってコナンに目を向けると暁も釣られて葵依をジッとこちらを見ているコナンに目を向けた。


「最近の事故……?……それって80人の死傷者を出したってやつ?」

「多分それ」


葵依が頷くと暁は申し訳なさそうに知らない、と答えた。


「……そっか!じゃあ僕もう帰らないといけないから」

「うん、気を付けるんだよー」

「はーい」


そう言って走っていくコナンを見送った葵依と暁のスマホにメッセージが届き、二人は自分のスマホを取り出した。

竜司からの連絡でモデルガン売ってる店なら渋谷にあんぜ?という内容だった。


「モデルガン?」

「ああ、竜司に頼んでた武器のことだよ」

「……何かの合言葉じゃなくて、まんまモデルガン?」


葵依の言いたかった事がいまいち分からなかった暁は首を傾げてから頷いた。
そしてモルガナが改めて葵依にパレスの事とそこが認知の世界であることを説明してくれた。


「何それすげぇ……」

「だからリュウジには“武器”の調達を任せたんだ」

「なるほどなー」


彼等の言っていた武器が玩具ということにもう一度安心していると、いつの間にかメッセージは流れていて、杏が志帆のお見舞いで明日の買い出しに行けないということが書かれていた。


《そのお見舞い私も行く》

《うん、行こう》

《わかった》
 
《おう、俺らにまかせとけ》


そこで明日の集合場所と時間を最後にメッセージは終わった。


「んじゃあ、私は帰るね」

「ああ、駅まで送ろうか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


そう言って葵依は暁と別れ駅に向かった。


201805011658