The Time Bomb Skyscraper.

   

打ち上げをしようと約束した5月3日。

打ち上げの場所は、杏の提案で米花シティビルのビュッフェになり、米花町に向かう為に葵依は東都環状線に乗り込む。

米花町までまだ時間もあるので葵依は空いている席に座ってイヤホンを付けるとスマホでニュースを見始めた。ニュースは丁度一昨日に東洋火薬の火薬庫から盗まれた大量の爆薬について話していた。

現在警察は百人を超す捜査員を動員して捜査を進めているようだが、犯人の手掛かりが掴めていないらしい。

上からの指示が無い為、この事件に手を伸ばしてはいないがもしもこの爆薬を使ってテロでも起こされたりしたら……と考えると本当に調べなくていいのだろうか?と心配してしまう。

そう考えていると止まった駅で杏と竜司が乗ってきた。
二人は葵依に気付いて近づいてきた。


「やっほー、葵依」

「よお」

「あ、杏ちゃんと竜司」


声を掛けられた葵依は顔を上げて片方のイヤホンを外した。
杏が何を見てるの?と聞いてきたので葵依は素直にニュース見てた、と返すと彼女の両隣が空き、二人は葵依を挟むように座った。


「へー、お前ってニュースも見るのか」

「ふふん、アニメも良いけどニュースも大事なんだよね」

「なんでどや顔してんだよ……」


竜司はなんか腹立つ、と言いながら葵依の額を指で弾いた。葵依が弾かれた箇所を片手で押さえながら痛い、と抗議していると次のニュースが流れる。


『次のニュースです。昨夜遅く、山手区葉井戸町(はいどちょう)の黒川さん宅から火が出て、付近の家数件が類焼(るいしょう)しました。人気のない所から火の手が上がったことから、警察では放火との見方を強めています』


それを聞いた葵依はボソリとまた放火…と呟く。葵依の呟きが聞こえた二人は彼女のスマホ画面を覗き込んだ。

画面には消防隊が燃え盛る立派な屋敷の消火作業をしているところが映し出されている。


『なお、最近多発している一連の放火事件と手口が似ている事から、警察では同一犯の可能性も高いと見て――』


放火事件は同一犯と見て間違いは無いだろう。
そして最近放火された四軒の放火はどれも英国(イギリス)古典様式風の建築物ばかりだった。

今のところ四軒の放火の共通点は様式だけ、と考えられるが……何かが足りないような気がする。

しかし考えている間に米花町駅に着いたらしく杏に声を掛けられ、葵依はスマホの画面を切って、鞄の中に仕舞って電車から降りた。


「えっと、ここから米花シティビルまでは……」

「歩いて行くと結構距離があるし、タクシーで行かない?」

「そうだな」


葵依の提案で三人はタクシーで米花シティビルまで向かう事に決め、歩き出すと杏がふと立ち止まって辺りをキョロキョロと見回した。


「どうしたの?」

「置いてくぞー」

「……あ」


杏は何かに気付いたようで、近くにあったベンチの下を覗き込むようにしゃがむとベンチの下からピンク色のキャリーケースを取り出した。

ケースには『誰かもらって下さい』とメモが張り付けられていた。

メモを見てから杏はベンチに座るとケースの扉を開けると中から白い毛並みの猫が出てきた。出てきた猫は人懐っこいようで甘えるように杏の手に擦り寄る。


「お前捨てられちゃったの?」


杏の言葉に答えるように猫はニャァと可愛らしく鳴いた。


「酷ぇことするよな」

「杏ちゃん、その子どうするの?」


葵依が聞くと杏は少し考えてから一回頷いてからどこかに電話をかけると少し話をしてから振り返った。その間に竜司はタクシーを捕まえに離れて行った。


「この子、ウチで飼うことにした!」

「え?いいの?」


葵依の質問に杏は笑顔で頷くと竜司がタクシーを捕まえた、とこっちに声を掛けてきた。


「それじゃ行こっか」

「うん。ビルに猫を預かってくれる所があるといいね」

「そうだね」


杏と葵依が話ながら近づくと竜司は先に乗っていて、二人もタクシーに乗り込んだ。
扉が閉まる直前、子供の声が聞こえたような気がしたが、タクシーは米花シティビルに向かって走り出していた。


「今、なんか聞こえなかった?」

「え?竜司、聞こえた?」

「いや、聞いてねえけど」

「そっか……」


二人が聞いていないという事は空耳だったのかもしれない。
そう思いながら杏の手にじゃれついている猫を見ながらさっきの声を思い出した。


『お姉さん、待って!!』


その声は切羽詰まっていたように思えた。
しかしあの声、どこかで聞いたような……?

どこで聞いたのか思い出そうとするとタクシーが急停車し、三人の体が前のめりになる。


「な、なんだぁ!?」


竜司がそう言うと運転手は慌てた様子で外に出て、大丈夫か!?と誰かに声を掛けていた。
もしかして人を撥ねてしまったのだろうか?と思っていると助手席の扉が開き、コナンが入ってきた。

彼は杏に目を向けると彼女の膝の上に置かれているキャリーケースを取った。


「お姉さん、このケース貸して!!」

「え……?ちょっ、何!?」


彼はそう言うと返事を待たずにケースを持って中を見ると顔色を変えた。
その様子が気になった葵依はそっとケースの中を覗き込むと、そこには数本のコードに繋がった爆弾があった。

しかも爆弾はあと25秒後に爆発することを表示している。

こんな住宅街で爆発なんてされたら、と葵依が考えているとコナンがタクシーから飛び出し、自転車の籠にケースを入れると自転車に跨って走り去っていってしまった。

彼は一体何をしようというのだろうか、と思いながら見ていると彼が置いていってしまったスケボーを持って運転手が戻ってきた。


「運転手さん、大丈夫ですか?」

「ええ、まあ……しかし何だったんですかね……さっきの子は」


愚痴るように言いながら助手席にスケボーを置いた運転手はタクシーに乗って運転を再開させた。
葵依はすぐに時計を確認するとタクシーが走り出した20秒後、高速道路がある方向から大きな爆発音が聞こえ、黒煙が上がっているのが見えた。


「おい、あれって!!」

「うっそ!?爆発!!」


突然の爆発に竜司と杏は驚きの声を上げ、運転手はまたしてもタクシーを停めた。
葵依はさっきの爆弾が爆発したのだろうと、すぐに分かったが時間が合わないことに首を傾げる。

しかしあれが爆発したということは、ケースを持っていったコナンは大丈夫なのだろうか?と心配した。

そしてタクシーが再び走り出し、葵依は窓から見える遠ざかっていく黒煙を見ながらコナンの身を案じた。


*****


米花シティビル前に着き、代金を3人で割って払うとロビーで暁とモルガナを待つことにした。

杏は拾った猫を受付で預かってもらえるか聞いてくると言って受付に行った。
竜司はトイレに行き、1人残された葵依は鞄からスマホを取り出して、ニュースを開いた。

ニュースではさっきの爆発について報道していた。


『爆発物を住宅街から遠ざけようとして負傷した少年は、現在警察病院へ運ばれ、手当てを受けています。命に別状はない、とのことです』


コナンが生きているという事にホッと一安心した葵依はそのままニュースを見続けると鴨志田の事が報道された。


『都内の高校に勤務するバレー部顧問が、生徒に対して問題行為を繰り返していた事を告白。顧問の素性は五輪メダリストであった事などから大きな波紋を呼んでいます』


葵依は画面に映る校舎や顔を隠された生徒達を見ながらしばらく騒がしくなるだろうな、と他人事のように思いながらニュースキャスターの声に耳を傾けた。


*****


警察病院にある病室の一つで険しい顔をした大人たちが目を覚ましたばかりのコナンの事を見ていた。


「早速だが、コナン君。事件の事を詳しく話してくれないかね?」


目暮の言葉にコナンは頷いて事件の経緯を話し始める。
それを聞き逃さないように白鳥と松田は手帳に書き込んでいく。

そして話が進み、RC飛行機とキャリーケースに使用された爆弾の種類がどちらもプラスチック爆弾だったことから、東洋火薬の火薬庫から盗まれたものだろうと判断された。

それに付け加えるように松田がズボンのポケットに手を入れたまま壁に寄り掛かって口を開く。


「RCのマル爆は雷管を付けて衝撃爆弾にしてあり、ケースのマル爆はタイマーを接続して時限爆弾にしてあった」

「しかし、そのタイマーが1時16秒前に一度停止したということが引っ掛かりますね……」


松田の言葉に白鳥が気になると手帳を見ながら言うと目暮が窓辺に近寄りながら二つの可能性を口に出す。

タイマーが故障を起こしていたか、犯人が何らかの理由で意図的に遠隔操作で止めたという二つだった。

そして目暮は犯人が“工藤新一”の評判を知って挑戦してきたか、個人的に恨みを持つ人物だろうとも予想を付ける。


「それについて調べましたが、工藤新一が解決した事件の犯人は現在、全員刑務所に服役しているんです……」


白鳥がそう報告すると小五郎が顎に指を掛けながら犯人の恋人か身内か?と声を漏らす。


「とにかく警察では今、子供達に聞いた情報を元に似顔絵を作成し、捜査をしているところだ」


そう言って目暮警部がコナンに似顔絵を渡して見せた。そこには帽子を被った長い髪と髭を生やし、サングラスを掛けコートを着ている男が描かれていた。


「白鳥、その高校生探偵が扱った事件の中で一番世間の注目を浴びたものってなんだ?」

「え?……うーん、これじゃないですか?“西多摩市の岡本市長の事件”」


質問に答えた白鳥に松田はあの事件か……と呟いた。

西多摩市に住む25歳のOLが市長の息子の岡本浩平(おかもとこうへい)が運転する車に撥ねられて死亡した。助手席に父親である市長を乗せて起きたとその事件は、最初ただの交通事故として処理されるところだったが、工藤新一がその事故に疑問を抱き、調査したところ犯人は浩平ではなく、市長本人だったことが分かり、彼は失脚した。

そして彼が進めていた西多摩市の新しい街づくり計画も一から見直されることになったという。


「まさか岡本市長の息子がその時の事を恨んで……」

「そういえば彼は電子工学部の学生だったな……」


目暮の言葉に白鳥は調べます!と言って病室から出て行った。
するとコナンの携帯から着信音が鳴り、それに出ようとしたコナンを小五郎が止める。


「いいか……相手が犯人だったら俺が代わる!!」


小五郎の言葉に頷いたコナンは電話に出て、すぐに周りにも聞こえるようにスピーカーに切り替えた。

スマホから聞こえてくる声は変声機を使っているようで歪んでいた。


『だが……子供の時間は終わりだ……。工藤新一を出せ!!』


怒鳴るように工藤新一を出せと言ってくる男に小五郎が口を開く。


「そうだな……これからは大人の時間だ!!」


コナンでも新一でもない声に電話向こうにいる相手は動揺したようで、焦ったようなに誰だ!?と訊いてくる。


「工藤はいない!!俺が相手になってやる!!俺は名探偵、毛利小五郎だ!!」

『……いいだろう。一度しか言わないからよく聞け!!』


すると犯人は東都環状線に五つの爆弾を仕掛けたと言った。
犯人の言葉にその場の全員が驚き、息を呑み、コナンと松田は眉間に深いシワを作った。


『その爆弾は午後4時を過ぎてから時速60キロ未満で走行した場合、爆発する……』


その言葉に松田が自身の時計を確認すると4時まで残り8分しかなかった。
今から東都鉄道の総合指令室に連絡したところで、間に合わないという事は分かり切ったことで松田は舌を打つ。


『また、日没までに取り除かなかった場合も爆発する仕掛けになっている……。ああ、一つだけヒントをやろう……爆弾を仕掛けたのは……東都環状線の××の×だ。×のところには漢字が一文字ずつ入る……。それじゃあ……頑張ってな、毛利名探偵……』


こちらを馬鹿にしたように言うと犯人は電話を切った。
少しの沈黙が病室に広がったが、すぐに小五郎がただの脅しだろう、と言うがその発言に警察である目暮と松田が否定する。


「いいや、奴(やっこ)さんは本気だ。さっきの口ぶりだと午後4時になった瞬間、起爆装置がスタンバイ状態となり、その後に速度が60キロを切ると爆発仕掛けになってんだろうよ」

「ああ、松田君の言う通りだろう。とにかく本庁に連絡しなくては……」


目暮はそう言うと病室を出て行った。
出て行った目暮を追わず、松田は自身の携帯を取り出すと休日を満喫中の萩原に電話を掛けた。


『よぉ、松田。まだ勤務中だろ?何かあったのか?』

「ああ、実は東都環状線に爆弾が5つ仕掛けられてるらしくてな。休みのところ悪いんだが、来てくれねえか」

『分かった、今から支度して行く。場所は?』

「これから東都鉄道の指令室に行くだろうから、そっちに行ってくれ」

『OK。じゃ、また後でな』


そう言って電話を切ると松田は目暮が戻ってくるまで爆弾がどこに仕掛けられたのか考えた。

犯人の言う××の×がどこを指しているのか。
まずはそこを解かないと探しようがない。


「わかったぞ!ホシの言ってた××の×は座席の下……あるいは網棚の上だ!!そこに爆弾が置いてあるんだ!!」

「車体の下ってのも考えられるぜ?」

「む……」


松田の指摘に小五郎は口を閉ざし、考え込んだ。
すると本庁への連絡を終えた目暮が戻ってきた。


「とりあえず爆発した車両は無かったそうだ……。それと本庁の中に合同対策本部出来た!ワシは東都鉄道の指令室に行く。松田君、キミも来てくれ」

「はい」

「警部殿!私もお供させてください!!」


そして目暮、松田、小五郎の三人は東都鉄道の指令室に行く為、病院から出ていった。


*****


「うまっ……!」

「流石アン殿の選んだ店……!」

「そりゃそうだよ。有名なホテルだよ?」


上機嫌で竜司は肉を食べ、杏はスイーツばかりを食べている。偏った食事ではあるが、今回は頑張った自分達へのご褒美でもあるのだし、と葵依は暁達が取ってきた多くの料理を少しずつもらっては食べていた。

滅多に食べることのない料理を口の中に運んでいると高校生だけでビュッフェなんて……と葵依達を批難する声が聞こえてきて、そちらに顔を向ければ年配の女性が二人、ひそひそと話をしていた。葵依は勝手に言ってろ、と思いながらもう一口、とフォークを伸ばし、止めた。左右に座る杏と竜司の二人から笑顔が消え、一気に不機嫌なものへと変わっていたからだった。


「別に高校生が食べに来たっていいじゃん……」

「ちゃんと金だって払ってんだしな」

「……あー、そういえば、学校に警察が聞き込みに来るって先生が話してるの聞いたよ」


話を逸らそうと思い、そう口にすれば暁が渋面を作って厄介だな、と呟いた。
それに反応して竜司も皿の上に乗った肉にフォークを刺すと唸った。


「絶対、俺らの名前、出ちまうよな。鴨志田の事で妙な噂出回ってるみてえだし……」

「暴力紛いの脅迫ってやつ?」

「おう……そういや、気になったんだけどよ」

「ん?」


竜司が肉の刺さったフォークを持って葵依を見る。
見られた葵依はなんだ?と首を傾げながら竜司を見返しつつ珈琲を飲む。


「鴨志田にどうやって予告状渡したんだ?」

「あ、それ私も思った。葵依のことだからこう、目立つようにすると思ってたんだけど」

「杏ちゃんの中の私って……」


杏の中での自分の印象がとんでもないバカということになっている事に遠い目をするが、正面に座る暁が無言でこちらを見てきているので葵依はコホンと一つ咳払いをしてから話す。


「そんな難しいことしてないよ?近くを通りかかった先生に手渡ししただけだから」

「え?それだけ!?」

「そう。通学途中に金髪の絶世な美女から鴨志田先生に渡してほしいって言われましたーって言って渡したの」

「金髪の……」

「絶世な……」

「美女……」


あっけらかんと言った葵依の言葉を反復するように言う竜司、杏、モルガナの三人。
暁はジッと葵依を見てから手紙を受け取った時の鴨志田の様子が簡単に想像出来てしまい、小さく溜息を吐いた。

恐らく絶世の美女からの手紙と聞いて自分好みの容姿を想像しながら鼻の下でも伸ばして受け取ったのだろう。と思った暁はまた溜息を吐くと竜司が脱力したようにしながら肉を口の中に放り込むと数回噛んで飲み込んだ。


「なぁ、これからどうする?」

「そうだな……とりあえず」


竜司の言うこれからとは十中八九怪盗の事だろうと分かっている暁はそう言うと、チラリと杏を見て言った。


「とりあえず……?」

「時間は平気か?」


そう言って目の前の料理を再び食べ始めた。
それに対して竜司は目を丸くさせては?と気の抜けた声を出すとスマホの画面を確認した。


「やっべ!そうだよ!1時間だっけか!?」

「あと50分!」

「こんなペースじゃ牛のノルマ終わんねえ!」

「スイーツメニュー……食べ尽くさなきゃ……!」


急に慌ただしくなったことに苦笑していると荷物を頼むと竜司に言われ、暁と葵依は揃って頷いて、目の前にある料理を減らすために食べ続けた。

そして二人が取ってきた料理を見てまたしても苦笑するしかなかった。
竜司は肉だけ、杏はケーキだけという極端なことに暁と葵依はもう苦笑しか出来なかった。


「しあわせ……」

「太んぞ?」


ウットリしながらケーキを食べていた杏に竜司が茶化すように言えば杏はキッと目を吊り上げた。


「うっさい!!一個いくらだと思ってんの!?今日逃したら食べらんないかんね!?」


そう言ってからケーキを食べる杏に竜司は肩を竦めて自分が取ってきた肉を食べる。
そして暁と葵依の分も取ってくると言っていたというのに二人はそれを忘れて自分達の分しか取ってこなかったらしい。

そのことに憤慨したモルガナが暁を使って料理を取りに行ってしまった。
葵依は自分の分はいらないから、と言って暁を見送ると時計を確認して竜司と杏が持ってきた料理をまたしても食べた。

それから少しして暁が料理を盛って帰ってきた。


「……随分と取ってきたね」

「ああ。ちょっと、な……」

「てか、持ってきすぎだよ。残したら行儀、悪いし。竜司、手伝ってあげれば?」

「みんなで食えばよくね?」

「私もうムリ。力になれなくてすっごく残念!」


そう言ってケーキを食べ続ける杏に乾いた笑みしか出なかった。
そして取ってきた料理を食べ終え、満腹感を得た四人人と一匹は、ひと息つきながら自分たちのこれからについて頭を巡らせていた。皆それぞれ迷いはあったが、根底にあるのはきっと同じだろう。
ふかふかのソファに身を委ねていた竜司が、天井にぶら下がる照明を見ながら口を開いた。


「なあ、モルガナ。……パレスって誰でもあるんだよな?」

「歪んだ強い欲望を持ったヤツならな」

「オタカラ盗れば改心するってのもか?」

「そうなるな」


身勝手で卑劣な大人なんてこの世には多くいる。それこそ現在テレビを騒がせている爆弾犯もそうだ。


「……ああ、俺等なら、そんな奴等を改心さしちまえんじゃねえかと思ってよ」

「怪盗……続けるってこと?」


竜司の言葉にジュースをストローで飲みながら思わず目を鋭くさせて彼を見てしまう葵依。そんな彼女には気付かず、皆が竜司を見ている。


「考えてたんだ。折角俺等が鴨志田の奴改心させたのに、心の怪盗のこと、まだ全然信じられてねえ。それによ……我慢してるしかなかった奴等が感謝してくれてんだぜ?俺等にさ」

「怪盗チャンネルか?」

「私だって……思うよ。困っている人を見逃したら、前の自分に戻っちゃう……」


そんなのは嫌だ、と目を伏せながら言う杏にモルガナはジッと彼女を見て確かに……と呟く。


「俺たち怪盗団なら、助けてやれるんじゃねえか?」


どこか目を輝かせて言う竜司に葵依は嘆息する。
彼等の事だからきっと今回だけで済むわけがない、と予想は出来ていたしミリタリー屋に行き、本物そっくりのモデルガンを見た竜司はパレスで使えるんじゃね?とも言っていた。

だから彼が怪盗を続けたいということは簡単に想像出来た。
しかし、杏や暁は違うかもと少し期待していた。

暁は現在保護観察中で目立つようなことをし、監視の目を強めるようなことはしないだろうと思っていた。

杏も雑誌の表紙を飾るほどの実力を持つモデルだ。
わざわざスキャンダルになるようなことをするわけがない、と思っていた。

しかし、彼等の反応を見るにそれは裏切られたと思った方が良いだろう。
何せ、彼等はまだこちら側の厳しさや辛さ、過酷さを知らない一般人なのだから。

大方あの力があれば人助けくらいは出来るかも、と考えているのだろう。

そう思いながら葵依は正面に座って何やら考え込んでいる暁を見た。


「で、でも……またシャドウと戦うんだよね……?」

「ああ、それは避けられねーぜ」


不安げに言う杏に肯定しながらモルガナが暁達の顔を確認するように見てくる。


「人助けとなるのなら、俺は構わない」


暁の言葉に竜司は二ッと笑い、杏は少し考えてから覚悟を決めたかのように頷いた。
三人が怪盗を続けていくということに葵依はストローから口を離して笑顔を張り付けて頷いた。これで彼等の監視を続行することが決まった。


「フフ……これでようやくワガハイたち、駆け出しながら怪盗『団』になれるってことだな」

「おっしゃ!決まりだな」


ワイワイと楽し気に話す少年少女達はやる気に満ち、今後の方針を話していく。
鴨志田のように弱者を虐げているような悪人は世に多くいるのでターゲットは大物だけにしよう、とか沢山の人に勇気を上げられるかもしれない。そう話続ける彼等を見ながら葵依はニコニコと見ていたが内心では盛大に嘆息していたなんて、その場にいる誰も思っていなかった。

そして、自身の立場として彼等が怪盗団を結成したという事実を流石に見過ごせない。
トイレに行ってくると言って席を立ち、後ろから誰も付いてきていない事を確認すると廊下に置かれている椅子に座ってスマホを取り出した。


――――――
件名:報告。
本日、監視対象である来栖暁が、秀尽学園に通う生徒二人と共に怪盗団を結成したことをここに報告します。尚、活動内容についての詳細はまだ不明。詳しい事を調べる為、彼等と行動を共にし、監視を続けながら調べようと思います。
――――――


メールで風見に報告した葵依は送ったメールを削除すると、ふとさっきの爆発が気になった葵依はニュースを見ると緊急速報が流されていた。


『只今4時半に回ったところです!ご覧ください、私達のすぐ下であの東都環状線が、もう30分もノンストップで走り続けています!この異常事態に対し、東都鉄道と警視庁は、ただ「緊急事態が発生した為」というコメントしか発表していません…。続報が入り次第お知らせします!!』


東都環状線だけがノンストップで走っている事に驚いたが、すぐにこれも爆弾が関係していると理解した。

もしかしたら電車を停めたら爆発させるとでも犯人からの脅迫が東都鉄道に入ったのだろうか?

しかしこんなに大きな事件となったという事はあの人は動いているのだろう。
であるのなら、大丈夫だろう。
それに“手伝い”が必要であれば向こうから連絡を入れてくる筈。

私はそれを待てばいい。

そう判断した葵依はスマホを仕舞い、皆の元へと戻るために足を動かすが、いやに胸騒ぎがする。

良くないことが迫りつつある感覚に葵依は自分の背筋に冷たいものが流れたような気がした。


*****


東都鉄道の指令室には緊張感が張り詰めており少々息が詰まる空間になっていて、騒がしくもあった。


「日没までに取り除かねぇと爆発、か…」

「仕掛けとして60キロ未満で走行した際に爆発するってのは理解出来るけど……なんか分かったか?ジンペーちゃん」

「日が暮れたら爆発するってことは、電車のライトと関係してんのかとも思ったが、違うような気がするんだがな……それとジンペーちゃん言うんじゃねえって言ってんだろ萩原ァ……」


ジロリとおちょくってくる萩原を睨んだ後に珈琲を口に含んで松田はチラリと小五郎を見る。名探偵と名高い彼は方法が思い浮かばず、眉間にシワを作っては唸っていた。


「しかし、名探偵っていうわりにはなんかポンコツだな……」

「松田、それ失礼だって」


呟いた言葉が聞こえた萩原が小さく注意するが、松田はしれっとした顔で椅子の背凭れに寄り掛かる。


「本当のことを素直に言っただけだろ?それより爆弾だ、日没までって向こうが言ってるなら車内にはねぇはずだ」

「だとしたら外しかねぇけど……」


萩原もどこだろうかと頭を回転させるが、答えが出てこない。
それに30分もノンストップで走り続けていることから乗客たちが騒ぎだしてもいるらしく、指令室は騒がしかった。


「あと一時間半で日没か……くそっ!爆弾はどこにあるってんだ……ッ!!」


苛立ったように吐き捨てる松田に萩原が彼の脇腹を小突いた。


「落ち着けって松田。それにお前、いつも言ってるじゃねえか」

「焦りこそ最大のトラップ……だったな。ああ、そうだな。わりい萩原」

「いいってことよ」



萩原はそう返すと珈琲を煽り、飲み干した。


「日……太陽……?……ッ!?」


自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた松田は小さくハッとした顔をすると目暮の傍に駆け寄った。


「目暮警部!」

「どうしたのかね、松田くん」

「爆弾が設置されてるのは座席の下でも網棚の上でも車体の下でもなく線路の間です!」


松田の言った言葉にその場の全員が驚いて彼を見る。
彼の言ったことに萩原も爆弾の置かれている場所にハッとなると、立ち上がって待機している爆発物処理班に連絡を入れ始めた。


「何故線路の間なのかね!?」

「ブツはホンの数十秒、光が当たらないと爆発する仕掛けになってる!環状線が爆弾の上を通過すると全車輛(しゃりょう)が通過するまで何秒間か光が遮られる。一車輛の長さが約20メートル、十車輛で200メートル……時速60キロだと秒速約16.7メートル……」

「つまり200メートル走るのに12秒ほど掛かるってことですよ。そのギリギリ爆発しない時間が、時速60キロで通過した時間ってことだよな、松田」


連絡を終えた萩原が松田の言葉を続けると、目暮に目を向けた。
松田は美味しいとこ持っていきやがって……と思いながら電車を他の線に移すように進言した。


「わかった!坂口さん!!」

「3分後に11号車を、芝浜駅貨物線へ引き入れだ!!準備に掛かれ!!」


坂口運行部長の指示にその場の職員たちの動きは早かった。
それを見ながら松田はチラリと萩原に目を向けると彼は肩を竦めてから指令室から出て行った。
全ての車輛を移し終わった際に動けるよう、爆発物処理班を待機させている場所に向かったのだろう。

そして11号車に異常がない事を確認し、無事に移すことが出来たという報告に他の20車輛の移動を始めた。

日没まで時間が残っていない。
時間との勝負、電車を移したら爆弾の捜索に当たるための時間があるといいのだが……。

そして結果、成功。
全20編成の車輛は無事に貨物線に移すことが出来た。

喜びの声を上げる職員たちを見ながら目暮がここからは我々の仕事だと言い、松田を連れて指令室から出て行った。

線路内に入った松田は先に来ていた伊達と萩原の元に行き、目暮からの指示を待った。


「爆弾が仕掛けられているのは午後4時以降……建造物で日陰になっていない場所だ!!探す際は太陽の位置を常に確認し、自分の影で覆わないよう、十分注意するんだぞ!!」


警察官と爆発物処理班総出での爆弾捜索が開始され、散り散りに動き出した。


日没まで残り時間――分。


201807152120
修正201903231504