The Time Bomb Skyscraper.

      

少し時間をおいてから席に戻ると三人は楽しそうに話していた。


「ただいま〜、何の話してるの?」

「おかえり、怪盗団の名前を決めようと思うんだけど、中々いいのが出てこないんだよ」

「前は、なんとなく【心の怪盗団】だったけど、予告状に名前いれたらかっこよくね?」


それを聞いた葵依はキョトンとした後、ここで話す内容ではないような…と思ったが、何も言わずに自分の席に座った。これから怪盗団として活動していくにはやっぱり名前が必要とのことらしい。


「へー、それで候補って何が出てるの?」


そう聞くと杏が“ピンク・ダイアモンズ”、モルガナが“アマダイノポワレシャンビニオンソース”と言い、流石の葵依も苦笑しか出なかった。
杏の出した名前は可愛いが、というよりもモルガナはそのソースが掛かった料理がお気に召したという事なんじゃないだろうか?と考えていると竜司がお前はなんかねーの?と聞いてきた。


「え?じゃあ……スプーキーズ!」

「それはダメな気がする」

「やめろ!?」


暁からツッコミを、竜司からハリセンを入れられた葵依は叩かれた頭を押さえつつ暁に候補は無いかと聞いてみると、彼は少し考えてからそれを口にした。


「ザ・ファントム…とか、どうだろう」

「へえ、割といいんじゃない?」

「ルーキーの提案にしては上出来だな」


杏とモルガナの言葉を聞きながら竜司が名前はこれでいいかと確認すると誰も異論を唱えなかった。

そして彼等がこれからの活動に心躍らせながら話しているのを聞いた葵依は自分達を信じる人が今よりもずっと増える気がする、という竜司の言葉にまるで犯罪者(テロリスト)と似た考えだと思った。

世間一般的にテロリストは犯罪者と位置付けられているが、彼等は自身をパルチザンやレジスタンスと変わりないと認識している。

そのため自分のしている事が正しいのだと信じており、自分達を悪く言うモノは悪と判断している。

暁達がそうだとは言わないが、彼等もまた“怪盗団”という組織を作り、目的を達成するために“ペルソナ”という力を使って目標(ターゲット)を改心させようとしている。

今は虐げられている人々に勇気を与える為、人助けが出来るのならと言っているが、その考えが変わり、自分の都合のいいように動き出すようであれば何をしてでも止めなくてはいけない。


「………ねえ、ところで時間は大丈夫?」


葵依がそう聞くと杏が時間を確認し、食べ放題の時間が終わっていることに驚いた。
よくよく時間を確認すると今は18時を過ぎた頃だった。
元々店に入る時間も遅かったのでこの時間になってしまうのは仕方がない事だろう。
急いで会計を済ませ、そのまま帰るのかと思ったら杏が上の階にある店を見たいと言ってきた。


「上の階って映画とかじゃなかったっけ?」

「それは最上階でしょ?その下にファッションと生活雑貨の売ってる店舗が沢山入ってるんだよ。葵依も一緒に行こ?」

「うん、いいよぉ」


女子二人がキャッキャッと楽しそうに話しているのを見ていた男子二人はお互いにどうする?と顔を見合わせた。


「俺ら帰らねえと絶対(ぜってぇ)荷物持ちにされっぞ?」

「あんまり遅くなると佐倉さんに怒られる…」


あまり遅くなると暁の立場が悪くなると理解しているので杏は先に帰ってもいいよ、と暁に言った。それに対して暁は済まなそうに眉を下げると一足早く帰っていった。

急いで帰っていく暁の背中を見送った三人は杏の買い物に付き合う事にし、上の階へと向かった。


「このビルって色んなものあるよな」

「そうなの!確か地下にはゲーセンもあったと思うから後で行ってみる?」

「マジで?だったら杏の買い物が終わったら行こーぜ!」

「ならさ、太鼓やろうよ!!」


楽しく話す三人はこの後、とんでもない事件に巻き込まれるとは思ってもいなかった。


*****


環状線に仕掛けられた爆弾をすべて回収することに成功した目暮達はコナンの病室に戻ってきた。
しかし盗まれた爆薬の量を考えると今回使用された爆薬の量は盗まれた4分の1しかない事が分かり、残りはまだ犯人が所有していることが発覚した。

それに対して険しい顔をしていると岡田浩平の行方を追っていた白鳥が戻り、岡田浩平は今朝早くから伊豆の方へ出掛けている事も分かり、彼を容疑者から外すことに。

また振り出しに戻ってしまったことに松田は苛立ちから舌打ちをするとテレビを見ていたコナンが声を掛けてきた。


「ねえ、松田刑事」

「あ?なんだ、ボウズ」

「連続放火事件で被害に遭った家って、誰が設計したんだろうね?」

「は…?」

「調べてみたら面白いことが分かるかもしれないよ!!」


何かを知っているような口ぶりに松田は胡散臭そうにコナンを見てから白鳥に調べるように言うと彼は不審に思いながらも調べ始め30分後、白鳥が出した結果に全員が驚いた。


「全部森谷氏の設計だと!?」

「黒川邸を含め、水嶋邸、安田邸、阿久津邸と…放火された邸宅は全て森谷教授が30代前半の頃に設計したものでした…」


偶然とは思えない共通点に松田はサングラスの下からコナンを見る。
子供は笑みを浮かべていた。


「ひょっとして、環状線の爆弾も…本当の狙いは、あの橋だったりして…」


コナンの言葉に目暮が唸るようにあり得るな…と呟き言葉を続ける。


「ホシは連続放火事件の同一で、森谷教授の設計を狙って…」

「そうか、わかりましたよ警部!!犯人は森谷教授に恨みを持つ者か、その成功を妬んでいる者です!!工藤新一への挑戦はカムフラージュだったんですよ!!」


小五郎の推理に目暮はなるほど、と呟き、白鳥も同感だとその推理を肯定する。
しかし松田は何かが引っ掛かるようで白鳥の調べてきた資料を読んでは放火された建築物が同じ人物によって設計された以外にもう一つの共通点を見付けた。


「狙われたのは教授が30代の頃の作品か…」


ポツリと呟かれた言葉にコナンが反応し、松田を見上げると目暮達が森谷教授に話を聞きに行こうと行動に移る。


「毛利君、案内を頼むぞ!!」

「ハテ、どこだっけ?」


森谷邸に行ったことのある小五郎に案内を頼むも、本人はその場所を忘れてしまっているらしかった。
その反応に松田は呆れたような視線を向けているとベッドで横になっていたコナンがベッドから飛び降りて、覚えているから僕が案内するよ!と元気よく言った。


「何を言っとる、お前はまだ…」

「もう治っちゃったよ!早く早く!!」

「おい、こら!」


ハンガーに掛かっていた上着をジャンプして取るとコナンは走って病室から出て行ってしまい、大人たちは仕方ないとため息を吐きながら彼の後を追った。

松田はその場に残り、コナンを止めず見送った阿笠に声を掛ける。


「…頭に包帯を巻いた子供を引き留めなくてよかったんですか?」

「っ!?あ、ああ…止めようにもあっという間に行ってしまったからのぉ」


そう言って空笑いをする阿笠を横目で見てから何も言わずに、松田は先に出た目暮達の後を追った。


そして白鳥が運転する車に乗り、児童公園前を通った時、白鳥が口を開いた。


「毛利さん、この先が丁度…例の爆弾のタイマーが一時止まった所ですよ…」


それを聞いた松田は丁度信号で止まった車の中からその公園を見てから周囲を照らす街灯に目を向けた。

そして信号が青になったことで車が動き出し、児童公園が遠ざかっていく。

松田とコナンの二人は遠ざかっていく公園の街灯を見えなくなるまで見続けた。


森谷邸に着き、広間に案内された面々は森谷教授に事の経緯を話すと、教授はパイプを手に持ちながらなるほど、と頷いた。


「確かに偶然にしては出来過ぎていますな…」

「そのような人物に心当たりはありませんか?」

「うーん、そうですなあ…」


コナンはウロウロと広間の中を歩き回り、松田はそれを目で追っていく。
すると彼は机の上に置かれた写真立てをジッと見始め、教授がコナンに声を掛けた。


「それは、私が10歳の時の写真だよ…。コナン君…一緒に写っているのが父と母だ…」

「森谷教授のお父さんて、随分立派な人なんだね…」

「世界的有名な建築家だったんだよ…主にイギリスで活躍されていてね。僕好きだったなあ、あの人の建築は…亡くなられたのは確か…」


しみじみと思い出すように言う白鳥に教授はパイプを咥えてから答える。


「今から15年前…別荘が火事になって…母も一緒でした…。この屋敷はその時に遺産として引き継いだものです」


すると白鳥がスッと目を細めて正面に座る教授を見据える。


「その頃からでしたよね?森谷さん…あなたの設計が急に脚光を浴びるようになったのは…」


白鳥の指摘に教授は驚きながらも頷いた。
その際にパイプから漏れた煙が松田とコナンの鼻腔を擽った。
仄かに甘い匂い。

それに対して何かに気付いたコナンがこっそりと広間から出て行くのが見えた。
松田はコナンが何をしようとしているのか気になり、目暮に一言告げてから部屋を後にすると階段を駆け上がる軽い足音が聞こえ、その後を追い掛けた。

コナンが入って行ったのはギャラリーのようで今まで設計してきた作品の写真が額に入れられて飾られていた。

松田はコナンに近づき、声を掛ける。


「何してるんだ?ボウズ」

「っ!?ま、松田刑事!?」


驚いてこちらを見上げてくるコナンを逃がさないように襟首当たりを掴み、コナンが見ていた作品に目を向ける。

そこにあったのは今回の連続放火事件で被害に遭った邸だった。
黒川邸、水嶋邸、安田邸に阿久津邸…その隣には爆弾が仕掛けられていたあの橋もある。


「……なるほどな、これを見に来たのか?」

「う、うん!」

「ふぅん?……ん?」


松田はコナンを掴んだまま作品を見ているとあることに気付き、もう一度展示されている黒川邸から橋までを見ていく。


「なるほどな…」

「うわっ!?ま、松田刑事!?」


コナンを脇に抱えた松田はキョロキョロと部屋の中を見回すと布が掛けられた台を見付けた。


「ボウズ、お前がここに来た時、あんなのあったか?」

「……ううん、無かったよ」


松田はそれを聞くと布を剥がした。
そこにあったのは【我が幻のニュータウン、西多摩市】とタイトルされた模型だった。


「岡田市長の進めていた西多摩市の新しい街づくりの計画、それを立てていたのは森谷教授だったのか……」


完全なシンメトリーのニュータウンを見下ろしながら松田は模型の中にある街灯が児童公園に設置されているものと同じデザインだという事に気付いた。

どうやらコナンも気付いたようで小さく、それであの時…と呟いている。


「……しっかし、証拠がねえな」

「松田刑事、犯人が分かったの?」

「ああ、それにお前も分かったんだろ?」

「……うん。だから出たとこ勝負と行こうかなって考えてるんだけど」


そう言って笑うコナンに松田は虚を突かれたが、すぐに口角を上げて笑った。


*****


「結構いい物揃ってて目移りしちゃったよー!」

「結構買ったよねー」


満足だと言わんばかりの笑顔でタピオカジュースを飲む杏に買い物袋の量に圧倒される葵依。


「お前なあ、いくら何でも買い過ぎじゃねえの?」

「えー?そんなことないよ」

「そんなことあるだろ!?しかもほとんど俺に持たせやがって!」

「女の子に荷物持たせる気?」

「自分のだろ!?」


何やら喧嘩を始めた二人を放っておいて葵依はモグモグとタピオカを食べては楽しんでいた。

モチモチとした触感が面白く、噛むのが止められない。
そしてスマホを取り出して時間を確認するともう針は9時35分を指していた。


「ねえねえ、夕飯はここで食べてく?」

「「え゛?」」


二人が揃って驚いた声を出し、葵依を見る。
なんでそんな目で見られるのか分からない葵依は首を傾げた。


「お前、もう腹減ったのか…?」

「ビュッフェであんなに食べたのに…?」

「いやいや、私そんなに食べてないんだけど…」


そう葵依は暁達みたいに苦しくなるまで食べたわけではないのだ。
自分が食べられる量を考え、食べていた葵依なので時間になればお腹も空いてくる。

それを信じられないような目で見てくる二人に言えば、どこか納得したような顔をした。


「そういえば、葵依が取ってきてた量…私たちのに比べれば少なかったような…?」

「むしろ、俺らが取ってきてたの横から食べてたな」

「だって皆、これでもか!ってくらい持ってくるんだもん…それに対して自分が食べたいのを持ってきてたら残しそうだなって」


そう言ってまたタピオカを食べると杏と竜司はどうする?と話始める。
二人は葵依と違ってお腹が苦しくなるまで料理を食べたのだ。
いくら買い物で動き回ったとはいえ、まだ夕飯が食べられるほどお腹が空いたわけでもなかった。


「無理して夕飯食べに行かなくてもいいよ?」

「でもお腹空いたんでしょ?」

「帰ってから食べればいいよ」


笑顔でそう言う葵依に杏は申し訳ないと言いたげに眉を下げ、竜司はタピオカジュースを売っていた店でクレープ買ってこようか?と聞いてきた。


「竜司の奢り?」

「ああ、何がいい?」

「無難に苺のクレープ!」

「わかった」


そう言って買いに行った竜司を見ていると杏が顔を近づけてきた。
どうしたのだろうか?と思いながら彼女を見ていると小声で話し始める。


「ねえ、葵依って竜司の事どう思ってるの?」

「竜司?いい友人だよ?」

「それだけ?カッコイイとか好きとかってのは…」

「ハテ?杏ちゃんが何を言いたいのか分かりませんなあ…」

「…………ソウ」


どこか遠い目をしながら竜司を見る杏は内心、これは大変だぞ竜司…と、クレープを買いに行っている彼に向けて呟くも彼には届くわけなかった。

杏の目から見て、竜司は絶対葵依の事が好きなんだろうと解釈している。
パレス内で暁と葵依が仲良さげにしていると妙にイライラしてシャドウに当たっていたし、書庫では葵依への突っ込み(ハリセン)も威力が増していたようにも見える。

それはつまりヤキモチなのでは!?と思った杏だったが、葵依がここまで鈍いという事に竜司に対して同情してしまった。


「ほれ、買ってきたぞー」

「ありがとー」



今も葵依にお礼を言われただけだというのに嬉しそうに微笑んでいる竜司を見て、杏は竜司にそれとなくアドバイスしてあげよう、と決めた。


「美味し〜!!」

「わかったから大人しく食ってろって」

「はーい」


………なんだか自分が物凄くお邪魔虫なような気がしてきた杏はジュースを飲みながらそろそろ帰ろうかな、と考え始めるがふと視界に映画のポスターが見えた。


「ねえ、この後映画でも観ない?」

「へ…映画?今どんなのやってたっけ?」

「つーか、今から映画ってお前オールナイトする気かよ…」


竜司が呆れたように言うが杏はどうせ明日も休みなんだからいいじゃん、と言い葵依も現在上映されている作品をスマホで確認していて映画を観る気満々だった。

女子二人が行く気満々と言う事に竜司はため息を吐いて彼女達に付き合う事にした。
こんな時間に女子二人だけにするというのも気が引けるというのもあったが、何より嫌な予感がするというのもあった。

胸の奥底がザワザワと落ち着かないような気がするが、きっと気のせいだと考え竜司は楽しそうに話している女子二人が観る映画を決めるまで待ち、葵依の希望でアガサクリスティーの【オリエント急行】を観ることになった。


「アイツの好みがわかんねえ…」

「アニメじゃないだけいいんじゃないかな?」


竜司と杏がそう話しているとチケットを買って戻ってくる葵依を見ていると大きな爆発音と建物が揺れ、上から瓦礫が降ってきた。

訳が分からないままいると、天井が崩れ始め、二人に向かって落ちていく。
突然のことに竜司も杏も動けずにいると、正面から葵依に押され後ろに倒れ込んだ。


*****


松田とコナンによって森谷教授が今回の事件の犯人という事が暴かれ、事件も解決かと思っていた。

しかし、教授はその手に手錠を掛けられても笑みを浮かべている。
その笑みにまだこの事件が終わっていないのだと察した松田は彼に問い詰めようと口を開いた瞬間、遠くから爆発音と閃光がギャラリーの窓から見えた。


「クックック…どうやら始まったようだな。何、私が抹殺したかった建物はまだ一つだけ残っていてね」

「なんだと…っ!?まさか…米花シティビルか!?」


松田の言った事にニヤリと笑みを浮かべると教授は吐き捨てるように叫ぶ。


「バブルの崩壊で建築費用が無くなるという、馬鹿馬鹿しい理由の為にね!!私の最大にして最低の作品だ!!キミ達に私の美学は分かるまい!!」


その叫びを聞いた小五郎は教授の胸倉を掴んだ。


「てめえ!蘭をどうする気だ!?」

「フッフフ…まだロビーの出入り口と非常口を塞いだに過ぎない…。それにお楽しみはこれからだ…」


嘲笑かと思われるほどの歪んだ笑みを浮かべて言う教授の目には狂気が宿っているようでコナンと松田の背筋に冷たいものが走るが、教授の胸元から折り畳まれた紙が飛び出している事に気付き、松田はそれを素早く抜き取った。

紙を広げて見ると、それは爆弾の設計図のようで松田は構造を見ただけで厄介なもんを作りやがって!と舌打ちをした。


「警部、俺はこれを爆発物処理班に渡してきます!!」

「待ていっ!!工藤に会ったらこう言っておけ!!【お前の為に3分間作ってやった!じっくり味わえ!!】ってな!!」


教授が言ったことが今一分からなかったが、松田は考えるのは後にして走っていき、その後をコナンも追い掛けた。


「待ちたまえ、松田君!!コナン君も!!」


走って車に乗り込むと助手席にコナンが乗り込んできたが、松田は彼を下ろすことはせずにアクセルを踏み込み、サイレンを鳴らす。


「どのくらいで着く!?」

「サイレン鳴らしてんだ、すぐに着けるぜ」

「爆弾ってプラスチック爆弾なの?」


運転しながら聞いてきたコナンに松田は頷いた。


「ああ、ビルに仕掛けられたブツも東洋火薬の火薬庫から盗まれたものが使われてるんだろうよ。それにあのビルを壊すってこたぁ、ブツもデカいのが置かれてるだろうな」


松田がそう言うとコナンはまだ遠くにある黒煙の上がるビルを睨み付けながら歯を食い縛って逃げ遅れた蘭のことを考える。


――無事でいてくれ、蘭…っ!


「それにしてもアイツも運が無いな…」


後悔が混ざった声にコナンは顔を上げてみると運転をする松田の顔は険しいものだった。


「もしかして誰か知り合いが米花シティビルに行ってるの?」

「ああ、ダチと一緒にビュッフェを食べに行くんだって楽しそうに言ってたんだが…いや、もう帰ってるってこともあるか…」

「それって萩原さん?」

「……なんであのバカが出てくんだよ。そもそもアイツは今日環状線の爆弾の回収に呼び出されてたっての」


呆れたような声で言いながら半目になった松田は苦笑しながら敢えて言うなら命の恩人だ、と言った。


「命の恩人?」

「米花ショッピングモールの観覧車爆破事件って知ってるか?」

「それって3年前の?」


コナンの言葉に頷いて返した松田はハンドルを切りながらその恩人が居なければ自分は死んでいただろうな、と言うとサイレンの音が大きく聞こえてきてコナンはハッと前を見た。

そこには多くの消防車と救急車が止まっており、消火活動と救命活動に追われていた。

車を降りた松田は持っていた設計図をコナンに取られ、急いで取り戻そうと手を伸ばすも小さな体は人込みを掻き分け、大人でもギリギリ通れそうな壁の割れ目に入って行ってしまった。

松田は盛大に舌打ちをして、コナンの後を追い掛けるように自分も壁の割れ目の間に体を滑り込ませた。


*****


「ウ、ウウウ…」

「大丈夫よ、もうすぐ助けが来るわ!」


灯りが全て消え、暗くなった室内。
お互いに励まし合っている人を見ながら葵依は竜司と杏の傍に座っていた。

「二人とも、大丈夫?」

「うん、平気…」

「軽く打っただけだ…」


そう返事をする二人だが、声に元気がなかった。
葵依は暗がりに慣れてきた目で周囲を見回すとちらほらと人の姿が見えてくる。

そして受付カウンターの近くに腕を押さえて蹲っている同い年くらいの少女を見付け、二人に声を掛けてからその少女に近づいた。


「大丈夫ですか?」

「え?…あ、はい…」

「腕を押さえてるようですが、痛むんですか?」

「ええ、倒れる時に打ち付けたみたいで…」


そう言う少女に葵依は軽く触診しようとした時、非常ドアから何かがぶつかるような音が聞こえてきて、そっちに顔を向けた。

非常ドアの上では明滅しながらも案内看板が存在を主張しているので、足元の瓦礫に気を付けながら近づくと人の声が微かに聞こえた。


クソッ…ドアが変形してて開かねえ…
どうにか出来ないの!?


聞いた事のある声に葵依はスマホを取り出して松田に電話を掛けた。


『もしもし、何の用だ?今こっちは忙しいんだが』

「崩壊した建物に子供連れて来るとか警察としてどうなのまっさん」


ノンブレスでそう言うと非常ドアの向こう側からガタンと音がした。


『おまっ!?今どこにいるんだ!!』


松田の質問に答えず、葵依は非常ドアを三回叩いた。


「今、ドアを叩いたの私です」

『そこにいるのか!?』

「うん」


返事をすると松田が子供にスマホを取られたのか電話口から子供の声が響いた。


『そこに赤いカーディガンを着た女の人もいる!?』


切羽詰まったその声に葵依はさっき腕を痛めたという少女を見た。
彼女が着ているのは赤のカーディガン。


「うん、いるよ」

『怪我とかしてない?』

「少し腕をぶつけた程度みたいで命に係わる怪我はしてないよ」


安心させるように優しく言うと子供は安心したのかよかった…と息を吐きながら言った。


『葵依。悪いんだが、そこら辺に怪しい物が無いか見てくれないか?』

「分かった。じゃあ一旦電話切るね」

『ああ、とりあえず見付けても下手に弄るなよ?』

「はーい」


電話を切った葵依はスマホをポケットに仕舞い込み、周囲を見回した。
すると壁際に置かれている椅子の下に大きな紙袋に入った何かを見付けた。

葵依は椅子を退かして袋を上から覗き込むと、デジタル掲示板のようなものにタイマーが表示されていた。
それは作動しているようで一秒一秒時間が減っていっている。

デジタル板には残り43:09と出ている。
それだけで葵依はこれが爆弾なのだと理解した。

一回深呼吸した葵依はスマホを取り出して松田に電話を掛ける。
松田はすぐ電話に出て、見つけたか?と聞いてきた。


「うん、とても大きな袋に入った大きな物があったよ。これって爆弾、だよね…?」


爆弾という単語に近くにいたカップルが悲鳴を上げて遠ざかる。いや、離れて行ったのはそのカップルだけでなく近くにいた人全てだった。彼等は瓦礫の向こう側に身を隠すとこちらを見てきている。
小さな騒ぎとなったそれに自然とフロア内の目が全て葵依に向けられる。

その中には竜司と杏のものもあった。


『ああ…とりあえずそれに振動感知装置は着いてないみたいだからゆっくり非常ドア前まで持ってきてくれ』

「持ってくのはいいけど、どうする気なのか聞いてもいいかな」


口の中が渇いていく中、葵依は次に言われる言葉をある程度予想出来ていた。


『一般人のお前に言うのは間違っている事なのは分かっているんだが…解体してくれないか』

「……分かった」

『いいのか?』

「まっさんがそう言うってことは設計図が手元にあるってことでいいんだよね?」

『ああ、犯人が持っていたモノだから間違いはない筈だ』

「それじゃあまっさんに任せるね。ちゃんと指示が聞こえるようにそっちに持ってくよ」

『ああ』


葵依は電話を切るとこちらを心配そうに見てくる竜司と杏にヘラリと笑って見せてから爆弾の入った袋になるべく振動を与えないように持ち上げると非常ドアの前まで持って行き、ゆっくりと下ろした。


「まっさん、聞こえる?」

「ああ、聞こえる。それでお前何か切るもんは持ってるか?」


切るものと言われ、葵依は鞄の中からスティッキールはさみを取り出した。
一見、万年筆にも見えるが列記としたはさみでコードも切れる。

数回、開閉してから頷くと松田に声を掛ける。


「あるよ。それでまず…どうすればいい?」

「そう急ぐな。まずは袋を破いてブツがよく見えるようにしろ」


言われた通り袋を下まで破いて爆弾が見えるようにすると遠くからヒッ!と悲鳴が聞こえた。

葵依はチラリとそっちに目を向けると女性の一人が顔を青くさせながらこちらを見ていた。
彼女の恋人と思われる男性はそんな彼女を抱きしめて、こちらを睨み付けている。

その視線を無視しながら爆弾に目を向けるとデジタル板には20:15と表示されていた。


「………」

「おい、どうした?大丈夫か?」

「ぅ、うん。平気」

「それじゃあ始めるぞ。まずは外側のカバーを上に持ち上げれば外れるようになってるからゆっくりと外してくれ」

「はい…」


葵依はゆっくりとカバーを外し、中に見える配線の多さにうんざりしてしまう。
しかし爆弾は今も動いている。
一秒でも惜しい。


「外しました」

「これから中の配線を切っていくから俺の言う通りにしてくれ」

「はい」


一つでも間違えればここにいる全員と一緒に死ぬことになる。
そうならない為にも葵依は松田の言葉を一つも逃がさないように耳に神経を集中させる。

彼女の表情が真剣なモノに変わったことに気付いた杏と竜司は小さく葵依の名前を呼ぶが彼女は答えなかった。


「最初は下にある黄色のコードだ」

「切ります」

「ああ」


爆弾の近くにいる葵依、松田、コナンに緊張の汗が流れる。
そしてはさみが黄色のコードを切った。

その瞬間、爆発音が響いた。


201808132249