A coworker.

     

渋谷の駅前広場に戻ってきた葵依達は一息ついた。
強敵ではなかったがシャドウとの戦闘を何度もした事により、各々の表情には疲れが窺えた。そんな中、竜司は近くに立っていた葵依の背中に寄り掛かる。

寄り掛かられた本人は重い!と抗議するが竜司は聞く耳を持たず、モルガナに目を向けた。


「メメントスなぁ…しかし、よくわかんねえ場所だったな。んで、最後に見たあの壁みてえのは、何だったんだ?」


彼の問いに対し、階段の手摺りに飛び乗ったモルガナは神妙な顔をして答えた。


「詳しくは分からんが、アレのせいで一定より深く入れなかったんだ。だが大衆のパレスなら…大衆がワガハイらを信じたり受け入れたりすれば、影響はある」

「なんでモルガナは、あんな場所の事色々知ってんの?」

「どうも記憶がはっきりしないんだが…。メメントスの奥がどうなってるのか、どうしても知りたいんだ」


今度は不安な、自信が無さそうな表情をしながら答えるモルガナに杏は首を傾げる。


「どうしても…?」

「メメントスはみんなのパレスだが、同時に全てのパレスの源でもあるんだ。昔は、カモシダの城みたいな、あんな一人が支配するパレスなんて無かった。だから歪みの大元であるメメントスを何とかできれば、ワガハイのこの姿だって…!」


悔しいと身体全体で表現しながら吐き捨てるように言ったモルガナのことを見ていると、彼はすぐに我に返ったらしく、気まずそうにそっぽを向いた。


「そうか…だから俺たちにちょっかい出してきたのか」


竜司の呟きを聞いた葵依はなるほど、とそっぽを向いたままでいるモルガナを見る。
失った記憶や姿を取り戻す情報がメメントスの奥にあるかもしれないという微かな希望を見付けたはいいものの、謎が多く不気味な空間を単身で調べるには無謀が過ぎると判断したのだろう。

そんな時、モルガナは暁と竜司の二人と出逢った。

葵依はそう考えながらチラリとモルガナを見詰めている暁に目を向ける。

きっとモルガナにとって暁の能力は喉から手が出る程、魅力的なモノに映っただろう。
自分の目的を達成させることが出来るかもしれない。
そう思ったら誰だって何としてでも捕まえておこうとするだろう。

葵依が自分の中で仮説を立てていると杏が口を開く。


「…私、協力してあげるよ。失くしたもの戻るといいね」


優しい声音で気遣う杏にモルガナはチロリと自分を見てくる四つの顔を見ると小さく頭を下げ、よろしく頼むと言った。そんなしんみりとした空気が流れる中、それを壊すように葵依が口を開く。


「…ところでモルガナってさ、男(オス)?それとも女(メス)?」

「なんだよ、いきなり……」

「オスとかメスとか言うんじゃねえよ!!それだとワガハイ猫になるだろうが!!」


唐突な質問にまたこいつは…と言いたげな顔をする竜司と言い方に憤慨するモルガナ、そして暁は毛を逆立てているモルガナをチラリと見てから、眼鏡の位置を直すように指で押し上げる。


「……車かも」

「なん、だと……っ!?」

「それある!」

「ねーだろ…とも言い切れんがな」

暁の答えにオーバーリアクションを取る葵依と楽しそうに笑う杏に呆れた顔をしながら竜司が自信無さそうにツッコミを入れた。


「言い切れよ!!」


竜司の言葉にモルガナが毛を逆立てながらツッコミを入れると暁の肩に飛び乗って、車かもと答えた彼をジト目で見ながらその頬を前足でグイグイと押す。


「…ていうか、男に決まってんだろ?…だって…ワガハイは…」


そう言いながらモルガナは杏に視線を向ける。
その目は恋する男のそれだと気付いた暁は苦笑し、葵依はなるほどね…と呟いた。

その意味に気付かず、考えもしていない杏は首を傾げて暁と葵依を見る。


「…何?どうしたの?」

「いや…なんでもない。話は終わりだ!」


モルガナは自身の思考を振り払うように首を振り、暁の肩から鞄へと移るとその中に身を滑り込ませる。

彼の様子を不思議に思いつつも、竜司が話をメメントスに戻した。


「ともかく、小物の改心はメメントスで出来ることが分かったし目につく情報があったら練習のついでに退治するのもアリだな」

「他に目ぼしいのはいなかったけどね…」


苦笑する杏に、それでも竜司はヘラッと笑った。


「大物を改心させて怪盗団の名前を売れば、そんなもん山ほど書き込まれんだろ。俺らの目的はあくまで大物だぜ?早く大物見つけねえとな」


気合十分な竜司の言葉に頷いて笑みを浮かべる杏。

そんな二人を見ながら、葵依はなんだか、大物、ということにこだわりすぎてはいないだろうか?と首を傾げた。

大物ばかりを狙っていけば必ず、その後ろにいる者に目を付けられ潰されてしまうかもしれない。一人で出来る悪事と言うのは限られてくるが、昨今の犯罪は大抵組織絡みだったりするケースが多い。

例えば詐欺をするにしてもグループを作ってそれぞれの役割を振り、活動しているのだから。

そう考えながらこれからの活動について話している三人を見ていると暁の鞄から顔を出していたモルガナが口を開く。


「まずは試験を乗り切らないとな」


ニヤリと笑う彼の言葉に一瞬固まった竜司は肩を落とし、葵依に全体重を掛けた。


「勉強しねえと…」

「だから重いってば!!」


心底嫌そうに呟く彼に葵依はもう一度抗議した。
その時、ふと視線を感じた葵依はそっちに目を向けるが、人が多すぎて誰が見ていたのか分からなかった。


その後、今日は解散という事になり暁と竜司、杏の三人は帰宅、モルガナはもう少しメメントスを見てくると言って別行動を取った。

暁は帰り際に斑目について葵依に聞いてきたが、彼女はやることがあるからと断って説明は別の日にすると約束すると、彼等と別れて家路を急いだ。


自宅に戻った葵依は鞄をソファの上に放り捨てるとパソコンに向き合い起動させる。

立ち上がるまでの間、イヤホンを取り出して耳に差し込む。
イヤホンから流れてくる音声を聞きながら斑目一流斎というキーワードで検索を掛けると興味深いものを一つ見付けた。

そのページを開くと斑目一流斎の個展が駅前のデパートで始まるという情報だった。
椅子の背凭れに寄り掛かると画面を見つめた。

開催日を見ると日曜日の5/15から6/8までと期間は長めだった。
流石は巨匠斑目と言われるだけはあるのだろう。

そう思いながら葵依はどんな作品が展示されるのだろうか、とページ内を見ていくと本当にここに表示されている作品は全て斑目一人が手掛けたのだろうか?と疑念が強くなっていく。

どれも素晴らしいものということには変わりないが、統一性が無かった。
芸術に詳しいわけではないが、どれも別人が手掛けたもののように見受けられた葵依は親指の爪を噛みながら画面を睨み付けながらマウスを動かして、斑目についての情報を集め始めた。


*****


翌日、フッと意識が覚醒し目が覚ました葵依が真っ先に見たのは天井だった。
情報を集めている最中で寝てしまったらしく、首と腰がズキズキと痛みを訴えてきている。
どうやら椅子の背板に体を預け、頭をその背板の上に乗せていたという他人が見れば間抜けな恰好で寝ていたらしい。
痛みを訴える首をゆっくりと動かして正面を向くと、パソコンの画面は当然真っ黒になっていた。寝起き特有の体の強張りを感じながらマウスを動かして画面を付けると07:25と表示された。

シパシパする目を細めてそれを見てから昨日集めた情報をスマホに転送し、シャットダウンさせる。


「……3時間か」


そして立ち上がって体を伸ばすと節々、特に腰の辺りからゴキリと音が聞こえてきて眉間を寄せた。
なんだか頭もべた付いているような気がしてきた葵依はタオルを数枚手に取ると風呂場に駆け込んだ。

お風呂に入ってさっぱりした葵依は誰もいないことを良い事に下着姿で出て来て、まだ濡れている頭をタオルで拭きながらテレビを点けた。
するとテレビではつい最近、自分が巻き込まれた米花シティビルの事件の事が取り上げられ報道されていた。
それを見ながら机の上に置かれているパンを一つ取って食べた。

朝食を終えた葵依は脱ぎ捨てられている制服のスカートからメモを取り出して中を確認する。

どうやら学校にいる葵依の“協力者”からのようで、会って話がしたいというものだった。
日時は今日の11:45、場所は神田にある教会を指定してきていた。

読み終えた葵依はライターを取り出すと火を点けて、そのメモを燃やした。
メラメラと紙面を舐め上げていく炎を見ながら葵依はそれを灰皿の中に捨てた。

灰皿の中でメモはすぐに真っ黒になり、内容を見る事は出来なくなる。


「……準備するとしますか」


食事を終えた葵依は棚からロングの金髪と引き出しからカラーコンタクトの入ったケースを取り出した。


*****


荘厳な雰囲気を感じさせる教会の中には神父と、椅子に座って読書をしている男の二人がいるだけだった。

静かな空間の中、扉の開く重い音が響き神父はやって来た者に笑顔を見せると小さく会釈をする。やって来た者、20代前半と思える金の髪が綺麗な女はニコリと神父に笑みを返すと椅子に座っている男に目を向け、その蒼い目を細めた。

読書を続けている男の近くに立つと女性は口を開いた。


「J'ai vu un joli chat aujourd'hui.(今日は可愛い猫を見かけたわ)」

「C'est envieux.(それは羨ましいね)」


フランス語で小さく言った女の言葉に男が本を閉じながら答えると、彼女は口元に笑みを浮かべて彼に背を向けるとさっき入ってきた扉へと向かっていく。

遠ざかっていく女に男は本を鞄の中に仕舞うと彼女の後を追い掛けるように席を立った。
そして前を歩く彼女を見るとキラキラとステンドグラスから零れる光を浴びて輝く金髪が自然と美しいと思わせる程、綺麗だった。

そのまま協会の外に出て少し歩くと公園があり、二人はそこで話をすることにした。


「Maintenant, le sujet est d'environ...Tu sais quelque chose, n'est-ce pas?(今、話題になっている件…キミ、何か知っているんじゃないかい?)」

「Maintenant, je ne sais pas.(さあ、知らないわ)」


すっとぼけた態度に男は眉間に皺を作るが眼鏡の位置を直すようにフレームを指で持ち上げてそれを誤魔化す。


「En parlant de ça, le Président m'a dit de chercher un tyran qui lui a fait quelque chose. Tu le savais?(そういえば会長があの男から“暴君”に【“何か”をした“誰か”】を探すように言われてたけど…知ってたかしら?)」


女が茶化すように笑みを浮かべながら言うと、彼は更に眉間の皺を深くさせた。


「Non, je ne savais pas. Même si, je me demande ce que je fais pour les élèves de troisième année qui sont si tendues avant l'examen...(いや、知らなかったよ。それにしても受験を控えてピリピリしている三年生に何をやっているんだろうね…)」

「Parce que la correspondance avec les médias et la police ne se trompe pas. Cela dit, je ne sais pas comment il est vraiment. C'est comme ça.(マスコミや警察への対応を間違えない為…とは言ってたけど、実際はどうか分からないわよ?あの言い方だと)」


それを聞いた彼はこめかみを指の腹で押しながら脅しだな、と察した。


「Je pense que c'est parce que j'ai été hors de ma s*ur.(お姉さんの事まで出してきてたからそうだと思うわ)」

「C'est une menace complète.(完全に脅しだね…)」


そう言って重い溜息を吐いた彼にクスクスと笑みを浮かべる女はお洒落をした女子二人が、鴨志田の事を話していた。
隣の彼もその会話が気になるのか、二人の事を見詰めている。


「怪盗が鴨志田の心を盗んだって噂、ホントかな?」

「嘘、アンタ信じてんの?あんなの作り話に決まってんじゃん?怪盗なんてキッド様だけだよ。ってかキッド様しか認めないし」

「アンタってキッド様のファンだったっけ?でも鴨志田、ああなったじゃん」

「あんなの飛び降り騒ぎで、警察が来て怖くなったからゲロっただけじゃん?」

「それもそっか…」

「それよりこんなことで学校が有名になるとか、マジで迷惑なんだけど!」

「進学とかに影響出んのかな…」


そう言いながら去っていった二人を見送りながら会話を盗み聞いた女は隣に座る男に目を向けた。
彼の顔にはうんざりとした表情が色濃く現れていて職場でもこういった話題で振り回されているのだろう、と予想した。


「Il est rempli d'histoires comme ça au travail... Je ne me dérange pas si je viens de vous parler, mais vous venez à moi et demandez si c'est vrai...(職場でもああいった話でいっぱいでね…話すだけなら別に構わないのだが、僕のトコに来て本当なのかと聞いてくるんだよ…)」


その時の事を思い出したのか彼はセットされていない髪をガリガリと乱暴に掻いた。
同じ職場の人間だからと知っているわけではない、と言いたげな彼に女は肩を竦めるしかなかった。


「...... Au fait, c'est ton " Travail"?(……ちなみにこれはキミの“仕事”かな?)」

「C'est exact.(正解よ)」


彼の質問に答えると彼は、一つため息を吐いてこめかみをグリグリと指の腹で押した。
それを見ながら彼に思いつきでを“お願い”をしようと女は口を開いた。


「Oui, j'ai des choses à te demander.(そうだわ、あなたにお願いしたいことがあるのよ)」


そう言うと彼は怪訝そうな顔を女に向けると彼女は鞄から包みを取り出すとクッキーを一枚手に取ってそれを男に向かって差し出した。
男は差し出されたクッキーを見るとまたため息を吐いて、それを受け取るとクッキーの半分を口に含み、咀嚼した。
それを見た女は顔に笑みを浮かべる。


「C'est facile.(簡単な事なんだけど)―――」


女の言った事に男は目を丸くしたかと思うと少し考えてから残った半分を更に半分食べて、残った4分の1を女の手に戻すと公園から立ち去っていった。

掌に置かれた残したクッキーを見ながら女、葵依はクッキーを握って粉々にすると地面に放った。撒かれたそれは飛んできた鳩や雀が食べ始める。
それを見ながら葵依は別のクッキーを手に取ってそれを食べた。


「とりあえず、動くかは“彼”次第か…」


ポツリと呟いた言葉はクッキーと一緒に飲み込まれた。


*****


そして池袋に戻ってきた葵依はそのままの恰好でお昼でも食べて行こうと考えてファミレスに入った。

席に通された葵依は注文をして店員が去っていった時、暁の声が聞こえたような気がしたのでキョロリと周りに目を向けるとボックス席に暁と三島が座っていることに気付いた。彼等と葵依の席は近く、会話を盗み聞くのは簡単だったので葵依は頬杖を突きながら彼等の会話に集中する。


「鴨志田みたいな、悪い大人を成敗して回るんだろ?そんなの、応援せずにいられないよ!」


どうやら三島には暁が怪盗という事がバレているらしく、彼は怪盗団の活動を応援するらしい。


「君たちが、実際どうやって悪党を成敗してるのか知りたいけど…そういうのをペラペラ喋るようじゃ、かえって残念だから、聞かないよ。なんたって、怪盗団は孤高の存在だからさ!」


興奮気味に言う三島は怪盗団を英雄とでも思っているのだろうか?
そう思っているとオムライスが運ばれてきたので彼等の会話を聞きながら、湯気を立てている目の前の料理を一口食べる。


「でも怪盗活動を盛り上げるなら任せてよ!怪チャンを通じて怪盗団を宣伝しまくる。で逆にネガティブな情報は消してく。怪盗団の人気をコントロール…いや、プロデュースするんだ。いわば、怪盗団の戦略的広報担当ってとこ」


なるほど、竜司の見ていた怪盗お願いチャンネルの開設者は三島だったのか。
しかし、戦略的広報担当とは……随分と大きく出たものだ。
困惑しているらしい暁は頬を指で掻きながら首を傾げる。その顔には苦笑が浮かんでいた。


「戦略的…何?」

「戦・略・的・広・報・担・当…だよ。ちょっと声に出して言いたくない?」


戦略的広報担当というのであれば、悪い情報も把握しておくべきだろうに。
そう思った葵依は口の中にある料理を飲み込も、もう一口を入れた。

ふわふわと柔らかな卵にケチャップの酸味、そしてチキンライスの味が口の中に広がり鼻腔を抜けて行く。

舌鼓を打って味を堪能していたが。


「実はもう有力な情報には目を付けてるんだ。なんと、ウチの学校の噂。まずは身内から怪盗団の活動を盛り上げていこうと思ってさ!」


そう言って頑張るからね、と笑顔を浮かべる三島を見て葵依は大丈夫だろうか?と心配もしたが、しばらくは暁に任せておこうと決めた。決してめんどくさいとかではない…。

やる気満々な三島に暁も苦笑しているのが見えた葵依は内心で合掌してから、伝票を持って席を立った。


*****


翌日、駅のホームに来ると暁と杏の姿を見付けて駆け寄った。


「グッモーニン!今日もいい天気だね!」

「おはよう、葵依」

「おはよ…」


挨拶を返してくれた二人。
しかし杏の声がいつもより元気がなく、どこか不安そうにしているように見えた。

それが気になった葵依はどうしたの?と聞くと杏はキョロリと視線を動かしてから何かを言おうとしたが言うのを躊躇しているようで口を閉ざしてしまった。

いつもならハッキリとものを言ってくる杏なのに、と思いながら葵依は朝のニュースで見た事を思い出して口にする。


「もしかして皆を悩ます、植物からの襲撃を受けているとか?」

「……えっと、葵依は花粉症になったのか聞きたいんだよね?」

「その通り!」


暁の質問に元気よく頷いた葵依に杏が違うから、と否定すると困ったように目を伏せて話し始めた。


「実は最近、ずっと誰かに見られてる気がして…いや、まさかね…」

「杏ちゃん、モデルやってるし美人さんだから世の男共の視線を掻っ攫ってしまっているんだよ…ああ、美しさって罪!!」

「全くバカなんだから……」


呆れたように言いながら葵依の額を指で突いた杏。
その表情はさっきまでとは違い、少し落ち着いているように見えた暁は突かれた額を摩りながらへらっと笑顔を見せている葵依を見た。


「もしかしたら潜入気分が抜けてないのかもしれないし、きっと気のせいだよね…うん」


気のせいだと自分に言い聞かせるように呟いた杏を見て、葵依は杏の手を握った。
急に握られた事に驚いていた杏だが、葵依は電車が来たから乗ろうよ!と言って杏を引っ張る。


「ちょ!?引っ張んないでってば!」


葵依に引っ張られていく杏の後を追い掛ける暁はチラリと後ろを見てから電車に乗り込んだ。

電車を降りて、通学路を歩いていると三人の耳に学校の噂が聞こえてきた。
鴨志田が逮捕されたことや懲戒免職となったことなどが聞こえてくる。
それを気にしているのか暁と杏はチラチラと周りで話しながら歩いている生徒に目を向けたりしている。

葵依は鴨志田の噂を聞きながら怪チャンを開いた。
すると色んな情報が書き込まれており、これを管理するのは大変だな…と三島に同情していると、昨日会った協力者がこちらをジッと見ていることに気付きスマホを仕舞った。


「おはよう」

「おはようございまーす!」

「おはようございます」

「…おはようございます」


“先生”の挨拶に返事をする葵依達に彼は笑みを浮かべるとチロリと爬虫類を思わせるような目で暁の事を見る。

その視線に居心地の悪さを感じた暁は急ぎ足で校舎に入って行き、杏もその後を追い掛けた。


「見過ぎ…」

「君も急いだ方がいいよ、そろそろ時間だろうしね」


彼の横を通り過ぎる際に小声で注意するが、彼はそう笑みを浮かべたまま早く教室に行けと言うだけだった。

ここで立ち止まっても変に目立ってしまう為、葵依も暁の後を追い掛けるように校舎の中に入って行った。


*****


そして放課後、暁からの召集が掛かり屋上にやって来た。
ついこの前に生徒会長から注意されたというのに、度胸があるのか単に忘れているだけなのか…。


「集まったってことは…メメントスに行く気だな?」


早くメメントスに行きたいのだろうか、竜司がソワソワした様子でそう聞くと杏が待ったと声を挟む。


「試験勉強はどうするの?」

「細けえことはきにするなって!勉強なんかやめてパーッと行こうぜ」

「行くって言ったって…ターゲットもいないんだよね?」

「ターゲットの事なら心配ないぞ。ミシマから情報が流れてきた」


モルガナの言葉に竜司が今から行こうぜ!と言うが杏は試験が心配なのかあまり気乗りしていないようだ。


「よっぽど勉強したくないんだね…」


呆れたような目で竜司を見る杏の言葉に暁は苦笑した。
竜司の隣に座ってお菓子を頬張っていた葵依はチラリと彼を見て、後で痛い目見て泣くんだよなー、と予想した。

するとモルガナが軽く咳払いをしたのでその場の視線が彼に集まる。


「さてオマエ等、カモシダの時を思い出してみろ。盗む前に大事な事やっただろ?」

「んだよ、勿体つけねえで言えよ…」

「……もしかして予告状?」

「あれ、でも…前回、予告状なんて出したっけ?」


葵依がそう言うと杏が首を傾げて言った。
その疑問にモルガナがパレスでは潜在意識を変える事でオタカラを実体化させる必要があるが、メメントスではいきなり狙うだけで大丈夫そうだと答えた。


「どういうこった?予告状いらねーのか?」

「いや、予告状の代わりになるものが既にあると考えた方がいいのか?」


竜司の疑問に暁がモルガナに訊ねると彼はにんまりと笑みを浮かべながら頷いて暁に続きを促す。


「確か中野原の時は怪盗が狙ってるぞとサイトに書き込まれてた。それを見た相手にとってはその文だけで予告と受け取れる…」

「ああ、ナカノハラだってミシマのチャンネルで書き込みを見たんだろう」

「なるほどー、だからナビが反応したんだー」


暁とモルガナの会話を聞いていた葵依がそう言うが、内心では改心する前の中野原が書き込みを見ていたという事はそれを書き込んだ被害者はあと少しでも遅ければ危ないことになっていたという事になる。

書き込みを見た中野原が逆上してその被害者に害を及ぼしていたかもしれないと考えると間に合って良かったと安堵してしまう。


「それじゃあターゲットの情報について会議するぜ!」


モルガナがそう言うと暁がスマホを取り出して画面を見ながらターゲットについて語っていく。


「三島から渡された情報だと相手はここ、秀尽学園の生徒、名前は高梨大輔(たかなしだいすけ)。内容は人格否定に恐喝紛い、苛めにしては度が過ぎているとのことだ」

「改心させるには充分なネタだな!早速やっちまおうぜ!」

「全会一致でしょ!…まぁ、放っとくわけにもいかないし…私も賛成」

「早くメメントスに行きたいだけだよねー。私も異論はないよ」


全員が賛成という事でメメントスに行くことが決まり渋谷の駅前広場へと向かった。


*****


メメントスに着くなり、モナがクシャミを連発した。
改札を通った面々は彼を見ると彼は鼻を押さえながら改札を通ってきた。


「大丈夫?」

「ああ…しかし今日は花粉が凄いな…こりゃ…メメントスにも影響が出そうだぞ」

「みんなのパレスだもんね。植物からの襲撃の被害者は多いだろうし、辛いっていう人の気持ちが出るだろうね」


モナにティッシュを渡しながらジェスターが言うとスカルとパンサーが首を傾げてどういうことだ?と聞いてくる。

貰ったティッシュで鼻をかんだモナは二人に説明する。


「さっきジェスターが言っていたようにここはみんなのパレスだからな。多くの大衆が抱く気持ちってのは、メメントスにも影響するもんなんだ」

「…それって…天気が人の気持ちに影響して…それがメメントスにまで影響するってこと?」

「多分、中にいるシャドウにも影響してるんじゃないか?」


パンサーの言葉にモナが答える前にジョーカーが口を挟むとモナはもう一度鼻をかむとそうだと頷いた。


「どんな変化が起きるかは天気次第だが、使い方によっちゃ役に立つんじゃないか?」

「花粉が多い日ってどうなるんだよ?」

「よくは分からんが…大衆がどんな気持ちを抱いているかだな」


スカルの質問にモナが答えるとパンサーが自分のクラスメイトの事を思い出す。
そう言えば彼女も花粉症で辛いと言っていた。と。


「鼻が詰まってボーっとするし、薬の副作用で眠くなるから辛いって言ってた…」

「だとすると、その辛いってのが影響してるってことか?」

「かもな」


スカルが首を傾げながら聞くとモナは曖昧な返事をした。


「とりあえず前に言った所まで行こう…ジェスター、悪いがまた運転を頼む」

「任されて」


そう言うとジェスターはモナに目線を合わせて車になるように頼むと彼は線路の上に立って車に変身した。

モルガナカーに乗り込むと前回と同じようにジェスターが運転し、シャドウを跳ね飛ばしつつ下に続く階段を見付けて下りて、前回壁があったホームまで問題なく来たジェスター達は先へと続く階段をまた下りていく。

下の階は更に暗くなっており、薄ら寒くも感じた。
不気味さが増した階を見回してみると天井に赤いシミのようなものが見えて、一瞬だけ血溜まり?と思ったがすぐに違うだろうと頭を振った。


「うしっ、こっから先は初見だ。じっくり行こうぜ!」

「あ…じっくりも良いが、同じエリアに長居するのはやめとけよ?メメントスには、1匹だけ格段にヤバい奴がいる。そいつに襲われたら、ひとたまりもないからな」


モナの忠告のその場の全員が驚いて彼を見る。
何故この猫はこういった大事な事を先に言わないのか!と内心怒りを覚えるがジェスターはその怒りを抑えつけてモナに訊ねる。


「……そのヤバい奴が現れる前兆とかって分かる?」

「確か鈴の音が聞こえてきたらヤバかったと思う…」


そう答えるとモナは急いで車になった。
ジェスターは急ぎつつ警戒は怠らないようにしようと決めると運転席に乗り込み、全員が乗り込んだのを確認するとアクセルを踏み込み、車を走らせた。

徘徊しているシャドウを跳ね飛ばしながら車を走らせていると後ろに座っていたパンサーがふと思ったことを口にする。


「そう言えばここって、敵に見付かってもパレスの警戒具合とかは変わらないんだね」

「誰か一人のパレスと違って、メメントスは大衆のパレスだからな」

「つまり、ここの警戒具合が変わったりする時は大衆全てを敵に回すようなヤバい状況になった時ってことだよね」

「滅多にそんな事ねえとは思うけどな」


運転していたジェスターがそう言うとモナはあり得ないと笑いながら答えたが、ジョーカーは気を付けようと決めた。

どんな事がきっかけで、誰が敵になるかなんて分からないのだから。
そう思っていると以前助けて裏切られた時の事を思い出し、気分が沈んだがそのことに気付いた者はいなかった。


201808251902