Second Palace.

    

祐介の案内で個展内を歩いているとテレビ局の人間がやたらと視界に入ってくる。初日ということもあり班目本人が個展へと足を運んでいるからだろう。

取り残された暁と竜司の二人が気掛かりだが、まあ、大丈夫だろう。と判断した葵依は調査も兼ねて展示されている作品に目を向けていく。


「ふわぁ……日本画って、こんな色々種類があるのね」

「普通はもっと作風は絞られる。でも先生は全てを……一人で、創作してる。特別なんだ、先生は」


祐介の言葉は自分の先生を褒めているように聞こえるが、どこか言い淀むように聞こえた葵依は自分達の後ろに立っている祐介を見るが彼はすぐにニコリと微笑んでいた。
するとこちらに近づいてくる斑目の姿が見え、葵依はじっとそっちに目を向ける。
葵依の視線の先が気になった祐介も一緒に振り返ると自分の師がこちらに近づいてきている事に訝しむように首を傾げたがすぐにそれを隠した。


「祐介、ここにいたのか」

「先生?」

「昨日の子だね?楽しんでもらえているかな?」


そう言って斑目は葵依に向かってニコリと人のいい、朗らかな笑顔で訊ねてきた。
その笑顔に悪意はなく、この人が本当に悪人だったらとんだ狸だな、と思いながら葵依もニコリと愛想良く笑顔で返す。


「ええ、先生の作品はどれも素晴らしく楽しませてもらってます。それに言葉には言い表せないくらいの感動も覚えました」

「そうか……。その言葉だけで、我々画家は本望だ」


しみじみと頷きながら言う斑目は祐介に顔を向けると良い絵になるといいな、と声を掛けると少し曲がった背を向けて、去っていった。遠ざかっていくその背中を見送っていると隣にいた杏が小声で話しかけてきた。


「芸術家って取っつきにくそうだけど、先生って親しみやすそうだね」

「うん、そうだね……」


杏の言葉に頷いて返すと彼女は近くにあった大きな絵に近づいてコレだ、と声を漏らした。

そこにあった絵を見て、葵依がこう思った。コレを描いたときの斑目は何に対して憤っていたのだろうか、と。

どうやら杏も同じことを思っていたらしく、首を傾げながら口を開く。


「描いた人の、怒り?よく分かんないけど、熱い苛立ちを……感じるの。あんな気さくで紳士的な人なのに、こんな絵が描けるなんて……」


杏の言葉を聞きながら葵依は後ろに立つ祐介の様子を盗み見る。
すると彼は何かに耐えるような表情をしながら自分の胸元を強く掴んでいた。

何も言わない祐介に疑問を感じた杏が振り返りながら訊ねると、彼はさっきまでの耐える表情を隠し、ニコリと笑みを張り付けた。


「いや、なんでもない」


その切り替えの早さに葵依は驚き、これはよく見てないといけないなと思った。


「こんな絵より……もっと良い絵がある。さあ、こっちだ!」


まるで今すぐここから立ち去りたいと言いたげに言う祐介に戸惑いながら着いて行く杏。
葵依は二人の後を着いて行きながらさっき祐介が言った言葉は先生の絵を卑下するものだった。尊敬する先生の絵を“こんな”絵などと……彼が何を思ってそう言ったのか、分からない葵依はもう一度立ち止まって、憤りを感じさせる絵を見てから杏達の後を追い掛けた。

その後、祐介の案内で個展内を一通り見て回った杏と葵依は彼にお礼を言って、連絡先を交換し、住み込んでいると言っていた斑目の住所も教えてもらった。
そのメモを無くさないように財布の中に仕舞うと祐介と別れ、暁達と合流する為に駅へと向かう。

駅の連絡通路に向かうと息も絶え絶えと言った様子の暁と何故か鳩尾を押さえている竜司が居て、彼等に何があったんだ?と杏と葵依は揃って首を傾げた。

お互いに情報を交換する為、近くのカフェに入り喉を潤すために水を一気に煽った竜司が個展で引っ掛かる事を聞いたと言いながらスマホを取り出し、全員が画面を見れるように机の上に置いて、一つの書き込みを指差した。


「この書き込み……斑目のことかもしんねえ」

「……日本画の大家が弟子の作品を盗作している。テレビは表の顔しか報じていない……ねえ?」


竜司が指差す書き込みを読み上げた葵依に、メンバーが唖然としたが葵依は杏が見たかったと言っていた絵の事を思い出した。

もしかしてあの絵を手掛けたのは、祐介本人だったのではないか?と。だからあの時、こんな絵と言ったのだろうか?


「盗作!?」

「最初に見た時は、何とも思わなかったけど、あばら屋で斑目だからな」


目を大きく見開いて驚いている杏とは逆にいやに冷静な竜司がそう言うと、彼は自分のスマホに目を落とし、内容を読み上げていった。

住み込みさせている弟子への扱いは酷く、こき使うだけで絵など教えてもらえない……人を人とも思わない仕打ちは、飼い犬を躾るかのよう。――書き込まれた内容だけを信じるのであれば、盗作に加えて虐待の疑いもあるということになる。


「これが本当なら、大きなスキャンダルだな」


暁の言葉にその場の全員が頷いた後、杏が自分の顎に指を掛けながらこの書き込みをしたのは祐介だろうか?と声に出す。


「いや、違うと思う」

「でも彼、まさに弟子でしょ?」

「さあ、匿名だからわかんねえよ……」

「それに弟子が一人とは限らないよ?あんな世界的巨匠に弟子入りしたいって画家志望は多いだろうし……」


全員からそう言われ、少し落ち込んだように肩を落とした杏にモルガナが助け船を出した。


「となると……メメントスで聞いたマダラメが、あのマダラメと同一人物かもしれねえな」

「まあ、そんなに多くいる名字じゃないだろうし……」

「あの先生が、そんなこと……」


未だに斑目一流斎がメメントスで聞いたマダラメと同一人物という事を否定したい杏は自分の髪を弄りながら少し考えると何かを思い付いたらしく、暁を見る。


「あの時のシャドウに、訊けないかな?」

「え、シャドウに?」

「あ、ていうか現実の本人に訊けば……」

「どんな風に訊くんだよ?現実じゃあ赤の他人だぜ?それにメメントスの事を説明すんのか?」

「それにあんまり表立って動かない方が良いだろうな。マダラメ本人にバレちまう可能性もあるぜ」

「そっか……そうだね……」


杏の提案に竜司とモルガナが危険すぎると却下し、三人と一匹は再び頭を捻りながら竜司と暁は偶然にしては出来過ぎていて怪しいと話す。

そんな彼等の様子を見ながら注文していた飲み物を飲みながら葵依は前もって調べておいた斑目の情報に目を通していると竜司が思い出したように杏に話を振った。


「そういや、モデルの話どうなってんだ?」

「喜多川君から、連絡先もらってる。あと斑目先生のアトリエの住所も」

「住み込みっつってたな。丁度いい」


杏の言葉に目を光らせた竜司がニヤリと笑みを浮かべた。


「じゃあ明日の放課後、斑目の家に行ってみようぜ!」


竜司の言ったことに杏は驚いたように目を見開き、椅子をガタンと揺らした。


「え!?モデル……明日!?急に言われても……」

「はぁ?喜多川に話を訊きに行くんだよ」


竜司の答えにホッと安心した杏を見てから家に帰ってから祐介に渡された住所を調べてみることにした。


*****


放課後を迎え、暁たち4人は駆け足で駅へと向かうことにした。

電車で渋谷へ向かう途中ちょっとしたトラブルがあったが暁と杏の機転によってなんとか抜け出すことは出来たが、モルガナを暁が連打してダウンさせることになった。まあ、あれはお仕置きも入っているんだろうな、とグッタリしているモルガナを見て思った葵依は敢えて気にしないようにして聞いた住所を頼りにセントラル街を進む暁の背中に着いて行く途中、葵依は前方の男が少女から財布を掏ったのを見た。

少女は財布を掏られたことに気付いてはいないようだが、隣にいた少年が気付いたようで男に大声で待て!と言う。
すると男は舌打ちをして、走り出し葵依に向かって走ってきた。
暁達は正面から走ってくる男に驚き、道を譲ってしまうが葵依は慌てずほんの少しだけ体の位置をずらすとわざと男とぶつかるようにした。

葵依は男とぶつかる際に男のポケットから少女の財布を掏り、自分の鞄の中に落とした。男は少女の財布を掏られた事に気付かないまま走り去っていき、少年――快斗がキョトンとした顔で葵依の事を見ていた。


「ちょっとどーしたのよ、快斗?」

「……」


少女が快斗に声を掛けるも彼は葵依をジッと見ていて答えない。
暁達も快斗の態度が気になったのかどうした?と声を掛けてきた。


「大丈夫か?ってかさっきのオッサン何だったんだ?」

「人にぶつかっておいて謝りもしなかったよ!?」

「ダイジョーブだよ。さっきのオジサンはね、スリだよ。多分、彼にそれがバレて慌てて逃げたんじゃないかな」


そう言って葵依は自分の鞄から少女の財布を取り出して見せると少女は驚いた表情をすると自分のリュックの中を確認してから葵依の持つ財布を見た。


「これ、アナタの?」

「う、うん!ありがとうございます!!」


そう言ってペコペコと頭を下げてお礼を言う少女に葵依は気にしていないと言えば、快斗が近づいてきた。


「……よお」

「この前ぶりだね、黒羽君」


ニッコリと笑顔でそう返すと少女が快斗と葵依を交互に見てきて、知り合いかと訊いてきて快斗がそれに答えていると暁が近づいてきた。


「葵依」

「ゴメン。先に行ってて、別の高校に通ってる友達なんだ」


小声で言えば暁は二人を見てから一考すると頷いて、先に行ってると返してくれた。
暁は杏と竜司に軽く話をすると二人を連れて先に斑目の家へと向かっていった。

三人の姿が雑踏の中に消えると快斗が話をしようと言ってきたので東急旧5000系のモニュメント近くまで移動した。


「快斗に言われるまで小鳥遊さんだって気付かなかったよ!中学にいた頃と違っててビックリしちゃった」


そう言って笑う少女――中森青子に笑顔で返事をしながら内心でゴメンね、私も今の今まで忘れてたよ。と思っていた葵依は小首を傾げる。


「私ってそんなに変わった?」

「前は自信が無くって周りに怯えてるような感じだったもん」


そう言われ、葵依は小鳥遊茉莉の設定を思い出そうと頭を働かせると、そういえばそんな性格にしてたな……と他人事のように思った。


「それにしても青子の財布が掏られたって快斗も茉莉ちゃんもよく気付いたね?」

「そりゃあな」

「私は黒羽くんの待て!って声とオジサンが慌てたように走り出したことでピーンと来たってだけかな」


青子の質問に快斗は素っ気なく答え、葵依はさっきの事を言いながら嘘を吐いた。


「そういえば、中森さ―――」

「青子のことは青子って呼んで!」


遮られて名前で呼んで欲しいと言ってきた青子に一瞬だけたじろいだが、すぐに葵依は照れたようにはにかむ。


「えっと、ぁ、青子……ちゃん」

「うん!」


名前で呼ばれたことが嬉しかったのか青子は満面の笑みで返事をする。
それを見ていた快斗は苦笑していた。


「それで青子ちゃんはどうして新聞を持ってるの?」


高校生が新聞を持っているというのは珍しいと思いながら訊けば、彼女は新聞を広げて葵依の隣に来ると中を見せてくれた。

そこには【怪盗キッド、早くも敗北宣言!!そろそろ引退か!?】と大きく書かれていて、その下には今回キッドがターゲットにしていたルビーの所有者であるジョディ・ホッパーの写真と彼女のコメントが書かれていた。


「何々?……「彼のマジックが拝見出来なくて残念ですわ」か」

「きっと青子のお父さんに恐れをなしたのよ!!ただの腰抜けね!!」

「ん?なんで青子のお父さんが出てくるの?」


若干興奮気味に言ってくる青子に葵依が首を傾げて訊けば彼女は自分の父親がずっと怪盗キッドを追っている警察官なのだと嬉しそうに言い、葵依は4月19日のセリザベス号に来ていた中森警部と青子が家族という事を知り、驚いていると一瞬だけ自分にではないが殺気を感じ、ゆっくりとそっちに顔を向けると雑踏に紛れて黒の帽子に焦げ茶のコートを着た男とサングラスを掛けた男数人がスマホを弄ったり煙草を吸ったりしていた。

それだけなら別に可笑しいことは無いが、彼等の視線が普通とは違った。
その眼光は鋭く、殺気立っている。

彼等は一体何を見ている?

そう思った葵依は男達の視線を追ってみると一人の女性に辿り着いた。
女性は紺色のキャペリンを被り、顔を隠すようにサングラスを掛け、スーツを着ていた。

キョロリと何かを探しているような素振りを見せ、チラチラと時計に視線を落としている彼女の事が気になった葵依は二人に一言断りを入れて彼女に声を掛けた。

染めたようには見えない金髪から彼女が外国人と判断し、英語で声を掛ける。


「Do you have any problems?(何かお困りですか?)」

「What? ...... Oh really. I've heard there's a coffee shop in Chagall around here, don't you know?(え?……ああ、そうなの。この辺りにシャガールという喫茶店があると聞いていたのだけど、知らないかしら?)」

「I know. Chagall is near a cinema in central town.(知ってますよ。シャガールならセントラル街の映画館付近にあります)」

「Thanks for the help.(助けてくれてありがとう)」

「You are welcome.(どういたしまして)」


そう言うと彼女はお礼だと言ってマジックショーのチケットを2枚渡し、さっさとセントラル街へ行ってしまった。

彼女が移動すれば、男達も彼女を追ってセントラル街へと向かっていく。
男達は彼女の何を狙っているのだろうか?と考えるが、情報が少ない事から考えることを止め、快斗と青子が近づいてきた。


「さっきの人、どうしたの?」

「なんか困ってるように見えたから声かけたんだけど、道に迷ってたみたい」

「そうだったんだ」

「うん」


そう言えば、快斗が目敏く葵依の持ってるチケットに気付いた。


「それ、さっきの人に貰ったのか?」

「うん。私は道を教えただけなのに……大袈裟だよね」


そう言って困ったと言いたげに眉を下げて鞄に仕舞えば、快斗達は映画行く予定だったようで、上映時間が迫っていると気付いた青子が悲鳴を上げた。


「そろそろ映画が始まっちゃう!ほら、快斗行こう!!茉莉ちゃんもまたね!!」

「うん」


半分青子に引き摺られていく快斗とパワフルな青子に苦笑しながら手を振って二人を見送った葵依は速足で斑目の家へと向かった。

そしてあばら屋が見えてきた頃、その家の反対側の歩道であばら屋の全貌を眺めている3人を見付けた葵依は彼等に駈け寄ると三人の話し声が聞こえてきた。


「なんか……いいヤツじゃね?二人とも」

「メメントスで聞いた『マダラメ』は別人なのかもね」


困惑した様子を見せる彼等の会話を聞いてから葵依は彼等が眺めているあばら屋の方を見た。恐らくあのあばら屋に斑目が住んでいるのだろう。世界的に有名な巨匠が住んでいる家とは到底思えないようなあばら屋を見て、葵依は違和を感じたがそれが何なのか分からず、三人に声を掛けた。


「お待たせ―」

「あ、葵依ってばようやく来た」

「おっ前、おっせぇよ!」

「ごめんごめん!」


少し怒った様子の二人に両手を合わせて謝る葵依に暁が簡潔に説明してくれた。
それを聞いた葵依はなるほど……、と俯きがちになって小さく頷きながら双眸をゆるりと細め、もう一度あばら屋に視線を向ける。

彼女の視線が冷たいものに変わっていることに気付いたのは暁の鞄にいたモルガナだけで、彼はその視線に小さな体をブルリと震わせて、鞄の中に体を潜ませる。


「それでナビに反応はあったの?」


葵依の質問に竜司がスマホを取り出すと、ナビが起動していて全員が驚いた。
どうやらさっきの会話を拾って検索していたようで、画面にはキーワードが表示されている。

『マダラメ』
『盗作』
『あばら屋』

この三つを見る限り、パレスの持ち主はあの班目一流斎であっているのだろう。そして怪盗お願いチャンネルに書き込まれた“マダラメ”についても、あの画家でほぼ間違いない。


「この表示……斑目先生にもパレスが……ってことだよね!?」


なんでッ!?と驚く杏の声に、気を取り直したモルガナがひょっこり顔を出すと鞄から出て、ガードレールの上に飛び乗った。


「そういうことらしいな」

「つかこれ、マジ何なんだ!?ほんとにあんなジイさんにもパレスがあんのか……?」


あの初老の紳士がなんでパレスを持っているのか、全く解らないと若干混乱している杏と竜司の二人を見ながら暁はジッと画面を睨み付けており、葵依はやっぱり狸だったか……とにこやかに笑っていた斑目の顔を思い出し、苦い顔をした。


「入るには、最低限『本人の名前』と『場所』が分かればいいんだったな。あとはマダラメがこの『あばら屋』を『何』と勘違いしているかだ」


パレスがあると判明したからにはやるしかない。
話を進める為、モルガナが冷静にそう言うと、少し落ち着いた杏が、鴨志田が学校の事を城と思い込んでいたことを思い出す。

それに対して頷いたモルガナは当てずっぽうでもいいから言っていこうぜと言うと自称・切り込み隊長の竜司が最初に声を上げる。


「パレスのキーワードか……見た感じボロっちいし牢獄は?」

《候補が見つかりません》


竜司の声にアナウンスがバッサリと切り捨てると、次は杏が候補を口にする。


「うーん、とりあえず城とか?」

《候補が見つかりません》


しかしこれも切り捨てられ、竜司が手当たり次第に言葉を上げていく。


「ああ、面倒くせっ!じゃあ刑務所!倉庫!それと……教育指導室!ついでに牧場!」

《候補が見つかりません》

「掠りもしねえ……」

しかし竜司の言った候補はどれもヒットせず、頭を悩ませていると葵依がずっとあばら屋を見ている事に気付き、暁も釣られるようにあばら屋に目を向けた。


「あばら屋を“何”と勘違いしている……か、だよね?画家が連想しそうな場所かぁ……」

「……なんだろうな。専門学校とか画材店?」

「もしくは簡単に博物館とか美術館?それとも多くの作品を作り上げてるから工房?」


暁の言葉に葵依が答えると、ナビが反応して一瞬眩暈が起こる。どうやら正解を引き当ててしまったらしく空の色が変わり、暁達は怪盗服に変わった状態で先ほどの道に立っていた。


「おい!いつの間に開始したんだ!?びっくりしただろ!」

「偶然あのバカが当たり引いたんだからしょうがねえだろ」

「もしワガハイが気付かずに歩いてって、また敵に捕まったらどうすんだよ!」

「おいおい……二本足で歩いた時点で分かれよ」

「むむむ……」


スカルの突っ込みに言い返すことが出来ないのかモナが腕を組んで唸る。
そんな二人の喧嘩を聞いていたパンサーは馬鹿とはなんだー!とスカルに憤慨しているジェスターを背後から羽交い絞めにして押さえながら気になった事をモナに訊ねる。


「モルガナでも、こっち入ったこと気付かないことがあるってこと……?」

「認知の歪みが少ない所だと、姿くらいしか変わらないこともあるしな」


しょんぼりとした様子で言うモナの声を聞きながらジェスターは、ジロリとスカルを見てからさっきまで見ていた質素な“あばら屋”だった建物を見て顔を露骨に顰めた。


「うーわー……あれ見てよぉ……」


ジェスターがガードレールに腰掛けたまま引いたような声で指差す先を見ると、そこには金色に輝く巨大な建物、斑目大画伯美術館とデカデカと表示されているのを見る限り、目の前のこれは美術館らしい。


「あばら屋が……美術館、マジ……?」


見渡す限りの金色……豪華絢爛を極めたそれは、スカルも思わず唖然とするほどの悪趣味な外装だった。正直に言って目が痛くなるしサングラスが欲しくなってくる。


「行ってみよう?」


パンサーの言葉に全員が頷き、ジョーカーを先頭に内部の様子を見に行くことにする為、行動を開始した。

確認の為、駐車場と思われる場所に停められている車の影から美術館の正面の様子を伺ってみると、そこには顔のない沢山の人が行列を作っており、警備員も配置されていた。とても入れそうにない。


「すごいゴーカ……っていうか……シュミが……美術館……なんだよね?」

「これが、斑目の……?」


あまりの趣味の悪さに言葉を無くしている二人に苦笑しながら同じように美術館に目を向け、侵入出来そうな場所を探しながらモナの声を聞くと彼はパレスとは欲に駆られた妄想の景色だと言った。

つまり鴨志田も斑目もあれが正しい景色なのだと確信しを持ち、それを信念としていたという事なのだろう。

その場所を自分にとっての城だとか美術館だと思っているだけであれば問題などなかったろう、実際に自宅の事を天国と思っていたり職場を地獄と思っている人は多くいるのだから。しかし彼等は人に害を成していた。

そこまで考えているとパンサーが沈んだ声を出す。


「現実の美術館にも絵は飾られてるのに、どうして自宅を美術館と妄想するのかな?」

「確かに人気もあってソンケーもされてんのにな」

「それに盗作や虐待とも関係は無いように思える」


スカルとジョーカーも腕を組んで言うが、ここで情報が足りない中考えても仕方ないだろうに、と思ったジェスターはキョロリと周りに目を向けてみる。
美術館の入口から客を装って入ろうにもあの長蛇の列に並んでいても一向に入れはしないだろう。現に列は全く進んでいないようだ。


「つかよ……怪盗に美術館って定番じゃね!?」

「罠も定番だな」


どこか嬉しそうに言うスカルにジョーカーが冷静に言うとスカルは個展での事を思い出したのか自分の鳩尾を労わるように摩る。


「まあ、あの爺さんの追っかけ、どいつも怪力だったしな…」

「それ、関係ねえだろ」


モナの突っ込みを聞いてからメンバーは一度駐車場に戻り、探索を開始することになった。


「まさか……あの行列に並ぶのか?」

「ふっ、スカルは愚直だな」

「あ゛あ?!」

「我々は怪盗なのだ……正面から等、論外!」


急にカッコつけて言い始めたジェスターにスカルは口元を引くつかせ、モナは自分も似たような事を言いたかったのでえっと……と戸惑っている。


「えっと、でもジェスター?周りは高い壁があるよ?」

「そこは足場になりそうなものを探すしかないんだろうな……」


パンサーの言葉に周囲をキョロキョロと見ながら答えるジョーカーは何かを見付けたようで一か所をジッと見つめた。


「どうしたの?ジョーカー」


パンサーが訊くとジョーカーはニヤリと笑ってから行こう、と言って走り出した。他のメンバーも慌てて追いかけると彼は駐車場に停めてあった一台のトラックの上によじ登ると、そのまま美術館を囲う壁の上に立つとすぐに姿勢を低くして周囲を見回すと、手で大丈夫だと合図をしてきた。

それに続くように全員が壁の内側に入るとモナが険しい顔をしながらライトで照らされている美術館を見上げた。


「あのボロっちい家が、コレか……キンキラ過ぎて悪趣味だぜ」

「それな」


うんうん、とモナの言葉に同意するジェスター。
しかしパンサーは未だに困惑したような顔をしながら美術館を見上げる。


「けど、あんなお爺さんが……?ピンと来ない」

「だから確かめに来たんだろ?」


そう言って行こうぜ、と先を促すスカルとジョーカーにモナとパンサーは着いて行く。
一人残ったジェスターはジッと美術館を見てから小さく深呼吸をしてから先に行ったみんなを追い掛ける為、飛び降りて壁の内側に侵入した。


鴨志田卓のパレス攻略以降、二度目のパレス侵入だった。


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