厳重な警備

     

仕事ということで制服から動きやすさをメインにした服装に着替えてからミリタリーショップ前に来るが店は閉まっており、店内に人の気配は無かった。

場所の指定はされてない筈、と思っていると路地から岩井が姿を現した。

彼は葵依に近づくと敢えて見下ろす形で口を開いた。


「気は変わってないよな?」

「勿論ですよ。それで?」


私は何をすればいい?と言葉に出さず、ニコリと柔和な笑みで問う葵依に岩井は眉間に皺を作るがすぐに用件を口にする。


「俺はこの後、ファミレスである男と会う。お前は近くに座って、合図したら俺に電話しろ」

「随分と簡単な仕事なんですね。わかりました」

「ちゃんと来いよ」


信用が無いらしく、ジロリと葵依の事を睨んでから岩井はさっさとファミレスに行った。葵依は少し時間を置いてから岩井の入って行ったファミレスに入り、それとなく岩井を探して近くの席に立つと店員にドリンクバーとティラミスを頼み、アイスコーヒーを持ってきてから席に座る。

岩井の正面に座っている男はどう見てもチンピラにしか見えない20代後半の男だった。

メニューを眺めながら岩井達の会話に神経を集中させる。会話を聞いてるとこの二人は親しい間柄なのかどことなく気安いように思える。


「そんで、話って何スか?」

「ああ、まあな。津田(つだ)さん、どうしてる?」

「いつも通りっスけど?どうかしたんスか?」

「こないだ、見掛けたんでな」

「津田さんとは絶縁した筈でしょ?ムネさん、組を抜ける時に。なんで今更津田さんなんです?」


どうやら岩井は元・極道だったことが男の言葉で分かったが今はそんなこと些細な事でしかない。

怪しむ様子を見せる男に岩井は動揺する様子を見せず、肩を竦めるだけだった。


「あの頃はお互い若かったし、兄弟と喧嘩したままってのも……なぁ?もう、頃合いだしメシでもって思ってんだが、どのツラ下げて会ったモンかよ……」


少し気まずそうに声を落としながら言う岩井に男は胡乱気な視線を向けつつ明るい声で言った。
注文していたティラミスが運ばれてきたので、それを食べつつ会話に耳を傾ける。


「あ、な〜るほど。仁義っスね、それ!了解です、オレ伝えときますよ!」

「馬鹿、よせよ。偶然を装ってフラッと会いてぇんだ……」

「じゃあ芝浦かなあ。ほら、再開発の話あるでしょ」


芝浦と言う岩井の声が1トーン下がったのを聞きながら葵依はその津田という男に因縁があるのだろうな、と話の内容的に思っていると岩井が咳き込むのが聞こえ、葵依はスマホの電話帳から“Rock”を選んで指示された通り、電話を掛けた。


「具合、悪いんスか?」

「ただの風邪だろ?」


水を飲んでからそう答えた岩井のスマホが鳴る。


「『もしもし……あ、どうもどうも。発注ミス……?申し訳ありません、今すぐに……』」


後ろとスマホから聞こえてくる声を聞くだけにし、葵依は後ろの様子を伺う。


「悪い、シゴトだ。また今度ゆっくり話そう」


岩井の言葉に軽く返事をした男に軽く手を挙げてから岩井は電話をしながら出て行った。

店から出て言いった岩井を横目で見ているとスマホから岩井の厳しい声で指示が入る。


『そのまま切んな。後ろの男、電話してんだろ?俺に会話が聞けるように、黙って声を拾え』


やれやれ、と思いながら後ろの声が聞こえるように髪で隠しながらスマホを後ろに向ける。


「あ、津田さん。俺っス。マサっス。岩井ねぇ、やっぱ探って来ましたよ。言われた通りしときましたけどね」


そう言って出口に目を向けるマサは人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「岩井きっと、津田さんにタカるんスよ。ほら、大口の取引を成功させたから……ああ、すんません!そんなつもりじゃ……はい、はい……では失礼します」


電話の相手に叱られたのかマサは頻りに謝り、電話を切ると立ち去っていった。
電話を切らないまま葵依はソファーの背凭れに寄り掛かる。


『大口の取引……?……裏がありそうな話だな』

「今の男は?」

『ん?ああ……アイツはマサってんだ。ちょっとした知り合いだよ』

「そうですか」

『……それにしても、正直、期待してなかったが思ったより使えそうだ。これからも頼むよ』

「ご期待に添えられたようで何よりです。これで今回の仕事は終わり、と思っても?」

『ああ、今日はこれで終いだ。好きなモン食って帰れ、領収書は忘れんなよ』

「……ではお言葉に甘えますね。これからもどうぞ、御贔屓に」


そう言って電話を切るとスマホを仕舞い、机の上にあるティラミスを食べ終え、コーヒーを飲み干すと会計を済ませ、領収書を受け取り葵依はファミレスから出ていった。

今日はもうすることが無いので家に帰り、寝るだけだ。


*****


翌日、通勤ラッシュで身動き一つとれないくらい人でいっぱいな車内にウンザリしつつ、スマホでニュースを見ていた。丁度昨日の二人が言っていた女子高生が殺害されたニュースが報道されている。

被害者は米花の高校に通う一年生で詳細は報道されていないが鋭利な刃物を使用されての殺害らしく、犯人はまだ捕まっていないとのこと。

少女が殺されたという報道に早く犯人が捕まる事を願いながら、電車から降りて学校へと向かう。

昨日の事件が影響してるのか通学路には警官の姿が多く見られた。

パトカーも巡回しているところを考えるとここも警戒区域ということになるのだろう。


「物騒だなぁ……」


犯人が捕まっていないということは次の殺人も考えられる。だからこその警戒なのだろう。

校門をくぐり、教室に行くと既に竜司が来ていて彼は自分の席でスマホの画面を睨み付けていた。


「グッモーニーン!朝から不機嫌な顔をしてどうかしたのかね?」

「……はよ」


不貞腐れたような、不機嫌な声で返してきた彼に小さくため息を吐いてから自分の席に着いた。

それから昨日の事件もあり、先生から寄り道せずに帰宅するようにと注意を受けてからいつも通りに授業を受け、放課後になると葵依は竜司に腕を引かれる形で教室から出ると、後ろから「あの二人、やっぱり付き合ってんのかな」という声が聞こえた。


「おーい、どうしたの?」


葵依が声を掛けるが竜司は答えずに歩くだけだった。
この様子では何を言っても答えてもらえないだろうな、と判断した葵依は小さく息を吐いてからされるがまま足を動かした。


*****


竜司に連れて来られたのはアジトにしている連結通路だった。
そこには既に暁と杏の姿もあり、今日は斑目のパレスに潜入するのだろうか?と思っているとこちらに気付いた暁が片手を上げてきた。


「それじゃあ集まった事だし、今後の方針でも話しておくか」


暁の鞄から顔を出したモルガナが言うと竜司は葵依の腕を離した。
強く掴まれていた腕は若干痛みを訴えてきているがほっとけば治るだろうと考え、放置する。


「とりあえず、個展が終わるまでまだ余裕はあるけど……どうする?装備を整えたりとかする?」

「パレスのこと全然わかってないじゃん。調べた方が良いんじゃない?そしたら対策も立てられると思う」

「見張りのシャドウも厄介だな。やっぱり見つからないように動いて無駄な戦闘は避けたい所だ」


前回と違い、今回のパレスは壁が多そうだ。
まず赤外線と見張りのシャドウ。斑目のパレスの警備がそれだけであればいいが、“美術館”という場所から監視カメラが設置されてる可能性も十分考えられる。


「とりあえず、パレスに潜ってみよう。パレスの警備とかルートの確保は早めにしておきたい」

「ああ。アキラの言う通りだな。お前達も戦えるようになってきてるしな」


リーダーである暁がパレスへと乗り込むことを決めたので、そのまま怪盗団はパレスへと潜入した。


「分かってるとは思うが、まずは潜入ルートの確保だ」

「その後で予告状だろ?分かってるって、気を引き締めて行こうぜ!」


スカルの言葉に頷く面々を一歩下がった所から見ていたジェスターは何も言わずに先に進む彼等の後を追い掛けた。

館内に潜入するまでは問題なく進めていたが、どうやら今回はそう簡単に進ませてくれないらしい。次の部屋へ進もうとした所で、ジェスターは赤外線のセキュリティー装置が作動している事に気付き、進もうとしていた彼等を手で制す。


「どうしたんだ?ジェスター」

「待て、ジョーカー」


不思議そうにジェスターを見ていたがモルガナも赤外線装置に気付いたらしく、慎重にその罠を観察する。


「赤外線のセキュリティーとは、こりゃ厄介だぜ。触ると敵に警戒されちまう」

「こんなん前は無かったろ!?」

「自分の悪い噂で斑目の警戒心が上がってるんだと思うよ」


先日話をしたように、どうやら班目は自分以外の全てを警戒しているようで、祐介に事情を聞きに行った時の影響かは分からないが、パレスの警戒度が前回よりも上がっていた。


「ジョーカー、見辛いだろうが、オマエならハッキリ見抜ける筈だ。慎重に頼むぜ」

「分かった」

「ワガハイ達はジョーカーの後に続くように行くぞ」


ここはジョーカーの観察眼に頼るしかない。彼の先導に続き、一同は前回止まった無限の泉の前まで歩を進めた。途中、警備員が巡回していたが、ジョーカーのおかげで遭遇することはなかった。

そして、無事に無限の泉の前まで来ることに成功した。ここまでは特に騒ぎを起こしていないので警戒されていないが、ここから先は未知の領域となる。


「ここを抜けたら、その先は初めてだよね?」

「むやみに展示物に触ったりすんじゃねーぞ?」

「……今、俺見て言わなかったか?」


現実の美術館でも当たり前であるが、ここはパレス。極力モノには触らない方がいいだろう。モナにほぼ名指しで注意されたスカルは、少し不満そうにジョーカーの顔を見た。

それから犬型の警備ロボットや警備員のシャドウと戦ったり、セーフルームで休憩を挟みながら展示室2階へと向かうと、何やらキラキラと自己主張の激しい黄金の壷が展示されていた。誰が見ても怪しいとしか思えない代物である。ジョーカー達が通り過ぎようとしたところで、モナがふと足を止めた。


「おっ、おい、ちょっと待てよ!?この金ピカ、放っとくのか?」


どうやらモナはその壺が気になったらしい。


「うーん……見ろよこの輝き……持ち出すのは大変そうだけど、売れば結構な値になるんじゃないか、これ?」


オタカラを見た時のような反応で、モルガナは壷の置いてある台へと飛び乗った。ジェスターとジョーカーが制止する間もない素早さだ。するとどこからか“カチッ”という音がし、ジェスターの口元がヒクリと動いた。


「おいおい、そんな事の為に来たんじゃ……って、オマエなんか踏んでんぞ!?」

「ヤバイやつじゃないの、それ!?」

「離れろ!!」


モナの踏んだナニカにスカルとパンサーが慌て、ジョーカーが全員に指示を出す。しかしジョーカーの指示に動けたのはジェスターだけで二人は咄嗟に壷から離れた。

それと同時に、赤外線の防犯装置が作動する。ジョーカーとジェスターはお互いに反対側に飛んで赤外線の檻に閉じ込められることを回避することが出来たが壷の台に乗っているモナは勿論、パンサーとスカルも大量に張り巡らされた赤外線の檻の中に閉じ込められてしまった。


「しまった、防犯装置だ!」

「ったく、自分で注意しといて何やってんだよ……。このまま突っ切って逃げるか?」


スカルが呆れたように溜息を吐きながらジョーカーに聞いてくるが彼はそれに対して首を横に振った。


「ダメだ、こんなに突っ切ったら大量のシャドウを呼び寄せることになる」


まだまだ序盤だ。こんな場所でシャドウと乱戦になるのは避けたい。
困ったように尻尾を垂れるモナを責めるように見ていると、ジェスターはこちらに近づいてくる複数の足音に舌を打った。


「残念なお知らせだよ。どうやら私のいる方から警備員が来てるみたい」

「嘘!?それヤバいじゃん!!」


ジェスターの言葉に咄嗟にジョーカーが自分の背後を見るが、警備員が来る様子は無く、挟み撃ちという状況にはならなそうだ。なんて考えているとジョーカー達にもバタバタと駆け足の音が聞こえてきた。


「……トラップの解除は任せた」

「ジェスター?」

「私は邪魔者(お客さん)の相手をしてくるから手早く済ませてね」


何を言っているのか理解出来ていない様子を見せるジョーカー達にジェスターはお茶目にウィンクをすると抜刀して、ジョーカー達の制止する声を無視して敵の前に躍り出た。


「こっから先には行かせないよー。まずは私と遊びましょ」

「馬鹿にしおって!!」


分かりやすく挑発すれば警備員はその体を異形のモノへと変える。
細長く白い体に黒い顔をした犬のような姿をしたとり憑く犬霊と玉葱のような頭をした唸る屍鳥と頭上に表示されたシャドウが2体現れた。

こちらに向かって攻撃しようと突撃してくる2体をヒラリと躱すと、無防備な白く長い胴体にジェスターは刀を振り下ろし、取り憑く犬霊の体を真っ二つに切断した。そのまま懐から銃を取り出すとまだこちらに背を向けたままの唸る屍鳥を2.3発撃つとソレはあっけなく床の上に落ちた。

しかし仕留め切れていないようで逃げようとしているのでジェスターは刀を振り下ろし、唸る屍鳥の頭から真っ二つに斬った。


「(大丈夫、相手は化け物(シャドウ)……。人じゃない、大丈夫、これもシゴトだ。私なら……殺れる)」


黒い靄となって消えた2体のシャドウを見ていると新たにやって来たシャドウに舌を打つと、ジェスターは仮面に手を当ててもう一人の自分の名を叫んだ。


「欺け!マルガレータ!!」


名を呼ばれ姿を現したマルガレータがネグリジェの裾を持ち上げて一礼すると警備員達に向かって禍々しい呪いの力が襲い掛かる。

カモシダのパレスで襲ってきた天の刑罰官に使った技と同じモノなのだが、今回は広範囲に攻撃出来ていた。敵の一掃が済んだことを確認してから背後から優しく抱きしめてくるマルガレータをチラリと見るが、ペルソナの表情が分かるわけもなく好きなようにさせた。

戦闘を重ねていけばペルソナも成長してくのかもしれない。

なんて思っているとマルガレータが離れて戦闘態勢に入ったのを見て、ジェスターも刀を構えた。


*****


ジェスターが来た道を戻ってすぐ、戦いが始まったのか銃声や金属がぶつかる音、時折マルガレータを呼ぶ声が聞こえてきて、赤外線の檻に囚われて動けないスカル達は焦りの表情を見せるが、ジョーカーだけは自分のすることを冷静に考え、実行に移した。

キョロリと周囲を確認してから壁際に積まれた荷物を踏み台にして南側にあるガラスの向こうの物置のような場所に入り、下を確認すると警備員が一人巡回していた。
しかし今も一人で複数のシャドウと戦っているジェスターの事を考えればここは早急に片付けた方が良いだろう。そう決断したジョーカーは警備員の背後に降り立つと、そのまま飛び掛かり仮面を剥いだ。

仮面を剥がされ、可愛らしい中華服を着た妖精へと姿を変えた警備員にジョーカーは容赦なく攻撃を仕掛ける。


「ゲンブ!ブフ!!」


シャドウの周囲の空気が急激に冷え始め、シャドウに向かって氷が襲い掛かる。
氷結属性が弱点だったらしくシャドウは床の上に頽れた。

見た目が可愛らしい少女(妖精)だが、相手はシャドウ。
ジョーカーは容赦なくシャドウに向かってもう一度ブフで攻撃するとシャドウは甲高い悲鳴を上げて黒い靄となって消えた。

赤外線とガラス越しにジョーカーの一方的な戦いを見ていた三人は軽く身震いをした。
しかし、それも一人で戦っているジェスターを助けるものなんだと分かっているので黙って脱出できる時を待つ。それがとても悔しかったスカルは自分の掌に強く拳をぶつけた。

シャドウを倒したジョーカーは周囲を見ると荷物の影から赤い光が漏れているのに気付き、近づくとスイッチがあった。

ジョーカーは罠の可能性を考えつつ、スイッチを押した。
それにより、ガラスと赤外線センサーに囲まれていたパンサーが最初に開放され、ジョーカーと合流を果たす。


「ありがと!後はスカルとモナだね!」

「ああ」


パンサーと合流したジョーカーはスカルとモナの救出を続ける為、入ってくる時と同じように荷物を踏み台にして上に登り、北側の部屋へと向かった。

上から様子を伺ってみるが警備員はいない事を確認すると部屋の中に降り立ち、サードアイを使って部屋の中を見回してみると絵画の一つが青く光っているのを見付け、近づく。

絵画を観察していると壁と隙間が出来ていた事に気付き、絵画を乱暴に取り払うと探していたスイッチがあった。


「こんな所にあったのか」

「ジョーカー、こっちにもスイッチあるよ!」

「え」


呟きながらパンサーが見付けたスイッチに目を向け、考える。
似たような場所にスイッチを付けるのは分かりやすくていいが、同じスイッチが二つもあるという事は片方がダミーという事になる。

勿論、ダミーの方を押してしまえばシャドウが出てくるだろう。
慎重に考えた方が良いだろうが、今はジェスターが一人で戦っているのであまり時間を無駄にしたくない。

それがジョーカーの本音だった。

そしてジョーカーは絵画の裏にあったスイッチを押すことにした。
こうして隠していたという事はこちらが本物の可能性が高いと判断したからだ。

緊張しながらスイッチを押すと北側のガラスが降り、壁際の幕が上がった。


「おっ、さすがだぜ!」


パンサーと同じく、赤外線センサーとガラスで身動きが取れなくなっていたスカルは、ガラスが降りた事により解放され、ジョーカーと合流した。


「ありがとよ!これで残るはモナ(馬鹿)だけだな」

「だが、赤外線そのものを切らないとモナは出られないな」


解放され晴れやかに笑うスカルだが、ジョーカーは未だに大量の赤外線に囲まれてしまっているモナを眉間に皺を寄せながら見た。パンサーは赤外線で通れない向こう側をジッと心配そうに見つめていた。

パンサーの見つめる方向には未だに戦っている音が聞こえてきて、時折ジェスターの声も聞こえる。


「制御する部屋が!何処かに!あるはずだ!近くにあるかは!分からんが……!」

「……信じて探すしかねーな。もうちょい探ってみようぜ!」


しかし、北側の部屋も南側の部屋も探し回った後でそれらしいものは見つからなかった。だとしたら怪しいのはこの部屋の手前にあった鍵の掛かった部屋しかない。

それも赤外線センサーで阻まれてしまい行く事は出来ないし、今向こうではジェスターが一人でシャドウを相手に奮闘している。


「どうする?」

「……」


訪ねるパンサーに思考を巡らせるジョーカーとスカル。
その時、ジョーカーが何かを思い出したかのように顔を上げて、何かを探す素振りを見せた。


「あった」


ジョーカーがそう言うと彼は壁際に積まれた木材の上に飛び乗り通気口の中に入って行った。スカルとパンサーは置いて行かれないように慌ててジョーカーの後を追い掛ける。

先頭をジョーカー、殿をスカルとし4人は狭い通気口の中を進む。


「お前、よくこんな道見付けるよなぁ……」

「たまたまだ」

「いや、たまたまで見付けられないって」


うねる通気口に四苦八苦しながら辿り着いたのは、先程通った開かない扉の向こうにある部屋だった。先頭にいたジョーカーが部屋の中に誰もいないことを確認すると通気口から飛び降りて立ち上がるとジェスターがシャドウを相手に戦っているのが見え、今すぐにでも加勢しに行こうと思ったが、今はモナを助けることが先だ、と自分に言い聞かせて部屋の中を物色し始めた。

すると、幾つかの端末がある中で1つだけ作動している端末があり、ジョーカーはそれに近付く。

「……コレだな。パスワード要求されてるけど」

「マジかよ……」


警備員が管理するセキュリティー装置の制御端末だ、パスワードがあっても可笑しくは無いが手がかりが何一つない。

それらしきものは此処に来るまで無かった筈だと頭を抱えるスカルだったが、考える素振りをしていたパンサーが顔を上げた。


「ジェスター!?」


パンサーの声にまさか……と嫌な予想が脳裏を過って顔を上げると連戦でボロボロになっているジェスターが窓ガラスを叩いていた。彼女の後ろではマルガレータがネグリジェの裾を翻して踊るようにシャドウ相手に戦っていた。


「何かあった?」

「実は―――」


ケロッとした様子で聞いてくるジェスターにジョーカーが赤外線の解除をしたいがパスワードが掛けられていて行き詰っている事を説明するとジェスターは少し考えてからこう言った。


「少し待ってて、そこら辺をうろついてる警備員から聞いてくるから」

「え、ちょっと!!」


パンサーが止めようと声を掛けたがジェスターはさっさと走り去ってしまい、追い掛けようとしたがジョーカーに止められた。


「どうして!?ジェスター一人に危ない事させられないよ!!」

「ここで追い掛けるのはジェスターの信頼を失う事になる。だから俺達はここで彼女が戻ってくるのを待とう。それで説教をしてやろう、もっと俺達を頼れって」

「そう、だね……うん、待つ。そんで思いっきり叱ってやるんだから!!」

「俺もハリセン用意しとくぜ」


*****


シャドウの相手をマルガレータに任せ、走り続けていたジェスターは突然ゾクリと悪寒のようなものを感じ取ったがブンブンと頭を左右に振ると何やら会話が聞こえてきて、壁際に隠れて声のする方に顔を向けると警備員の恰好をしたシャドウが2体、話をしていた。


「コソ泥がうろついてるんだってな。念の為にパスワードを変更しとけって、連絡があった」

「パスワード変えたのか。何にしたんだ?」


丁度セキュリティーの話をしていたようでジェスターの口角がニヤリと上がる。
一体どんなパスワードにしたのか、話してもらおうじゃないか。


「ヨロシク」

「は?」「(はぁ?)」


奥の警備員と同じ反応をしてしまったジェスター。
シャドウと同じ反応をしてしまったのは仕方が無いだろう。手前の警備員は随分とお気楽な頭をしているらしい。


「だから、ヨロシク!《4649》だよ。覚えやすいだろ?」

「……ちょっと安直じゃないか?」

「いいんだよ、バレなきゃ。誰に聞かれてる訳でもねェだろ?そこんとこ、ヨ・ロ・シ・ク」


会話を終え、それぞれ持ち場に戻るシャドウ達を見送り、ジェスターは顔を口の軽い警備員で助かったと思いつつ、斑目の中での警備員はあんな印象なのだろうな、とも思いつつジョーカー達のいる部屋に急いで戻った。

部屋の前に戻ると戦闘は終わっていたようでマルガレータは消えており、ガラス越しでもジョーカー達が怒っているのが分かって一瞬怯んだが、ジェスターは警備員から聞いてきた情報を指を立てて教えた。

それを見てジョーカーが端末に4649と打ち込めば、軽快な電子音が鳴った。


「うまくいったみたい!!」

「よっしゃ!!さっさとバカ猫拾いに行こうぜ!!」


警備員室を出て部屋に戻ると、ちゃんと解除されたようで、部屋一杯に張り巡らされていた赤外線は全て消え去っていて、壷の前ではジェスターに首根っこを持たれて宙づりにされているモナの姿があった。


「自分でスカルに展示物にむやみに触るなって言ってた本人が何やってんのー?」

「す、すまない……ワガハイとした事が……」


ニッコリ笑いながら嫌味っぽく叱るジェスターに申し訳なさそうにしょぼくれるモナ。


「うぅ、確かに……いくら金ピカだからってワガハイがこんなミスするなんて……。でも、なぜかこの壷に惹かれたんだ」

「まさかコレが斑目のオタカラってわけじゃないよね?」

「予告状も出してないし、違うんじゃないか?」

「だよねー」


そう言って黄金に輝く壺を見上げるモナを、パンサーは不思議そうに見遣る。
その後ろではジェスターがジョーカーとこれがオタカラだから?と言っては違うだろうと、話していた。


「何故かって、ただのキレイな壷じゃないの……?……何かあるのかな?ねえ、一応調べとく?」

「装置は切ってるし、もう触っても何も起こらねえだろ?」

「ああ」


パンサーの提案に頷いたジョーカーは、暫し壺を観察し、そして――拳で叩き割った。


「おおー、これまた豪快にいったね……」


調べるどころか割ってしまったジョーカーにもう慣れたのか小さく拍手を送るジェスターだったが、その瞬間――壷の残骸から赤黒い、まるで変色した血を連想させる色をしつつも美しく輝く巨大な宝石が出て来た。


「なにこれっ!?」


驚くパンサーを筆頭に全員が壷があった場所から飛び退き、宝石から距離を置く。

巨大な宝石はまるで生きているようにクルクルと回りながら不規則に動き、その輝きを振りまく。それを見たモナはハッと何かに気付き、表情を引き締めた。


「コイツは……!?そうかっ、コイツが居たのかっ!ジョーカー、捕まえるんだ!」

「捕まえる?」


首を傾げるジョーカーに、モナは武器を構える。


「説明は後だ、逃げられちまうぞ!!追いついて、攻撃しろ!!」


モナの言葉通り、宝石はジョーカーが武器を手にした途端部屋の中を逃げ回り始めた。


「えーっと、ゲームでいうレアキャラとかだったり!?」


突然の事で驚く暇もないとスカルとパンサーも武器を構えると、ナイフを片手に宝石を追っていたジョーカーが指示を飛ばす。


「スカル、そっちに行った!」

「お、おう!」


ジョーカーやモナに追われて自分の方へと向かってくる宝石に、スカルは鉄パイプで殴る構えを取るがそれを予測して宝石が避けようとしたが――。


「残念!」


どこか愉しそうに笑うジェスターがパンサーのマシンガンを構えて宝石に向かって撃った。すると銃弾は見事に命中し、宝石はその身を弾けさせて正体を現す。

ソレはシャドウなのだろうが、黄色い大きな目と、不定形にユラユラと揺れている身体はこれまで見て来たどのシャドウとも違く、どちらかというと宇宙人のような印象を受けた。


「ジェスター!!」

「はいはーい!!」


ジョーカーに鋭く名を呼ばれ、能天気に返事をしたジェスターはマシンガンをパンサーに返して刀を構える。


「セイッ!」


力を込めて振りかぶった刀は宝石のシャドウ、リージェントに命中するが、大したダメージにはなっていないようだ。むしろリージェントが堅くジェスターの手が軽く痺れた。


「かった〜〜〜〜い!!!」

「だったらこれでどうだ!ゾロ、ガル!」


モナがゾロで攻撃を仕掛けるも、風の魔法も大して効いていないようでリージェントは呻き声をあげているだけだった。それにリージェントの頭上のバーもあまり減っていないように見える。


「クソ!ガルも効かないか!!」


自分の攻撃が通らなかったことに悔しがっているモナをリージェントは呻きながら見下ろしているだけだった。攻撃を仕掛けてくる様子の無いシャドウに、パンサーとスカルが仮面に手を掛ける。

「キッド、ジオ!」
「カルメン、アギ!」


しかしカルメンが放った火も、キッドの落とした雷も効果はいま一つのようで頭上のバーは少ししか減っていない。


「弱点無いんじゃないの、コイツ!?」


パンサーがそう言うとジェスターが仮面に手を掛けた。


「欺け、マルガレータ!フレイ!」


その瞬間、マルガレータがアギとは違う青い炎のようなものをリージェントに向かって放つと効果があったようでリージェントはその場に倒れてきてジョーカーに話しかけてきたと思えばジョーカーの新たな仮面となった。

いきなりの事に驚いているとモナが嬉しそうに跳ねた。


「よしよし!初めて会ったにしちゃ上出来だぜ!!」

「何だったの、今の……?」


敵がジョーカーの新しい力となった事で満足げに笑うモナに、パンサーは構えを解きながら呆然と訪ねる。


「高価な物品に稀に宿る、レア物のシャドウだ。ワガハイは宝魔って呼んでる。色々美味しいんだぜ?倒せば良い経験になるし、ペルソナとしてゲットしても役立つだろう」

「……そうか」


彼等のやり取りを見ていると先ほどの騒ぎが聞こえたのか警備員の掛けてくる足音が聞こえてきたのでジョーカー達に先に進もうと声を掛けた。

途中トリックアートなどがあって、流石は美術館だなぁ、と感心したりしながら進み、第2展示室を抜けると、5人の目の前に黄金の空間が広がった。


「ジョーカー、あのキンキラの建物怪しくねえか?」


スカルの言葉に全員が立ち止り、奥にある建造物へと目を向ける。そこにはこの美術館と同じ……悪趣味な黄金に輝く建物があった。


「うわ、今まで以上に派手だね」

「明らかに、大事なモン隠してそうだな…」


大量の襖を抜けて、広い庭園のような場所へ出ると、そこには例のごとく赤外線の罠が張り巡らされていた。


「これ、例の赤外線だよね?こんなの越えらんないじゃん……」

「だが、これだけ厳重って事は、守りたいモノがこの先にあるって証拠だ」

「立て札になんか書いてある……『警備員各位。展示期間中、宝物殿への扉は、殿内の警備室のみで開閉が管理される。外からの開場は不可能となるため、各員とも注意されたし』……だって」


ジェスターが読み上げた内容によると、この先は内側からでないと開けられない仕組みになっているらしい。


「外から絶対開かねーって事かよ!?どうすんだコレ……!」


焦りと苛立ちで声を荒げるスカル。その横で、モナが何かを考えるように首を捻った。


「待て。あの奥の扉……あの柄、どっかで見たような……」

「あ、モナも?実は私もなんだよねー……?」


固く閉じられた扉には、孔雀の羽根のような柄が描かれている。これと似た柄をどこかで見た覚えがある。しかしそれがどこでだったのか思い出せない。記憶を遡ってみるとジェスターとモナが揃って声を挙げた。


「ああ!!思い出した!!あの襖だよ!!」

「そうだ!あそこのフスマと同じだ、間違いない!オマエら、いったん引き上げだ!」

「はっ?なんでだよ!」

「あれが現実の何処の扉の認知か、見当がついた。『別のやり方』で、こじ開けられるかもしれない!説明は後だ、とにかく戻るぞ!」


モナは早口で説明すると、扉へ背を向ける。走り出す猫を追いかけ、怪盗団はいったん現実世界へと帰還した。

しかし、ジェスターは自分の考えが正しいとなると今回は“違法”行為をしないといけなくなるなぁ、と少し憂鬱な気分になった。


「……とりあえず、作戦を立てないとだよねぇ」


ド派手な扉を見てからジェスターも先に行ってしまった彼等の後を追い掛けたのだった。


201812092100