Jester and the Detectives.

     

パレスから帰還した暁達は、あばら屋前の歩道に戻ってきたが、斑目や祐介に見付かるわけにはいかないので、あばら屋を目視出来て姿を隠すことが出来る場所まで移動した。


「ねえモルガナ、帰ってきたのはいいけれど、これからどうするの?」


杏の質問にモルガナはニヤリと笑い、遠くに見えるボロい建物に目を向けた。


「怪しい場所に心当たりがある」

「え?」

「と言っても、現実(こっち)の方にな。忘れたか?あの美術館はあのあばら屋なんだぜ?実は、前に来た時に偵察してある」


そう言うモルガナに、葵依以外が首を傾げた。彼が何を言いたいのか、パレスが未知の世界というのもあり、理解が追いつかないのだろう。


「杏ちゃんが絵のモデルとしてあの家にお邪魔した時に2階の一番奥に、あばら屋には似つかわしくない派手な柄の襖に南京錠で入れないようにされた部屋があったんだよ」


電柱に寄り掛かりながらあばら屋を見つつ、先日杏がモデルを引き受けるという口実でアトリエにお邪魔した時の事を話した。絵を描く事に熱中している祐介の隙をついてモルガナと一緒にあばら屋の隅まで見て回った事を。そして2階の奥に南京錠で封鎖された扉の柄と、パレスで行く手を塞いだ扉の柄が一致していたことも話す。

モルガナと葵依のしていた事にそういや家の構造を〜とか言ってたな、と思い出して彼女の行動に引きつつ、竜司が言う。


「いや……けど、俺たちがこじ開けてえのは、ここじゃなくてパレスの扉だぜ?」

「だから、扉をマダラメ本人の目の前で開けんのさ。“扉は開けられない”っていう班目の認知を変える必要がある」

「つまり……あばら屋にあるその扉を開ければ、パレスの方も勝手に開く……ってことか?」


暁の質問にモルガナは頷いた。
メメントスの説明にもあったが、現実世界での認知が変われば変化が生じる。それはメメントスだけに限る話ではなく、認知世界であるパレスも同じだった。大きい南京錠で厳重に閉ざされている扉は、“絶対に開けられない”という班目本人の認知により、パレスでも開けられなくなっている。であるならば、それを現実世界で開けて見せることで彼の認知を変え、パレスの方も開けてしまおうというのがモルガナと葵依が同時に考えた作戦だった。


「なんか、ピンと来ねえな……。ホントに出来んのかよ」

「ワガハイを信じろ、必ず開く!…………はず!」

「けど、やるにしても現実(こっち)の方にも“ゴツい錠”があるんでしょ?」


杏がそう言うと、モルガナが待ってましたと言うように再びニヤリと笑いながらゆらりと尻尾を揺らせた。


「ワガハイにかかればヘアピン1本で楽勝さ。でも多少は時間がかかる。流石にこじ開ける所から全部マダラメの前でこなすのは無理だ。だから、ほんのちょっとの間でいい、目を逸らしといてくれる人がいたら助かるんだがなぁ……」


猫の目で杏の方を見上げ、モルガナは甘えるようにゴロゴロと自身の喉を鳴らした。それを見てモルガナの言いたいことを察した竜司がポンと手を叩く。


「あー、つーか、部屋に入んのもどうやるかなー。無理に入ったら今度こそ通報だし……」

「……なに?」


何か言いたげな竜司を杏が睨む。その視線を受けて、彼はニッと笑った。


「やっぱ、ヌードしかなくね?」

「はあ!?」

「奇遇だぜ、リュージ。同じこと考えてた」

「アンタ達ふざけてんの!?」


そんな三人のやりとりを眺めながら、暁は苦笑するしかなかった。しかし、杏に頼るしか方法が無いのも事実。もしも祐介がモデルに葵依を指名していれば葵依は躊躇無く彼にハニトラなり、薬を使うなりしていたが、彼が要求しているモデルは葵依ではなく“杏”だ。

二人の言っている事に憤慨する様子を見せる杏に竜司が宥めるように言う。


「別にマジで脱げとは言ってねえよ」

「マダラメの家に怪しまれずに入るには、それが一番の口実だ。アン殿に、一芝居打ってもらいたい」

「急に言われても……。それに、鍵の掛かってる場所、知らないよ?」


杏が不安げに眉を下げながら言えば、モルガナが自分も同行すると言うが、彼女の表情は晴れない。


「それ実質、私1人じゃん……。それに、最悪バレた時どうするのよ?」

「パレスに逃げ込む!……とか?」

「それ解決になってないよね!?てか、自信無さげに言わないでくれる!」


完全に怒り心頭と言った杏に葵依は杏の様子と鍵を開けるのがモルガナという事に不安を覚え、逡巡してから仕方ないか……と諦めながら溜息を吐いて提案する。


「……私も同行する。そんで例の扉の鍵開け、私がやる。悪いけど正直、モルガナの“猫”の手で鍵を開けることが出来るって素直に信じられない」

「ワガハイの実力を疑うのか!?」

「疑う云々よりも、その可愛らしい“猫”の手でどうやってヘアピンを持つっていうの」


憤慨した様子を見せるモルガナに冷たい目で応えながら猫を強調する葵依。
いつもと違う、いや初めて見る葵依の様子に彼女を知る竜司と杏は戸惑い、暁は首を傾げる。


「葵依は鍵開けも出来るのか?」

「……テレビで開けられない金庫を開けるって企画の番組見ててカッコイイなぁって思ってやってた時があるから今日復習しながらやり方を思い出す」


暁の質問に気まずそうにそっぽを向きながら答える葵依。しかも鍵開けの習得理由も彼女らしくてモルガナ以外から笑みが零れてしまう。

何やらバカにするような、微笑ましいものを見るような目で見られてる葵依はん゛んっ、と咳払いをすると暁が明日の事をまとめる。


「決行は明日、学校が終わってすぐでいいか?」


暁の言葉に全員が異議なしと頷いて答えると葵依が口を開く。


「それじゃあ、家の中に入ったら私はトイレとか言って離れて鍵開けに移る。その間、杏ちゃんは祐介君の相手をしていて欲しい。やり方はそっちに任せるから」

「う、うん……分かった」


不安と緊張を顔に張り付けながら頷く杏に大丈夫だろうか、と心配しているとモルガナが暁の肩に両前足を置いてジッと葵依に訪ねる。その顔は不機嫌だった。


「……ワガハイはどうする?」

「私の鞄の中で待機。扉の前に着いたら出してあげるからそれまでは黙ってて」

「……分かった」


不満気にしながらも返事をしてくるモルガナに暁は苦笑する。

それから女子二人はあばら屋で祐介の相手をしつつ二階の扉の鍵を開け、男子二人はパレスで待機し、扉が開き次第中に潜入しセキュリティを解除することになった。

失敗すればパレス攻略が極めて難しくなる任務だ。明日、女子と男子の2つに分かれて作戦を実行することになった。


*****


「本当に来てくれるなんて……。連絡をくれた時は嘘だと思ったよ」


予定通り、学校の帰りに杏と葵依は班目のあばら屋へやって来ていた。モルガナは葵依の鞄の中に潜り込んでいる。
自分の鞄に生き物が入っていることに違和を感じながらチラリと隣にいる杏に視線を向ければ、杏はこれから作戦を実行するという緊張からか若干引き攣っていた笑みを浮かべていた。
靴の向きを変えるようにしながら履いてきた靴を回収し、ビニールに入れて鞄に入れた。
中からモルガナの文句が聞こえたが無視する。


「ごめんね、急で」

「とんでもない。ただ、昨日伝えた通り、今日は先生がもう2〜30分もすると戻られる。その……気を遣わせてしまうかもしれない」

「……喜多川君、ちょっとトイレ借りてもいいかな?」


室内に案内されてから葵依が祐介に聞けば彼はすんなりとトイレの場所を教えてくれた。

それに対して礼を言うと彼は返事をしながら画材の用意をするのに忙しいようでこちらに見向きもしなかった。こちらに目が向けられていないことに笑みを浮かべながら堂々とスカートのポケットから革製の黒い手袋を取り出して着用する。杏がそれを見て不安そうに顔を歪めて見てくるが、葵依は彼女に向かって頑張って、と口パクで言ってから退室した。


「……アン殿を一人にして大丈夫だったのか?」

「これはパレス攻略に必要な作戦なんでしょ?それに杏ちゃんが一人で喜多川君の相手をするのは最初から決めてたことだよ」


そう言って自分を見下ろしてくる葵依の目を見たモルガナは小さく息を呑む。
彼女の目は一切の感情と言うものが取り払われており、まるで無機質なガラスを見ているような感覚を覚えた。
モルガナの全身の毛がブワリと膨れ上がったが、葵依はそれを気にせずにモルガナを床に下ろす。


「それじゃあ当初の予定通り、私が鍵開けをするからモルガナは見張りをしながら待機ね」

「でも……」

「大丈夫、南京錠“だったら”簡単に開けられると思うから」


そう言って葵依は廊下を進んだ。足音を立てないように歩き、目当ての部屋の前に立って改めて扉を見るとそこには厳重に南京錠が掛けられていた。

パレスで見たものと全く同じ代物になるほど、と一回頷くと鞄を下ろして小銭入れから針金を二本取り出し解錠していく。モルガナが本当に大丈夫なのか?と疑いの眼差しでチラチラと葵依の動きを見ていたが、葵依は南京錠をあっさりと開錠してしまい、モルガナはポカンとしてしまう。
そして葵依はドアノブに触れずにドアに元々付けられている鍵穴をペンライトで照らしながら覗き込むように顔を近づけて確認をし始めた。


「ドアの鍵まで閉めてんのかよ……」

「二重に掛けているってことはそれだけ人には見られたくないものがあるんだよ」


そう言いながら確認すると一般的に使われているディスクシリンダー錠ということが分かり、葵依は先程使った針金を小銭入れに仕舞った。


「(これだったら苦労することなく簡単に開けられるな)」


そう判断した葵依は上着の内ポケットからピッキングツールのセットを取り出して、その中からレールピックを抜き取って鍵穴に差し込んだ。

カチカチと手慣れた動きでピッキングをしていく葵依の姿を見ながらモルガナは表情を険しくさせ、考えた。

どうしてこんなに手慣れているんだ?と。

いくらテレビの影響で習得したと言っても、ピッキングなんて普通の高校生が軽い気持ちで習得出来る技術なんかじゃないことを知っているモルガナは葵依を猜疑的に見てしまう。


「……見張りを疎かにしないでほしいんだけどなぁ」

「っすまねえ」


こちらを見ないまま困ったように注意する葵依にモルガナはサッと階段下を警戒しながら見ていればすぐにカチャリと鍵が開く音が聞こえ、次に扉を開く音が聞こえた。
モルガナが振り返ると葵依は立ち上がって扉を大きく開けて中を見ているが、中が暗くあまり見えない。壁のスイッチを入れて明かりを点けるとそこには、昔に盗まれたと言われている【サユリ】の絵が大量に置かれていた。


「へえ、ここって絵の保管室なんだ」


感心したように言っていると扉が開いたことを知らせる為、急いで杏の元へと駆けていくモルガナをチラリと見送ってから葵依は証拠としてスマホで部屋の中の写真を数枚撮り、すぐにメールで自宅のパソコンに写真を転送してからスマホの中の写真を削除すると同時に階下から杏と祐介の声が近づいてきた。


「もぉ早くぅ〜。折角その気になってきたのに〜」

「待ってくれ!勝手な事をされると、先生に……」


こちらに近づいてくる声を聞きながら葵依は杏にハニトラは向かないなと苦笑して、保管室の明かりを消し、扉を半開きにしたまま出た。

こちらにやって来る二人と鉢合わせ無いように葵依は廊下にある一つの窓に近付いて素早く鍵を開け、外に誰もいないことを確認してから鞄から履いてきた自分の靴を入れたビニール袋を取り出して靴を出すと、窓淵に腰掛けながら靴を履いて数十センチしかない笠木の上に立ち、そっと窓を閉めてその場から飛び降りる。

笠木から地面までの距離はそこまでなかったので足への負担はあまり無かったが丁度玄関の扉が閉まるところで、斑目が帰宅してきたのだと察し、冷や汗が出る。あと少しでもタイミングが速かったら危なかったと思いながら安堵の息を吐き出す。警察沙汰になっても葵依の指紋は出ないように手袋をしていたが、もしもそうなったら家の中にいる杏は牢屋行きだな、とどこか冷めた考えもしていた。


「帰ったぞ」


斑目の声を聞きながら葵依はあばら屋の前にあるガードレールに近寄りながらスマホを取り出し、いつでもパレスに入れるようにスタンバイする。あとは杏とモルガナがあばら屋から脱出してくるのを待つだけだ。


「お前達、そこで何をしている!?」


あばら屋から大きな班目の怒声が聞こえてきた。
誰にも開けられないと確信していた扉が開かれた……という斑目の認知は変わったと判断していいだろう。あとはパレスで待機している二人が上手く動いてくれることを願いながら合流するだけだ。

そして自分達の次の行動は、この場から逃げ出すこと。

バタバタと聞こえてくる足音を聞きながらナビを起動する。なんとしても、ここから逃げなければならない。彼等の為にも、自分の為にも……。


「待ってくれ……!」


そう言って杏を追って飛び出してきた祐介と共に、二人の女子高生と猫はあばら屋から姿を消した。―――子供が紛れ込んでいるとは気付かないまま。


*****


現実世界から認知世界に入り込んだジェスターは風圧を受けながら手足を広げて腹這いの姿勢を取りながら目下に見える悪趣味な美術館を見ていた。


「まさかの紐無しバンジーをすることになるなんて……」


と現実逃避をしていると自分の上から子供の慌てた声が聞こえ、まさか……と思いながらそっちに顔を向ければコナンがいた。

彼はジェスターと同じ姿勢を取っているがパラシュートも何も着けていない彼がこのままでいると死んでしまうのは明白。


「チッ」


小さく舌打ちをしたジェスターは近づいてくるコナンの身体を掴もうと手を伸ばすが上手くいかない。

そのことに苛立ちながらもジェスターはコナンの手首を掴んで抱きかかえると仮面に手を掛けて叫んだ。


「受け止めて、マルガレータ!!」


その瞬間、マルガレータが現れ両腕を広げると落ちてくる二人を抱き止めた。フワリと柔らかい感触にホッとしながら地面に降りたジェスターは自分がいる場所を確認しながらコナンを抱え直すとマルガレータは姿を消した。

どうやら二人は侵入する際に通った噴水の見える脇道に降りたようだった。周囲にパンサーやモナの姿が無い事から二人は別の場所に落ちたか、パレスに入ったのだろう。


「ねえ、降ろしてよ」

「……勝手な行動はしないようにね」


そう言ってジェスターは抱えていたコナンを下ろすが彼はすぐにジェスターから距離を取って着けている腕時計に手を掛けている。


「葵依姉ちゃん、なんだよね?」

「ここでの私はジェスターだよ。小さな探偵さん」

「さっきは二階の窓から飛び降りる所を見たし、さっきと違う恰好もしてる……葵依姉ちゃん、もしかして泥棒なの?」


険しい顔で訊ねてくるコナンにジェスターは見られていたか、と内心自分の不手際に舌打ちをするがそれを表情には出さずに黙ってコナンを見下ろす。


「一つだけ訂正。私は泥棒じゃないよ」

「じゃあ、何だって言うの?人の家に無断で入るのは悪い事なんだよ?」

「必要悪ってやつだよ」


そう答えればコナンはグッと眉間に皺を作ってジェスターを睨み付ける。


「(しかし、面倒な事になったな。ジョーカー達ともはぐれたし……このままここに留まる訳にも……)ッ!」


突然襲ってきた殺気にジェスターはコナンを抱き上げて、銃を取り出すと自分達をジッと見てくる警備員が一人立っていた。言わずともシャドウだ。


「侵入者、発見……」

「あ、警備員さん!!」


コナンがシャドウに向かって助けを求めるが、シャドウはキラリと目を赤く光らせるとその体を変えた。

目の前で変容していく警備員の姿にコナンの目が大きく見開かれていく。


「あれは、人間じゃないよ」

「は?何言ってんだ!!そもそもここは何なんだよ!!」

「話は目の前の化け物を退治してからね。危ないから下がってて」


そう言ってコナンを下ろして守るように立つと腰の刀を抜刀し、目の前のシャドウを睨み付けた。

現れたのは猿のような頭部に四足獣の胴体をした大柄のシャドウだった。頭上には夜泣きする合成獣と明記され、大きなバーがあった。


「たった一匹といえど容赦せんわっ!!」


威嚇するように両腕を上げて地面を強く叩くシャドウに一人でコレの相手をするのは骨が折れそうだと思いながらジェスターは先手必勝とばかりに地面を蹴り、シャドウに近づき剣を振るう。

しかしダメージはあまり通っていないようでシャドウは腕を振ってジェスターを吹き飛ばす。その際にバキンと刀が折れた音が大きく響いた。

咄嗟に両手で刀を持って攻撃を防御し、後ろに跳んだが力が強いらしく両腕がビリビリと痺れている。刀を見れば刀身が見事に折れていた。


「こんの、馬鹿力……ッ!?」

「あぶねぇっ!!」


悪態を吐いているとシャドウが瞬時に片足を頭上に上げると同時に、脳天を狙って振り下ろしてきた。

コナンの声で咄嗟に横に転がって回避することが出来たが、シャドウの足が振り下ろされた箇所を見ると、陥没していた。

あれをまともに受けていたら死んでいたと思いジェスターの顔は引き攣ったが、すぐに仮面に手を掛けてマルガレータを呼び出す。


「マルガレータ!スラッシュ!!」


ジェスターの声に応えるようにマルガレータが胸元からナイフを取り出すとシャドウに向かって投擲していく。

多くのナイフがシャドウの体を切って刺していくのを見ながらジェスターは折れた刀を構えてシャドウに向かって走る。

後ろからコナンの制止する声がするがジェスターはそれを無視してマルガレータが負わせた胸の傷に折れた刀を深々と突き刺した。

断末魔のような悲鳴を上げて霧散したシャドウにコナンは何も言えないままジッとジェスターの背中を見つめ。宙に浮いているマルガレータを見た。

視線に気付いたマルガレータは小首を傾げてから姿を消し、ジェスターは折れた刀を見て少し考えてから鞘に戻した。


「さて、これからどうし……ん?」


自分の顎に指を掛けていたジェスターが何かに気付いたようにそっちに顔を向けるとコナンも複数の足音が近づいてくるのが分かり、ジェスターと同じ方向に顔を向けた。

するとジョーカー達が慌てた様子でこちらに向かってくる。それを見てジェスターはすぐに察した。


「(美術館内でなんかトラブって逃げてる最中だな……)」


そう察したジェスターは呆然としてるコナンを抱き上げるとパレスの出口に向かって走りだす。


「ちょっと!?」

「今は逃げるの。話なら後でするから!それに口閉じてないと舌噛むよ!」


そう言えばコナンは口を閉ざし、ムスッとした顔をしてジェスターにしがみつく。

先の戦闘でジェスターももう一戦出来るほどの余裕は無く、コナンを抱えて走るのが限界だった。怪盗団は美術館から逃げ出し、その敷地を駆け抜けた先で、ぐにゃりと世界が歪んだ。現実世界への帰還だ。


*****


「……なるほど。それで、その体育教師は心が入れ替わったと……。心を盗む怪盗……実在したとはな」


パレスから帰還した6人と1匹は、アジトの一つにしている喫茶店に来ていた。これまでの経緯を祐介とコナンに説明すると、二人はそれを疑うことなく、あっさりと受け入れてくれた。葵依も杏から祐介がパレスで話したことを聞いた。


「信じられないかもしれないが、今目の前にいる俺達がそうなんだ」

「ああ、信じるしか無い。あんな世界を見た後じゃな……」

「僕も目の前でシャドウっていう化け物に襲われたし、葵依姉ちゃんに助けてもらったからね」


オレンジジュースを飲んでからそう言うコナンは自分の隣に座っている葵依を見た。

その視線を厳しいものがあり、葵依はまだ疑われてるのかと辟易した。


「それでお前たちは斑目先生……いや、斑目を改心させるつもりってことか」


暁が頷いたのを確認し、祐介は一つ息を吐き出した。深い海に似たその瞳が決意を示す。


「……俺も加えてくれ、怪盗団に」


祐介の申し出に全員が驚き、互いに顔を見合わせてから彼を見る。


「もっと早く現実を見ていれば、こうはならなかったのかもしれない。画家としての未来を奪われた多くの門下生のために、俺が終わらせなければ」


使命感のような、責任感のようなものを感じているらしい祐介は強く握りしめた自分の手を見つめてからメンバーの方、リーダーである暁へと顔を向けた。


「それが……曲がりなりにも親だった男への、せめてもの礼儀だ」

「礼儀、か……」

「いいんじゃねえの。どうせ斑目やんだしよ」

「失敗すると、廃人になるかもだぜ?防ぐ方法は分かっているが、絶対はない……来がけに話したよな?」


モルガナの言葉に、祐介は小さく頷いた。
その表情に動揺の色は無かった。


「班目は美術界を牛耳る存在だ。あらゆる団体とコネクションを持っている。俺如きが声を上げたって、揉み消されるだけだ。……やるしかない」


彼の意志を聞き、他のメンバーは顔を見合わせた。葵依は彼の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。彼等は発言を揉み消されると思っているのだろうが、“あの”組織が関わっているとなると存在そのものを消される可能性がある。

杏から聞いた祐介の話で全身黒づくめの妙な男達が頻繁に出入りしていたと聞き、あの組織と斑目に繋がりがあるという情報に葵依は一人、冷や汗を流した。

そのまま祐介の加入は決まったらしく歓迎ムードとなっていたが葵依は素直に喜ぶことは出来なかった。

既に冷めてしまった珈琲を煽るが、美味しいと感じることが出来ず、顔を顰めた。

怪盗としての活動二回目で随分と厄介な奴を引き当てたもんだ、と思いながら店員に追加でカフェオレを注文した。


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