探偵王子と一緒に推理



秀尽高校前まで戻ってくると杏と竜司は校舎を探すと行ってしまった。その場に残された暁と葵依、モルガナの三人は互いに顔を合わせて頷いた。


「俺は校門付近を見てみる」

「じゃあ私は路地とかだね」

「じゃあ、気を付けて」

「そっちもね!」


軽く話して別れると葵依は早速近道として使われる路地に入った。

入り組んで薄暗いそこは人を恐喝するのには打ってつけの場所になっていて葵依は足音を立てないように歩きながら耳に神経を集中させれば話声が聞こえてきて、そっちに足を進めた。


「――盗難現場の動画集、外に流されたいワケ?」


盗難現場とは穏やかではない会話に葵依はコッソリと声のする場所を覗き見る。

そこにいたのは秀尽の制服を着た二人の男子だった。
1人は高梨大輔で間違いないだろう。
であるならば、今スマホを片手に持っている生徒が黒幕なのだろう。

そう判断した葵依はスマホでそのやり取りを動画で撮影し始める。


「……それでもいいっす!だから、もうカツアゲは勘弁してください!」


そう言って頭を下げる高梨に黒幕の男子ははあ?と声を出す。


「お前が勝手にやってんだろ?いいの?先生にチクっちゃうよ、高梨クン?これ以上言い掛かりつけたら、お前のヤバいデータ、流出しちゃうかもよー?」


相手を馬鹿にしたような、嘗めたような声でそう言う男子に高梨の体が震える。

怖いのだろう。
彼のシャドウも消える間際まで怖いとか言っていた気がするし……。

そう思いつつも葵依は撮影を止めない。
黒幕と思われる男子が後ろを向いているせいで顔が分からないし、名前もまだ分からないからだ。


「佳守(よしもり)コレクションが火ィ噴いちゃうよー?」

「なっ、テメエが指示した事じゃねえか……!ふざけんなよ……!!」


そこまで撮って葵依はスマホを切るとすぐにその場から離れ、スマホに保存してある『秀尽学園生徒名簿』というタイトルのファイルを開く。

その中から佳守という名の生徒を探すが生徒の数が多いので、検索を掛けてみると一件ヒットした。

その生徒の名前は左右田(そうだ)佳守。
学年は葵依の1つ上の3年だった。


「……受験とかのストレスでこうなったのかな」


そうぼやきながら葵依はチャットに黒幕の名前、判明せり!!と打ち込んだ。

すると返事はすぐに返ってきて、アジトに集まることになった。

チャットを閉じてメールを開くが、相変わらず彼からのメールは無かった。


「……」


今まで彼からの連絡が途絶えたことなんて一度も無かったのに……なんて考えながら歩いていたのがいけなかったのか、前方から歩いてきた人に腕を掴まれるというへまをしてしまった。


「っ!?」

「ちょっと聞きたいことあるんだけど、いいよな?」


そう言ってサングラスの下から鋭い目で見てくる松田に葵依は反射的に頷いた。


*****


葵依以外のメンバーがアジトにしている連絡通路に集まったが葵依だけが一向に戻ってこない。

何かあったのだろうか?と暁が心配しながら顎に指を当てていると葵依からメールが届いた。

――――――

件名:ゴメン

今、知り合いに掴まってそっちに行けなくなったからメメントスには私抜きで行ってほしい。
それと黒幕が高梨を脅してる現場を撮影しておいたからそれも送るね

――――――


内容を読んでからメールに添付されてる動画を再生させると、俺は自然と眉間に皺を作っていた。
暁の顔が険しくなったことに気付いた竜司達に暁は葵依から送られてきたメールと動画を見せた。

動画を見終わったメンバー達がそれぞれ怒りの表情を浮かべながらメメントスに行こう!と言ってきたので暁は頷いて葵依抜きでメメントスに向かった。

メメントスの入口に立っていた。
今回の目的はイジメの黒幕となっている左右田のシャドウを探しだし、改心させることと祐介の実力を測ることだった。

そしてメメントスに入る前に祐介のコードネームを決め、メメントスに入ったがジョーカー達は運転手がいないことに気が付いた。


「そう言えば、今までってジェスターが運転してたよね?」

「他に運転出来る奴っていなくね?」


パンサーとスカルが引き攣った顔をしながらジョーカーとフォックスに目を向ける。
フォックスは首を傾げて運転……?と言っており、ジョーカーは少し思案してから運転席に座った。


「ジョーカー、運転出来るのか?」

「一応今まで彼女の隣で見てたから見様見真似、としか言えないけどやってみる」


後部座席に座ったフォックスの質問に答えながらジョーカーはジェスターのしていた事を思い出しながらハンドルを握った。

初めての運転という事に後ろに座っているメンバーから心配と言いたげな視線を貰うが、ジョーカーはそれを無視してアクセルを踏んだ。


*****


ジョーカー達がメメントスに挑戦している間、葵依は松田に腕を引かれて彼の車の助手席に座らされていた。
隣で運転している松田は無言でどこか苛立っている様子もなく、静かだった。

会話の無い車内で葵依はもしかして昨日現場付近にいたのを見られていたのだろうか?と不安に思うが表情には出さない。

しかし松田は何も言わずに運転しているだけ。
無言のまま車を走らせていたが、その車が停まり、松田が車から降りたので葵依はキョロリと周囲に目を向け、近くにある看板を見てあれ?と首を傾げた。

すると助手席側の扉が開き、降りるように促されたので素直に従う。


「えっと、まっさん?」

「なんだ?」

「聞きたい事があるって言ってなかった?」

「話はあの店で訊く。……それとも車の中が良かったか?」


ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる松田にゾクリと嫌な予感がした葵依はあのお店がいいな!!と即答した。

葵依の即答に喉を鳴らしながら笑う松田は店の扉を開け、葵依は店の看板に目を向けるとそこには純喫茶ルブラン、と書かれていた。

店内にはマスターである佐倉惣治郎しかおらず、客は自分達という事に松田は丁度いい、と呟き奥のテーブル席に座った。

葵依はチラリと惣治郎を見てから松田に対面するように座ってメニューに手を伸ばす。


「ここの珈琲とカレーはおすすめだ。奢るから好きなの頼んでいいぜ」

「さすがまっさん、太っ腹」

「だからまっさん言うなっての」


短くやり取りをしてから葵依がカフェラテ、松田が珈琲を注文すると惣治郎はあいよ、と気怠そうな返事をしながら準備を始めた。

店内に珈琲豆を挽く匂いが広がり、店内の雰囲気と合っていてなんだか推理小説に出てくる店に来たような気分になった。そんな葵依に松田はサングラスを外して言った。


「じゃあ、早速訊くが……お前今日の午前0時29分、渋谷にいたか?」


その質問に葵依はキョトンとした顔をしたが内心では舌打ちをする。
やはりあの時現場で見つかっていたのだろう。

そう思いながら首を傾げて首を横に振った。


「まっさん。流石にその時間には寝てるってば」

「……だよな」

「その時間に渋谷でなんかあったの?」


本当は殺人事件があったことを知っているが敢えて知らないふりをしながら訊いてみると松田は少し考えてからその時間に事件があって、たまたま葵依と似た人影が離れていくのを見掛けた、と教えてくれた。


「私の身長って平均的ってよく言われるから似た体格の別人じゃないの?」

「だろうな。まあ、お前じゃないってことが分かってよかった。ここ最近はやたらと物騒だからな」

「米花町は平成のヨハネスブルクだもんねー」


そう言うと松田は仕事が多すぎていつか過労でぶっ倒れそうだな、と笑いながら言っていると注文した飲み物が運ばれてきた。


「まあ、お前も学校が終わったら寄り道しないでちゃんと帰れよ」

「えー、友達と遊んだりとかしたいんですけど」

「とりあえず、米花町じゃあ高校生、しかも女子を狙った殺人が連続で起こってるから気を付けろって言ってんだよ」


ニュースとかで報道されてんだろ、と言いながら珈琲を飲む松田に葵依は最近見るニュースを思い出す。

女子高生が二人殺された事件。
この前、渋谷駅で聞いた公園で女子高生が殺されていた事件のことか、と思った。


「……松田さんがそう言うってことは結構危ないんだね。分かった気を付けるよ」

「そうしてくれ。見知った奴の死体なんて見たくねえからよ」

「うん。それでその事件ってさっき私がいたか聞いてきた渋谷の事件と関連してる?」


葵依がカフェラテに口を付けて訊ねると松田は首を横に振った。


「渋谷の事件と女子高生が殺されてる事件は別件だ。ったく、今年になってから事件の発生率が上がってこっちは休む暇もない」

「まっさんの目の下の隈がそれを物語ってるよ……」


どこかのトリプルフェイスみたいだ、と思いながら自分の目の下を指差して笑うと松田は誤魔化すようにそっぽを向いて珈琲を飲む。

それを見てからチロリと店主に目を向けるが、彼はこちらに興味などないらしく新聞を広げて読んでいた。

そして、葵依はカフェラテを飲むようにしながら正面に座る松田に目を向けると彼はため息を吐いた。


「まっさん、ため息吐くと幸せが逃げちゃうよ?」

「ばぁか、幸せが逃げてるからため息吐いてんだよ」

「そっか……」

「とりあえず、それ飲んだら家まで送ってく」

「え、いいよ。仕事忙しいんでしょ?」

「多少の寄り道くらい良いんだよ。それに遅い時間に未成年を放っておくなんて警官として出来ないからな」


そう言われてしまっては何も言えなくなる葵依は小さい声でよろしくお願いします、と答えるしか出来なくて、松田は満足そうに笑んだのだった。


*****


メメントスで左右田のシャドウの改心が無事に終わらせることが出来た怪盗団がそのまま帰還しようと入口まで戻ってきたが、モナがジョーカーと話がしたいと言って二人だけにしてもらい、他のメンバーは休憩していた。


「話ってなんだ」

「ジェスターのことでちょっとな」


真剣な表情で言うモナにジョーカーは首を軽く傾げつつ話の続きを促す。
そして話を聞いていくとモナはジェスターが裏切り者なのではないか、と思っている事が分かった。

確かにメメントス内だけとはいえ、車の運転が出来る事と斑目の家の閉ざされたドアのピッキングを成したこと、それにカモシダのパレスでの閃光弾などから彼女が普通とは違うことをジョーカーはなんとなく察していた。

しかし、ジョーカーはそこまで親しくないのに、自分が犯人にされそうだった所を助けてくれたジェスターの姿を思い出し、モナを説得する。


「誰にだって言えない事の一つや二つくらいある。それに彼女は俺達と同じ怪盗団の仲間だろ」

「ジョーカー。ワガハイは前にも言ったはずだぜ?この世界には裏切りが付き物だって」

「それでも俺は怪盗団のリーダーだ。仲間を信じないなんてリーダー失格だろ?」

「確かにそうだけど……、だけどワガハイはジェスターの事を警戒した方がいいと思う」


頑なにジェスターに警戒しろと言ってくるモナにジョーカーはどうしたものか、と頭を悩ませる。
仲間として、怪盗の先輩としてモナの忠告は聞いた方がいいというのは今までの経験から分かるが、それでもジェスターを疑うようなこともしたくなかった。

モナの忠告を素直に聞けばジェスターとの関係が終わってしまいそうな気がする。
だからと言ってモナの忠告を無視することも憚られる。


「A secret makes a woman woman.」


どうしたものか、と頭を悩ませているといきなり後ろからパンサーが険しい顔をして二人のことを見ていた。


「女は秘密を着飾って美しくなる……仲良くしてる女優さんが良く言ってる言葉だよ」


パンサーはそう言うと視線をモナに合わせるようにしゃがんだ。
どこか責めるような視線を正面から受けたモナは気まずそうに視線を彷徨わせたが、すぐにパンサーの目を見返した。


「それにジェスターは私と志帆の親友なの。あの子は確かに変な知識ばっかり豊富だけど、私達を裏切るような子じゃない」

「しかし……」

「私達の親友を悪く言わないで」


きっぱりと言ったパンサーにモナは尻尾をダラリとさせながら俯いた。
それを見ているとスカルが近づいてきた。


「アイツが変でイタイってのは前からだから警戒とかするだけ無駄だぜ?」


そう言われたモナはため息を吐くと渋々と言った様子で分かった、と答えた。
モナの答えに安心したパンサーが良かった、と言って立ち上がる。

それにしてもどうしてモナはジェスターに対してこうも猜疑的なのだろうか?

顎に指を掛けながら考えるジョーカーはジッとモナを見つめる。


「それよりよ、メメントスの探索は終わりか?」

「ああ、フォックスの実力もある程度分かったから次回からパレスの攻略に戻るつもりだから、今日は戻って明日に備えよう」


ジョーカーの言葉にパンサーが両手を合わせてゴメンと言ってきた。


「ゴメン。明日もバイトが入ってて行けそうにないんだ」

「そうか……。なら、パンサー抜きで行ってくる」

「うん。フォックスも入ったから大丈夫だと思うけど気を付けてね」


メメントスから現実世界に帰還して暁はすぐに葵依に明日の事をメールで送った。

しかし、葵依からの返ってきたメールのタイトルはまたしてもゴメン、だった。

どうやら明日は友達と前から約束があって行けないという事だった。


*****


明日パレスの攻略に向かうというメールにゴメンとタイトルを付けて志帆との約束を優先して行けない事を伝えた葵依はスマホを仕舞ってカフェラテを飲み切った。


「それじゃあ、行くか……ん?」


松田がそう言って立ち上がろうとした時、喫茶店に客がやって来た。

その客の顔を見て、松田がアイツは…と小声で言ったのを聞いた葵依は彼の見る方に顔を向けるとそこにはここ最近テレビで見かけるようになった明智が立っていた。彼を見て葵依はゲッと言いたくなる。


「あれ?松田刑事?」

「お前、明智の……」

「はい。お久しぶりです」


そう言って惣治郎に珈琲を頼みながら近寄ってきた彼はニコリと笑った。


「隣、良いですか?」

「あ?……構わねえけど」

「それじゃあ失礼します」


そう言って松田の隣に座った青年は葵依にもニコリと笑みを見せてからあ、と何かに気付いた素振りを見せるがその顔はニマニマとどこか楽しそうに見える。


「もしかして僕……お邪魔でしたか?」

「は?何言ってんだ、お前は」

「人の交友関係に口を挟むつもりはありませんが松田刑事、相手が高校生はまずいんじゃないですか?」

「萩原みてえなこと言ってんじゃねえよ……」


二人のやり取りを見て葵依は随分と親しいように思えて首を傾げる。


「お二人って知り合いなんですか?」

「ああ、悪い。こいつは俺の同期の従弟(いとこ)なんだよ」

「こんにちは、葵依さん」

「……コンチャー」

「なんだ、お前達も知り合いだったのか?」


明智と葵依が知り合いだったことに驚いたように目を丸くさせる松田に葵依は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


「ええ。去年、海水浴場で知り合ったんです。それに先月のKIDの件とこの前のホッパー奇術団の公演にも行ったんですよ……ね?」

「ウン、ソウダネ……」


彼が言っているのは去年、海水浴場で起きた集団水死事件に巻き込まれて知り合った事を言っているのだろう。
あの時はうっかりしていて、危うく犯人に殺されそうになったことを思い出して苦い気分になった。


「そう言えば、健悟さんがまた事件だって珍しく愚痴を零してましたが何かあったんですか?」


注文してた珈琲が運ばれてくると明智はそれを飲みながら松田に訊ねる。口調は穏やかだが、その目は鋭くなっていた。

松田は明智の質問に対して舌打ちをして頭を掻いた。


「ここ最近になって殺人やら事故が多くてな……。警視庁捜査一課きっての変人も流石に堪えたか……」

「ええ、それと健悟さんは切れ者って呼ばれてませんでした?」

「アイツァは変人でいいんだよ。変人で」


吐き捨てるように言った松田に苦笑する明智と葵依は二人の会話から明智の言う健悟さんが誰なのか分かってしまった。昨日の時点で気付ければ良かったが、流石にそこまで頭が回らなかった。

恐らく二人の言ってる健悟さんとは警視庁刑事部捜査一課の明智健悟警視の事だろう。なんて思っていると明智が話の流れを事件に戻した。


「まあ、健悟さんについては追々。事件と言えば先日の米花町での女子高生殺害は3件目でしたよね」

「ここでする話じゃねえだろ」

「そうですか?」


松田の咎めるような声に明智はキョトンとした顔をする。
それを見て葵依は瞬時に余計なこと言うなよ、と気持ちを込めてキッと睨むが明智はそれに対しても笑顔を崩さずに言葉を続けた。


「大丈夫ですよ。彼女、去年の集団水死事件の犯人を捕まえた経歴がありますから」

「はぁ!?」


このヤロ!と葵依が思うと同時に松田の驚きの声が重なった。
その反応に目を丸くしたのは明智だった。


「あれ?もしかして言ってなかったの?」

「言う訳ないじゃん……」

「そっか……なんか、ゴメン?」


思ってもいないことを……と内心で毒づきながらこちらを見てくる松田の視線から逃げるように目を逸らした。
それに対してまた舌打ちした松田は大きなため息を吐いた。


「それより松田刑事、事件について教えてくれませんか?さっき目暮警部から松田刑事に聞くように言われましたので」

「なんで俺なんだよ……。依頼が入った時に警部から聞けばいいじゃねえか」

「佐藤刑事曰く「どうせ暇してるだろうから」らしいですよ」


明智がそう言うと松田は本日何度目かの舌打ちをして警察手帳を取り出した。

サングラスを外している為、その表情が険しくなっているのが丸わかりだった。


「さっきの女子高生連続殺人から教えればいいのか?」

「はい。お願いします」


明智の言葉に眉間に皺を深くさせた松田はチラリと惣治郎を見てから小声で言った。

・被害者は3人で16〜18の女子高生。
・彼女達の通う学校はそれぞれ別である。
・司法解剖の結果、死因は複数の創傷による失血死という事が判明。
・凶器は鋭利な刃物であると分かってはいるが、まだはっきりしていない。

3人の共通点は森の中で襲われている事、髪の短い女子高生である事、そして手首や膝をガムテープで縛ってあることだった。


「……以上だ」

「あれ?それだけですか?犯人のプロファイリングとかは?」

「事件が多すぎてそこまで行ってねえんだよ。だから高校生探偵のお前に声が掛かったんだろ?」

「……確かに」


そう言って明智は自分の顎に指を掛けると机を見ながら黙り込んでしまった。

さっきの少ない情報を元に考え込んでしまったようだ。
話の途中で黙り込むなよ、と松田が言うが明智は返事をしない。


「……ったく」

「私、帰っていいですか?」


葵依がそう言うと松田は店内に掛けてある時計を見て、もうこんな時間か、と呟いた。


「そうだな、送ってく。おい、立て」

「……え?うわっ」


考え込んでしまってる明智の腕を掴んで無理矢理立たせた松田は会計をする為、惣治郎に近づいた。


「……あの時、誰にも言わないでって言ったよね?」

「そうだっけ?」

「(このデカい猫被った愉快犯め…)探偵王子と言われてる貴方にはこの事件、すぐに解けそうですか?」


悪態を吐きながら嫌味を込めて訊けば首を横に振られてしまった。


「現場の写真とかがあれば助かるんだけどね」

「そう……。ま、頑張ってください」

「何言ってるの。君も推理するんだよ」

「えぇ?」


明智の言葉に露骨に嫌な顔をすれば彼は楽しそうに笑った。穏やかに笑う彼の顔が今では憎たらしく思えて仕方ない葵依だった。

そして会計を済ませた松田に着いて行き、彼の車に乗ると明智が松田に現場の写真は無いのか?と訊ねて、松田はスマホを操作して何枚かを見せてくれた。

明智はスマホを受け取ると一枚一枚を見ていくとノートに書き込み始めた。

葵依はそれを見ないように外に目を向けていると車が動き始めた。

しばらく流れていく見慣れた景色を見ながら遅くなったー、なんて現実逃避をしていると隣から肩を叩かれた。


「家に着いたよ」

「ぁ、ありがとう……」

「松田刑事、僕もここで降ります」


明智の言葉に葵依はえ?と咄嗟に彼を見るがこちらの視線には気付いていないのか明智はニコニコと笑っている。


「コンビニに寄りたいだけだよ」

「ア、ソウ……」


そう言って明智はさっさとコンビニの方に歩いて行ってしまった。


「……とりあえず、明日から気を付けろよ」

「はーい」


返事をすると松田は葵依の頭を撫でてから髪を梳くように手を動かすと髪から手を離して車に乗って去っていった。

自分の髪の毛を見てから葵依はため息を吐くとマンションの中に入り、自分の部屋がある階までエレベーターで昇った。


*****


着替えを済ませてテレビを見ているとインターホンが鳴った。

こんな時間に誰かなー?と誰が来たのか予想出来てるのにすっとぼけた考えをしながらドアを開けると、そこには予想通り明智が立っていて、葵依は無表情になる。


「一応聞いとく……何の用?」

「この事件どう思う?」


そう言って自分の顔の高さまで持ち上げたのは松田の車の中で書き写された事件が書かれているノート。

それを見て半眼になりつつ葵依は言った。


「……推理しろってか」

「君の意見が聞きたいからね」

「だからそれ、貴方の仕事じゃないの?」


言外に嫌だ、と言うが明智は聞く耳を持っていないようでニコニコと笑っている。

これは何を言っても無駄だという事だと去年に学んだので、葵依は渋々と彼を家の中に招き入れ、ノートを受け取った。


「まず、この犯行について君はどう思う?」


そう言って上着のポケットから封筒を取り出して中に入っていた現場の写真を見せてきた明智をリビングに案内した葵依はウーロン茶を入れながら答える。


「詳しい事は知らないからあんまり言えない」

「そのために書類を持ってきたんじゃないか」

「誰も推理するとは言ってないよ?」

「やらないの?」


何でやる前提なんだと言いたくなった葵依だが、それを飲み込んでソファに座る明智の前にウーロン茶を置く。

机の上にはノートと現場の写真と殺された少女達の写真などが置かれており、葵依は少女達の悲惨な姿に顔を顰めてしまう。

明智の対面に座って写真を一枚手に取るとそれをジッと見た。


「この傷、あまり深くはないね」

「やっぱりそう思う?まぁ、松田刑事が言っていたように彼女達の死因は創傷による失血死だから、致命傷になるような傷はないだろうね」


そう言って明智は別の写真を手に取る。
葵依はそれを見ながらコンビニで印刷してきたのか、と考え、またしてもため息を吐いて持っていた写真を机に戻した。


「これ、普通の刃物で出来る傷じゃないよね」

「つまり、日常じゃ使われないようなものが凶器として使用されたってこと?」

「うん。刃物であることには違いないだろうけど、これって包丁とかナイフで出来るようには見えないんだ」


そう言って明智が見せてきたのは傷をアップにして撮った写真だった。それを見てから葵依は明智に話の続きを促す。


「僕の予想では使用されたのは中華包丁とか鉈といった身幅の大きいものだと思う」

「一般的に使われてる包丁じゃないってどうして思うの?」

「普通の包丁だったらこんな傷にはならないから。あとは“斬る”じゃなくて“刺す”になるだろうからね」

「………なるほどね」


明智の考えを聞いてウーロン茶を飲んだ葵依は机の上に置かれている写真の一枚を取って明智に見せる。


「この写真を見て思ったこと、言ってもいい?」

「うん。どうぞ」


その写真はうつ伏せに倒れて死んでいる少女とその後ろに長い血の跡がある写真だった。


「3人とも創傷は多いけど、どれも傷は浅く、この写真と同じように長い血の跡や足の擦り傷を見る限り、被害者達は逃げようとしてたことが分かる」

「そうだね」

「一思いに殺さなかった所をみると、この殺しを行った人物は敢えて急所を外して苦悶する被害者達を見て愉しんでいたと思うんだよね」

「なるほど……犯人はこの行為を楽しんでるのか……。まるで言葉通り“鬼ごっこ”をしてるようだな」


明智はそう言うとまたしても考え込んでしまった。
人と話してる途中で考え込んでしまうのは何度かあったので、彼のクセなのだろうと葵依は彼がこっちに戻ってくるのを待ちながら、どうして一緒になって推理してるのだろうか?と疑問に思う。

あまり目立つような事は任務に差し支えるからやりたくないのだが、と思いつつウーロン茶を飲むと明智が顔を上げたがまだ思考しているようで視線が合わない。

しかし、明智の言った鬼ごっこという言葉に葵依はなるほどと思った。

相手が死ぬまで続けられる“鬼ごっこ”。
その文字通り、犯人は“鬼”のような所業を行っているのが少女達の写った写真からも窺える。


「……つまり、この犯人の人物は自尊心が高く、過剰依存タイプって事かな?」

「多分。それから特徴からして20〜30代の“男性”と考えて動いた方がいいかもね」

「何で男性?」

「だって女子高生を誘拐して、手首と膝をガムテープで縛ってるんだよ?まず女性では犯行は無理。途中で被害者が逃げ切る可能性が高いと思う」


女性であれば逃げる被害者を追いながら凶器を振り回すことなんて体力的に考えて続かない。であるならば男性と考えた方が妥当だろう。


「そして殺害対象から推察すると、高校時代に女子から心理的な苦しみを背負わされたんじゃないかな」

「その感情が犯行に繋がり、今回の犯行に及んだ、か……」

「犯行が重なるにつれて、行為に慣れてきた犯人は残忍さもエスカレートしてきてるのが写真を見て思ったこと。そして犯行までのスパンも短くなっていることから、数日中にまた犯行に及ぶ可能性が高いと思うよ」


そう言って写真を机に戻した葵依はウーロン茶の入ったコップも置いて立ち上がると本棚に近づいて地図を取り出し、机の上に広げた。


「まず、最初の被害者が発見されたのが米花町の米花公園」


地図に丸を付けて1と書き込み、第2と第3の場所も同じように丸を付けて番号を書き込むとコンパスで大きな円で犯行場所を囲うように書いた。


「するとどれも犯行現場が5km(キロ)圏内であることと森林内であることが判明」

「凄いね……」

「キミならここまで解けたんじゃないの」

「まあ、ね。でもこう見ると次の犯行現場がどこか予想しやすいね」


感心したように言いながら地図を見る明智は眉間に皺を作って1か所を指差した。


「犯行場所が木の多い場所、となると次の犯行はここかな」

「そこまでは分からないけど、多分そこでも誰か殺されるんじゃないかな」

「ありがとう。早速警部に電話でそこらの警備を強めてもらうよ」

「え?ぁ、うん……」


明智は地図を持って廊下に出て行った。扉を閉めた向こう側から話し声が聞こえてくるので早速電話したようだ。

葵依は机の上に散乱してる写真を封筒にまとめ、ノートを閉じ、考えた。

警戒すると言っても警察官の巡回を増やすとかだろう。
だとすると犯人が取る行動は2つ。

1つめは米花町から離れて犯行を行うか、しばらく身を潜めるかのどちらかだろうが、自尊心が高い事を考えると身を潜めるといったことはしないだろうな、と思った。

そして2つめは警官の恰好をして米花町で犯行を続ける事。

犯人はどっちに動くかな、と思いながらテレビに目を向けると今人気上昇中の俳優がインタビューを受けているところだった。

雪のように白い肌に墨のように黒い髪、ぱっちりとした猫目が特徴的な青年はどこか幼さを感じさせるようなイケメンで、インタビューに答えていた。


『――裕翔(ゆうと)君のそのリアルな演技には何か秘訣があると伺いましたが?』

『僕の場合、心身ともに役に入り込むために“メソッド演技法”を実践しています』

『“メソッド演技法”?』

『役柄に応じて徹底的なリサーチを行うんです。内面や感情を追体験することによって、自然な演技を体得できるようになるんですよ』

『そういえば、この前の自衛官役でも実際に体験入隊されて、ご自身でスタントもこなされてましたね』

『ははは、よくご存知ですね』


画面の向こうで笑いながら頭に手をやる裕翔と呼ばれた俳優に葵依はそこまで興味を持たず、チャンネルを変えた。


201901042141