The Revival of the Dying Message.

   

明智との推理をした翌日の放課後、葵依は自宅で着替えてから自分の愛用しているバイク、ホンダのVTXを走らせ、志帆の家の前に来ていた。
精悍なブラックの車体のバイクに跨ったまま、スマホを弄りながら待っていると玄関が開き、志帆が出てきた。

前に見た時と変わらず、彼女はやつれたままで、服の袖から見える手首は前よりも細くなっていた。それが痛々しく思えて一瞬だけ顔を歪めてしまうが、すぐに元の表情に戻したので志帆に気付かれることは無かった。


「おまたせ」

「ううん、全然待ってないよ!それじゃあ、行こっ!」

「うん」


そして葵依は持ってきていたもう一つのヘルメットを渡すと志帆はキョトンとした顔で渡されたヘルメットを見て、葵依が跨っているバイクを見た。


「え、葵依ってバイクの免許……持ってたの?」

「うん、映画とかでカッコいいなって思って免許取った!」

「運転……大丈夫?」

「失礼だなー、大丈夫だから免許取れたんだよ?」

「そ、そうだよね……。ゴメン」


慌てて謝る志帆に葵依は気にしてないと笑って言ってヘルメットを被った彼女を自分の後ろに座らせた。


「じゃあ、トロピカルランドまで突っ走るよ!」

「あ、安全運転でお願いね……?」

「そこんとこは弁えてるよー」


突っ走ると言っても制限速度を越えるような真似をするつもりはない葵依は苦笑し、いつもなら暴力的な加速をする所だが、後ろに志帆を乗せているので安全運転を考えながらバイクを走らせたのだった。


*****


バイクを走らせて1時間弱、駐車場にバイクを置き、二人はトロピカルランドの正面ゲートを潜って夢とおとぎの島に入ると、14時を過ぎているというのに人が多くて歩くのも一苦労しそうだった。


「うわー、すごい人だね」

「うん、はぐれちゃわないか心配だね……」

「じゃあはぐれないように手を繋いで行こっ!」


ニコッと笑顔で手を差し出せば志帆は嬉しそうに破顔してその手を取ってトロピカルランドを回ることにした。

最初に目の前に見えるシンデレラ城を連想させる大きな西洋風の城を背に写真を撮り、怪奇と幻想の島に移動してミステリーコースターに乗り、観覧車に乗って楽しんだ。


「おー、結構遠くまで見えるね!!」

「うん。とても綺麗……」


太陽が沈み始めている光景にそう言った志帆の横顔はどこか遠くを見ているように見えた。
葵依が何か言おうと口を開くと同時に志帆が下を見て何かを見付けたらしく、そこを指差した。


「あ、科学と宇宙の島エリアにスケートリンクがあるよ」

「ホントだ」


志帆が指差す方に目を向ければスケートリンクがあって、そこを少数ではあるが人が滑っているのが見えた。
葵依はパンフレットを取り出して、科学と宇宙の島エリアのページを読む。


「あそこ、夏以外はやってる特設のリンク場みたいだよ。それに7時から花火が見れるって!!」

「花火……見に行かない?」

「行こ行こ!!志帆ちゃんって滑れる?」

「うーん……小学生の頃は滑れてたけど、久しぶりだからどうだろう?」


そう言って首を傾げる志帆に葵依が久しぶりだと出来なくなるよね、と答えれば志帆は苦笑した。
そして一周し終えた観覧車から降りるとすぐにスケートリンクに向かい、スケート靴を借りて履いた。

履き慣れないスケート靴は重く、借りものだからか少し窮屈に感じる。

そう思いながらスケート靴を履いた葵依はスケートリンクに入り、少し滑ってみた。
最初はふらついたものの、すぐに感覚を掴んで転ぶようなことは無かった。

そして志帆もスケート靴を履き終えてスケートリンクに入ってくるとふらつきながらも葵依の近くにやって来た。


「葵依ってばすぐに滑ってっちゃうから置いてかれると思ったよ」

「ごめーん。初めてだからちゃんと滑れるか確認したかったんだよー」

「初めてなの?それにしては上手に滑れてたと思うな」


そう言いながら二人でゆっくりと滑った。


「きゃあああ……どいてどいて!!」

「え?」


悲鳴と後ろから凄いスピードでこちらに向かってくる音に振り返ると葵依は後ろから勢いよくぶつかられ、正面から倒れた。

両掌と膝を強打してジンジンと痛み、生理的な涙が出てくる。


「ったぁ……」

「葵依!?大丈夫?」


志帆がそう言いながら手を差し伸べてきたので葵依は目尻に出ていた涙を指で拭ってからその手を取って立ち上がった。
立ち上がった葵依は後ろを振り返ってみると、そこには尻餅をついた癖っ毛の女性がいた。彼女が葵依にぶつかってきた人なのだろう、と思いながら見ていると1人の男性がやって来た。


「おーい、大丈夫かー?」

「いったーい、助けて康治(やすはる)ぅー……」

「ったく、上手いわけでもないのにスピード出すからだよ」


やって来た男性、康治に甘えるような猫撫で声で助けを求める女性に手を貸しつつも呆れていた康治に後からやって来た黒髪の女性が蔑むような目をしながら言う。


「そうやって可愛い子ぶって男の気を引けるのも今の内よ。千尋(ちひろ)、好奇心旺盛でアクティブなお嬢様も、30超えたらただのオバサンだから」

「ひっどーい!どうしていつもそーいう事言うの?」

「貴女を見てると苛つくのよ!」


千尋と呼ばれた女性と黒髪の女性のやり取りに志帆が怯えた様子で葵依の後ろに隠れる。すると康治が近づいてきた。


「さっきは千尋がゴメンな。怪我とかはしてないか?」

「いえ、大丈夫です」


そう言っていると糸目の女性がさっきの二人の仲介に入ってるのが見えた。
これ以上ここにいても巻き込まれるような気がした葵依は康治にそれじゃあ、私達はこれで、と言って志帆の手を引いてその場から離れた。


「志帆ちゃん、大丈夫?」

「うん、ありがとう……」

「……ちょっと温かいものでも飲もっか」

「そうだね」


顔色が悪くなってる志帆を連れて売店に行き、空いてる席に志帆を座らせてから葵依はココアを買いに行くと千尋と口論していた女性がやって来て、思わず眉間に皺を作ってしまったがすぐにそれを無くす。


「あら、貴方さっきの……」

「どうも……」

「さっきは見苦しい所を見せてごめんなさいね。貴方の連れの子、顔色悪かったけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ」


そう言って二つのココアを持って離れた。
後ろから視線を感じるが無視する。

席に戻れば志帆は城が見える方に顔を向けていた。


「あともう少しで花火が見れるね」

「あ、おかえり」

「ただいま!」


ニコリと笑顔で答えながらココアを渡して、葵依も椅子に座った。
打ち上げ花火まであと、5分……。


*****


「ちょっとちょっとーー、もう55分よーー」


そう言いながらトイレの個室で時間を確認した千尋は便器の蓋を下ろし、その上に座って足を組むとスマホを取り出して短く打ち込む。

呼びつけておいてどういうつもりなんだ、と怒りを覚えているとコツ…コツ…と床を叩く音が近づいてくるのが聞こえてきた。
内緒で話がしたいからトイレの入口には清掃中の看板を掛けておいてほしい、と言われ掛けておいたので相手がやって来たのだろうと思いながら待つ。
そしてドアがノックされたので眉を寄せながらドアを開けた。


「もォーー遅いじゃないの!」


そのまま文句を言い続けてやろうと思ったが、千尋は自分の前にいる黒いフード付きのコートを着てこちらを冷めた目で見てくる人物に目を丸くし、相手の持っている物を見て、恐怖と驚きで目を見開いた。

相手は千尋の様子を表情を変えずに持っていた物、ショットガンの銃口を彼女の心臓に向け、彼女に静かに言った。
それを聞いた千尋は恐怖と混乱から乾いた笑みを浮かべ、言う。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!今更あの事故が私のせいだなんて言われたってアハハ……」

「………」

「そ、それにさぁーいくらそんな恰好で顔を隠したって、私を撃ったらその銃声を聞いてみんなが飛んで来てすぐに掴まっちゃ、う……」


そこまで言って千尋はある事を思い出し、その顔を真っ青に変えた。
そして悲鳴を上げようと口を開くがそこに銃口を突っ込まれ、悲鳴を出せなくなった。

迫りくる死の恐怖から体が大きく震え、涙が溢れ出てくる。
その様子に相手が笑みを浮かべるとトイレ入り口をノックされ、声を掛けられる。


「すいませーん。まだかかりますかー?」


それに対して相手は答えずニヤリと不敵な笑みを浮かべ、千尋は素直に相手の言う事を聞いた事を酷く後悔した。


*****


ココアを飲んで雑談をしながら花火を待っていたが、唐突にトイレに行きたくなった葵依は志帆に断りを入れる。


「ちょっとトイレ行ってくるね」

「じゃあ、ここで待ってるね」

「うん」


そう言って、トイレに向かうと人だかりが出来ていた。
何かあったのだろうか?と思いながら近づくと【トイレ清掃中。しばらくお待ちください】と看板が掛けられていた。

タイミング悪いな、と思いながらスケート靴に目を向ける。
この靴のままトイレに入れるのはこのトイレだけなので、他のトイレに行くのなら履き替えなければいけない。

それを面倒だな、と思っていれば前の方にいた長い黒髪の少女がノックをしていた。


「すいませーん。まだかかりますかー?」


しかし中からの返答は無く、葵依が不思議に思っているとピュウウウウ、と花火の打ち上がるような音が聞こえ、次にドォンという音が聞こえてきてその場にいた全員がつい外へと目を向けていく。


「ちょっとォー花火始まっちゃったじゃない!」

「どこ?どこ?」

「ったく、もー」


またしてもドォンドォンと2回続けて音が聞こえてきたので花火を見ようと窓際に集まり、外に目を向ける人達に苦笑しながら葵依は看板の掛かったトイレのドアに目を向けた。

すると、中から丈の長い黒いフード付きのコートを着た人物が出て来たのを見た。
いかにも怪しい恰好をした人物は清掃中の看板を外し、速足でその場から立ち去っていってしまう。


「え?」


後を追い掛けようと動こうとするが、人が多いことと履き慣れない靴のせいで上手く動けず、相手を見失ってしまった。


「チィッ」


対象を見失った事に舌打ちをすれば、トイレの方から女性の悲鳴が聞こえてきた。
咄嗟に振り返り、トイレに駆け付ければ黒髪の少女が口元を押さえてトイレの奥の個室を見て立ち竦んでいた。


「大丈夫ですか!?」

「ぁ、あれ……」


そう言って少女が指差す方に目を向ければ、千尋が胸部――心臓から血を流し、死んでいた。
葵依はその少女をトイレの外に出し、誰も中に入らないよう指示を出すと警察に電話をした。


*****


通報後、すぐに警察はやって来て関係者意外は現場から追い出されてしまった。
一応通報者という事で葵依も現場に残るように言われ、その場に残っているが友人を待たせているという事を伝えると、連絡をしてもいいと許可を貰った。


『もしもし?葵依、どうかしたの?』

「ゴメンね、ちょっととんでもない事に巻き込まれちゃってまだ戻れそうにないの」

『え、大丈夫なの?』

「うん。どっか暖まれる場所で待ってて」

『分かった』



そう言って電話を切るとスマホを仕舞って警察の近くに行き、その場にいる人達を見る。
殺害された千尋はクレー射撃をしていたらしく、今日はクレー射撃仲間と一緒にトロピカルランドに遊びに来ていたようだ。

殺害されたのは伊丹(いたみ)千尋。

千尋と口論していた女性は佐野泉(さのいずみ)。
友人の死に涙を流す糸目の女性は小松頼子(こまつよりこ)。
顎髭を生やし、険しい顔をしている男性は織田國友(おだくにとも)。
千尋がぶつかった事を葵依と志帆に謝ってきた三沢(みさわ)康治も当然この場にいる。
そして第一発見者である少女、七瀬美雪も一緒に遊びに来ていた少年とこの場にいる。

現場に目を向ければ千尋の死体に布が掛けられ、壁には血でSと書かれていた。
その近くには佐野泉の散弾銃が放置されていた。

ダイイングメッセージと思われるそれを見て、葵依はすぐにそのメッセージな被害者からでなく、犯人からのものと察した。

しかし日本の警察も無能ではないと思っているので葵依は特に口を挟むことはせず腕を組んで壁際によった。


「まあいい……。とにかく犯行当時、このトイレ近くをうろついていた不審人物を見た者はいないかすぐに調べろ」

「はい!」

「不審人物、見ました」


剣持という刑事が指示を出すと若い刑事がすぐに返事をするが葵依が口を挟んだ。


「それは本当か?お嬢さん」

「ええ」


頷いた後、葵依はトイレから出てきた丈の長いフード付きのコートを着た人物について話した。


「その人の顔は?」

「フードを目深に被っていて、マスクもしていたから分かりません」


葵依の目撃情報から犯人が銃声を花火の音に紛らわせ、逃走用にコートを用意していたことから計画的犯行と考えられた。

被害者と一緒に来ていた四人は事情聴取として連れて行かれ、葵依は何も言われていないので大人しく待機しておくことにし、大きく息を吐き出すと美雪の一緒に居た少年が現場を見ては険しい顔をし、考え込んでいた。


「(もしかして、彼も探偵……だったりして)」


そこまで考えていや、ないないと否定する。
ここ最近、探偵と名乗る人物達との接触が多かったせいで警察関係者以外が考え込んでいたりすると、探偵なのでは?と思うようになっている自分に顔を顰めて首を横に振ってから近くにいた警官に靴を履き替えてきていいか確認を取って移動した。

ロッカールームに来ると聴取を受けていた5人が居て靴を変えていたが頼子だけ具合悪そうに口に手を当てて青い顔をしていて、そんな彼女の背を泉が摩っていた。


「しっかりしてよ……」

「うっ……あの時の事、思い出しちゃって……」

「いいよな、泉は。あの事故が起きた時、クレー射撃に来てなかったんだから……」


その言葉に泉が顔を顰めて康治を睨み付ける。


「あの日は風邪で寝込んでたのよ?それに彼が亡くなってるのにラッキーみたいに言わないでくれる?」

「私、今日でクレー射撃止めるわ……。なんか呪われてるって感じだし、成田君みたいに銃の暴発で死にたくないもの……」


頼子の言葉に葵依は國友以外の4人に共通点があることに気付いた。


「おい、無駄話はそこまでだ。戻るぞ……」

「ああ」


國友に促され、4人はロッカールームから出て行った。
葵依は彼等を見送った後でスケート靴を脱ぎ、自分の靴に履き替えた。

すると床に黒ずんだ汚れを見付け、葵依はしゃがみ込んで床を見て、それを見てから立ち上がると現場に戻った。

現場には美雪と少年の姿は無くかった。


「(丁度いいか)」


葵依はすぐに千尋が死んでいた個室に入ると遺体は既に運び出されており、代わりに白テープが張られていた。なるべく血痕を踏まないようにしながらしゃがんで床に視線を走らせると縦に伸びた血痕を見付ける。

この線は恐らく犯人が踏んで出来た証拠(もの)の一つだろう。
葵依はそれを確認すると警察が戻ってくるのを待つため、トイレの入り口付近の壁に寄り掛かった。


*****


「なぁ美雪、あの人が通報したのか?」

「うん。そうだよ?」


現場をジッと見ていた少年、金田一一(きんだいちはじめ)の質問に美雪は首を傾げながら頷き、現場保存の為に人が入らないようにしていたことも話した。

一は剣持警部に不審人物について話している葵依をジッと見た。
どこにでもいる自分と同い年くらいの少女。


死体を見ても慌てずに警察に通報し、あまつには現場保存もしていたと美雪から聞いた一は葵依が犯人なのでは?と考えるが証拠も何もない現時点では判断がつかない。

そう考え、一は推理を始める。


「それにしても、どうして千尋さんは助けてって声を出さなかったんだろう……」

「銃口を口に押し込められてたからだと思うぜ?」


美雪の疑問に一は鑑識に手袋を貰い、手に嵌めて散弾銃を持ち上げた。
持ち上げられた散弾銃の銃口は唾液で濡れていた。


「花火が打ち上がると同時に銃口をズラしてズドン……か」


呟くと一は散弾銃を元の場所に戻し、鑑識に千尋の所有物を見せてもらった。
コートの中に入っていたのはスマホと財布とハンカチの三つのみで他は所持していなかったらしい。


「すいません。このスマホ、中を見てもいいですか?」

「ええ、いいですよ」


許可をもらった一はスマホを手に持ち、画面を付けた。
どうやらロックは掛けていないようで、すぐに捜査出来た。


「ネットにツイッテー、それから電話を使ってたみたいだな」

「110番しようとしたとか?」

「いや、ガラケーとかだったらボタンでどこにどのボタンがあるか分かるが、スマホだと画面がツルツルしてるからどれがどの番号か分からないだろうから取り出さない限り電話なんて出来ないし、犯人がそんなことさせる訳が無い」

「そっか……」


そう言いながら一はツイッテーを開いてみると彼女は殺される5分前に呟いていた。


「『KIXってば人のこと呼び出しておいて遅れるとか、マジあり得なーい。』……“KIX”?誰の事だ?」

「KIXって、何かな?」

「さあな。とりあえずオッサンに行って聴取で聞いてもらうさ」



そう言うと一は廊下に出ていた剣持に4人にKIXが誰の事か心当たりがあるか訊いて欲しいと頼み、考える。

個室の壁には“S”と血で書かれたダイイングメッセージが書かれていた。
これが犯人を指しているというのであれば、4人の中でSが付くのは佐野泉だけとなる。が千尋は心臓を撃ち抜かれ即死だった。どう考えても彼女が血文字を残すことは不可能だろう。だとすればあの血文字は泉の犯行と思わせる為のフェイクと考えた方が良いかもしれない。
凶器の散弾銃も泉の物で彼女が犯人と思わせる材料が多すぎる。


「……そう言えば美雪」

「何?」

「美雪が聞いた花火の音って本当に花火だったか?」

「え?……うーん、そういえば最初に聞こえたのとその次に聞こえた3回連続の音がちょっと違ったような気がするけど、よく分かんないよ」

「そうだよなー……ん?美雪が聞いたのは4回なのか?」

「え?そうだよ?」

「……そうか」


そう言うと一はまたしても考え込んでしまったが剣持が戻ってきたので駆け寄った。


「オッサン」

「おお、金田一。犯人が分かったのか?」

「そんなすぐにはわかんねえよ。……それよりさっき頼んだこと、なんかわかったか?」

「それが4人とも心当たりがないそうだ」

「そっか……」


剣持が首を横に振って言うと一は収穫が無かったことにガックリと肩を落としていると美雪が駆け寄ってきた。


「ねぇ、一ちゃん」

「なんだよ美雪。俺は今考えてんだけど」

「さっきのKIXって――」


美雪が耳打ちしてきたことに一は驚いたが、すぐになるほど……と呟くと今まで集めた情報を元に推理し、犯人を見付けた。


犯人と思われる人物に目を向けていると警官がスケートリンクとトイレの間に置かれているゴミ箱の中から犯人が着ていたと思われれるコートを見付けて持ってきた。

すると視界の端で聴取が終わった泉達がどこかに行こうとしているのを捉えた。


「あの、どこに行くんですか?」

「スケート靴を返しに行くのよ。持っていても邪魔だから」


一が声を掛ければ頼子が答えながら持っていたスケート靴を軽く持ち上げた。チラリと剣持に目を向ければ彼はすぐに戻ってくるのなら……と言うが、それに待ったと声が掛けられる。


「すいませんが、靴の返却は後にしてもらってもいいですか?」


トイレの入口に立っていた葵依が腕を組んで言ったようで、その場にいる人間の視線が彼女に向けられ泉が首を傾げて訊ねる。


「何故かしら?」

「そのスケート靴も立派な証拠の一つになるからです」

「……そう」


泉はそれ以上何も言わず、他の3人も靴の返却は思い留まったようだった。
一はホッと息を吐きながら剣持に謎が解けたと伝え、自分の推理を全員に聞いてもらうことにした。


*****


「この事件の犯人が分かった」

「誰なんだ。金田一!」

「ああ、犯人はあんただ」


剣持の問いに一は犯人――佐野泉を指差した。
彼女の友人たちは信じられないと驚愕に顔を歪めている。


「あんたが自分の銃を凶器に使ったのも、血文字も俺達をミスリードする為のもの……犯人が自分の銃や自分を示すイニシャルを現場に残すわけがないという心理を、逆手に取ったトラップだったんだ」


銃口を口元から胸元にズラしたのは血文字にある程度の真実味を持たせる為と言えば、泉はフッと笑って反論する。


「刑事さんには伝えたけど、私は頼子と一緒に最初から花火を見ていたのよ?」


花火が上がった時とに行われた犯行が出来るわけがない、と言う彼女に一は狼狽えることなく推理を続ける。


「犯行が本当に花火が上がった時なら、確かにあんたには不可能だ」

「いい加減にしてよ!葵依さんが言っていたでしょ?花火が始まった時、犯人はまだトイレの中にいたって!!」

「……じゃあ葵依さん。あんたに訊くが、聞いた音は本当に花火の音だったか?」


一の質問に葵依は答えず、自分の財布から五円玉を取り出すとそれを唇に当て、口笛を吹いた。

その瞬間、ピィィイ!!と甲高い音がトイレ内に響いた。
まるで花火が打ち上がる時に聞こえる音に似たその音に泉の顔色が少しだけ悪くなった。


「こんな感じの音でした」

「銃声だけなら花火とは思われないだろうけど、その音とセットで聞き、しかも時間が迫っている状況なら“花火が始まった”と錯覚しても仕方ない。その証拠に美雪は花火の音は4回と言っていた」

「可笑しいね。ここの花火って赤、青、黄の3連発スタートなのに」


葵依が心底不思議そうに首を傾げながら言えば、泉は表情を硬くさせながらも平静を装っていた。

そんな彼女に一が推理で追い詰め、挙句には國友に罪を着せようとしていたことも指摘された。一の推理を聞いていた康治達が本当なのか、と彼女に訊ねる。


「そうね…。確かにそうやれば私にも人を殺すことが出来るみたいね。でもなんでそれが私なの?そのトリックなら私じゃなくても出来るじゃない!!」

「い、泉!!」

「高校生が警察の真似事して、人を犯人扱いして……これ以上変な言いがかりをつけるなら――」

「KIX」

「え……?」


激高する泉に一が一言言うと彼女は虚を突かれたような顔をして黙る。


「それ、刑事さん達にも聞かれたけどなんなの?」

「KIXとは彼女が死ぬ数分前にツイッテーに呟いていたんだよ。『KIXってば人のこと呼び出しておいて遅れるとか、マジあり得なーい。』ってな」

「それが何だって言うの?KIXが私の名前とでも言うつもり?」

「ああ、そうだよ」


一が肯定すると泉は訳が分からないと表情を顰める。


「殺害された伊丹さん。小松さんに三沢さん、佐野泉さん……そして、半年前に事故死した友人の成田さん。ここまで言えば剣持のオッサンも分かるだろ?」

「空港か!……ん?ちょっと待て金田一、佐野市に空港なんかないぞ」

「関空ならあるけど……」


思わず葵依が口を挟むと一はニッと笑みを浮かべ、剣持はあー!と声を上げた。


「そう。KIXは関西国際空港のスリーレターコード。大阪の泉佐野市にある関空を意味してるんだ――分かるか、泉さん!」

「そ、それも犯人が私を陥れる為に残したメッセージかもしれないじゃない!!」

「なら、別の証拠を見せてやるよ。床にある妙な血痕を」

「妙な血痕だと?」


剣持が一の指差した位置に目を向けると葵依が見付けた縦に伸びた血痕を見付けた。


「この縦に伸びた血痕か?金田一」

「ああ。その血痕は泉さんが血文字を壁に書く時にスケート靴のブレードの先で触った跡……それに付いた血が逃走した時の廊下に残っていたという事は、まだ気付いてないんじゃないか?」


一の言葉に血の気が引いて行く泉はチラリと自分の持つスケート靴に目を向ける。


「自分のスケート靴のブレードに千尋さんの血が付着していることをさ!!」


その瞬間、泉は持っていたスケート靴から手を離してしまい、靴はゴトリと重い音を立てて床に落ちた。


「なるほどね……空港所在地の名前、か。未だに親の脛齧って旅行しまくるお嬢様の考えそうなことだわ……」


もう言い逃れが出来ないと観念した泉は自供した。
千尋を殺した理由は半年前に自殺した成田の敵討ちであることだと。

そのまま泉は逮捕され、連行されていった。


「……それじゃあ、私はもう戻ってもいいですか?友達を待たせてるので」

「ええ、長い間拘束してしまいすいませんでした」

「いえ……」


そう言って葵依はその場を後にし、志帆に連絡を入れた。


葵依が去ってから一は剣持と美雪の三人で話をしていた。


「そう言えば金田一。お前よくKIX(キックス)が関西国際空港のスリーレターコードの通称と知ってたな!」

「いやぁ、美雪に聞くまで全く知らなかった」

「なんだ、結局は七瀬君のおかげか……」


露骨に態度を変える剣持に一がうるせー!と返すと美雪が宥める。


「でも、私も葵依さんに教えてもらうまでわかんなかったよ?」

「え?」

「とりあえず事件も解決したことだし、俺のおすすめの肉まんでも奢ってやるよ」


剣持に促されて車に乗せられた一と美雪はそのまま新宿まで連れてかれ、きすぎ屋という店で肉まんをごちそうされた。

食べた肉まんはとても美味かったが、葵依が何者なのか気になって味に集中できず、剣持に味わえと叱られ、店長には笑われた。


201907012253