狩人の覚醒

   

ジェスターを先頭に廊下を進んでいくが入ってきた時とは異なり、建物内の構造が全く違うものに変わっていた。
廊下であった場所が階段になっていたり、部屋だと思っていたら廊下になっていたりした。


「やっぱり構造が変わってる……」

「シャドウがいないことが唯一の救いだな」


肩を落として言うジェスターと周囲を見回して言うジョーカー。
そんな二人を見上げながらコナンはキョロリと周囲を警戒する。いつ、裕翔が襲ってくるか気が気でないのだ。


「どうかしたのかい?」

「ちょっと、ね……」

「傷が痛むようなら早めに言うんだよ」

「ありがとう」


明智とコナンが軽く話しをしているとゾワリと背筋を這う寒気に襲われた。
するとジョーカーとジェスターは二人を守るように立ち、己の武器を手に取ると周囲を睨み付けながら目を忙しなく動かす。


「ジェスター」

「シャドウのお出ましみたいだね」


ジェスターがそう言うと床から首のない女性が1人、姿を現した。
女性の胸元にはまるで泣いているような表情をした仮面が縫い付けられており、首から上が無いそこからはダラダラと血が流れ続け、大きな鉈を引きずって持っていた。


「今までのシャドウとは全く系統が違うのが出てきたね!?」

「……アレとは交渉出来る気がしない」

「じゃあ、サクッと倒しちゃお」


そう言って二人は床を強く蹴り、シャドウの間合いに飛び込んだ。
シャドウは速く動くことが出来ないようで、二人の攻撃を防がず受けてはよろめきつつ、スローモーションのような遅い動きで二人に向かって鉈を振り回す。

目の前の戦闘を見ていてジョーカー達が余裕で勝利するだろうと思っていた明智だがその予想は裏切られる事になる。

ジェスターがちょこまかと細かい動きと小道具でシャドウを翻弄し、ジョーカーが複数のペルソナで容赦なく攻撃していく。

シャドウの頭上に見えるバーは順調に削れているが名称が???となっていることを気にしつつジェスターは攻撃に集中して手作りの閃光弾で錯乱し、ジョーカーのサポートをしているとジョーカーのペルソナの突進を直に喰らったシャドウが転倒する。

ダメージが大きい為か、中々起き上がれないシャドウを見て二人はアイコンタクトを取り、一斉に攻撃する為に床を強く蹴りシャドウに向かって武器を振り下ろそうとしたがシャドウの腹部が裂け、そこから不揃いな鋭い歯が飛び出してきた。

突然の変異に二人は驚き、怯む。
シャドウはその隙を見逃すことなく咆哮を上げると宙にあった二人の身体は弾かれ壁に叩きつけられる。


「ぐあっ」

「くぅ…」

「ジョーカー!ジェスター!」


コナンが二人の事を叫ぶように呼ぶが二人は起き上がれそうにない。
動けない二人にシャドウは鉈を大きく振り上げ、彼等の首を狙って振り下ろした。

誰かの悲鳴が上がるが、シャドウの背中にコンッと何かが投げられる。床に落ちてコロコロと転がるそれを見ればどこにでも売ってるような安物のシャーペンだった。軽い衝撃でもシャドウはピタリと動きを止め、ゆぅるりと緩慢な動きでシャーペンが飛んできた方に体を向ける。

そこにはクルクルとボールペンを回しながら青い顔をして冷や汗を流してる明智が立っていた。
彼は乾いた笑みを浮かべ何をしてるんだろう、俺と思いながらこちらを向くシャドウから目を離さない。
するとシャドウはさっきまでとは違い、素早い動きで明智との距離を詰めてくる。

逃げろ!と誰かが叫ぶが彼は眼前に迫るシャドウの不揃いな鋭い歯に足が疎(すく)んで動けなくなっていた。
迫り来る死に明智の脳裏に今までの事が走馬灯のように流れていく。

雨が降る中、行われる母の葬儀。
誰もが自分を厭う中、手を伸ばしてきた銀の髪をした義兄(あに)。


『私の弟になりませんか?』

『おとうと?』

『ええ。生憎一人っ子なもので、兄弟が欲しいと思っていたのです』


そう言って伸ばされる手を取った幼い自分。
引き取られてからは家族の暖かさというものを知った。
理不尽に義父(父さん)を奪われた怒りと悲しみを知った。
義兄がロサンゼルスに行っている間は義母(母さん)と二人だけの生活で少しの寂しさを知った。
血の繋がりなんて一切ないのに大事に家族として扱ってもらい、むず痒さや嬉しさ、気恥ずかさなども知った。
そして自分の事を本当の息子として大事に、愛してくれた義母も一昨年の秋に精神暴走事件に巻き込まれて亡くなった。

声が嗄れる程泣き叫び、目が溶けてしまうのではないかと思えるくらい涙した。
それから義兄と二人で協力しながら生活していき、義兄と警察学校で同期だという人達とも知り合い、仲良くしてもらった。


もしも、ここで死んでしまったら義兄はどうなる?
あの優しい人を置いて死ぬなんて、冗談じゃない!!

沸々と沸いてくる怒りに明智は死への恐怖が無くなった。
振り下ろされる鉈を横に避けて躱し、取り出したボールペンをシャドウの肘関節に深く刺した。


「ア゛ア゛ア゛アアアアア゛ア゛アァァァァァァッ!!!!」


シャドウが咆哮し、ボールペンが刺された腕を押さえ後退する。


「お前なんかに殺されてたまるか!!―――ぐ、あ゛あッ!?」


怒りのままに叫ぶと明智は両手で頭を抱えた。
味わったことのない強烈な痛みが頭の中で広がり、立っているのも難しく思える。
それでも意地で立ちながら頭を抱え、呻きながら痛みに耐える。

呻き声を上げ、荒い息を吐き、涙を零す明智の様子にジョーカーとジェスターは彼のペルソナが覚醒しようとしているのだと察した。


「う、グゥゥ……うだう、だと…五月蠅いなぁ!!」

《ならばどうする?俺の手を取るか?》

「あぁ!!散々好き勝手言いやがって!!お前の手を取ってやる!!」

《契約成立だ……》


脳内に響く声がそう言うと明智を中心に突風が発生し、シャドウが吹き飛ばされる。
頭を抱えていた明智は自分の顔に着けられた仮面に気付き、それを触ってから躊躇なく引っ剥がす。
仮面が着いていた部分の皮膚まで剥がれたのか血がダラダラと流れるが、すぐに青い炎となって消える。

ゆらりと立ち上がり明智に向かっていくシャドウを見据え、明智は口を開く。


「俺は今、心底機嫌が悪いんだ―――射殺せ!ロビンフッド!!」


明智が叫ぶと同時に現れたのは大きな弓を持ったペルソナだった。
ペルソナ――ロビンフッドは光の矢を構えるとギリギリと弓の弦を大きく引き、放った。

放たれた光の矢は真っ直ぐとシャドウに向かって飛び、胸元の仮面を貫き倒したようでシャドウは黒い靄となって消えた。
一撃必殺。まさにその言葉通りだと思いながら立ち上がったジョーカーとジェスターはフーッフーッと肩で息をしている明智に近寄る。


「大丈夫か?」

「…………あぁ、君たちこそ平気かい?」

「うん。私達はなんとかね」


振り返って二人を気遣う明智を見てジェスターは革製の真っ黒なマスク越しに見る彼の瞳孔が開いていて怖いと思った。

一人状況に頭が着いてきていないコナンに気付いたジョーカーが大丈夫かと声を掛ければ、ぎこちない動きではあるもののコクリと頷いて返した。


「とりあえず、ここから移動しよう」

「その方が良いね」

「これから探偵王子には一緒に戦ってもらいたい」

「ああ、構わないよ」


ジョーカーの言葉に明智はニコリと笑みを浮かべながら快諾してくれた。
覚醒したばかりで辛いだろうに、と思いながらもジェスターはジッと明智を見た。

王子のような服装だが闇に紛れやすそうな鈍色の衣装に青鈍色の鳥の羽のようなマントといった貴公子スタイル。全体的に暗い印象を与える、というよりも喪服を連想させる衣装を身に纏っていて、仮面はカラスのような形をした顔全体を被うペストマスクだった。


「……なんかジョーカーと似たような恰好になったね」

「そうかな?似てると言っても色だけじゃない?」

「色が白だったら完全に王子様スタイルだよね」

「……怪盗KIDみたいに目立つ気はないから今の暗い色の方がいいかな」

「それもそっか」


ジェスターと明智の会話を聞きながらジョーカーは隣で険しい顔をして考えながら歩くコナンを抱き上げた。
いきなり抱き上げられたことに驚き抗議するコナンだが、ジョーカーはそれを無視して二人に声を掛ける。


「もう俺達に余裕は無いし、さっさと行こう」

「……いっそのことあそこから1階まで飛び降りてみちゃう?」

「「え?」」


ジェスターがある場所を指差しながら言った事に驚きながら彼女の指差す方に顔を向ければ、先程消えたシャドウが壊したと思われるフェンスがあった。

近づいて下を見てみるとそこは吹き抜けとなっていて、障害物となりそうなものは一切なく、飛び降りればそのまま1階まで直行出来るようになっていた。

しかし高さがある為、素直に飛び降りようとは思えない。下手をすれば大怪我だ。


「えっと……ここから飛び降りるって、頭大丈夫?」

「失敬だな!至って正常だわ!!」

「現実世界(向こう)に戻ったら腕のいい医者を紹介するよ?」

「だから大丈夫だって言ってんじゃん!」


憤慨するジェスターを見ながらジョーカーが苦笑していると後ろからチャキと小さい、聞き間違いなのでは?と思いたくなる程小さな音がジョーカーの耳に届いた。
その音が折り畳み式ナイフの刃を出す音だと気付いたジョーカーは近くにいたジェスターの背中を強く突き飛ばした。


「え?……へぇ!?」

「はぁ!?」


急に宙に放り出され、目を丸くさせているジェスターと驚いている明智。
ジョーカーは何も言わず、明智の腕を掴みコナンを抱く腕に力を籠めると二人と一緒に飛び降りた。

浮遊感に襲われる中、ジョーカーの頭上をキラリと光るナイフが通過していくのを見送ってから先に落としたジェスターを見ると彼女は自分のペルソナを呼び出して抱き止められていた。

そのまま床に降ろされたジェスターがこっちを見上げるとマルガレータがフロアのカーテンを剥ぎ取って広げ待ち構える。
二人を離さないようにしながらそこに飛び込むと、反動をつけて床に降ろされた。


「ふぅ……大丈夫か?」

「死ぬかと思ったよ!!せめて一言ちょうだい!!もしかして殺す気だった!?私になんか恨みでもありましたぁ!?!?」

「ジョーカー、僕も死ぬかと思った……」

「いきなり突き飛ばすから何事かと思ったよ……」


3人から一斉にブーイングを受けたジョーカーは気まずそうに視線を反らすとすまない、と一言謝った。
その謝罪に3人は微妙な顔をしつつも許し、自分達がいた場所に目を向けるとこちらを睨み付ける裕翔の姿を見付けた。
彼は何かを言ってからその場から立ち去ると、建物全体を小さな揺れが襲ってきた。


「なんか、揺れてる?」

「地震?」

「んなまさか……」


そう言っている間にも揺れは大きくなっていき、近くの柱がバキッと音を立てて崩れた。


「とにかく出口!」

「もしかして鴨志田の時みたいになってる?!」

「でもオタカラを盗ってないぞ!」

「話は後でしろ!!」


未だにジョーカーの腕に抱かれたままのコナンに言われ3人は走った。
頭上から降ってくる瓦礫を躱しつつ、フロア内を走り続けると入ってきた時に使った扉が見え、ジェスターと明智が体当たりの要領で扉を開け、劇場から脱出した。

劇場から離れた4人は劇場が崩れて消えていくのを見ながら肩で息をしつつもお互いの無事を確認し、現実世界に戻って行った。


「とりあえず、戻ってこれたけど……」

「オタカラを盗る前にパレスが消えるなんてどういうことだ?」


葵依と暁がそう話している間、コナンはその場にしゃがみこんで大きく息を吐いてる明智に近づく。


「明智の兄ちゃん、大丈夫?」

「うん、疲労感が凄いってこと以外は何もないから大丈夫だよ……」


それは大丈夫とは言えないんじゃ…と思うコナンだが、遠くから自分を呼ぶ蘭の声が聞こえそっちに意識が飛ぶ。
スマホで時間を確認すれば、パレスに入ってから15分しか経っていなかった。


「呼ばれてるみたいだね。あとで連絡するから番号を教えてもらえるかな」

「うん」


明智と番号の交換をしたコナンは駆け足で蘭の元まで行き、軽く叱られながら連れてかれた。
それを見送った明智はゆっくりと立ち上がり、自分のスマホの画面に視線を落とせば入れた覚えのないアプリが入っている事に気付いた。恐らくこれが暁達の言っていた異世界アプリというものだろう。そう判断し、アプリを消さずにスマホを仕舞った。


「あ、具合はどうだ?」

「とりあえず、疲労感が凄いって事を除けば健康だよ」

「(それ、健康って言っていいのか?)まあ、覚醒したばっかりだとそうなるみたいだし、今日はこのまま帰った方がいいんじゃない?」

「そうするよ。それで、あのパレスは完全に消失したってことでいいのかな?」


明智がそう訊ねると二人は苦虫を噛みつぶしたような顔をしてスマホを取り出した。
首を傾げながらそこを見ると先ほどのアプリの画面が開かれ検索履歴が残っており、地図にははっきりとしたマーカーと着いたり消えたりと明滅するマーカーが4カ所あった。


「星城裕翔のパレスは消えてないみたいなんだよね……」

「候補が見つからない。じゃなく別の場所になってるようなんだ」

「へぇ?それで?次はどこになったんだい?」


葵依が自分のスマホを使って場所を調べ、見せてくれた。


「検索ルート、はっきりとしたマーカーが着いた場所をこっちの地図で調べてみるとここになったよ」


そう言って葵依が指差した場所を見て明智がなるほど、と呟く。


「日売テレビ、か。確かに俳優や撮影現場っていうのにはピッタリな場所だね」

「あと明滅してる箇所は葵依の調べで前に事件が起きた場所と一致するらしい」

「つまり、そこは今回みたいにすぐに消失する可能性のあるパレス、てことでいいのかな」

「多分……」


自信なく答える暁を見ると彼はこういった事は初めてで断言出来ないのだと言ってきた。
それから3人は今日はもう疲れているだろうし、あまり遅くなるとやばいという事で帰宅した。



翌日、暁と葵依は1日に2回パレスに潜ったことによる疲労からか38度超えの熱を出してしまい、学校を休むことになった。
額に冷えピタを貼りながら杏と竜司からのメッセージに短く返して布団に潜りこむと学校にいる協力者から今月の中間試験終了後に非常勤のカウンセラーが赴任するという情報が入ってきた。

鴨志田の件で休みがちになっている生徒が多くなっているようでケアが必要だと学校側が判断したようで呼んだらしい。
それを読んですぐにメールを消した葵依は栄養剤を飲み、瞼を閉じた。

一方、暁の方も久しぶりの高熱に魘されながらグッタリとした様子で寝ていた。
彼の枕元では心配そうに暁の事を見ているモルガナがいるが何も出来ず、ソワソワしながら尻尾を揺らすだけだった。


「熱は下がりそうにねぇな」


そう言って惟が暁の額に触れると眉間に皺を作り、乾いてしまった冷えピタを交換する。
冷えピタの冷たさに暁の身体がビクリと跳ねるが、すぐに気持ちよさそうに息を吐く。

そして惟はタオルを一枚手に取り、暁の寝汗を軽く拭き取って行く。


「やっぱり新しい環境での生活に学校での噂がストレスになってたのかね」


そう呟きながら暁の汗を拭き終えた惟は暁の着替えを近くに置きソファに座ると、脚を組んで読書をする。
モルガナはチラリと惟を見てから暁に視線を戻す。
暁の体調が悪くなったのは深夜だった。
それまでは全く問題なく動けていたのに、急に体調を崩すなんて可笑しい。

ワガハイが離れている間に何があったのだろうか?

ワガハイが出掛けている間にアキラも出掛けていたようで、どこに行ってたんだ?と訊いてもちょっとな、と返すだけで教えてはくれなかった。

そのことにモヤモヤした気持ちになっているとソージローがワガハイにご飯を持ってきたので大人しく食べていればユイのスマホが鳴った。


「もしもし――ああ、それだったら右の棚の上から三番目にあるよ―――――うん。それと今日は帰るのが遅くなるかもしれないから夜更かししないでちゃんと寝るんだぞ――――――ああ、じゃあな」


そう言って通話を終えた惟を見ていたモルガナは鳴くこともなくご飯を平らげ、暁の近くで体を丸くさせ目を閉じた。

暁に寄り添うように眠るモルガナを見て惟は微笑み、本に視線を落とした。


*****


「知らない……俺は知らないぞ。あの日は撮影で、女なんて…殺(や)ってない」


テレビ局の控え室でパイプ椅子に座りながらブツブツと俺は殺ってない、俺は関係ないと言いながら足を小刻みに動かしながら爪を噛む裕翔がいた。

彼は昨夜の撮影に起きた身に覚えのない殺人に苛ついていた。
昨夜以外の4件の殺人は映画の役作りで必要なことだったからやったのだ。役者というのは“本物”になる事を多くの人に求められているから。

今回の映画で割り振られた役が殺人鬼ということで、最初こそ躊躇ったけど、“本物”を手に入れる為なら仕方ないのだと自分を納得させ、人が寝静まった深夜に丁度絡んできた酔っ払いの男を刺した。

恐怖に顔を歪ませながらこちらを見上げ、逃げようと藻掻くけど“本物”の警察官や自衛官の役柄も手に入れてる彼には無駄だった。

手足の骨を折り、逃げられないように仰向けにして腹の上に乗り、ナイフで顔に傷をつければ、後はそこから皮を剥ぐだけ。

最中、気持ち悪さに吐き気が襲ってきたが、それに耐えて作業を終わらせて立ち上がり死体を見下ろした時、確かに彼は感じた。


『“本物”を手に入れた』と。


しかし一回だけの実践では自信を持って“殺人鬼”を演じられるとは思えず、酔っ払いの男だけでなく、買い物帰りの女性、体を鍛えているのだろう筋肉質な男、路地裏に立っていた浮浪者の3人に“練習”相手になってもらい、ようやく手慣れてきた。“練習”の甲斐もあって監督には満足してもらえる演技が出来た。

しかし、昨夜から警察が自分を容疑者の一人と判断したようで監視が着いた。四六時中、誰かに見続けられるという事は俳優をしている時点である程度慣れてはいるが、警察が向けてくる嫌疑の視線には慣れておらずイライラする。


「クソッ……いや、待てよ?」


裕翔はふと皮剥ぎ魔(レザー・リッパー)のシーンに自分と同じように警察にマークされるというシーンがあった筈、と思い出し、笑みを浮かべた。

今回の状況は“練習”に打ってつけではないか。

そう思うと、さっきまでの苛立ちがすぐに消えていき、“本物”に近づけるという事に胸が高鳴る。


「なるほど、さっきまでの苛立ちや視線の鬱陶しさを皮剥ぎ魔も感じていたとしたら、次の撮影に活かせるじゃないか!」


嬉しそうに言いながら立ち上がると、演技の練習を始めた。
セリフは全て暗記済みなので後は実際に動いて、練習してみるだけだ。

そう決めると裕翔は机を壁際に寄せ練習を始めた。

控室の鏡に映った金目の裕翔はニヤニヤと笑みを浮かべながら演技の練習をする自分を見ていた。……その頬を赤い血で汚しながら。


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