気にする


「安室さんは鬼ですか」

僕が手渡した一枚の書面を見るなり嫌そうに眉を顰める彼女、沙耶は、黒の組織に潜入捜査している僕のサポート役として配属された公安の人間だ。公安の人間といっても警察学校出身の訓練された捜査要員などではなく、特殊な能力を買われて一時的に雇われているのだが。

「これくらい君なら余裕かと」

ふーん、と口を尖らせながらマッチに火をつけて書類の端に火をつける。
すぐに炎が燃え上がり、沙耶は置いてあった灰皿へ燃えていく書類を投げ捨てた。
彼女は瞬間記憶能力を持っており、意識して覚えた内容はしばらく忘れることはないという。

「で、何日くらいかかりそうですか?」
「明後日は用事あります?」
「明後日・・・ですか?ポアロのバイトも探偵の依頼もないので特には。」
「明日の昼までにはまとめるんで、明後日コナン君と出かけるのに車出してもらえないですか?」
「勿論いいですけど」

彼女が公安に雇われている理由、瞬間記憶能力とは他に、優れたハッキング能力にあった。安室が手渡した書類には、調べてほしいことをリストにしてあったのだ。
他の人間に頼むと一週間はかかるところだが、一日で仕上げるというのは流石としかいえない。

そんな彼女が固執している唯一の人物、毛利探偵事務所に居候している江戸川コナン君。最近少々無茶なお願いをしたあとは、コナンとのお出かけを条件にされることが多い。
といっても運転免許のない彼女の運転手をすると言ったほうが正しいのだが。
一度コナンが急用で行けなくなったとき、どうせなら二人で出かけようかと提案をしたが躊躇いもなくすぐに断られたのは記憶に新しい。

「そういえば、君は何も聞かないんですね」

彼女の仕事は、探偵としての安室透の補佐である。
万が一の時の彼女の安全を考え、黒の組織に潜入捜査していることは彼女にも内密にしてあり、建前上は安室の助手ということになっている。
探偵としての仕事はほぼ彼女にも開示してはいるが、実際頼んでいるハッキングの内容はその仕事にそぐわないものがあることを感じとっているはずだ。

「別に興味ないので」
「はぁ、そうですか」
「仕事はちゃんとしてるんだから問題ないですよね」

では、と喫茶店から早々出ていく沙耶の後ろ姿を見送る。
変な詮索もされず、頼んだ仕事は人並み以上にこなしてくれるため、ビジネスパートナーとしては申し分ない。
仕事柄、人との関わりをあまりもたないようにと心掛けてはいるが、もう少し気を許して仲良くしてくれてもいいのではないかと思うくらいには彼女のことが気になっていた。


20170214

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