いち
私の家は、代々陰陽師で私がその21代目になる。まだ任命式はしていないけれど、他に兄弟もいないし、きっと私が当主になるんだと思う。20代目当主である父を見てきて大変だとは思うけど、嫌だとは思ったことがない。私はこの仕事にちゃんと誇りを持っている。
私が時期当主になると確信があるのは、高校生になったら1人で上京して1人でしばらく暮らさなければならないと言う先代たちがやってきた修行のひとつをやらなければならないと告げられたから。私の本家は京都にあるが、当主になるべく東京で生活力をつけなければならない云々。
なんと言うか、難しいことは置いておいて、とりあえず、来月から私は東京で一人暮らしだ。頑張らなければ。
「壱代ちゃん!」
「お母さん」
「ああ、心配やわ。東京は恐ろしい所やで、そないな所にこんな女の子1人で…」
「大丈夫だよ、みんなやってきてるんだもん」
「せやけど…」
母は心配性で、ここ最近ずっとこうだ。私はもう心の準備が出来ているのであまり揺さぶらないでほしい。
「壱代」
「お父さん」
「東京で、しっかりお勤め果たすんや。ええな」
「はい」
「もしも何かあったらすぐに連絡するんやで?何も無くても電話してええんやからね?」
「分かってる」
今からこんな調子では出発当日どうなってしまうのか。お父さんは毅然と振舞ってはいるけど、心配なのか護身術を嫌と言うほど仕込まれた。大丈夫、ちょっとやそっとの暴漢にしてやられるほど弱く育てられてはいない。最後に大丈夫だって、と両親を仕事に戻るよう説得する。娘にかまけて本業そっちのけになるなんて、他の人に示しがつかないじゃないか。
「壱代〜」
「あ、来てたの」
部屋に戻ろうとしていたら、なんとも緩い声が私を呼ぶ。こちらにのたのたと歩いてくるのは、ピンク色をした頭の幼なじみだった。
「いよいよ来月やねえ」
「うん。そっちもじゃない?」
「俺はええんよ。壱代は女の子やから心配やん」
「ねえお母さんと同じこと言ってる」
私と同い年の幼なじみも、今年の春から地元を離れて祓魔師の学校に通うらしい。ああそうだ、お兄さん2人にも挨拶しに行かないと。立ち話もなんだし、と部屋に入れるといつものようにソファーに勢いよく腰掛けた。
幼なじみの家とうちは、先祖からの付き合いで、特にうちの父と彼のお父さんの仲がいい。そうなると、同い年の私たちも小さい頃から会うわけで、自然と仲良くなった。
「今日はどうしたの」
「暇やったから。壱代おるかなと思って」
「暇つぶしね」
「そないなことあらへんよ。それより寂しいんやない?俺と離れるん」
「そだね、寂しい」
「えっ」
自分から言ったくせに驚かないでほしい。私がなんだか恥ずかしいことを言ったみたいになってしまった。珍しく頬を染める幼なじみを見ていたらこっちまで顔が熱くなってくる。ごまかすようにねえ、と話しかけると顔色はすっかり元に戻っていた。なんだ、さっきのはただの見間違いか。1人で赤くなって恥ずかしいなあもう。
「もしかしたらあっちで会うかもしれないし、その時はよろしく」
「彼女って言ってもええ?」
「いい訳ないでしょやめてよ」
「厳しいなあ」
厳しい修行の合間に、こうしてどうでもいい話をしてどれだけ救われただろう。そんな幼なじみとも、しばらく会えなくなってしまうと考えるとやはり寂しい。私がしゅんとしているのに気付いたのか、彼はいつものように優しく笑った。
「そんな顔せんと。壱代はかいらしんやから笑わな」
「…ん」
「なにかあったらすぐ言うんやで」
「あはは、またお母さんとおんなじこと言った」
今から暗くなっていてもしょうがない。私には務めがある。頑張れるように、今は笑っていよう。
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