「らっらめらめらめ!!先生はピノコの旦那たんなんらから!」
なんとも言えない空気を破ったのはピノコで、トレイを持ったまま鬼の形相でいち子に詰め寄った。
「だめなの?」
「らめえ!らって先生には奥たんがいるんらもん!」
「えっ奥さん!?いらっしゃるんですか!?どこに!?」
ここに。いち子がおろおろと見回すと、ピノコが胸を反らせて言った。え。この子?ブラックジャックを見やると、なんとも言い難い表情でいや、とかまあ、とか口ごもる。
「そんな…」
「あー…、ゴホン、悪いが、お引き取り願おう」
「でも私諦めません!奥さんがいようと先生の気が変わるまでゴボッ」
「!?」
瞳に涙をためて力説を奮うが、突然吐血したのでブラックジャックもピノコもぎょっとする。もしかして本当に何かの病気なのだろうか。でなければ急に血を吐いたりしないはずだ。
「お、おい!大丈夫か!」
「あー…ゴホ、さっき、彼氏と別れた時に刺されてしまいまして、ゲホッ」
「それを先に言え!ピノコ!手術の用意だ!」
「はいのよさ!」
ピノコが慌てて部屋を飛び出していく。いち子を見れば、床に伏してぐったりとしていた。まったく、とんでもないのが来たもんだ。ブラックジャックは彼女を抱き上げて、手術室へと急ぐ。
『ー…』
いち子が目を覚ましたのは手術が終わってから数時間後。外はすっかり暗くなっており、明かりのない部屋の中いち子はきょろきょろと視線をさ迷わせる。
「ああ、起きたか」
『…せんせ…』
「なぜすぐに言わなかった。危ないところだったぞ」
『先生に、会いに行くのに、血まみれだと恥ずかしいから…途中で着替えました…』
「わたしが言ってるのはそう言う事じゃないんだがね。おまえさん、その傷は一生残るぜ」
そう言われて、刺されたところを控えめに擦る。さっきまで血がたくさん出ていたのに今は大人しいものだ。先生。掠れた声で呼ぶと、ブラックジャックはベッドのそばのイスを引いて腰掛ける。
『私を傷物にしたんだから…責任、とってもらってください…』
「…今それだけ冗談が言えれば大丈夫だ。なにかあればピノコに言ってくれ」
「ちょうよ!先生に迷惑かけたんらから大人ちくちてなさい!」
『…はあい…』
細く呟いてから、瞳は静かに閉じられ寝息が
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