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江戸にて



「寂しいのは、お前だけじゃねーからな。」

紅涙に告げた後、水溜まりから発していた光は俺の目を突き刺した。

視界も頭の中も真っ白。
耳鳴りがして、目を開けているのか閉じているのかすら分からなくなった。

だがまるで夢から覚めるみたいに、

「こ、こは…」

パッと見えるようになる。
屯所だ。屯所の食堂。
ガヤガヤカチャカチャする、いつもの騒がしい朝だった。

そこに、

「どわァァ!?副長ォォ何でェェェ!?」

周囲の何十倍もうるさい声がする。

「っせェ山崎!」

声の方を睨みつけると、山崎は俺の席の斜め前に立っていた。が、

「…何やってんだ、お前。」

頭からマヨネーズをかぶっている。

「それコッチのセリフゥゥ〜!」
「あァ?」
「副長、手。」

向かいの席に座っていた原田が俺の手元をさす。
右手にマヨネーズのチューブを握っていた。

「副長が山崎にかけたんスよ。」
「…俺が?」

原田が言うには、
俺は座ったまま、真顔でいきなり手に持っていたマヨネーズを握り締めたそうだ。
その勢いでマヨネーズは噴水の如く上空へ昇り、滝の如く山崎の頭から降り注いだという。

確かに俺の手にはマヨネーズがある。
なんだったら俺の手にマヨネーズが垂れている。
それでも、だ。

「俺がやるわけねーだろ。ましてやマヨネーズを使うなんて。」

もったいねェ。

「いやいや副長っスから。」
「だったらわざとじゃねェよ。山崎、それもったいないから全部舐めろ。」
「ええっ!?勘弁してくださいよォォ!」
「…あれ、副長どこ行くんスか?」
「部屋に戻る。食欲なくなった。」

席を立ち、トレーを返す。
残した飯を見て女中から心配を受けたが、大丈夫だと笑っておいた。

「…はァ。」

正直、大丈夫なのか分からない。
すっかりいつものペースに巻き込まれたが、一体何がどうなってる?

俺はあの変な世界から戻ってきたばかりのはずだ。
食堂に行った覚えはないし、何を食おうか悩んだ記憶もない。

「くそっ、わけわかんねェ。」

紅涙と別れたばっかだっつーのに、余韻に浸る間もないじゃねェか。

「あの言葉をゆっくり考えたかったってのによ…。」


『言っておけば、良かった…っ』


気になる言葉を残しやがって。
最後に残す言葉じゃねェだろ…。

「おうトシ、飯は済んだのか?」

局長室の前を通りがかると、近藤さんに声を掛けられた。
中には総悟も座っている。

「終わったなら始めやしょうぜ。」
「始める?何をだ。」
「何って…」
「トシから言い出したことだろ。局中法度を見直すって。」

はァ?

「言ってねーよ、そんなこと。」
「勘弁してくだせェ。昨日の今日ですぜ?」

昨日?

「昨日は俺、ここに居なかっただろ。」
「あーらら。あの目は本気でさァ。どうしやすか、近藤さん。」
「…疲れてるのか?」
「疲れてなんて――」

いや、疲れてるのか?
…違うよな。
俺は昨日、確かに紅涙と過ごしていた。
あの変な世界で、紅涙といたんだ。

「この様子じゃ局中法度は見直せやせんねィ。」

呆れ口調で総悟が言う。

「朝礼の時からボーっとしてただけじゃなく、日付の感覚まで失くしちまって。タルンタルンに弛んでまさァ。」

俺が…おかしいのか?

「事故処理したのは一昨日だったよな?」
「おう、そうだ。」

近藤さんがホッとした様子で大きく頷いた。

「その後の俺は…」
「屯所に帰って書類整理、だっただろ?」

覚えてるよな?と表情で問いかけてくる。
…悪い、近藤さん。

「それ、俺じゃねーわ。」
「!」
「ト、トシ…?」
「俺は昨日、別次元にいたんだ。この街と別の街を半分ずつくっつけたような場所で――」
「ままま待ってくれ!何の話をしてる…?」
「だから昨日の俺が居た場所。そこで俺は向こうの世界の女と…一緒にいた。」

あの世界を分かってもらおうとは思わない。
俺だって理解できるように話せねェ。
だが、ここにいたのが俺じゃねェってことは伝えたい。

「じゃあ俺達が一緒に過ごしたトシは誰だと言うんだ?」
「わからねェ。けど……」

可能性として、思いつく奴がいる。

「…天人じゃねェかとは思う。向こうでも俺と全く同じ天人を見た。」
「天人…。」
「まァ似たような件がありやしたね。」

俺が抜けていた穴は、天人の俺が埋めた。
空白の時間を作らないために、都合よく。

誰が何のためにしたのか、
それが通常は目に見えない世の常なのかは知らねェが、
簡単に入れ替えれちまうってことは、あの世界も同じ次元にあるのかもしれねェ。

「で?土方さんはいつその世界から帰ってきたんですかィ。」
「さっき。気付いたら食堂に座ってた。」
「「……。」」

二人が口を閉じる。
近藤さんは心配そうに眉間を寄せた。

「トシ、お前…」
「まァ待ってくだせェよ、近藤さん。」

シレッとした顔で総悟が制止する。

「どうせ土方さんはその世界の女に惚れちまったんでしょう?」
「…そんなことはどうでもいい。」
「図星。わかりやしたぜ、原因が。」
「何!?」

この程度の話で全貌を理解したというのか!?

「土方さん、最近刀を変えたんじゃねーですかィ?」

刀?

「変えてねェけど。」
「なら打ち直したとか。」
「してねェ。」
「…ありゃ。」
「なんなんだよ。」
「いやね、前にそんな夢を見たことがありやして。」
「「夢?」」
「『自分の刀が女に化けた』とか言って、土方さんがのぼせ上がっちまう話。」
“で、どんどんガリガリになって死に近付いていく夢でさァ”

ニタニタと笑みを浮かべながら話す。
コイツ…夢の中でも俺を殺そうとしてんのか。

「正夢になったのかと思ったんですが、違いやしたか?」
「違ェよ。とんでもねェこと言ってんじゃねェ。」
「トシは疲れてるんだろ。今日は1日休むといい。」
「あ、それ夢の中の近藤さんも言ってやしたぜ。」
「お前は黙れ。…とにかく俺は、疲れて記憶力が狂ってるわけでも、幻を見てるわけでもねェから。」

話を切り上げようとすると、「待てトシ」と止められる。

「まァ今日くらいは休めよ。」
「いいって言ってんだろ?」
「単なる休暇だ。お前の話を信じてないわけじゃない。」
「……。」

…仕方ねェな。

「わかったよ。」

近藤さんに負けて、今日は休みを取ることにした。

部屋に戻って息を吐く。
休暇と言ってもやることがない。
大体いつも仕事して終わっちまうのが俺の休暇だ。

「とりあえず書類でも片付け……あァ?」

机の横に何かがある。
灰色の…なんだあれ。服?

「…あ。」

広げて…思わず笑った。

「やっぱり夢じゃなかったよな。」

紅涙のパーカーだ。
向こうの世界で借りて、俺がずっと着たままになっていた服。
いつの間に脱いだのか知らねェが、これが消えてなくて良かった。

大事にしねェと。

「…にしても。」

俺、このままだと紅涙のことを忘れちまうんじゃねェのか?
日常のゴタゴタに埋もれて、少しずつ記憶が上書きされていって…。

「……、」

忘れた方が…いいかもしれねェな。
どうせ二度と会えないなら、覚えててもツラいだけだろ。

「二度と会えない…か。」

溜め息が漏れる。
懐に手を入れた。

「…ここは向こうの世界のままかよ。」

煙草を買いに、コンビニへ向かった。


着流しに着替えて向かった先は『大江戸マート』。
紅涙と出会ったコンビニだ。

「あの時は俺が店の前で煙草吸ってて…、……あァ?」

俺がまさに立っていた場所に、とんでもねェ奴がいる。

「何やってんだお前。」

坂田のとこのチャイナ娘。
まだ朝方だってのに、コンビニ前で一人しゃがみ込んでいる。

「お前には関係ないネ。」

シレッとした表情で顔を背ける。
コイツのこういう顔、総悟にそっくりだな…。
チャイナ娘は何やらゴソゴソして、また正面を向き直した。

手に何か持っている。
ピンク色の…小瓶?

「お前こそ何やってるアルか。朝からサボりか?サボりなのか三白眼。」
「三白眼やめろ。久しぶりに言われたわ。俺は煙草だ。」
「煙草なら自販機でも買えるネ。」
「……。」

何も知らねェはずの奴が、上手い具合に痛いとこ突いてきやがる。

「…カートンで買いたかったんだよ。」
「ふーん。」

チャイナ娘はピンク色の小瓶に黄緑の棒…いや、ストローみたいな物を突っ込んだ。

あの物体、どこかで見たことがある。
昔に…そうだ、すげェ昔、どっかの庭先で…

チャイナ娘は黄緑のストローに口をつけた。
途端、いくつものしゃぼん玉が吹き出される。
そうか、しゃぼん玉だったか。

「懐かしいもん持ってんな。」
「ワタシにすれば新鮮アル。ナウいヤングの流行りネ。」
「お前何歳だよ…。つーか店先に座るな。やるならテメェの家でしろ。」
「家の中でしたら銀ちゃんに怒られたアル。」

室内で吹くヤツがあるか…。
アイツも大変だな。

「とにかく店先はダメだ。営業妨害で訴えられるぞ。」
「うるさいネ、黙れ。」

言うや否や、チャイナ娘は俺に向かってしゃぼん玉を吹き付けた。

「っわ、ぷっ、」

大量のしゃぼん玉に襲われる。
手で払うが、いくつものしゃぼん玉が顔に当たって割れた。

「…おいコラ――」


『十四郎、』


「!」

不意に、義兄の声が聞こえた。
いや正確には、鮮明に頭の中で再生された。

『十四郎、しゃぼん玉はいくつ飛んでるかい?』

目の悪い義理の兄は、
よく縁側に座ってしゃぼん玉を飛ばし、それを俺に数えさせていた。

『8…あ、7個…、っあ5個!5個飛んでるよ、兄さん。』

途中で割れちまうもんだから、数えるのにスゲェ苦労したんだよな。

『その5個はどんな色をしてる?』
『んー、なんか光ってる。皿を洗ってる時みてェな感じ。』
『それは私には分からないけど、どれも違う色をしてるんじゃないかい?』
『してる!似てるけどなんか違う。』
『そのしゃぼん玉の輝きは"光の干渉"と言ってね。毎回、さらには一瞬一瞬で違うそうだよ。』

そう言えば、しゃぼん玉の色も光の干渉だな。

『一瞬一瞬で違う色になるの?』
『そう。常に変わり続けているんだ。』
『?』
『今お前が見ているその輝きは二度と再現することが出来ない、言わば奇跡のかたまりなんだよ。』


『まるで、あの一つ一つが人生のようだろう?』


あの頃は分からなかった話だが…今なら分かる。
俺も、どこにでも飛べそうなくらい軽かったのに、あっという間に弾けちまった。

まさか二度と会えない女に惚れちまうなんて…
二度と…会えない……、

「紅涙…、」

お前に、会いたい。

「紅涙って誰アルか。」

忘れてた。
コイツがいたんだった。

「…二度と会えない女だ。」
「恋人アルか?」
「……違う。」
「死んだアルか。」
「死んでない。アルアルうっせェなァ。」
「ならまた会えるネ。」
「!」

チャイナ娘は、深く考えずにそう言ったんだろう。
だが俺には、

「生きてるなら、必ずまた会えるアル。」

雷を打たれたくらいに衝撃的だった。

会いたい、会いたい。
紅涙に会いたい。

その気持ちが、自分でも抑えようがないほど膨らむ。

「…そうだな。」

会えるといいな。
…いや、会える。会えるようにする。
二度と会えないなんて誰が決めたんだ。
やってみなけりゃ分かんねェだろ。

「これ、お前にあげるネ。」

チャイナ娘がしゃぼん玉を差し出した。

「吹くヨロシ。気分上がるネ。」
「…いらねーよ、お前が吹いてたやつなんて。」
「ウェー、キモいアルー。いい大人が間接キスを意識してるなんてキモすぎアルー。」
「っせェ!意識してんのは菌の方だ!予備のストローも付いてただろ!?そっちをよこせ!」
「はァァ〜…この街には大人げない大人が多すぎネ。」
“相手するのは銀ちゃんだけで十分アル”

うんざりした様子で顔を左右に振り、チャイナ娘はしゃぼん玉の道具を置いて立ち去った。
黄緑のストローは、しっかり2本ある。

「…今度何か奢ってやるか。」

ピンク色の小瓶を取り、黄緑のストローを持った。

俺達を繋いだ物は『光の干渉』。
もしそこに『水溜まり』が含まれていたとすれば、
戻る時、互いに水溜まりのあった場所で光の干渉を発生させる必要があった。

しかしそれをせずに戻れたということは、水溜まりは関係ない。

「しゃぼん玉でも条件さえ合えば同じ現象が起きるはずだ…。」

何より、こちらの方が紅涙も目にする機会が多いだろう。

ストローを咥え、息を吹いた。
強く吹きすぎたのか、あまり数が出来ない。

「こんなもん吹いてるところを見られたら、またバカにされるな。」

総悟が面白おかしくウワサ話を流すに違いない。

まァ…仕方ないか。
いつか紅涙が俺と同じ光の干渉を目にする日まで、吹き続けるしかねェんだ。

総悟に限らず噂は立つ。
鬼の副長が狂った、ってな。
だが紅涙と会うことの方が重要だ。

そりゃあ恥ずかしくないわけじゃない。
場所もコンビニ前で、人目がある。
ちょっと煙草を吸うついでに…と、さり気なく吹いたとしても物が物だけに目立っちまう。

何より大の大人が、
俺みたいな男が一人しゃぼん玉を吹く光景なんてシュール過ぎるだろ。

だから…紅涙。

「早く…同じ色を見ろよな。」

また会いたいと思ってるのは、俺だけじゃないはずだろう?

「紅涙…、」

液をつけ、そっと息を吐く。
さっきより多くのしゃぼん玉が出来た。

風に乗り、いくつものしゃぼん玉が流れて行く。
太陽を受けるしゃぼん玉は、光の干渉で様々な色を映し――

「……。」

信じられないものを導いた。

「マジ…か……?」

どのしゃぼん玉が繋げたのか、
いつ繋がったのか、そいつは突然コンビニ前に立っていた。

なぜだ?
あの時みたいな発光はなかった。
…幻なのか?

こちらに背を向けるその後ろ姿に目を離せない。
一瞬でも離したら消えちまいそうで、
俺が生み出した単なる幻に終わっちまいそうで…息すら上手く出来なかった。

「紅涙?」

そっと名前を呼ぶ。
振り返ってくれ、と。
俺の声が届く現実であってくれと、願いながら。

「土方…さん……っ、」

そうだ。
その声が、また聞きたかった。

抱き締めて、自分の手が少し震えていることに気付く。

…情けねェ。
まだ離れて間もないっつーのに俺は。

「信じらんねェな…。さすがに昨日の今日で会えるなんて思ってもいなかった。」
「私もです…、……土方さん。」

別れ際に抱き締めた感覚と重なる。

…知らなかった。
常に死を覚悟してるはずだったのに、
二度と会えないことに、ここまで不安を覚えるとは思わなかった。
俺にもまだまだ知らないことが多いな…。

「…私の世界の映画に、素敵な名言があるんですよ。」
「名言?」
「『一番ステキなことは偶然起こる。それが人生だ』って。ほんとにそうですよね。」


『十四郎、』


「人生は偶然で成す…、か。」


『今お前が見ているその輝きは二度と再現することが出来ない、言わば奇跡のかたまりなんだよ。』


「…そうだな、」

俺達の扉は光の干渉。
光の干渉さえあれば開くが、二人同時に気付かなければ知らぬ間に消えてしまう。

どこにでもあるようで、どこにもない。
偶然が生み出すその瞬間がどこにあるかは分からない。


『まるで、あの一つ一つが人生のようだろう?』


俺の目の前にいる紅涙は、そんな扉の先にいる。
輝いて、不確かな紅涙。

「まさに、しゃぼん玉じゃねーか。」

お前は俺の人生そのものだ。
ならばもう、儚く消えないでくれ。
ずっと戻らなくて済む方法を、何か……

「今度持ってきます。一緒に見ましょうね。」
「ああ。…って、戻る気かよ!」
「もちろんですよ。」

…正論だ。
ここは一時的な滞在場所。
俺達の天人が住む世界に、俺達の居場所はない。
だが二人で居れる唯一の場所でもある。

「…どうすんだ?また会えなくなったら。偶然は二度も起こらねェんだぞ。」

ここは、それだけ不安定な逢瀬。

「必ず会えますよ。次も、その次も。」
「何を根拠に…。」
「二度目があった私達の出逢いは、もう偶然じゃありませんから。」

…そうだな。お前が言うなら、そうなんだろう。
だったら会う方法をきっちり決めておかねェと。

例えば、しゃぼん液の濃度。
しゃぼん玉でも問題ねェみたいだからな。
同じ分量で作って、同じ吹き方をすれば会える確率も高くなる。
吹き方なんてものは、いくらでも練習すりゃいい。
この先も会うためだ。
またあんな悲しい別れをするくらいなら、どんな馬鹿げた練習でも――

「そう言えば紅涙、」
「はい?」
「あの時…、…俺達が別れる時、何を言おうとしてたんだ?」
「え?」
「『言っておけば良かった』っつってただろ。」
「あー……、」

紅涙は目を泳がせて、

「…聞こえてたんですね。」

ボソッと言う。

「聞こえてたし気になってた。何だったんだ?」
「あれはー…そのー……」
「?何だよ。」

そこまでの隠し事だったのか?
切羽詰まった状況じゃないと言えねェような秘密ってなんだ…。

紅涙は尚も目を泳がせ、気まずそうにチラりと俺を見る。

「すー……好き、でした……って、言えば良かったなー…と、思って。」

好き?
…ああ、なんだ。

「そんなことか。」
「そっ、"そんなこと"!?」

よかった…。
あんな別れ方をした俺達だ。
同じ想いということくらい容易に想像ついてたさ。

「私にとってはとてつもなく勇気のいることだったんですからね!」
「つーか『でした』って何だよ、でしたって。」
「あっいえ、あれは…あの時二度と会えないかもしれないと思ってたので…」
「訂正しろ。」
「訂正!?」
「言い直して、ちゃんと言ってくれ。」
「なっ…、……鬼!」
「どーも。伊達に『鬼』の二つ名で呼ばれてるわけじゃねーからな。」
「〜〜っ、」

紅涙は恥ずかしそうに唇を結んで、

「す、っ、…好きですよ!……土方さんのことが。」

随分と可愛げのない、
いや、おそらく紅涙らしい告白をした。
だから俺も、

「知ってる。」

フンッと鼻先で笑って返す。
これが俺らしいってことは、お前も『銀魂』でよく知ってるはずだろ?

「もうっ、土方さん!」
「くく。紅涙、声がデカいぞ。気をつけろ。」
「あっ、」

慌てて口を押さえるところも愛らしい。

想い合うには不確か過ぎるこの世界で見つけた、確かな気持ち。
いつ弾けて消えちまうか分からないが、
この場所を繋ぎ続けるためなら、俺はどんなことでもしよう。

そしていつか、共に過ごせる方法を見つけたい。
二人一緒に歳を食う――
そんな何でもない、当たり前の未来のために。




しゃぼん玉



side.土方 END

2019.05.05
*にいどめせつな*
Thank you for everything you've done for me up until now...
This is not a goodbye, see you later!!



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