照れ隠しと思ってもいいですか
title by 確かに恋だった
目の前で気持ちよさそうに眠る、俺の愛しい彼女。そんな彼女を目の前に、俺は今にやける顔を隠せないでいる。
俺があいに連絡を入れたのが今から約3時間前。いつになく仕事が早く終わりそうで嬉しくて。そうだ、彼女の家へ行こうと思い立った。
「今日、家行っていい?」
思い立ったらすぐに実行。送ったメールは少し時間が経ってから返ってきた。
「ご飯なくても良ければ」
素っ気ない文面に思わず苦笑いする。ここだけ見ると、家に行くのが迷惑なのかなと思うこともある。でも、こう言ってる時だって、いざ行くと必ず美味しそうなご飯が用意されている。
俺の彼女は、所謂ツンデレってヤツじゃないかと最近思う。最もツンの割合が多くて、デレにはなかなかお目にかかれないけれど。
今回のメールだって、返事までに時間がかかってるってことは、何度か内容を打ち直したのではないだろうか。ぐるぐる考えた結果、簡潔な文面になってしまったことは想像に難くない。
送信した後、ちょっぴり落ち込んでいる彼女を想像して小さく微笑む。今日のお土産は何にしようかなと思考を巡らせながら、次の仕事に取りかかった。
そして今に至る。俺の手には、スタッフさんから聞いた、美味しいと評判のプリンが二つ。あいと一緒に食べようと思って買ってきた。それを静かにテーブルに置く。と、そこには見慣れない手帳。ここにあるってことはあいのものであることは間違いない。俺には見覚えのないものだけど。
いくら彼女とは言え、人の手帳を見るなんてプライバシーの侵害だ。俺は意識的に目を逸らそうとした。でも、一瞬目に入ってしまった。それはハートマーク。
言い訳をさせてもらうと、手帳は最初から開いていた。きっと何かを書き込んでいる途中だったのだろう。近くにはボールペンが置いてあった。だから見ようとしたのではない。見えてしまったんだ。
見開きページに1ヶ月分の予定が書き込めるタイプの手帳。今開いているのは、10月のページ。そこには小さなハートがいくつかと、大きなハートが2つ記されている。
これは一体何の印なのだろう。考えられる最悪のことは、他に好きな人がいるってこと。でも、あいの性格上、そんなことになったら言うだろうし、俺だって気づけるくらい彼女のことを見ていると思ってる。
ハートマークから連想することと言えば、彼氏だよなぁ。ってことは、俺に関係するのか?
そこまで考えて、もう一度手帳に目を遣る。大きなハートマークがついている2日間について思い返す。何かあったっけ? 2週間前と3週間前……。そう言えば、今日あいに会うのも2週間ぶりかも。
と、俺の頭でパズルが合わさった。会ったのは2週間前。じゃあ、その前は? ……3週間前だ。
すやすや眠るあいの顔を見ると、愛しさがこみ上げる。俺と会った日にハートマークを描いてくれるなんて可愛すぎる。そして冒頭へと戻るわけだ。
今すぐ抱きしめたいのをなんとか我慢する。俺は、にやける顔を隠そうとしないまま次の思考に移った。小さなハートマークは何だろう。小さいってことは、会うよりも程度の軽い事なのか? ってことは電話とかメール?
改めて手帳を眺めると、小さなハートは不定期に並んでいる。連続で続くこともあれば、何日も描かれないことだってザラだ。仕事の都合があるとは言え、何日も連絡しない自分が情けなくなった。あいはこんなに待っていてくれるのに。
考える前に体が勝手に動いてた。
「あい」
眠る彼女に覆い被さり、額に口付けを落とす。右手でサラサラの髪を梳いた。眠りを妨げられたせいで、身じろぎしたあいの唇が薄く開かれる。瞬間を逃さずに唇を重ね、差し込んだ舌で彼女を絡め取った。二人の間を行き来する液体が、媚薬のように俺の体を駆け巡る。
「……雅紀?」
目を開けたあいが吐息混じりの声で俺を呼ぶ。愛しすぎて心臓が飛び上がった。
「あい、大好き」
「突然どうしたの?」
寝起きの彼女は素直だ。ふにゃりと微笑んだ顔だって、俺にしか見せてくれない特権だと思ってる。
「これからはもっとハートマーク描けるようにするから」
俺の言葉に思考が追いついたのか、ハッとテーブルの上に目を遣るあい。その顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「……見た?」
「見た」
「分かったの?」
「分かっちゃった」
「……バカ」
可愛く呟いた言葉は、照れ隠しだと思ってもいいですか?
「今日は、3個くらいハートマーク描いて」
耳元で囁いて、彼女の頬をゆっくり撫でる。寝起きのあったかい体温が手に心地良い。目を細めた俺を見つめ返し、彼女は両手を首に回してキスを強請った。
焼き切れそうになる理性を何とかつなぎ止めながら、彼女に口付ける。漏れ出る吐息と舌の混じり合う音が、俺の官能を刺激した。
唇を離すと、一瞬名残惜しそうな顔。そんな顔しないで。今から存分に愛してあげるから。
髪をかき上げ、耳の後ろへ吸い付く。そこに咲いた赤い印を皮切りに、俺は彼女の体に余すことなく口付けた。
普段は見せない彼女の心を少し覗けたようで、愛しさがこみ上げる。
照れ隠しで呟く言葉は、君のゴーサイン。
だから今日もたくさんのハートマークを、君自身に。
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