甘すぎる愛を堪能したら
title by Catch sight of



「あい、今日は何の日でしょう?」

 にやにやした彼が手に持つのは、みんな大好きな棒状のお菓子が入ったあの赤い箱。細長いビスケットにチョコレートがコーティングされているアレだ。そんな分かりやすいヒントを持って「何の日?」だなんてからかっているとしか思えない。いや、彼に私をバカにする気なんてない筈。だとしたら、どこかで聞いてやりたくなってしまったってところだろう。

「まーくん、その箱は何かな?」

 わざとらしくそう言うと、顔中くしゃくしゃにして子どもみたいに笑った。

「えー、何だろうね。ほら、今日何の日か答えてよ」

 箱をしゃかしゃかと振りながら笑顔で私を急かす。そんなことしたら、中で割れちゃうよ。

「えー、何の日かな」

 尚もとぼける私に痺れを切らしたのか、腕を引いて横に座らせた。

「ほら、ヒントはこれ。コ・レ!」

 目の前に突き出された赤い箱。そんなに近づけなくても見えるってば。

「……ポッキーの日」

 根負けした私がしぶしぶ呟くと、嬉しそうに笑った雅紀くんは、背中に隠していたコンビニの袋を取り出した。

「惜しい! 正解はポッキー&プリッツの日でしたー」

 仰々しく発表した雅紀くんは、袋をひっくり返す。中に入っていた箱がバラバラと出てきて、私たちの座る周りに散らばった。定番の赤い箱だけでなく、極細やイチゴ味、アーモンドやパンダのパッケージのものまである。対するプリッツは、安定のサラダ味にロースト、トマトにさつまいも、超細にビールのつまみになるものまで様々だ。

「何でこんなにたくさんあるの?」

 巻き起こる疑問を口にする。

「ニノがね、教えてくれたの。ポッキー&プリッツの日には、1111本ポッキーかプリッツ食べるといいことあるよって」
「えー、そんなの聞いたことないよ?」

「でも、CMに出てた本人が言ってたんだよ」
「雅紀くん、ニノくんにからかわれたんじゃない?」

 悪戯好きの二宮くんならあり得ると思ってしまう。コロッと騙されてくれる雅紀くんが可愛くて、いつだって小学生みたいな悪戯をしかけるんだから。

「マジか!? せっかくこんなにたくさん買ったのになぁ」

 そこら中に散らばるポッキーたちを見て、少しだけ悲しそうな表情を見せる。かと思えば、気を取り直したのか大きく頷いた。

「まぁ、いっか。1111本食べたらいいことあるって勝手に信じることにしよう」

 この切り替えの速さが、私はたまらなく好きだ。

「そうだね。雅紀くんがジンクス作ればいいじゃん」

 同意すると、ひゃははと笑った彼が私の手を軽く握った。

「あいも手伝ってくれるでしょ?」

 時計に目を遣ると時刻は21時を回ってる。こんな時間からお菓子を食べるなんて……と雅紀くんを見ると、ニヤリと悪そうな笑いが返ってきた。

「夜中のポッキーは、あんまり身体に良くないと思うんだよね……」

 勝機は無さそうな気はしたが、一応反論してみる。

「大丈夫。後で責任持って、カロリー消費に付き合うから」

 と、耳元に囁きが落ちてきた。こういうところで色気を出すのは止めて欲しい。突然男の顔を見せられて、心臓が尋常じゃないほど速くなった。

「だから、ほら」

 雅紀くんは、一箱目のいちごポッキーを開けると袋を私に差し出した。小さく溜息をついてそれを受け取る。こうなると雅紀くんは頑固だ。諦めた私は、このチャレンジに参加を余儀なくされた。


 そうしてテレビを見ながらいくつかの箱を開けた。すぐに食べられなくなるかなと思っていたけれど、様々な味があるおかげで順調に食べ進めている。甘い味に飽きたらプリッツがある。それでも趣向を変えたくなったのか、雅紀くんは冷蔵庫から缶ビールを出し、それを片手に食べ始めた。

「コレ旨いね。あいも食べてみ」

 親指と人差し指で掴んだビアプリッツを「あーん」と言いながら、私の口元へ運ぶ。食べさせてもらった経験なんてほとんどない私は、戸惑いを隠せない。でも、雅紀くんは一切気づかずに「ほら、口開けて」なんて言ってる。意を決して口を開くとチーズ味とベーコンの香りが広がった。

「あ、美味しい……」

 思わず出た言葉に、「でしょ? そう言うと思ったんだよな」と満足そうな表情の雅紀くん。

「次はあいが食べさせて」

 言い終わると口を開けて私にせまる。食べさせる経験も乏しい私は、次に食べようと思って掴んでいたプリッツを凝視した。

「あーん」

 早くしろと言わんばかりに催促されて、恐る恐るプリッツを口へ運ぶ。雅紀くんがボリッと一口目を囓る。これで役目終了と思った矢先、手首を掴まれて固定された。呆気にとられる私を余所に二口で完食し終えた彼は、私の指をぺろっと舐めた。

「指についてるのが、また美味しいんだよね」

 そう言う雅紀くんの唇から見える赤い舌が、とてつもなく妖艶で頬が熱くなるのを感じた。

「次は甘いのが食べたい」

 私の様子を気にすることなく、最後となった赤い箱を開ける彼。ビリッと袋を破るとポッキーを一本取り出した。

「ポッキーと言えば、ポッキーゲームでしょ」

 悪戯っぽく言い放つと、私の口にポッキーをくわえさせる。その展開について行けない私を物ともせず、そのポッキーに齧り付いた。雅紀くんの整った顔が至近距離に近づき、驚いてくわえていたポッキーを取り落としてしまう。

「あー、落としちゃダメだよ」

 拾ってパクリと食べると新たに一本取り出して、次は自分でくわえた。

「あい、おいで」

 その言葉に操られるように、ふらふらと雅紀くんに近づく。彼がくわえるポッキーの反対側に、小さく齧り付いた。視線が絡み合う。徐々に近くなる距離。唇が触れそうな時、パキッとポッキーが折れた。

「っ!」

 正気に返り恥ずかしさが頂点に達する。頬に宿る熱を逃がすように両手を当てた。

「残りは一緒に食べよ」

 柔らかく微笑む雅紀くんが、ゆっくり私を後ろに押し倒す。片手で自分を支え、もう片方でポッキーをくわえる。そして私の口元へ運んだ。有無を言わさず食べさせられ、口内にチョコレートの甘さが広がった。そうして何本も口に運ばれ、その度に咀嚼を繰り返す。甘さが体中に広がり蕩けそうになる。

「最後の一本」

 小さく言った雅紀くんが迫ってくる。待ちきれなくて彼の首に手を回し、自分からポッキーに齧り付く。予想外だったのか目を見開いた彼は、急速に距離を縮めた。一瞬で無くなったポッキー。呑み込むや否や荒々しく唇が重ねられ、あっという間に舌が進入してきた。動く度に広がるのはチョコレートの甘さなのか、それとも彼の発する甘さなのか。

「あいが煽ったのが悪い」

 親指で唇を拭った彼が、私のTシャツに手をかける。

「一緒にカロリー消費しよ」

 瞳に欲情を映し、再び口付けが落とされた。受けて立とうじゃないか。だって私もそれを望んでいるのだから。


 唇で甘すぎる愛を堪能したら、次は全身に与えて。

 私の全てが蕩けるまで。

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