「お前だってキスするとき甘い方がいいだろ?」
title by 確かに恋だった



 それは、何の変哲もない週末。一週間の仕事が終わり、走り終わった後の疲労感と少しの達成感を抱えながら家路を急ぐ。
 今日はいつもの音楽番組を見ながらちょっと豪華な晩酌でもしよう。鞄に入れていたスマホが震えたのはそんなとりとめないことを考えていた時だった。

「おぅ。仕事帰りだろ? 生放送終わって仕事片したら行くから、酒とつまみ買っといて。じゃ。」

 返事をする間もなく切られた電話だけど、苛つくことはない。だって久しぶりに会えるうれしさの方が勝ったから。
 それはきっと彼も同じだと思える。じゃないと、仕事にストイックな彼が本番1時間前に電話なんてしてこない。

「仕方ないなぁ。」
 誰も見ていないのに照れ隠しに呟いて、スーパーへと足を進めた。


「はぁ、疲れた。酒、買っといていくれた?」
 そう言いながら靴を脱いだ彼。仕事終わりの男って、何で色気があるんだろう。ふんわり香る香水とほのかな汗のにおいが混ざって何とも言えない気分になる。

「おい、いらっしゃいとか何かないの? ぼーっとしてどうした?」
「いや、何もないよ。仕事、お疲れ。」

「お前もな。ってか、なんて顔してんだよ。エロいこと考えてた?」
 悪戯な顔でにやっと笑う潤。そんな表情にも欲情するなんて言えるわけない。

「そんなこと言ってないで、飲むでしょ? 準備できてるよ。」

 さっきまで見ていたテレビを消して、用意をする。そんなに強くはないけれどお酒の場の雰囲気を楽しむのが好きだと言っている彼。
 今日も量を飲むのではなく、なんとなくふわふわした気分になりたいのだろう。

「これ、上手いな。」

 ちびちびと飲んでいた彼が気に入ったのは、焼酎の黒霧島。甘みとコクがあり、口当たりがとてもいいと評判が良かったので買っておいたものだ。
 つまみはさつまあげ。ちょっとあぶって食べるのがたまらない。

 そうして気持いい感じに酔いも回ってきた頃、
「なぁ、なんか甘いものないの?」
「お酒に甘いもの? 今日はあんまりないかも。」

 何か無かったかなぁとキッチンをあさりに行くと、後ろから温かい腕が回された。
「んー、あいのにおいだ。」

「ちょっと、臭いみたいに言わないでよ。」
「お前だってさっき、俺のにおいにくらくらきてたくせに。」
 見抜かれていたことに顔が熱くなる。

「で、甘いもんあった?」
 仕返しとばかりに徳用チョコレートを口に放り込む。

「あめっ!」
「あんたが欲しいって言ったんでしょ。」

 言い返した唇は、潤によって覆われた。口内を舐め尽くされ頭の芯がしびれる。


「お前だってキスするとき甘い方がいいだろ?」


 耳元で囁いた彼の声に何とか抗いながら、お酒を口にする。そして私から仕掛けた口づけ。

「ん……。」

「苦いのもいいでしょ?」

「お前……、煽りやがって。体中食べ尽くしてやる」

 切なそうに眉を寄せた潤に引き寄せられ、体中にキスが降ってくる。


「お前が一番のスイーツだよ。」


 二人の甘い夜が始まった。

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