甘い熱だけ残して
title by 確かに恋だった
「あい、怒ってるだろ?」
さっきから何度も私にそう聞いてくる潤くん。態度には出していないつもりだったのに、バレちゃうなんて。さすがと思う心と悔しいと思う心が入り交じる。
「怒ってないよ。」
そう言ったところで、私は女優さんじゃないし彼を騙せる自信だって無い。でも、できれば今回は知らないふりをして欲しい。だって嫉妬したなんて知られたくない。しかもテレビの中でのキスシーンに対してだなんて。
一緒に夜を過ごした私たちは、ちょうどやっている潤くんのドラマを見ていた。いつもは一人で見るけれど、今日は本人が隣に画面でも彼を見るという不思議な経験。そんな楽しさに浮かれていた最初だけ。過激なラブシーンがあることが評判のこのドラマ。これまでだってもっと際どいシーンはあったのに、今日は潤くんが女優さんとキスしているところで胸が痛くなった。
綺麗な顔立ちで、潤くんの隣が似合う。美しい二人が醸し出す妖艶な雰囲気が、ドラマを盛り上げる。普段の私なら、「キャー。」とか言いながらも、もっと客観的に見ているだろう。でも今日はそう思えなかった。だって隣に潤くんがいたから。
この手で彼女に触れ、その唇で口付けたの?
一度考え出すと、鉛でも飲み込んだように心が重くなった。口数が少なくなった私を、潤くんが時々伺うように見ていたけれど、ドラマに集中するふりをした。もう内容なんてほとんど入ってこなくて、頭の中にはさっきの美しいキスシーンだけ。
思っても仕方がないって分かっている。だって潤くんは芸能人。仕事に真剣に取り組む彼を好きになったのに、その仕事のことで怒るなんて本末転倒だ。
だからこそ気づかないで欲しいって思ってるのに。今日の潤くんは容赦無く私を追求する。
「嫉妬しただろ。」
ニヤリとなぜか得意げに笑う彼に、小さな苛立ちが顔を覗かせる。必死で押さえている気持ちを暴かないで欲しい。
「してません!」
言い切った私の腕が掴まれた。引き寄せる力に抵抗はしたものの、敢えなく彼の腕の中に収ってしまう。悔しいから背中に腕は回さないことにした。
「ははは。あいって分かりやすい。」
またバカにして! と文句を言おうとして顔を上げると、そこには少し目を細めた潤くん。言葉とは裏腹の優しい瞳に、心臓がトクンと跳ねた。
「怒っていいよ。」
そのまま頭をゆっくりと撫でられた。滑るように動く掌が心地良い。
「嫉妬してもいい。俺には全部見せて。」
あぁ。彼はこうやって頑なな私の心を簡単に解いてしまう。さっきまで厳重に鎖で巻いて解けないようにしていた筈なのに。
「あいの感情が、俺のことで揺れ動くなんて嬉しい。」
本当は醜い部分なんて見せたくないのに。でも、貴方がそう言うなら。
「……嫉妬したよ。他の人とキスするんだもん。」
小さく言うと、頬に温もりが落とされる。
「ごめんねとは言えない。」
その言葉に、仕事への真摯な思いが見えた。
「でも、キスするのだって、お前とじゃなきゃこんなにドキドキしないよ。」
同時に右手を掴まれ、彼の心臓付近へ当てられる。そこから伝わるのは彼の鼓動。普段から早めの心拍だけど、今はそれよりも速く感じた。
「潤くん……。」
視線が絡み取られ、彼から目が離せない。頬に添えられる手の感触に、一度に顔中へ血液が送られたように熱くなった。
「あい」
ゆっくりと近づいてくる唇を、目を閉じて待った。そして徐々に深くなる口付け。テレビの音も時計の音も全て聞こえなくなって、耳に届くのは彼の息遣いだけ。
明確な意志を持って肩を押す腕に、身を任せるように力を抜く。
「キスだけじゃない。抱くのだって、愛しすぎてどうにかなりそう。」
切なそうに眉を顰める。吐息のような囁きに全身が火照るのを感じた。
そして彼は、私に甘い熱を残す。耳元、首筋、鎖骨。余すことなく唇がなぞる。まるで繊細なもののように扱われて、声も出せない。
「俺の熱だけ感じてて。」
どうか、甘い熱だけ残して。
それがあれば、私は貴方を想いつづけられるから。
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