スキだらけの君
あいと知り合ったのは、ありきたりだけど共通の友人の紹介ってヤツだ。友人に半ば騙されるような形で参加させられた食事会。そこに彼女がいた。聞けばおいしいご飯を食べられるからとこの場へ連れてこられたらしい。進んで参加したわけではない俺たちが意気投合するのは必然で、どうにか意中の相手を見つけようと躍起になる他のメンバーを横目に、美味しい食事とお酒をひたすら堪能したのだった。
そして帰り道、彼女を狙っていた男の盾になるべく家まで送って帰る。途中で番号もアドレスもゲットした。正直に言おう。その時、すでに俺は彼女が気に入っていた。食の好みは合う、気取らず過ごせる。何より顔が好みだ。これからも連絡して良いか尋ねた際、「いいよ。一緒に美味しいお店を発見しよう!」と両手を握って言われた時に気づくべきだったのだ。彼女の嘆くべき鈍感力に。
その後、共に食事するペースが一ヶ月に一回から二回になり、週一回は必ず会うようになった。けれども彼女の鈍感力は変わらない。こちらがどんなにモーションをかけても、暖簾に腕押し、柳に風、糠に釘。打てば響くどころか斜め下の言葉が返ってくる。唯一変わったところは、お酒の量が増えたところだろうか。
もともと彼女はお酒にそれほど強くない。ホントに嗜む程度に少しずつ飲んでいた。俺としても彼女が酔い潰れたらどうなるか自信が無くなるくらいには好きになっていたので、彼女のそういう面は有り難かった。そんな思いとは裏腹に、彼女のお酒の量は徐々に増えていく。俺との食事に心を許してくれていると思えば、とても嬉しい。反面、誰にでもそんな顔を見せるのかという嫉妬心も湧き上がる。
そんな訳で、彼女との食事会は俺にとって至福の時であり、我慢を強いられる時間でもあるのだ。
でも、今日は酷い。週末の金曜日、いつものように飲みに出かけた俺たちは、美味しいお好み焼きに舌鼓を打った。しかし今日の彼女のペースは早く、机に置かれたお酒がどんどん開けられていく。
「ちょっと飲み過ぎなんじゃない?」
俺の忠告もなんのその。
「お酒が美味しいのが悪い! 今日はとことん飲んじゃおうー!」
さらにテンションの上がった彼女はお店だけでは満足できず、飲み直しだと言って俺の家までやってきた。お互いの家を行き来したことは今までほとんど無い。こんな時間に男の家に入ることの意味を、彼女はホントに分かっているのだろうか。酔いが回っている俺が苛立ちを感じるのは仕方のないことだと思う。
「あー、もう限界かも」
そう言って躊躇することなく俺のベッドに倒れ込むあい。お店だけでも十分な酒量だったのに、俺の家に来てからでも四缶は開けている。限界が来るのが当たり前だ。そんなことよりも。男の部屋の、ベッドに寝転ぶなんて。襲われても文句言えないよ。
お酒のせいで赤い頬や目尻も、ちらりと覗く鎖骨も、舌っ足らずなその喋り方でさえ、俺を煽る材料になる。
「こっちは気持ち抑えんの、結構大変なんですけど?」
無防備に投げ出された体に覆い被さる。彼女の細い腕を顔の横に縫い止め、逃すまいと視線を合わせた。
「ニノくん!?」
今さら焦っても遅いよ。
「俺だって……もう限界」
だからどうか受け入れて。ここまで大きくなった俺の想い。
「あい、好きだ」
声が掠れたのが自分でも分かった。そこに含まれる熱に気づいて。懇願するように彼女を見つめ続けた。
どれくらい時間が流れたのだろう。時々瞬きする瞳と、呼吸のために激しく上下する胸元だけが、止まった空間の中で蠢いていた。
「私も……好きだよ」
耳に届いた言葉が理解できない。強烈に願ったとは言え、自分に都合のいい夢を見ているのではないかと思ってしまう。
「あい」
無意識に彼女の名前を紡ぐ。視線の先の顔が恥ずかしそうに染まった。
「……目、閉じて」
俺の言葉に、これから起こることを悟ったのかさらに赤く染まった頬。徐々に距離を詰める。見開いた瞳が閉じられたのを合図に、ゆっくりと唇を重ねた。初めて味わう柔らかさに脳が痺れる。このまま深く分け入りたい感覚を理性で押さえ込み、触れるだけのキスを続けた。
「今日はここまでで我慢するけど、次は覚悟しといて」
耳元で囁いて抱きしめる。今すぐ体ごと俺のものにしたいけど、勢いでなんて嫌だから。あいにも心の準備をして、気持ちが重なった時に大切に抱きたい。
隙だらけの君は、今日から俺の好きだけを受け取ればいい。
思いが通じた君に、もう一度甘い口づけを落とした。
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better tomorrow