「バーカ、なに照れてんだよ」
title by 確かに恋だった



「ねーね−、これって面白いよね。見てて笑っちゃった。」
 それは土曜夜、彼らの出ているバラエティ番組でのこと。翔くんと女優さんが映画館デートをするという設定だった。
 なぜか映画館でしりとりをする二人。翔くんの番になった。『あ』から始まる言葉に、「あいしてる」と答える翔くん。その照れた表情が面白くも胸がドキドキした。

「あー、これね。収録の後、楽屋でしばらくしりとりが流行ったんだよな。」

 読んでいた釣り雑誌から顔を上げてのんびりとした口調で答える智くん。最近は忙しくて大好きな釣りに行けていない。代わりにはならないけど、雑誌を読んでイメージトレーニングをしているらしい。

「そうなの? ニノくんとか、「あいしてる」って智くんに言いそう。」
「よく分かったなぁ。ニノと俺がやると『あいしてる』『ルアー』『あいしてる』『ルアー』って、その繰り返しばっか。」

「何それ。しりとりって、同じ言葉は使えないんじゃなかったっけ?」
「俺んちは、特にそんなルール無かったけど?」

「そうなんだ。しりとりって、最近やってないなぁ。」
「じゃあやってみる?」
「やるやる! じゃあ私からね。『しりとり』」

 机の上の食器を片付けながら告げる。しりとりは、家族で出かけた先で行列に並んでいるときによくやった。
 負けるのが悔しくて、何度ももう一回ってせがんだことを懐かしく思い出す。

「『リュウグウノツカイ』」

 魚の名前で返してくるなんて、よっぽど釣りに行きたいとみえる。智くんを見るとまた雑誌に目を落としている。きっと頭の中では船に乗っているんだろう。
 そんなことを考えていたら食器を洗っている泡が、海に浮かぶものに思えてきた。釣り好きに毒されているなぁと口元に笑みが浮かぶ。

「『いるか』」
「『カンパチ』」

「『地中海』」
「『イサキ』」

「ちょっとー、魚の名前ばっかりじゃない。」
「え? そうだった? 特に意識してないんだけどなぁ。」
「無意識なの? 釣り不足にもほどがあるね。」

 笑いながら伝えると、少しふてくされてしまう。「だって全然釣り行けないんだもん。」と口をふくらませるアラサー。
 その可愛さは反則だと思う。手を洗って、笑いながら彼の隣に腰を下ろす。

「『キス』」

 そう言った途端に塞がれる唇。突然のことに反応できない私の頭の後ろに手が回り、角度を変えて何度も口付けられる。
 酸素を求めて開いた隙間から智くんが入り込んできて、ますます酸欠になってしまう。

「して欲しかったんでしょ?」
「そんなこと言ってない!」
「だって『キス』って言ったじゃん。」

「あれは、魚の名前! 智くんの真似してみただけだよ。」
「なんだ。誘ってきたのかと思った。」

 ふふっと笑う彼は、天然だなんてだまされてはいけない。だって現にしてやったりって顔で赤く染まる私をじっと見ているのだから。


「あい……、『スキ』」


 瞳を見つめられて囁かれ、息が止まるかと思った。智くんは思っていることをなかなか表に出さない。
 でも、態度や表情で伝えてくれるから不満に思ったことはなかった。けれど、面と向かって言われると自分の鼓動が制御できなくなる。


「バーカ、なに照れてんだよ。」


 そういう智くんの耳だって真っ赤なくせに。照れ隠しに私を腕の中に閉じ込めた恥ずかしがり屋の恋人。
 普段は感じることのできない温かさ。離れている時間が多い寂しさは消せないけれど、こんな時間があるから大丈夫だと感じる。

 滅多に聞くことはできない彼の言葉は、極上の響きでした。

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