夜が明けても
title by Catch sight of
今日は10月の終わり。珍しく明日、日曜日が休みだった俺は、彼女の家に来ている。今日の仕事が終わったのは21時。遅い時間だけど、どうしても会いたくなって来てしまった。事前に連絡してなかったから、俺がインターホンを押したことにあいは驚いていたけれど、玄関を開けたときにはふわりと笑ってくれて。それだけで一週間の疲れが吹き飛んだ。
「突然ごめんね。何か予定あった?」
「大丈夫だよ。明日はゆっくりしようと思ってたから。」
ココアをトンとテーブルに置きながら、あいから返事が返ってくる。温かいそれに口を付けると、甘い香りがふわっと広がった。
「甘いね。」
「自分でCMしてるくせに。」
なんて会話も嬉しくて、勝手に頬が緩んでしまう。隣を覗き見ると、熱いのかふぅふぅと一生懸命冷ましている彼女。手伝ってあげようと、横から息をかけると口を尖らせた。
特に何を話すでもなく、テレビを見たり雑誌を捲ったり。寄せ合った肩だけがほんのりあったかい。こうやってゆったり過ごす時間が、俺には何より大切なんだ。
「今日で10月も終わりだね。」
テレビのニュース番組の日付を見て思った。昔は一日一日をもっと長く感じていたような気がする。それが年を追うごとに、だんだん短く感じるようになっている。
「そうだね。カレンダーめくらなきゃ。」
そう言ったあいは立ち上がり、リビングのカレンダーをめくる。その時、彼女の口が小さく動いた気がして、俺はそこに集中する。
二つ目のカレンダーはテレビの横の卓上カレンダー。一枚引き抜いて11月のものに変える。間違いない。カレンダーを変えるとき、彼女は何かを口にしている。
気になった俺は、家中のカレンダーをめくり終えて戻ってきたあいの手を握って捕獲する。
「どうしたの?」
珍しい俺の行動に怪訝そうな表情を浮かべるあい。
「カレンダーめくるとき、何て言ってんの?」
俺の言葉にビックリした顔を隠せない彼女。
「……何にも言ってないけど。」
そう言いながら、少しきょろきょろしているのに、まだ誤魔化せると思っているのだろうか。
「教えて?」
最後の一押しを唇に乗せ、手を握る力を強くする。小さく息を吐く音が聞こえ、あいの肩が下がる。
「大したことじゃないよ?」
「いいよ。」
「どうしても聞きたい?」
「聞きたい。」
間髪入れない俺の返事に、困ったように眉を下げながら、あいがゆっくり話し出す。
「今月も一緒にいられますようにって。」
ボソッと呟いた声はゆっくりと俺の耳に届いた。
「毎月言ってるの?」
「……うん。」
目を伏せた彼女に愛おしさが募る。今まで何度、こうしてささやかな願いを口に乗せてきたのだろう。同時に申し訳なさもこみ上げる。カレンダーに祈らなくてはならないほど、側にいられない自分のことを。
「一緒にいようね。10月の終わりも、11月の始まりも。」
でも、できないことを嘆くよりも、一緒にいられる幸せを探したい。俺の言葉に嬉しそうな顔で見つめ返してくれる君を、そっと抱きしめる。
「今日は、夜が明けても側にいるから。」
寂しく過ごす夜だってある。涙流すことだってある。でも、今日、君と過ごせることは紛れもない事実だから。
抱きしめた腕を緩め、あいの頬に手をやり見つめ合う。微かに震える瞼に唇を落としたのを合図に、君の瞳が閉じられる。そして重ねるだけのキスを繰り返す。会えない時間の分まで。ふっとあいの力が抜けたタイミングで、ゆっくりソファーへ横たえた。そして始まる深い口づけ。もう言葉はいらない。絡まる舌と熱で、きっと伝わるはず。
いつかずっと一緒にいられる日がくるように。カレンダーに祈らなくていい日がくるように。
俺は君とそんな時がくることを望んでいるんだ。
まだ言葉にはできない想いをぶつけるように、いつもより性急に君を求めた。
夜が明けても夜になっても一緒にいたい。それが俺の求める未来。
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