薬指にくちづけを
title by 確かに恋だった



「では、始まります。第二回、嵐のデート王は誰!?」

 翔くんの声で、今回の企画が始まった。ゲストは有名女優さん。キスしたい女性No.1のあの方だ。俺たちはそれぞれ考えたデートプランを披露することになっている。

「ってことは、あいは前回に引き続き……」
「はい! 毒舌解説員として参加します」

「あれさぁ、結構キツイんだよね。痛いところついてくるんだよな」
「ガチのダメだしだもんね」

「ゲストの方が言いにくいであろう事を伝えてるだけなんだよ。女性なら、きっと共感してくださる方も多いはず! ねー?」

 あいは観覧のお客さんを見て、同意を求めた。すると「キャー!」という歓声と拍手が上がる。

「あいのデートプランが、一番なんじゃね?」
「智くん、それ言っちゃ企画が終わっちゃうから」

 みんなで笑い、順番を決めることになった。じゃんけんで決めた順番は、俺、翔さん、リーダー、潤くん、相葉さん。

「えー、前回優勝のニノがトップバッターって、俺らやりにくくない?」
「確かにそうかも」

「じゃあ、ニノは最後にやってもらおうぜ。シード枠」
「何だよ、シード枠って」

「まぁまぁ、いいじゃん。ニノはできる子なんだから」

 リーダーの言葉で、あれよあれよと最後に回された。こういうの緊張するから、初めに終わらせたかったんだけどなぁ。
 心の中で文句を言いながら、モニタールームへ移動した。翔さん映画館デート、リーダーのお家で絵画デート、潤くんのレストランデート、相葉さんのバーベキューデートをみんなで突っ込みを入れながら見る。あいの解説を聞きながら、女の子ってそういうことが嬉しいのかなんてぼんやり考えていた。


「じゃあラストはニノ!」
「はい! シード枠行ってきます!」

「シード枠……」
「相葉くん、じわじわ受けてる」

「はいはい! ここでゲストの方からお願いがあるそうです」

 潤くんの声で、今日のゲストの女優さんが入ってきた。

「えっと、最後のデートのお相手を高橋さんにお願いしたいんです! ラブラブなお二人のデートが見たくって」

え!?

 思わずあいとハモる。突然の展開についていけない俺たちを、ニヤニヤしながら見るメンバー。しまった。きっとこれは計画的犯行だ。最初に順番変えられたときに気づくべきだった。

「ゲストの方がこう言ってるんだからさ」
「みんなも2人のデート、見たいよね?」

 相葉さんがお客さんを煽る。反応なんて分かりきってるじゃん。
 案の定、「見たいー!」という大きな声が返ってきた。お客さんだけでなく、スタッフさんまで笑いながら拍手している。

「ふふふ。2人はどんなデートするのかな」
「我々も、見たことないですからね」

 からかう年長コンビを軽く睨み付ける。デートなんてほとんどしないから。九割家で過ごすから。したときでも、絶対見せないし。

「いやいや、俺が考えたのは企画用のプランなんだけど」
「いいじゃん。アレンジ加えれば。得意でしょ?」

 サラッと言ってのける相葉さん。なんでこんな公共の電波上で、恋人とデートしなきゃいけないのさ。

「ニノ、諦めろ」

 悪戯が成功した悪ガキのような顔で、潤くんが笑った。わざとらしく大きな溜息をついて、あいを見る。と、こちらも覚悟を決めたように、八の字眉で小さく頷いた。やるしかないみたいだ。諦めてスタンバイ位置へと進んだ。


「よっ!」

 これはドラマだと思えばいい。腹をくくって開始する。中央で待つあいの元へ足を進めた。

「今日は久々に、デートしよっか」
「いいよ。いこっ」

 目を合わせないあいに照れが見えた。

「久々だね、こうやってデートするのも」
「そうだね」

「ずっとね、家とかだったもんね。忙しかったから」
「ホントだよ。体とか壊してない? 無理しないでね」

 途中で手の甲が触れてドキッとした。心臓がドクドクと音を立てる。ヤバイ。俺、この後ちゃんとできるのかな。

「どうぞ、こっちに」

 あいをレストランのセットへエスコートする。

「誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 グラスを軽く合わせ、乾杯した。

「前もさ、こういうとこ来て、かしこまって飯食ってたけども、もうそんなこともない歳になってきたってことだよね」
「それって歳とったってこと?」

「いやいや、そうは言ってないよ? 見栄張って高級レストラン行くんじゃなくて、近所の居酒屋でも大丈夫な歳になったってことだよ」
「えー、褒めてるのか微妙だなぁ」

「褒めてる褒めてる。いい歳の重ね方してるよ、お互い」
「そう? じゃあそういうことにしといてあげる」

 話しているうちに、あいの緊張も緩んだのか、表情が柔らかくなってきた。そこでポケットからトランプを取り出す。そう、俺のプランの中ではトランプが欠かせないのだ。

「ちょっとさ、俺って言ったら、やっぱりトランプかなぁ」
「いっつも持ってるもんね」

「カードさ、弾いていくから好きなときにストップって言って。いくよ」
「うん」

 手に持ったトランプを順に弾く。あいがストップと言ったタイミングで、一枚のカードを渡した。

「じゃあこれ見て覚えて。覚えた?」
「うん。覚えた」

「それ、好きなとこ入れて。どこでもいいよ」
「じゃあ、ここ」

「ここ? オッケ。じゃあ選んで貰ったのはこのカードだね?」
「うん。それ」

 カードを見せ、確認をとる。このマジックはまだ誰にも見せたことがない。勿論目の前のあいにも。どうか成功しますように。

「じゃあ、これ中に入れちゃって。今から当てます」
「当たるのかな?」

「指一回鳴らして上がってきたらスゴくない?」
「スゴイスゴイ」

「いくよ?」

 指をパチンと一回鳴らす。上がってきたカードをめくって見せる。「ホントに上がってきたー!」と喜ぶ彼女。でも今回はこれだけで終わりじゃないんだよ。

「ダイヤのお姫様だよね? 選んだのは」
「うん。そうだけど……」

「今度、これを具現化したらスゴくない?」
「具現化? え、どういうこと?」

「まぁ、見てなよ。指を一回鳴らしてあげると、ほら」

 怪訝そうな顔のあいに、一番上のカードを引かせる。裏返すと白紙で、「え!?」と驚きの声が上がった。

「このカード、具現化したの。意味分かる?」
「分かんないよ。具現化って?」

「お姫様とダイヤじゃん」

 ゆっくり言うと、感づいたあいが頬に手を当てた。

「俺にとって、お姫様はあいでしょ?」

 息を呑む彼女へ、即座に言葉を重ねる。じゃないと、俺の心臓が持たない。言われるあいもいっぱいいっぱいなのは分かってるけど、俺だって結構限界なんだ。

「で、コレ」

 カードの下に隠した指輪を見せる。声が出ない様子のあいの左手を、ゆっくりとった。

「誕生日プレゼント。本番は、もっといいの渡すから」

 パチパチと瞬きする彼女の瞳は少し潤んでいて、もう少しで理性が飛びそうになる。ひんやりとした指輪を、手の中にあるあいの薬指に通した。

「……嬉しい」

 俯いて俺の為すがままになっていた彼女が視線を上げ、俺を見て破顔した。その瞬間、時が止まったように周りの音が聞こえなくなる。腕を引き寄せ、耳元へ唇を寄せる。

「早く俺のものになって」

 この言葉だけは聞かれたくなくて、マイクを咄嗟にオフにした。繋いだ手は離さずに、席へ座り直す。早鐘を打つ鼓動に気づかれたくなくて、少し早口で最後のキーワードを口にした。

「あーぁ、いいね。こんな嫁さんが欲しいなぁ」

「終了−!!」

 翔さんの言葉に、俺たちは同時に机へ突っ伏した。

「ちょっとお二人さん、こっちへ帰ってきてもらえませんかね?」
「……すぐは無理! 恥ずかしすぎる」

「あいの恥ずかしがる顔、見たいんだけど」
「顔上げてよ」

「嫌。テレビに出ちゃダメな顔してるから」
「えー、そんなことないって! で、何でニノまで顔隠してんのよ」

「俺だって恥ずかしいんだよ。何でテレビでこんなことやったんだろ」
「ふふ。珍しい。ニノがそんなになるなんて」

「仕方ないなぁ。ゲストの方の番宣が終わるまでには復活してね」

 なんだかんだで優しい翔さんがそう言うと、カメラが切り替わる。とにかく落ち着こうと、俺はあいの手を引いて、スタジオを出た。早足で歩いて楽屋へ引っ張り込む。誰もいないことを確認してあいを抱きしめた。


「さっきの指輪、外してもいい?」
「え?」

「それはあいのために選んだものじゃないから」

 君の薬指を飾るのは、俺が選んだものでありたい。偽物じゃダメなんだ。

「いつかちゃんとしたの贈るから、この指には、何にも填めちゃダメだよ。」

 懇願して、あいの左手の薬指にくちづけを落とす。それは神聖な儀式のようで、胸の奥が震えた。

「……待ってる」

 呟いた彼女の唇が誘うように動くから、軽く口付ける。この後の収録さえなければと思うの俺は、悪くないはずだ。

「そんな顔、他の人には見せないで。俺だけにして」

 もう一度抱きしめる。お互い深呼吸し、気持ちを落ち着ける。繋いだ手を離してスタジオへ向かった。


「おっせぇなぁ。何してたんだよ」
「二人で深呼吸してたの。落ち着くために」

「怪しいなぁ。いちゃついてたんじゃないの?」
「そんなことしません」

「さっきまでいちゃついてたくせに」
「あれは企画でしょ?」

「如何でしたか、今日は」

 翔ちゃんがゲストへ話を振る。

「皆さんのデートプランは個性があって、楽しかったです。そして二宮さんと高橋さんのデートは、見ていてきゅんきゅんしました!」

「何か覗き見してるみたいだったよね」
「俺、想像しちゃった」

「何を?」
「デートする二人」

 話を蒸し返されそうになったので、慌てて締めに入る。

「というわけで、今週はこの辺で」
「ゲストさんも、今日はありがとうございました。また来週お会いしましょう。バイバーイ!」

 カメラに向かって左手を振るあいの薬指を見つめる。


 いつの日か君の薬指に輝く、俺が贈る指輪。

 それまではどうか何もつけないで。

 代わりに薬指にくちづけるから。何度でも何度でも。


(ね、予行練習になった?)
(……うるさい)
(照れてるニノ、可愛かったなぁ)
(潤くんのバカ)
(で、本番はいつ頃になりそう?)
(そんなの言うわけないじゃん)
(いやぁ、楽しみだなぁ!)
(恥ずかしすぎるから、本人のいるところでそんな話ししないで……)

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