違う場所で愛してる



「ママ、だっこー!」

 和と一緒に買い物に出かけていた悠人が、手も洗わずに駆けてくる。「手洗いうがいはしたの?」と聞きながらも腕を広げて愛しい温もりを受け止めた。

「まだだけど、ママにただいまのちゅうしてなかったから」

 そう言って、息子は可愛い唇で私の頬にキスをした。

「悠人。靴がバラバラだよ」

 両手に荷物を抱えた和が後を追いかけてきた。ちゃっかりと私の腕の中に収まっている悠人を見て、ちょっと膨れたのには気づかないふりをしておく。

「またママに甘えてる」

 拗ねたような声で言う和に笑いがこみ上げる。三歳の息子と張り合ったって仕方ないのに、彼は時々こうやってヤキモチを妬くのだ。

 この間も「ママ、だいすき」と抱きつく悠人に、「俺のことは?」と聞いて、「パパはすきなの。ママはだいすき」と言われて落ち込んだかと思ったら、「パパの方がママのこと好きだもんね」と悠人ごと私のことを抱きしめてきた。「くるしいよ」と言いながらも逃げないあたり、悠人も和のこと大好きなんだ。けれど、この時期の子どもが母親を求めるのはよくあることだと思う。

 和も悠人のことは可愛くてたまらないくせに、私を挟むと三角関係かと言いたくなるときもしばしばだ。それに悠人がこんなに甘えん坊なのは、和の性格を受けついでいるからだと私は確信している。

 手洗いもうがいもせず、私にくっついたままの悠人を引きはがそうとする和。

「ママといっしょにいくの」

 と主張する悠人に苦笑いするしかなかった。さすがにムッとしたのか、和がニヤリと笑った。これは何か良くないことを考えている時の顔だ。

「悠人、知ってる?」

 わざと潜めた声に息子が聞き耳を立てる。和のこういうとこ、さすがだなっていつも感心してしまう。

「ママが一番好きなのは俺なんだよ?」

 大人気ない言葉に脱力し、思わず悠人を落としそうになった。その揺れが怖かったのか、和の言葉が悲しかったのか、悠人は少し涙ぐんでいる。

「ママ、ホント? ぼくよりパパがすきなの?」

 潤んだ瞳で見つめられたら違うよって否定したくなるけれど、隣からも刺すような視線が飛んでくる。やれやれ、どうしたものかなぁ。

「うーん、二人とも一番好きだよ」

 私の答えが意外だったのか、目を丸くした悠人と和。そんなところも似ているなって笑いが零れた。

「でも、いちばんなんだからひとりだけだよ」

 口を尖らせて反論してくる悠人と隣で頷く和。もう、妙なところで意気投合しないでよ。

「パパも悠人も、違う場所で一番なの」

 意識的に柔らかく微笑み、暗にこの話題は終わりと告げる。「えー、ぼくがいちばんでしょー!」とブツブツ言う悠人を洗面所へ向かう。

「悠人も大人になったら分かるよ」

 そう言って頭にキスを落とすと、途端に笑顔になった。

「ぼく、ひとりでできる」

 腕から降りて手を洗う悠人。石けんの使い方や手の拭き方はまだまだだけど、自分でやりたいという気持ちが伝わったから「一人でできたね」としゃがんで頭を撫でた。

「俺が一番好きって本当?」

 手を洗い終えた和が艶っぽく聞いてくる。子どもの前でそんな色気出してどうするのよ。

「ホントだよ」

 答えると隣に和がしゃがみこんだ。後ろから両手で悠人の目を覆う。「パパ、かくれんぼ?」と無邪気に聞く悠人には答えずに、私の唇へ長めのキスを落とした。

「今日の夜は覚悟してて」

 耳元で囁かれた言葉に、頬へ熱が集まるのを感じた。それでも私だって触れ合いたいから、和の首に腕を回して軽い口づけを返した。


 違う場所で一番愛してる。

 増え続ける想いは、今夜あなたが受け止めて。


(悠人、おっきくなったね。好きな女の子とかいるの?)
(えっと、ママ!)
(だって。ニノ聞いた? 超強力なライバルじゃん。笑)
(でも、ママが一番好きなのは俺なんだよ?)
(何それ! お前大人気ないなー! 笑)
(ママはぼくのこともいちばんすきだもん!)
(え? 二人も一番がいるの?)
(ママがいってたよ。ちがうばしょでいちばんなんだって)
(ちょっと! 悠人ー!)
(へぇー、相変わらずラブラブってことですか)
(子どもの前でいちゃつくなよー!)
(お前ら、悠人の前でちゅうしてないだろうな!?)
(うーん、……気をつけてはいる)
(でも、ぼくがママにちゅうすると、ぜったいパパもちゅうするよ?)
(こらっ、悠人! 何でも喋るんじゃないよ)
(はははは! 子どもは正直だからな。バレてるよ、和也さん?)
(なら大っぴらにちゅうしちゃう?)
(するわけないでしょ! もう!!)

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