カレット
プロローグ
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『ごめん』

いいんだと、言えたら良かった。
わかりきっていたことで、それでも返ってきた言葉を飲み込むのに時間がかかって、

『……無理』

間近に迫っていた唇が動いてそう呟くのを、間抜けに固まったままどこか遠くで聞いていた。

もうだいぶ前から、異性を恋愛対象として好きになれなかった。

自分が“そう”かもしれないと気が付いたのは中学生の頃で、周りが恋愛に積極的になっている中で、俺は一人戸惑っていた。
女子から告白もされた。周りの男子に比べたら多いくらいだった。それでも一度も誰とも付き合わずにいたら、友達からお前男が好きなのかよ、とか言われた。もちろん冗談だったが俺を確信させるには十分な一言だった。

俺は異性を愛せない。

誰にも言えなかった。
それでもやがて好きな相手が出来た。
気が合って、優しくて、これならもしかしたら、と馬鹿な勘違いをした結果が。


『男が好きとか、やっぱ変だろ』


世界の隅で、ガラスが壊れる音がした。


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