2019

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ドラえもんズ / 擬人化 / 短め

12/1 movie

▽ニコフ視点
これはいったい、どういう状況だろうか。寡黙な男は必死に考えた。液晶一枚隔てた向こう側で繰り広げられるのは一年も前に自分が出演した映画だ。それも今、流されているワンシーン。共演者の女性の耳元へと唇を寄せ、愛を囁くシーン。なにも悪いことなどしていないのに、雰囲気を出すためと真っ暗闇にした部屋がそれをさらに掻き立てるように頬をつたう汗が妙にリアルな感覚を教えてくる。彼女はいったいどんな気持ちでこれを観ているのだろうか。ふと視線が横へ向く。ぎょっとした。彼女はなにも言わず、恥じらうようにそのシーンを見つめていたのだ。確かに楽しむように、しかし照れもある。意識していたのはボクだけだったのか。途端に羞恥の熱が顔に集中する。色んな言い訳を並び立てながら彼女と目が合う前に視線を外した。どこか落胆している自分に目を反らし、もう後半だけれど彼女に習って楽しもうと物語をなぞる。あのシーンは終わっていた。

▽夢主視点
「ニコフの演じる役はすごく切なかったね」明るくなった部屋でマグカップを両手で包みながら彼女はそう言った。目尻を赤くしはにかむ笑みに笑い返す。「でもね、羨ましかったなぁ」コポリ、カフェオレが波打った。何に?問えば頬を染めより一層マグカップへと顔を落としてしまった。そうしてぼそぼそと聞き取れるか分からない程の小さな声量でボクが悶々としてしまったシーンを言うのだ。あの女優さんが羨ましかった、のだと。その言葉はボクの核となる部分に沸々と熱をもたらした。じわじわと侵食していく暖かなこの熱が伝染してしまえばいいと思った。衝動のままに、しかしゆっくりとあのシーンのように腕の中に閉じ込めた彼女のなんて小さくそうして温かいこと。「ニ、二コフ!」慌てたように身動ぎを一つするも、お互いの鼓動を分かち合う頃には二人とも真っ赤になってその体温に身を委ねていた。

12/2 blanket

▽キッド
さぶい。ぶるり、震える寒さに目が覚めた。微かに残るぬくもりがより一層寒さを呼んでいるようで、思わず自身の肩を擦る。いつ寝落ちしたのか未だ眠っている目が捉えたのは散乱したゲーム機で、ああそうだ、昨日は幼馴染みと共に白熱した戦いが繰り広げられたのだったと思い出す。ただ記憶が最後まで有るわけではないのであいつが帰ったのかどうかは分からない。とにかく寒い。凍えてしまいそうな寒さが部屋を侵食している。ベッドに潜り込んで生温かい二度寝と洒落込もう。大分頭が覚醒してきたところで足元の見慣れたデザインの存在に漸く気づく。あれ?こんなところに毛布が。母が掛けてくれたのか、有り難い。もうこのまま丸まって寝てしまおう。自室まで移動するのも億劫になっていた私は毛布を引っ張った。が、ここで問題が一つ、発覚してしまった。引っ張ってもピクリとも動かないのだ。それどころかなんか、こう、ふっくらと丸みを帯びているような。「あ!こら!」「……さむい」「私も寒いんだってば!」「あとごふん……」「帰って寝てくんない!?」帰っていなかった幼馴染みは夢の中。私の悲鳴は届かなかったらしい。

12/3 orange

▽キッド
冬といったら?炬燵に蜜柑。即答だった。そんな謎解きみたいな掛け合いを今まさに答えた炬燵でぬくぬくと暖をとりながら毛布に顔を埋める。いったいなんだ、と思っていれば傍らに突然、オレンジ色の群衆が散らばった。「うわ」ゴロゴロ目前まで転がってくる勢いに思わず寝こけていた顔を上げた。「剥いて」お願いも雑ならば蜜柑を置くのも雑すぎる。「え、絶対イヤだ」「とか言いつつ剥いてくれるいい奴」「残念。私のです」「うわぁ」結局諦めて二人揃って蜜柑の皮をむきむきしている。不貞腐れている黄色がなんだか面白くて笑いがもれた。仕方ない。持ってきてくれたので一個ぐらいはサービスだ。「はぁ〜冬ですねぇ」「冬だなぁ」なんてことない戯れにゆっくりと時間は過ぎ去っていく。

12/4 gloves

▽ニコフ
どうしよう。すでに感覚のおかしい指先は悴んでいるのか温もりとはほど遠い赤に染まっている。吐き出される真っ白な吐息とはらはらと落ちてくる結晶にマフラーに埋もれる鼻をさらに埋めた。手袋が片っぽ無くなっている。それに気づいたのはさぁ帰ろうとしていた頃だ。カイロは朝から使っていたおかげで帰る頃には使い物にならず、もうポケットに突っ込んで寒さを紛らわせるしか方法が思い付かない。うだうだ考えたって無くしてしまった片方の手袋が出てきてくれる訳でもない。ああ、帰ろう。中途半端に思考を放り投げて鞄を取った。足を動かすよりも先にふいに手袋をしていない手にほんのり温もりが浸透する。「ニコフ」真横を向けばふわふわな茶色が。「どうしたの?」問いかけても熱を移すかのように両手でぎゅうとするばかり。数秒、そんな優しさを見つめた。いいの?ぽろり。出てきたのは控えめな呟きで、ニコフの微笑みが全ての応えだった。「温かいね」握り返したその手には別の赤が浮かんでいた。

12/5 cold

▽えもん視点
「馬鹿は風邪ひかないんじゃなかったっけ」「馬鹿だからひいたんですよ」二人とも酷いなぁ。散り散りとなり各々必要となるものを手に取って行く。アクエリ。冷えピタ。プリン。とカゴに放り込むのは言葉とは裏腹に病人に対して無難なものばかりで、あと他に何かいったっけ?と続ける辺り心配はしているようだ。別の場所では「ネギを巻くといいって聞いたよ!」「よく覚えていたであるなぁ」大量に葱を持ってきているし。止めなよメッド…。「あんなに要らねぇだろ」それを見てげんなりとキッドが異を唱えるも「でもリーニョさんなりの気遣いだし」ドラミも少し考える素振りを見せたあと閃いた!と言わんばかりにそうだわ!と「鍋しましょうよ」え「じゃ、他の食材もいるな」ちょっとちょっと「え、食べてくの」「賑やかでいいんじゃないか?」「エルは食べれないのに?」「肉は豚がいい」「ちょっと、僕の話聞こうよ」気づけばカゴの中には到底、友達の家に行くとは思えない重さが出来上がっていた。

12/6 Santa Claus

▽リーニョ
年に一度願い事を叶えてくれる足長おじさん、のような存在だと思っていた。「あれ?二人とも何してんの??」あまり見ることのなくなった色とりどりのクレヨンが散乱している。不思議と幼くなる感覚にほっこりしながらも視線は友人の手元へと。小さな紙が幾つか、カードかな?と首を傾げていればあのねぇ、とこれまた幼児を思わせるような話し方で「サンタさんにお手紙書いてるんだぁ〜」「へぇ〜」……ん?あまりにも違和感がなく簡単に流してしまったが、こいつなんて言った?笑ったままゆっくりもう一人の方、メッドへと顔が向く。メッドもメッドでニコニコと笑っているだけで、私の視線に気づいたのか「よいではないか」とただ一言。その言葉に頭を抱えた。お、お前かぁ!甘やかしてんのは、お前かぁぁ!!「メッド」「夢は大事であーる」「メッドォ」まさか高校生にもなって信じているなんて思いもしなかった。

12/13 cocoa

▽エルマタ
寒い寒い。足早に駆けるも肌に刺さる冷たい風が全ての温度を浚っていく。早くこの寒空の下、暖房のきいた室内へと駆け込みたいも無駄なような気がしだしたのは自販機に到着してからだった。何故、うちの学校の自販機は外にあるか。甚だ疑問である。「何にする?」「んー」私の歩幅に合わせ小走りについてきてくれた隣の赤に問う。さっきまで寝ていたせいかまだ眠たげだ。両手をポケットに突っ込んで、半開きの目は自販機のガラスケースに注がれている。そんな様子を眺めながら自分も何にするか悩む。「あ」目に飛び込んできたのは昨日まで陳列していなかったはずの甘い甘い「やったぁ!やっと出た」「ココア?」私の好物。ココアはココアでもホットココアだ。見つけた瞬間ピッ、ガコンと流れるような動作に隣で早っと声が上がる。私は決まったんだからエルも早く決めてほしい。そんな身勝手極まらない思考はほかほかと伝わる熱に溶かされていった。

12/14 Star

▽ニコフ
陽が落ちるのが早くなった。陽が上るのは遅くなった。色の褪せたように見える茜色も瞬きのうちに闇夜へ姿を変えてしまうのに、光を取り戻すのには大層ゆっくりだ。夜の時間が長くなった。それは、「朝に星が見えるのは冬だけだね」夜にしか、光が閉ざされた世界でしか見れないものが長く見れるということだ。「ね、どっちが好き?夜の星と朝の星」ガウ。隣人が空を仰いだのが分かった。吐く息は白く鼻先は赤くなっている。「一番星はもうどこにあるかわかんないね」「冬の正座ってなにがあったっけ?」「オリオン座はどの季節でも見えるって聞いたことあるよ。探してみる?」静かな帰り道に私の声だけが聞こえる。けれど繋がれた二人分の熱が一人でないことを意識させ、心臓が震えた。「今夜はよく見えるねぇ」
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