「ごんべ、またそんな格好でいるのですか」 小用を済ませ自室に戻ると、縁側に人の影が見えた。人影と言っても、自分の部屋の縁側に半裸で寝転がるような人間は一人しかいない。 声をかけて傍に寄ると、うすらと汗をかいていて庭先で槍を振るっていたことがわかる。 大方自分を訪ねてきたものの、いない間に手持ち無沙汰で自己鍛練を始めたというところでしょう。ごんべはじっとしているのが苦手ですから。 「隆景、やっと戻ったのか」 「少し席を外していただけですよ」 縁側に寄るとごんべが身体を起こして、私の髪に触れたかと思うとそのまま軽く口付けられる。 そしてまた離れると、遊ぶように指先で私の癖毛を撫でていく。まだ日も高いというのに、どうにも色の含んだ雰囲気にくすぐったいと口元が緩んだ。 「昨晩、邪魔すると言ったが急用が出来た。すまない」 「ああ、人伝にそんな話を聞きましたのでさっさと寝かせていただきました」 「お前さあ……」 童子のように口を尖らせてさも、不満です、という顔をするごんべが私は愛しくて堪らない。私に構って欲しいと全身で訴えてくる。 「貴方を待ち焦がれて寂しいと枕を濡らすような私の方がお好みですか」 「いや、お前はそのままがいい」 嫌味がましく言った言葉に一寸も考える暇無くそう言って、ごんべは笑って私を抱きしめる。 背中に回された指が私の背骨をするりと撫でるので反射的に背を反らせてしまった。 「俺はお前を骨抜きにしたいのに」 「私はもう十二分に貴方に骨抜きにされていますよ」 「どうかなあ」 たまに冷たいしなあ、と胸に頭を擦り付けてくる様がまるで猫か犬のようで、私と対のような黒く固い質の髪をそっと撫で付ける。 貴方がいなくては生きていけないと、女々しい呪詛のような言葉は音にしないけれど。 「私も、貴方を骨抜きにしたい」 「お前が言うと、骨抜きかっこ物理かっことじ、みたいにならないか」 「ごんべは私をなんだと思っているのですか」 悪い、冗談だ。 と彼がいう前に「それはそれで良いですね」と言い放てばごんべは目に見えて顔が凍りつく。私ならやりかねないと、言いたげな顔で。 「俺の骨を抜いたら後はどうする」 「そうですね、盃には出来ませんから箸にでもしましょうか」 「普段使いを考える軍師様は流石だなあ」 「声が震えていますよ、ごんべ」 隆景は意地悪だなあ、と膝の上に仰向けになるごんべのその頬に手を添えると、顔を動かして摺り寄せてくる。先ほどかいた汗が冷えて冷たくなっていた。それにじわりじわりと私の熱が吸われていくようで、私の熱がごんべに溶け込んでいくようで、心地よい。 「俺の骨を抜いたら、そのあとにはお前の愛を詰めてくれ」 俺はそれで立って生きていける。 また顔を引き寄せられて口付けられる。舌を絡めて、吸われて、それこそ骨を抜かれるような心地に身体が震えてしまう。 「もちろんです」 だから貴方も、私の骨を抜いた責任をとって、この身を貴方の愛で埋め尽くして欲しい。 2015/12/22 |