※現パロ 「俺はこのままだと駄目な人間になる」 人のベッドに横たわりポテチを貪るその姿は、どう見ても既に駄目人間だろう、と思ったがあえて口には出さなかった。カスをこぼすな。 「俺はさあ、自立した人間になりたくて実家を出て一人暮らしを始めた訳よ。あの家にいるとみんな周りがやってくれちゃうからさ」 パリパリと口へポテチを放り込みながら喋るこの男・ごんべは日本屈指の大企業・織田財閥の御曹司である。実家は言わずもがなの豪邸で専属の御世話係なんてものもいたらしい。それがどうしてかこの郊外の住宅街のマンションに単身引っ越してきた。まあ、理由は庶民からしてみれば贅沢過ぎて殴りたくなる程度の事だ。それでも本人にしてみれば深刻な事だったんだろう。 俺とごんべは高校は同じだったが、ごんべが引っ越してくるまではお互い顔もろくに知らない関係だった。それが今こうして互いの部屋に気兼ね無く行き来できる関係になったのは、たまたま帰宅時間が重なって、たまたま隣のマンションに一人暮らしと知って、なんとなく夕飯にごんべを誘ったのが発端だった。 「だってさ、秀吉さんは優しいし、ねねさんの料理は美味しいし、三成は勉強教えてくれるし、正則は一緒にゲームしてくれるし。この家居心地良すぎるわ」 わあー、とごんべが枕に突っ伏した。おまえ口の周り油だらけだっただろやめろ。 「で、このまま秀吉さん達に御世話になってたら実家出てきた意味がなくなると思う訳よ。清正しってるか。俺、清正に夕飯誘って貰ってから自炊したことないんだぜ」 そういえばそうかもしれない。こいつは朝は食わないし昼は買ってるし(それをおねね様に言ってからは朝昼の弁当を持たされる様になった)自炊する機会は夕飯ぐらいしか無いはずだがその夕飯の時間は必ずうちにいる。 「料理しないから掃除も滅多にしないしなんか洗濯物も気づくとねねさんが洗ってくれてるし俺本当何もしてねえ」 そしてその洗濯物は俺の部屋に収納されている。もうさして気にする事も無い事象である。 「だからさ、俺もう今日から自分で飯も洗濯もしようと思うんだ。いつまでも人に甘えてばかりじゃいけないし」 「別にいいんじゃねえの?誰もお前がいても気にしない、というか今更いない方が気になるんだが」 「止めるな清正。俺はもう決めたんだ。今日から自分の力で生きていくって!」 がばっと布団から起き上がり決意を固めた様に拳を握る。一年程度の付き合いだがこいつは言い出したら聞かない頑固者だ。まあだからこそ実家から出てきたんだろうけども。 「つーか、お前、あれだ、俺に対しては何もないのかよ」 「なにが?」 いやまあ、俺は三成みたいに勉強教えてやる事も出来ないし、ゲームには付き合うが正則ほど騒いでやらないし、特にこいつにどう思って欲しいとか無いけど。無いけども。 「やっぱいいわ。なんでもねえ」 「うわ、またそういう事いうし」 いつもそうだよな、と口を尖らせて足で背中を押してくるのもごんべのいつもの癖だ。 「ま、そういう清正が好きなんだけどな」 「…は?」 なんだって? ぐいぐい押されてほぼ下を向きかけていた顔を上げて振り返ろうとした。 「清正ー、ごんべー!ごはん出来たよー!」 「はい!いただきます!」 「ちょ、待て、おまえ…!」 一階からのおねね様の呼び声に元気よく返事をし俺の背を踏みつけて部屋からごんべが飛び出していく。お前今日から自炊するっていわなかったか。前言撤回。俺はあいつほど意志薄弱な人間を知らない。 2012/02/28 |