誕生日会


「硝子! 誕生日おめでとうー!」

パチパチとクラッカーを鳴らす音とともに声を揃えると、部屋の扉を開けた硝子は目を丸くして驚いていた。
「夜、ちょっと部屋に来てほしい」とだけ呼び出していたから、まさかこんな準備がされているとは思っていなかったのだろう。呆然と立ち尽くす彼女の姿に、企みが成功した嬉しさがこみ上げてくる。

「……ありがとう」
「ベタやけど、ちゃんと輪っか作って飾り付けもしてんよー!」
「ほんとだ。可愛いじゃん」

フッと柔らかく笑った硝子を部屋の真ん中に座らせ、テーブルの上に手作りのケーキを置く。甘いものが苦手な彼女のために、甘さを極力控えめにして焼き上げた自信作だ。

「俺らも頑張ったんだよな? 鶴折ったりしてさ」

腕を組んで誇らしげに胸を張る悟に、私は思わず苦笑いを浮かべた。

「……それ、どっちかっていうと入院してる人向けじゃない?」
「そうねん……千羽鶴やろうって言われた時は、さすがに止めてんけどね」
「悟は初めてだからね、こういう催し」
「……うるせ」

傑にからかわれて、バツの悪そうに視線を逸らす悟。そのちょっと恥ずかしそうな横顔が面白くて、自然と胸の奥から笑いがこぼれた。
奇跡的に、私たちは11月の硝子を皮切りに、12月の悟、1月の私、2月の傑と、毎月順番に誕生日が続いていく。冬は暗くなるのが早くて、楽しいイベントも少ない。だからこそ「毎月みんなで誕生日祝いをしたらどうか」と思い立ち、悟と傑に持ちかけたのがすべての始まりだった。2人は二つ返事で賛成してくれ、こうして今日、第一弾となる硝子の誕生日会が開催されたのだ。

「さ、硝子さん! 今年の抱負をどうぞ!」
「えー、特にないけど……お前ら、あんま怪我するなよ」
「それ抱負じゃなくね!?」
「私は硝子に迷惑かけてないもんねー?」
「唯は怪我しても隠すから、もっとタチ悪い」
「……すみませんでした」

チクリと刺されて思わず縮こまると、傑が可笑しそうに肩を揺らす。ケーキを口に運びながら取り留めのない雑談を交わしていると、時間はあっという間に過ぎていった。
ひとしきり盛り上がったところで、私と傑は3人で用意していたプレゼントを硝子の前に置いた。

「はい、これは3人からのプレゼント! タバコとなんか良さそうな日本酒」
「ありがと。よく買えたね」
「私なら絶対に年確でアウトやったんやけど、髪を下ろしてダル着の傑を派遣させたら年確なしでいけたよ」
「……まあ、夏油ならそうだろうね」
「私の見た目に言いたいことでもあるのかな、硝子」
「ナンデモアリマセーン」

お世辞にも高校生に贈るようなラインナップではないけれど、硝子が一番喜ぶものをと考え抜いた結果だった。それにしても、タバコも酒も高専に入った時から嗜んでいるらしいけれど、一体いつその味を知ったのだろう。硝子の実家もなかなか一筋縄ではいかないのかもしれないな、とぼんやり思う。

「あとこれは、私から個別にプレゼント」

机の引き出しから小さな紙袋を取り出し、硝子に手渡した。

「え、いいの?」
「うん。タバコとかお酒ほど嬉しくないかもしれんけど」
「唯がくれるものなら何でも嬉しいよ。開けていい?」
「どうぞ!」

包装紙を破って出てきたのは、肌触りの良い寝具用のアイマスクだった。たまに酷いクマを作って教室に現れることがあったので、ちゃんと熟睡できていないのではと心配になって選んだものだ。

「実は私もお揃いで買っとるげん、ほら」
「……ありがと。早速使うね」

愛おしそうにアイマスクを見つめたあと、硝子は目を細めて私の頭をポンポンと優しく撫でてくれた。その手つきの温かさに、やっぱり硝子のことが大好きだなと胸が熱くなる。

宴もたけなわとなり、誕生日会はお開きを迎えた。 三人を見送って部屋の片付けをしようとした時、ふと床の上に視線が留まる。そこには、見覚えのある色の携帯が落ちていた。
(悟の携帯だ……)
届けてあげようと拾い上げ、ドアノブに手をかけた瞬間、向こう側からドアが叩かれた。開けると、ちょうど携帯を探しに戻ってきた悟が立っていた。

「携帯忘れてたから取りに来た」
「あ、うん、私も今気づいて届けに行こうとしとってん。はい」

手のひらにスマートフォンを乗せて渡す。「じゃあおやすみ」とドアを閉めようとした私を、悟の低い声が引き止めた。

「……あのさ」
「ん?」
「部屋に置いてあるそのクマのキャラ、好きなの?」

悟の視線は、私のベッド脇に置かれたぬいぐるみに向けられていた。

「あー、リラックマ? うん、好きでちょこちょこ集めとるげん」
「ふーん。分かった」

それだけ言うと、悟は満足したのか背を向けて自分の部屋へと戻っていった。
(何だったんだろう……)
ぽつんと取り残された廊下で、首をかしげる。悟もリラックマを気に入ったのだろうか。
――もしそうなら、今度の悟の誕生日には、リラックマのキーホルダーでもあげようかな。
少し早い次の月のお祝いに思いを馳せながら、私はゆっくりとドアを閉めた。