同級生
重い瞼を引きずり上げるようにして迎えた朝。結局ろくに寝付けないまま、指定された時間に教室へと足を進めると、扉の向こうから賑やかな話し声が漏れ聞こえてきた。
6月。それが私の高専でのスタートだ。すでに4月に入学していた3人より、2ヶ月遅れての編入になる。少人数で馴染みやすい環境ではあるものの、問題はそこじゃない。問題は、その3人の中に昨日出会った、ちょっと怖い人が含まれていることだ。
マイナスからのスタートは確実。別に好かれたいわけじゃないけれど、向こう4年間の高専生活を嫌われたまま過ごすのは胃が痛い。まずは好感度をせめて「ゼロ」まで戻す——最低限、好きでも嫌いでもない“ただのクラスメイト”を目指そう。
息を小さく吸い込み、固まっていた足を一歩踏み出して扉を開けた。
教室に足を踏み入れると、まず手前にいたのは昨日の白髪の男だった。案の定、こちらには欠片も興味がない様子で、頭の後ろで手を組んで天井を仰いでいる。その隣には、特徴的な前髪と大きなピアスが目を引く男子生徒。一番奥には、ショートカットに泣きぼくろが映える、綺麗な女の子が座っていた。
……本当に全員、同い年なんだろうか。大人びた雰囲気に一瞬圧倒されそうになる。
「じゃあ唯、簡単に自己紹介を頼む」
教壇に立つ夜蛾先生に促され、私は背筋を伸ばした。
「はい。……石川から来ました、中島 唯です。よろしくお願いします」
頭を下げると、白髪の男以外のふたりがぱらぱらと軽い拍手を送ってくれた。
「唯は一般家庭の出身で、呪術の知識もまだ浅い。困ったことがあれば、悟に聞くといい」
「はぁ? なんで俺が」
「お前が一番、呪術界の事情に精通しているからだ」
「……ちっ」
あからさまな舌打ちに、胸の中で小さな溜め息をつく。……うん、この人には頼らないようにしよう。
知識がないと言っても、幼い頃から呪霊は見えていたし、弱いものなら自分で祓い続けてきた。そこまで足引っ張りにはならないはず——この時の私は、まだそんな呑気なことを考えていたのだった。
「ところで先生、私たちの自己紹介はしなくていいんですか?」
ふいに助け船を出してくれたのは、真ん中の席の男子生徒だった。
「あぁ、そうだったな。お前たちも簡単に名乗ってくれ」
先生の言葉を受け、席についていた3人が順番に口を開く。
「夏油 傑です。よろしくね、中島さん」
見た目は少し厳ついのに、声も物腰も一番柔らかくてホッとする。
「家入硝子。よろしく」
どこかサバッとした雰囲気の紅一点。近くで見るとやっぱり可愛い。
「……五条悟」
そして最後は、やっぱり苦手なあの男。名乗りすら最低限で、こちらの顔も見ようとしない。
「よし。じゃあ唯は硝子の隣に座れ。さっそく授業を始めるぞ」
こうして、不安と少しの覚悟を胸に抱えたまま、私の高専生活1日目が始まった。