あの日の返事


朝起きてからというもの、失踪していた一週間の穴埋めをするかのように、任務の報告書作成や夜蛾先生との面談やらで慌ただしく一日は過ぎていった。 ようやく一息ついた頃には、すでに午後5時を回っていた。 部屋に戻り、悟に伝えるべき言葉を何度も頭の中で整理していると、あっという間に2時間が経過していた。私は慌てて部屋を飛び出し、約束の屋上へと階段を駆け上がった。
重い鉄製のドアを押して屋上へ出ると、冷え切った冬の夜気の中に、すでに悟の姿があった。 その首元には、私がプレゼントしたマフラーが巻かれている。

「お待たせ!」
「おう。俺もさっき来たとこ」

そう言う悟の頬と耳は少し赤く染まっており、寒空の下で私を待っていてくれたのだと分かって、胸がじんわりと温かくなる。

「マフラーどう? 使いやすい?」
「あぁ。正直舐めてたけど、首元温めると案外寒くないもんだな」
「やろ? 首には太い血管通っとるからあっためるのが効果的ねん」
「硝子みたいな説明すんなよ」

顔を見合わせると、どちらからともなく小さく笑いがこぼれた。 やっぱり、悟と一緒に過ごす時間は居心地がいい。
ふと、悟の表情から戯れが消え、真面目な顔つきになった。彼は私の方へ向き直ると、ゆっくりとサングラスを外した。 露わになった蒼い瞳が、まっすぐに私を射抜く。

「それじゃ、本題。……少し時間空いたからもう一回言うけど、俺は唯が好きだ。付き合って欲しい」

低く静かな声と、一切のブレもない真剣な眼差し。 普段の飄々とした彼とは違うその熱量に、私の心拍数は一気に跳ね上がった。私は深く一呼吸置くと、胸の奥に溜め込んでいた想いをひとつずつ言葉にし始めた。

「……私、高専に入った当初は悟のこと苦手やった。態度も冷たいし口も悪いし、絶対この先も仲良くなれんって思っとった」
「……悪かったな」
「あ、まだ終わりじゃないよ。そんで……少しずつ悟と話すようになってさ。面倒見がいいところとか、意外と人のこと気遣っとるところとか知って……どんどん惹かれていったんよ。そんで、夏の花火大会の時に、私も悟が好きやって気付いた」

一度言葉を切り、ぎゅっと拳を握りしめる。

「でもその後に、一緒に任務に行った篝さんが目の前で亡くなって……私もいつ死ぬか分からん、そうなったら悟と付き合っても悟を一人にしてしまうんじゃないかって思うようになって、告白の返事を保留にしててん」
「……なるほどな」
「それで、ずっと結論が出せんで悩んどったら、傑が『今生きてる時間を大切にしなよ』って背中を押してくれて。今日……ちゃんと返事を伝えに来た」

私は悟の目をじっと見つめ直すと、小さく頭を下げて、震える右手をまっすぐ彼へと差し出した。

「私も、悟が大好き。……私でよければ、よろしくお願いします」

言葉にして伝えた瞬間、猛烈な緊張が全身を駆け巡った。 彼の反応が怖くて思わずうつむいてしまう。すると次の瞬間、差し出した手をグイッと力強く掴まれ、そのまま大きな胸の中へと一気に引き寄せられた。

「はーーっ……! やっとだ……。ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ、お前は」

ぎゅーっと、私への愛おしさの強さを証明するかのように、力強く抱きしめられる。 耳元に押し当てられた悟の胸からは、ドクドクと激しい鼓動が伝わってきた。私と同じように、悟もずっと緊張していたのだと分かると、たまらなく愛おしい。

「待たせてごめんね」
「ほんとに。もうあと数日遅かったら、告白自体無かったことにしてたからな」
「それ、傑も言っとった」
「うわ、なんかあいつに見透かされてるみたいで癪だな」
「ふふ、悟らしいってことやよ」

ほんの少し悟の腕の力が緩み、胸元から顔を見上げるとバッチリと視線が合った。 あぁ、本当に大好きだな。 心の底から湧き上がる愛おしさに耐えきれず、私は彼の背中にそっと腕を回すと、胸元に顔を埋めながら「悟、大好き」と小さく呟いた。

「……あーーもう! 可愛いことすんなよ……!」

絞り出すような甘い声とともに、私は再び彼に強く強く抱きしめられた。
こうして私と悟は、1月1日に付き合うことになった。 初めての両思い、初めての彼氏。 これから二人で重ねていく未来がどんなものになるのだろうと、胸いっぱいの幸せな想像で満たされていた。