報告
昨晩は興奮が冷めやらず、結局ほとんど眠ることができなかった。 悟が、私の彼氏になった。 その事実があまりにも嬉しくて、幸せで、布団の中で一人ニヤケが止まらない。 これから二人でデートに行ったり、旅行に行ったりするのかな。それに、キスとかも……。
(……やばい、恥ずかしすぎて死にそう)
頭の中で駆け巡る未来の想像に悶え転がりながら、1月2日の日中はあっという間に過ぎ去っていった。
そして、その日の夜。 悟と事前に相談し、硝子と傑の二人には直接一緒に報告しようということになり、悟の部屋に集まることになった。 私は緊張とソワソワした気持ちを抑えきれず、集合時間よりも少し早く彼の部屋へと向かった。
「や、やっほ……」
「……おう」
ドアを開けて中に入ると、お互いにどこかぎこちない挨拶を交わす。 これまでは何の気兼ねもなく入っていた悟の部屋なのに、彼氏の部屋だと思うと急に余計なことを意識してしまって、まともに顔も見られない。 悟が床に敷いてくれたクッションの上に腰を下ろすと、すぐ隣に悟が腰を下ろした。
(ど、どうしよう……! 緊張して何話せばいいのか全然思いつかん……!)
無言の時間が流れ、室内には気まずい空気が充満する。
「「…………」」
「あのさ!」「なぁ、」
沈黙を破ろうと口を開いたタイミングが見事に重なってしまい、思わず顔を見合わせて固まった。
「さ、悟からどうぞ!」
「お前から言えよ」
「いや、私の話なんて大したことないし、後でいい!」
「……じゃあ。唯は、今年実家に帰らねーの?」
「あ、確かに……」
言われてハッとした。 本来なら年末に帰省する予定だったのだが、私が一週間失踪してしまったせいで予定が立ち消え、そのままになっていたのだ。高専に戻った日に母にはメールを送り、昨日電話で無事を伝えたけれど、やっぱり一度ちゃんと顔を見せに帰った方が安心させられるだろう。
「そしたら、明日の夜行バス取れたら帰ろっかな。任務もしばらく様子見って言われとるし」
「その方がいいな。夜行バスの空きあるか、補助監督に確認しとくか?」
「大丈夫、自分で調べるよ」
「ん。無事着いたらまたメールして」
「分かった。お土産も買ってくるね」
「で……唯の話は何だったの?」
再び私に話題が振り戻され、私は思わず言葉を詰まらせた。 本当にたわいのない話題なので、正直言わなくてもいいくらいなのだが、ここで変に濁したら余計に勘ぐられてしまいそうだ。私は意を決して口を開いた。
「実は今度、美容院行く予定があって……髪の毛切ろうか、このまま伸ばそうか悩んどってさ。……悟は、ロングとボブならどっちのが好きなんかなって」
チラッと横目を向けると、悟は腕を組み、うーんと真剣に考え込むポーズをとっていた。こんなくだらない相談で悩ませてしまって申し訳ないなと思いつつも、彼がどんな女の子の髪型が好みなのか、どうしても気になってしまう。
しばらくして、悟は私の方へ視線を戻すと、ぽつりと呟いた。
「見てみたいのはロング。大人っぽいのも似合いそう」
そして、少しだけ私から視線を外し、耳の先をほんのり赤く染めながら言葉を続けた。
「……でも、正直髪型なんて何でもいい。どんな髪型でも、可愛いって思うし」
「……っ!」
不意打ちで放たれた甘すぎる言葉。 途端に体温が跳ね上がり、顔がカッと熱くなった。何も言い返せず、ただただ真っ赤になって固まってしまう。こんなストレートな言葉ばかり投げかけられたら、私の心臓が保たない。
「悟ー、来たよー」
その時、救世主のようにノック音と共にガラリとドアが開き、傑と硝子が入ってきた。私は二人に照れているのがバレないよう、必死に手で顔を仰いで熱を逃がそうとした。
「それで、話って何だい?」
二人は机を挟んで、私の正面に向かい合って座った。私が悟と目配せを交わすと、悟が話を切り出した。
「俺と唯、昨日から付き合うことになった。別に何か変わるってわけじゃねーけど、一応報告な」
「……そんな感じです」
照れくささに耐えながら二人の表情を盗み見ると、案の定というか、全く驚いた様子がなかった。 それもそうだ。傑は事前に悟から告白したことを聞かされていたし、硝子には私自身が悟のことを好きだと打ち明けていたのだから。予想していた反応とはいえ、少しだけ拍子抜けしてガッカリしたような気持ちになる。
「おめでとう。ここまで長かったね、悟」
「……ほんとにな」
「唯、最後にもう一回確認するけどさ……本当に五条でいいの? 別れるなら今のうちだよ」
「おい硝子! 何で付き合って早々、別れの提案してんだよ!」
「……ごめんやけど硝子、私、悟以外考えられんし、別れる選択肢は全くないげん」
「はいはい、早速ごちそうさま。ほら夏油見てみなよ、五条のこのデレた面」
「本当だね、記念に写真でも撮っておこうか」
「ちょっ、お前らやめろって!」
「アハハッ」
口では文句を言い合いながらも、二人が心から私たちのことを祝福してくれているのが伝わってきた。それは付き合う前からずっと変わらない彼らの優しさだ。だからこそ、こうして面と向かって報告できたことが嬉しくて、たまらなく幸せだった。
その後は4人で久しぶりにゲームを囲み、夜が明けるまで大騒ぎして楽しんだ。 恋人同士になっても、この4人の関係性や居心地の良い空気感はきっと変わらない——そう確信させてくれる、温かい夜だった。