星谷悠太には、大切な女の子がいる。
 それは恋愛的なものではなく、家族愛に近い。あまり近いとはいえないが、遠く離れているという訳でもない、会いに行こうと思えば行ける絶妙な距離に住む親戚の女の子。同じ髪の色、同じ色の瞳、一緒に居るとまるで兄弟のようだと互いの両親が笑い合う程の顔立ち。当人である悠太達も良く気が合い、幼い頃は会う度にふたりで遊んでいた記憶がある。無邪気に笑う顔が好きで、悠太はその女の子のことをまるで実の妹のように可愛がっていた。
 それは、十年以上経った今も続いている。

「ゆうちゃーん!」
「なまえー!」

 駆け足で駆け寄ってきた小さな少女を受け止め、そのまま体を持ち上げてぎゅうと抱きしめる。「痛いよお」と笑い混じりにのんびりした声が聞こえたが、そんなことは今些細なことだ。

「全然連絡できなくてごめんなー」
「いいよお。ゆうちゃん、綾薙学園に入ったんでしょ? 寮生活とか大変そうだけど、学校生活を楽しんでるなら私はそれが一番嬉しいな」
「なまえ〜!」

 笑顔を浮かべるなまえに、感動と喜びのあまり効果音が付きそうなほど盛大なハグをする悠太は気付いていなかった。唖然とした顔でその様子を見ている者達の姿を。

「ほ、星谷……?」
「あっ、月皇! なになに、どっか出掛けてたの?」
「あ、ああ。まあな、少し本屋に用があって……ところで、星谷、その子は」
「ん? あっ、この子? なまえっていうんだー、俺の家族〜」
「こんにちはー」

 満面の笑みで答える悠太に抱きかかえられている少女――なまえがピッと片手を挙げながら笑顔で挨拶をする。


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