書き出し
ナゴミの一日は、食事のメニューを考えることから始まる。
料理は元の世界にいた頃から日常的に行っていたことではあるけれど、それをほぼ毎日――それも、こうなるまで関わることもなかった相手に振る舞うというのは、やはり緊張してしまう。
万が一のことを考えてアレルギーなどないか確認し、全員でこの世界の食料をひと通り味見し、元の世界の食料と似ているものをリストを作ったことで当番制になった料理にレシピを提供することができた。
簡単で、かつ大量に作ることができ、栄養もなるべくバランスの取れたもの。
そうすると必然的にレパートリーは決まってくるのだが、バロンの書斎には料理本も多く置かれていたため、試行錯誤しながら現状維持に至っている。
作業をする時間は、マヒロにとって何より心穏やかに過ごすことができる。
共に異世界に連れてこられた同級生たちは総じて達観した――というか、うまくオンオフの切り替えができるタイプなのだとマヒロは思っている。ふとした瞬間に見せる寂しそうな顔だとか、どこか夢見心地のような瞳だとか、きっと様々なものをみんな心の内に抱えていて、けれど他人に見せようとはしない。
召喚された同級生たちは今や「仲間」といっても過言ではなく、ある意味「家族」に近いのだと思う。
だから、不必要に過干渉になる必要はないのだ。
現状、帰る目処は一向に立っておらず、この共同生活を続けなければならない。なら、お互いに距離を保ちながら、ゆっくり歩み寄っていけばいい。
試験管をそっと揺らし、液体の色が変化していくさまをじっと見つめる。ひとつとして見逃しはしないと言わんばかりの執念じみた目つきは、カイの探究心を表していた。
実験室は現在カイが作業しているスペースにだけ明かりが灯されていた。時刻は草木も眠る真夜中で、こうして実験に没頭すると、頭の中を整理することができるのだ。