百合
今トリッシュ夢を書いているのですが書きたいとこまで辿り着きそうもないので最初に思いついたとこだけメモ。
異性だからできる恋愛もあればその逆もまたしかり。なので美味しければなんでもいいと思ってます。
トリッシュ視点一人称。原作終了後。
デフォ名なし。彼女表記。
顔を傾け、唇を寄せ、触れる。重なり合うのは肌と肌。温かさは指先と変わらない。けれど他に同じものを思い浮かべられないくらいに柔らかかった、と思う。たぶん、きっと、それは特別なものだった。
彼女はあたしを見た。あたしも彼女を見た。あたしは彼女の唇がこんなにも赤かったのを初めて知った。彼女の目にはどう映っているのだろう?あたしよりもずっと遠いところばかり見ている彼女は。
「どうして?」
彼女は小首を傾げた。どうして?──子供みたいな問い掛けだ。どうして日は沈むのか。どうして林檎は落ちるのか。そんなことを訊ねる響きだった。そんな、あたしたちにはどうしようもないことを訊ねる響きだった。
彼女の目に驚きはなかった。困惑、失望、嫌悪。そういった類いのものは彼女の外側にあった。彼女の中にあるのはもっと静かで、穏やかなものだった。
だからあたしは──彼女があんまりにも無垢であったから──あたしは、いつもみたいに笑うことができた。
「なんとなく」
そう言うと、彼女も目元を緩めた。
「なぁにそれ」
鈴の転がるような、なんて使い古された言葉が私の中に浮かぶ。あたしはもっと革新的で的確な言葉を使いたかったから、それには触れないことにした。そうしたことを正しく言葉にするにはまだ早すぎる。それは恐らくあたしが大人になってからのこと。そしてきっと彼女はそれを待ってくれるだろうことをあたしは諒解していた。
彼女は猫のように目を細め、猫のように身を乗り出した。その赤い唇が近づくのをあたしはじいっと見ていた。その赤い唇が吐息をさざめかせ、あたしのそれに重なるのを。あたしはじいっと見ていた。彼女の深い睫毛や目蓋の震えや、そうした些細なことがよく見えた。そんな些細なことがあたしの胸を温かなもので満たした。
「どうして?」
あたしが問うと、彼女は「なんとなく」と笑った。子供みたいに無邪気で、悪戯っぽい笑い方だった。そうしたものがいつの間にかあたしの日常になっているのを知った。彼女は母であり友であり姉であり、そのいずれとも異なる何らかの存在であった。その名前をあたしはまだ知らなかった。それをこの先の人生で知りたいと思った。
「あたし、恋をしていたわ」
「ええ」
「あなたもそうだったのよね?」
「……そうね、」
彼女はほんの少し苦い笑みを洩らした。それはたぶん悔恨と呼ばれるものだろう。彼女の胸はまだ痛んでいる。きっと生涯その空洞が埋まることはない。
──あたしと、おなじように。
「でも私、あなたのことも好きよ。あの頃の想いとは違うけれど」
彼女は囁いて、あたしの手に自分のそれを重ねた。あたしのとは違って、膿むように熱かった。だからあたしのと重ねるのがちょうどいいのだと彼女は言った。
「……けど、これもきっと恋よ」
彼女はあたしよりもずっと歳上だった。正確なところは分からないけれど、あたしよりも多くのことを知っていたし、あたしの目とは違うものを見ていた。彼女の目はいつだって遠くに馳せられていた。
それでも今、彼女の目は頼りなく揺れていた。慎重に口を開いて、ゆっくりと言葉を紡いでいた。正しいことなんて分からないといった顔だった。
だからあたしはほっとして──吹き出した。
「ならもうなんにも怖くないわ」
彼女の体を抱き締めながら、あたしは目を閉じた。彼女の手は彼よりもずっと小さかったことを思い出していた。ずっと小さくて、なのに同じように心強かったことを。
カテゴリ:ネタ
2019/05/08 23:48
2019/05/08 23:48
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