ブチャルート
追記からブチャルートアナザー。
原作ネタバレしかない。
ブチャラティが消える前に時間を巻き戻して復活に成功したけど代わりに主人公が力を使い果たしちゃったよ、って話。
死ネタです。
──あぁ、よかった、と。彼女は溜め息を吐くようにして微笑んだ。
「よかった、間に合って」
微笑んだ、彼女は──はらはらと崩れていく。花が散るように。雪が降るように。はらはらと溶けて、消えていく。その指先から、足元から。消えていく、何もかも。彼女を構成するもの、すべてが失われていく。
「バカな、」
上擦った声は確かにこの体から。冷えきっていたはずのこの身、心臓が、今はけたたましい音を立てている。警告音。この先を聞いてはいけない、見てはいけない。
……知りたく、なかった。
だが現実は変わらない。オレの体は体温を取り戻し、その代わりに目の前の彼女からは失われていく。ありとあらゆるもの、その一片でさえも。
──それは、代償だった。
「でも試してみる価値はあったわ」
彼女はなんの翳りもなく笑う。本当に、心の底から。笑う彼女に恐怖の色はない。怯えのひとつさえも見せず、なのに今この瞬間も彼女の体は崩壊を止めない。少しずつ、だが確実に。
──オレが取り戻しただけ、彼女の体から失われていくのだ。
「……あなたのせいじゃないのよ」
その思考を見透かしたかのような目。大人びた眼差しは諦念に濡れながら、だというのに途方もない穏やかさが広がっていた。いや、諦めがあるからこその静謐。それがどれほどオレの胸を抉るとも知らず。彼女は笑って、オレの頬を撫でた。その指先はまだ温かかった。温かかった、だからこそ──泣きたくなった。
「スタンドは精神エネルギー、生命エネルギー……だからこれはきっと私が弱いせい。だからあなたが気に病むことはないの。だからあなたは……悲しまないで」
「……無茶を言うな」
ようよう絞り出した声は情けないほどに震えていた。だがそれが真実で、本心だった。冗談じゃない、そう思った。オレが望んだのはこんなことじゃない。オレは自分の結末に納得していた。オレは彼女の死なんか望んじゃいなかった。オレは、ただ、
「お前に、生きてほしかった……!」
彼女はずっと生を諦めていた。同時に焦がれてもいた。それが何故であるかなど知らない。だがこの一年余り、彼女は少しずつ前を向くようになっていた。どこか遠くを見つめる眼差し。空虚を抱えたそれが日増しに光を取り戻していくのを喜ばしく思っていた。いつかは彼女も──彼女と共に『生きて』みたかった。
そうだ、そう願っていたんだ。本当は、ずっと前から。
「……その言葉だけで、じゅうぶん」
彼女は綻ぶように笑った。花開く身を惜しむことなく、彼女は。
「あるべきところへ帰るだけだ……って言ったのはあなたよ。だから、さよならは言わないわ」
その代わりに、と。
彼女は流れるような所作で首を伸ばす。鼻先が触れ合い、吐息が掠める。顔を傾け、そして──
「好きよ、あなたを、あなただけを……愛しています」
微笑みが溶ける。宙に、日差しに、街並みに。伸ばした手は残滓を空しく掻くばかり。温もりも、感触も、今ではもう幻。残るのは嗚咽、そして彼女の与えてくれた心臓の切ない痛みだった。
カテゴリ:ネタ
2019/06/06 04:19
2019/06/06 04:19
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