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またちゃんと時間とってお返事するつもりですけど取り急ぎです。
コメント嬉しかったのでジャイロの出番増やします。私もジャイロ好きです。一緒に走りたいのは誰よりジャイロ、ていうか未だに旅は終わってない感覚です、ジャイロは今も隣にいます(妄言)
ジャイロとなら大家族になれそうですよね。革命は起きるし波乱に満ちた人生だろうけどでも最期は笑顔で迎えられそう。っぱ結婚するならジャイロでしょ!(個人の主観です)
実は7部連載、剣か君かってノリで始めました(乙女ゲーマーにしか通じないやつ)
ディエゴは夢でジョニィが恋ならジャイロは愛だと思ってます。一緒に不幸になれる的なアレ。まぁどのルートでも夢女的にはオールオッケーです!(?)

というわけで取り急ぎジャイロルートです。追記よりどうぞ。レース終わったあと、夢主一人称視点です。






 息が上がる。心臓が悲鳴を上げる。もう無理だって心が叫ぶ。
 でも私は止まらなかった。ドレスの裾を摘まんでひたすらに駆けた。
 どうして踵の高い靴を履いてきてしまったのかしら。乗馬服に着替えればよかった。それで《隠者号ハーミット》に乗って、『彼』を追いかけるのだ。私の愛馬と、彼のヴァルキリー。一緒に走ったらどんなに楽しいだろう──?

「──ジャイロッ!!」

 ニューヨークの港は人でごった返していた。これから旅立つ人、それを見送る人。人波の中、けれど私にはすぐに『彼』を見つけることができた。その事実が私に勇気を与えてくれた。
 何事かと私に視線をやる人々のことは視界の隅でぼやけるだけ。榛色の長い髪に大きな背。その体がゆっくりと振り返る。それだけが唯一必要なもので、それこそが『証』なのだと私は思った。

「……なんだ、見送りにきてくれたのか」

 ジャイロはニッと口角を持ち上げた。つばが持ち上げられ、翡翠の瞳が私を捉える。
 私は駆け寄り、息を整えた。「ええ、」なのに答える声は上擦ったまま。心は逸り、呼吸の方法さえ覚束ない。目眩がして、このまま意識を失ってしまえたらどんなに楽だろうとさえ思った。そうしてすべてなかったことにして、忘れてしまえたら。

 ──そしたら私はなんの疑いも持たず、貴族としての責務を全うできたのに。

 なのに私は追いかけてきてしまった。ジャイロが祖国に帰ってしまう。それを聞いて、いてもたってもいられなかった。これで終わりなんかにしたくなかった。今まで当然のように思い描いていた未来を捨てることになっても、それでも私は──

「連れていって、私も」

 ジャイロが目を見開く。それはもう心からの驚き。信じられないって顔をして、でもすぐ眼差しを改めた。

「ダメだ、あんたは侯爵家を継ぐんだろう」

 大人が子供に言い聞かせるみたいな語調。実際その通りだ。ジャイロは私よりも歳上で、私よりもずっと沢山のことを知っていた。
 彼があんまりにも冷静だったから、私は言葉に詰まった。途端に羞恥が体を駆け抜ける。彼は大人だ。
 ──それに対して私は?
 走ってきたせいで乱れた髪や、形振り構わなかったのが恥ずかしくなって、私は唇を噛み締めた。
 私は間違っていたのだろうか。こんなのは勢いだけで、いずれ後悔するのだろうか。わからない。でもジャイロはそう思ってる。その証拠に彼は笑った。

「家に帰りな」

 待っている人がいるだろう、と彼は諭す。それは家族がいる者の言葉だった。守るべき家族。
 私は父の顔を思い浮かべた。私の言葉に怒り、失望を滲ませた父。『息子がいたら』そう父に言わせてしまった。初めてだった。父はずっとそう思っていたのだろうか。母と同じように。私が男だったら、兄がいたら──そうすればすべては上手くいっていたのだろうか。

「嫌よ、もう私に帰る家なんてないわ」

「おい、」

「戻らないわ、私、……ううん、もう戻れない、私は、もう」

 私には何も見えていなかった。
 私はただ母の望みを叶えたかっただけだった。そうすれば母に顧みてもらえると思っていた。もう母はいないのに。なのに私はよき統治者であろうとし続けた。領民のため、なんて綺麗な言葉で取り繕って。本当のところは彼らのことなど考えちゃいなかったのだ。
 私は父を傷つけた。でも私がかつてのままでもきっと家族を傷つける結末を迎えていた。それはきっといずれ生まれる私の子供であり、私は私の母が行ったことを愚かしくも繰り返していただろう。そんなのは嫌だ。私は私の家族を愛したい。あるがままの姿を抱き締めてやりたい。かつての私が望んだように。
 ジャイロは「まさか」と呟いた。先刻よりもずっと大きな衝撃が瞳に浮かんでいた。察しのいい彼にはもう私が選択した道がわかってしまったらしかった。
 そして私はそれを肯定する。何より私自身のために。

「私、これから国へ帰るの。帰ったらすぐに署名をするつもりよ。父も承知しているわ。侯爵家は遠縁の親族が継ぐことになる。私以外の、誰かが」

 告げると、ジャイロは額を押さえた。「嘘だろ」そんな、バカな。「それでいいのか、本当に?」私は頷いた。彼が望もうと望まざろうと関係ない。これは私の選択だ。私だけの想いで、他の誰にも阻ませやしない。

「別にあなたに受け入れてもらえなくても構わないわ。それならそれで私は一人でも生きていく。これからは女も自立する時代よ。それに私、働くのってそう悪いことだとも思わないの」

「あの莫大な財産を捨てるっていうのか?領地を、伝統を?」

 「バカげてる」とジャイロは言う。私もその通りだと思う。楽観的に考えてもこれからの私の人生には多くの障害が横たわっている。長く生きることもできないかもしれない。
 それでも、私は──

「後悔なんてないわ。少なくとも、今は。これからのことはわからないけど」

「いいや、オレにはわかるぜ。あんたは絶対に後悔する」

「そうね、その通りかもしれないわ」

「……バカだな、あんた。とんだ大バカもんだ」

 ジャイロは笑った。泣いているみたいだった。眸には水が張っていて、私にはそれが途方もなく美しいものに見えた。

「けどもっとバカなのはオレの方だ。あんたを突き放せばいいのにできない、……オレは、バカだ」

 ジャイロは私の肩を掴んでいたその手で私を抱き締めた。彼の向こうには遠くまで澄み渡る蒼い空が広がっていた。泣きたくなるくらいに美しい。世界がこんなにも輝いて見える。
 私はきっと生涯この日のことを忘れないだろう。触れ合う頬の温かさを、抱き締める腕の力強さを、祝福に満ちた空の色を。愛おしいと、私は思った。

「迎えに行く、必ず」

「私から行ってもいいのよ」

「バカ言うな。一人旅なんかさせられるか」

 彼の言葉に嬉しくなる。さっきまでは一人でだって生きていくと息巻いていたのに。彼の優しさに、それだけで私の心は満たされてしまう。

「それならあんまり待たせないでね。私、気は長い方じゃないの」

「ワガママなお嬢様だな」

「嫌いになった?」

「いいや、まさか」

 「好きだよ」とジャイロが囁く。たった一言。なのに単純にも私の中の僅かに残っていた躊躇が吹き飛んでしまう。
 私は唇を寄せた。今度は私の方から。触れて、離れて、照れ臭さから私は笑った。

「しょうがないから待っててあげる。五年でも、十年でも」

 たぶん、一生涯だって。
 でもそれを言うのはやめておいた。なんだか癪だったし、五年でも十年でも長く彼と一緒にいたかったから。

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2020/02/02 15:32


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