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監禁
アンケで監禁ネタ希望された方へ&ナランチャお誕生日おめでとう記念に。
いえ、本当はちゃんとしたの書くつもりだったんですが、間に合いそうもないので……。
そもそもナランチャは優しいし絶対的《陽》なので監禁なんかしませんけどね!?でももし衝動的にそんなことしちゃったら顔も合わせられない……って落ち込みそう…………。つまりは、そんな話です。

追記よりナランチャに監禁される小話です。
原作終了後、数年後設定。夢主視点、デフォ名なしネームレスです。






 暗闇の中では音ばかりが明瞭になる。衣擦れも、息遣いも、鼓動さえ、常以上に。響き渡るそれに、私はいつも耳を澄ませる。

「……おかえりなさい」

 扉の開く音がして、私は口を開く。音のした方向に顔を向けたつもりだが、果たして私の意図は通じているだろうか?わからないけれど、「……ただいま」と応じる声に、ホッとする。
 ──ああ、ナランチャだ。少年らしさの残る、声。記憶通りのそれは穏やかで、私の心も平穏を取り戻す。よかった、帰ってきてくれた。それが、今は何より嬉しい。
 扉の閉まる音がして、床が軋んだ。これは、足音。ナランチャのは、普通の男の人より軽やかだからわかる。だから身構えることをせず、私は私を抱き締めるナランチャの腕に身を任せた。

「よかった……」

「うん、」

 ナランチャの呟きに、私は頷く。何が、とは聞かない。たぶんきっと、私と同じ気持ちだから。
 私はナランチャがいなければ死んでしまうだろうし、ナランチャは私がいなければ生きていけないのだろう。平等で、対等で、──正しくないけど、私たちにはこれしかない。それは結構、かなしいことだけど。

「少し、におうわ」

「え、汗くさい?」

「ううん、そうじゃなくて……」

 慌てるナランチャに、首を振る。言っていいのか、悪いのか。迷って、結局私は正直に「血の臭いがする」と打ち明ける。平穏を破るのは怖いけど、でも嘘を吐いたとしたらどんな結末が待っているのかしら?想像は、私の心臓を冷やした。
 しかしナランチャはあっさりと、「返り血かな」と答えた。

「帰ってくる前にちゃんと洗ったつもりだったんだけどなァ〜……ねぇ、そんなに臭う?」

 窺う視線を感じる。悪戯をした子供が、母親の反応を窺うみたいな、そんな目。生憎と私には見えないけど、きっと今の彼はあの美しい紫の瞳を不安に揺らしていることだろう。

 ──私の視界が自由だったら、そんな顔、させないのに。

「……いいえ。私、ナランチャの匂い、だいすきよ。あったかくて、落ち着くから……好き」

「そ、そっかぁ〜!よかった!もう近づくなって言われたらどうしようかと思った」

 弾む声。それでもやっぱり、血と硝煙の臭いは隠せない。声も言葉も少年の純粋なそれであるのに、私を抱き締める手は人の命を奪うことを知っている。そんな今さらのことを、最近は繰り返し考える。

 この手を離さずにいたなら、何か違う結末を迎えることができただろうか。
 私が日本に帰るなんて言わなければ、帰国を何年も先延ばしにしなければ、──彼の大切な人を、守ることができたなら?

「う〜……でもやっぱ気になるからシャワー浴びてくる!」

「洗ってあげましょうか?」

「いっ、いいよそんなの!」

 冗談半分で言うと、体を引き剥がされる。頭に降るのは、慌てふためいた声。少し、熱を帯びている。……抱き締めるのは、いつもナランチャの方からなのに。
 なのに彼は、私を求めない。決して、──今以上は。

「もォ〜……冗談でもそういうこと言っちゃダメだって」

「うん、ごめんなさい」

 冗談だけじゃないし、こんなこと他の誰にも言うつもりはないけど。

「早く戻ってきてね。私、もうお腹空いちゃった」

「わっ、ごめん!そうだよなぁ……もうこんな時間だもん」

 さて、今は何時だろう。窓から差し込む日差しだけでは判断がつかない。室内の暖かさからいえば恐らくは夏時間。夜の六時でも七時でもまだまだ十分に明るいはず。となると余計に感覚だけではわからない。
 そんなことをぼんやりと考えていると、ナランチャが「今は夜の八時だよ」と教えてくれる。察しがいいし、親切だ。尤も、私の目が自由にならないのも彼のせいなんだけど、ね。

「戻ったらすぐ夕飯用意するから!」

 言い置いて、ナランチャは私から離れていく。たったひとつの出口へ──私に背を向けて。

「……この目隠しを取ってくれたら、私が作ってあげるのに」

 呟くと、沈黙が落ちる。でも私の他にももうひとつ呼吸音があるから、ナランチャにも聞こえていたはずだ。彼を責めるような、嘆くような、私の声が。

「……ごめん」

 掠れた声が私たちの間に落ちる。近くて遠い、隔たり。それは一メートルか二メートルか、そんなことも私にはわからない。何も見えない私には、彼が今どんな顔をしているのかさえ。

「でもそれだけはできない。君に今のオレを見てほしくない。閉じ込めておいて今さら、なんだけど……だけど、見られたらオレ、どうしたらいいかわからないんだ」

 だったら最初から、こんなことしなきゃよかったのに。最初から、日本になんて帰らないでって、言ってくれたらよかったのに。そうしたら私、きっとあなたの言う通りにしていたわ。そうしたら私たち、きっと今より幸せになれたわ。

 でもそれは今だから思えることだ。ナランチャがそこまで思い詰めていたなんて、当時の私は想像すらしていなかった。そんな私が、本当に彼の想いを受け入れていたか──今となってはもはや答えの出ない想像だ。
 だから、こうするしなかった。慰めも含めて、そう結論づける。仕方のないことだったのだ。そう思えば、いくらか気が楽になった。

「……私こそごめんなさい。ワガママ言ったわ」

 謝ると、空気が和らいだのを膚で感じた。

「いいんだよ、ワガママくらい、いくらでも言ってくれて」

 私が欲しかったのはそんな自己犠牲ではなかったけれど、これ以上彼を追い詰めたくもなかったから、「ごめんね」ともう一度だけ謝った。

「ちゃんと待ってるから、絶対に帰ってきてね」

 でもこの言葉だって呪いだ。私を忘れないように、という呪い。
 だって、私は彼がいなくちゃ生きていけない。彼が私を忘れたら、私のことが嫌になったら──彼に捨て置かれたら──、私は、この部屋で、孤独に死ぬしかない。彼がこの部屋を出ていくたび、私はいつもそんな未来を想像しているのだ。
 彼は優しいけれど、何より私自身が、永遠を信じていないから。

「大丈夫だよ、すぐ戻るって。約束する」

「……うん、」

 扉の閉まる音がして、私は踞る。
 出ていこうと思えば私はいつだってこの部屋を出ていける。──そう、物理的には。
 ではどうして私はここにいるのだろう。どうしてひとりぼっちで泣いているのだろう。どうして彼の帰りを待つのだろう。

 ──それが愛のためであると断言できたならよかったのに。

 なのに今の私には確かなことなどひとつも言えなくて、私は今日もひとり、空虚な部屋に身を横たえた。

カテゴリ:ネタ
2020/05/20 23:35


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