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マキマさん
次の更新は病んだメロとベイビィ育てる話か、トライアングルンチャの続きか、シーザーちゃんです。

それはそれとして追記からマキマさんです。今週の本誌(71話)のネタバレしかないです。
マキマさんとデンジくんのお食事会の直後の小話。以前メモで書いたのと同じ設定の主人公です。





「おかえりなさい」

 マキマさんの執務室。与えられた書類仕事をしていると、扉の開く音がした。開けたのはマキマさん。赤みがかった茶色の髪を揺らして、彼女は微笑む。「ただいま」マキマさんの声は、今日も麗しい。

「デンジくん、元気そうだったよ」

 デンジくん。彼についての一番新しい記憶は、頭と胴体が切り離された姿だ。悪魔の心臓があるから無事だろうとは知っていたけど、私はその後の彼を知らない。公安は人使いが荒いけど、同様に魔人にも悪魔にも容赦ないのだ。今回の大騒動は後始末も大変だから、以来、私の休日は脆くも崩れ去っている。
 まぁでも、マキマさんが言うから真実なのだろう。デンジくんは、元気。それはいいことだ。珍しく、手放しで嬉しいこと。デンジくんの底抜けに明るい笑顔が心に浮かぶ。デンジくんには、そのままでいてほしい。
 「首を切られたのに大盛りのご飯を食べてた」マキマさんが笑う。思い出し笑い、なんて。マキマさんもするんですね。言いかけて、やめる。デンジくんに関しては、嬉しいことばっかりだ。

「そうですか、よかったですね」

「うん、よかった」

 ──でもフラれちゃった。

 マキマさんは歩を進め、私の前に立った。椅子に座った私と、そんな私を見下ろすマキマさん。開け放たれた窓から生暖かい風が吹き込む。カーテンがばさりと音を立てて沈み込む。マキマさんが太陽を遮る。マキマさんの顔に影が落ちる。マキマさんが、うっそりと笑む。マキマさんが、マキマさんが、……

「フラれちゃった……?」

「そう。旅行に誘ったんだけどね。今はパワーちゃんがたいへんだから、って」

 残念、とマキマさんは言う。肩を竦めて、悲しげに笑う。悲しげに──芝居がかった仕草で。

「それが本音だったらなお良かったんですけど」

「残念だと思ったのはほんとだよ」

「じゃあパワーちゃんに嫉妬しました?」

「さぁ……どうかな」

 マキマさんは煙に巻く。いつもそう。マキマさんについては、わからないことばかり。
 でも本当に悲しんでいるわけじゃないことくらいわかる。そもそも、パワーちゃんをデンジくんと組ませたのはマキマさんだ。アキくんの家に住まわせたのも、三人を早川家と括ったのも、ぜんぶ。だから、こうなることを予期していなかったとは思えない。

「普通は妬くんじゃないですか?ようは恋敵というわけでしょう?」

「そういう欲は薄いんじゃない?」

「曖昧ですね、自分のことなのに」

 言葉を続けながら、なんて薄っぺらな会話だろう、と思う。私は、マキマさんの手駒。そのひとつに過ぎず、デンジくんのような唯一無二でもない。替えのきく、ただの駒。
 だからって、何を思うわけでもないけど。

「悲しんでるなら慰めてあげようかと思ったのに」

「そんな気があったんだ。優しいね」

 冗談を言うと、マキマさんは小首を傾げる。「ちなみに、」さらりと首筋に落ちる髪。とろりとした、キャラメルにも似た色。それをゆっくり耳にかけ、マキマさんは続ける。

「どんな風に慰めてくれるつもりだったの?」

 マキマさんは天才だと思う。その気もないくせ、気を持たせる天才。悪魔っていうのは美しい顔をしているものだとどこかの人間は言ったらしい。その人も、マキマさんと遭ってしまったのかも。かわいそうなことに。

「そうですね……」

 私は立ち上がる。年代物の椅子が軋みを上げる。魔性の目が私を見つめる。私はマキマさんの前に立つ。私はマキマさんを見下ろす。私は、──マキマさんを抱き締める。

「こんな風に、ですかね」

 思えば小さい体だ、と思う。いったいこの身に何を抱えているのだろうか。人類の救済?それとも世界の命運か?争いの林檎は、もしかすると彼女の手にあるのかもしれない。
 そんなことを考えながら、私はマキマさんの頭を撫でた。マキマさんは大人しくされるがまま。「ふうん?」吐息が頬を擽って、なんだか変な感じだ。こそばゆいけど、嫌だとは思わない。マキマさんは、甘い匂いがする。

「結構、悪くないかもね」

「そうですか。…それはよかった」

 私は目を閉じる。
 難しいことなんか知らない。知るつもりもない。マキマさんが何者で、何を考えているかなんて。今さら知って、どうなるというのだろう?私の胸にはとうにマキマさんが住み着いている。人に信仰が必要なように、私にもマキマさんが必要なのだ。ただ、それだけのこと。それだけが、私の中にあるものだ。

カテゴリ:ネタ
2020/06/03 00:34


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