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チェ
恒例となりつつある今週のチェンソーマン感想です。やっぱりマキマさんが好き。というだけの小話。







 病院で見る白色がどこか蒼ざめて見えるのはどうしてだろう。冷ややかで無機質な、白。あまり好ましいものではないな、と私は思う。私が本当に好きなのは、もっと明るい色だ。

「天使くんは顔に似合わずよく食べるよね」

「そう?普通じゃない?」

「そんな細い体のどこに入るのか、なかなか興味深いよ」

 両腕をなくした天使くんはベッドの上で小首を傾げる。そんな彼の口に小さくした焼き鮭を運んでやりながら、私は頷く。
 未発達な少年の体。天使くんはあどけない顔をしていたけれど、食欲は成人男性と遜色ないものらしい。テーブルに用意された病院食を眺め、はて悪魔にも人間と同じ食生活が有効なのかしら?と思う。血液ばかり飲むのはやはり健康に悪いのだろうか?

「まぁ今じゃただのムダ飯食らいだけどね」

 天使くんは冷めた顔で自嘲の言葉を吐く。横顔はいっぱしの大人。端整な少年の顔が綻ぶことはない。その目にあるのは諦感、だろうか。何もかも諦めて、投げ出された体。衣服の袖の空虚が、なんとも痛々しい。
 「自分をそんな風に言うのはよしなよ」大人しく鮭を咀嚼する天使くん、その頭を撫でて、私は続ける。「少なくとも私は、君のきれいな顔が無事でホッとしてるんだから」
 冗談めかして言うと、天使くんは少しだけ口端を持ち上げた。

「面食いの悪魔」

「それ、こわい?」

「ぜんぜん。むしろ弱そう」

「じゃあ却下ね」

 天使くんは「似合ってるのに」と言って、それから「喉渇いた」とペットボトルに目をやった。飲みやすいよう、既にストローが差してある、それ。口許まで持っていくと、天使くんは溜め息をひとつ。

「不便だなぁ」

「首が繋がってるだけよかったじゃない」

 自分で言って、それじゃサモトラケのニケそのものじゃないか、と私は思う。頭部と両腕を失った、翼を持つもの。それを美しいと思ったのは確かなのに、今はこの連想に背筋が冷えた。美しいものは好きだけど、天国へ至る旅路には歓喜が伴うものだけど、でも私は、祝福できそうにない。
 ──尤も、悪魔に天国なんてものは存在しないけれど。

「よかったのかな、本当に」

 天使くんは遠くに目をやり、呟く。彼にも、天国への扉は見えないのだろうか。だとしたらこんなに悲しいことはない、と思う。

「どうせ処分されるんじゃない?結果は同じだよ」

「私はそうは思わないよ。君の力は便利だし、そう簡単に公安が手放すかな」

 言いながら、私はマキマさんのことを考える。マキマさん。私の上司であり、命の恩人でもある人。マキマさんが手を差し伸べてくれたから、今の私がある。聡明な彼女ならきっと、両腕を失ったデビルハンターにも別の道を与えてくれるんじゃないか。
 私のその考えは、しかし天使くんには鼻で笑われた。

「マキマに夢、見すぎじゃない?」

「むしろ現実的だと思うけど。別にマキマさんの情に訴えるってわけじゃないし。ただ、使えるか、使えないか……マキマさんは君のこと、結構買ってると思うんだ」

「ふうん?」

 私の熱弁も天使くんには通用しない。疑いの眼差しで、「恋は盲目って言うんだっけ」と私を見やる。
 とはいえそれに関しては弁明のしようもなかった。私がマキマさんを好きなのは事実だし、そのせいで考えに些かの偏りがある可能性は否めない。この想いは一種の宗教であり、見えないその姿にマキマさんの面影を重ねてしまっている。人が神を愛すように、私はマキマさんを愛しているのだ。
 とはいえそんなことを天使くんに言ったってどうしようもない。私は「そうだね」と首肯する。

「君の言う通り、私はマキマさんが好きだよ」

 私の告白に、天使くんは僅かに眉を寄せた。
 そして次いで発せられたのが「趣味悪いね」という鋭利な語。天使くんとは好みが合わないらしい。

「あの人のどこが好きなの?」

「どこがって……」

 マキマさんの姿を思い浮かべる。甘やかな髪に黒目がちの目。繊細な鼻梁に、思わせぶりな唇。淡い微笑と共に差し出された手が、私にとってははじまりの記憶である。
 その時も彼女はスーツを身に纏っていた。糊のきいたシャツ。冷ややかで無機質な、白。なのに私は、どうしようもなく惹かれてしまった。だから理由なんて──

「全部だよ。マキマさんの、全部が好き」

 天使くんは「そう」とだけ答えた。あまり興味のある質問ではなかったらしい。彼は机上の昼食に意識を戻し、「これ、味が薄いんだよね」と肩を落とす。

「退院したら好きなもの食べようよ。アキくんとかも連れてさ」

 提案しながら、私は内心で首を傾げる。
 たった今、何か引っ掛かるものがあった気がしたけど──いったい何だったんだろう。違和感はあるのに、言葉には表しがたい。
 言語化できないもどかしさを抱えながら、私は天使くんに笑いかけた。

カテゴリ:ネタ
2020/06/23 02:25


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