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アキくんルート
ツイでも呟いてたんですけど、ゲーム脳なのでどうしてもアキくんルートの悲恋エンドが書きたい!ってなったので書きました。
原作沿いのページに置いてある銃の悪魔編アキくんifルートで、アキくんが主人公の手を取らなかった場合の話です。
名前変換デフォ名なし。主人公一人称視点→アキくん視点。追記よりどうぞ。







 ビルの屋上から街並みを見下ろす。大通り、行き交う人の群れ。どれほどの人間がいようと、私は彼を見つけることができる。反対に、彼が私に気づくことはない。──永遠に、あの輝かしい日々は喪われたのだ。

「……よかったのか」

 隣に並んだ岸辺隊長に問われる。これでよかったのか。……そんなの、決まってる。私は微笑んだ。

「ええ。だって、他ならぬアキくんが望んでくれたことですから」

 アキくんは私の手を取らなかった。永遠を約束してはくれなかった。彼が望んだのは人としての刹那的な人生だった。……そしてそれを、私は叶えた。
 アキくんの望みは、私の願いでもあった。彼が幸せなら私はどうなったって構わなかった。本当に、心の底からそう思っていたから──後悔はない。
 「やせ我慢」岸辺隊長は私を指差す。「嘘つきめ」私はそんなことないと首を振る。
 まさか。だって、あり得ない。愛とは与えるもの、奉仕すること。私はアキくんを愛している。愛しているから、彼の選択を尊重した。愛しているから、これは当然の行いだ。

「惚れてたんだろ、アキに」

「惚れ……?」

「なんだ、そんなことも知らないのか」

 岸辺隊長には呆れられてしまったらしい。私は彼の言った言葉を反芻する。
 惚れている。……誰が、誰に?──私が、アキくんに?言葉の意味はわかるけれど、現実感に乏しい。どこか他人事。自分のことだとは思えない。私はアキくんを愛してはいるけれど、恋慕っていたわけじゃない。
 私はアキくんに何も望んじゃいない。ただ、生きていてほしかっただけ、で……。

「……私はアキくんに恋をしていたのでしょうか」

 口にすると、何故だか収まりがよかった。得心がいった、と表現するのが近いだろうか。所在なく宙に浮いていたものが、あるべきところに落ち着いた。そんな感覚だった。
 岸辺隊長は答えなかった。「俺にそんなことを語らせるな」感情のない目で、肩を竦めてみせる。そんな彼もかつては誰かに恋をしたことがあるのだろうか。
 『似合わないな』と内心笑ってから、お互い様かとも思った。最強のデビルハンターと、信仰の悪魔。私たちは平和な街と人々を眺めやる。

「私は悪魔です」

「そうだな」

「悪魔に恋などという感情はありません」

 そうだ、私は悪魔だ。信仰の名前を冠するもの。そこにあるのは人間への愛。それだけを胸に生まれてきた私は、信仰の悪魔でしかなかった。

 ──でも、

「……私はアキくんに恋をしていました」

 でも一時だけ、人間になることができた。アメリカでの生活。モーテルの管理人として過ごした日々。アキくんと家族の真似事をした時間。アキくんを想い、アキくんに恋をしていたあの時間だけ、私は人間だった。ずっと憧れていた、人間に。
 私は人混みの中の黒髪を追いかけた。その温もりや匂い、感触を想った。彼は永遠を約束してはくれなかったけれど、でも確かな傷となって私の中に残るのだろう。それは私にとって永遠の幸福でもあった。

「だからアキくんも幸せになって」

 幸せになってくれたら、それでいい。それこそが私の存在意義であり、彼と共に過ごした時間に意味が生まれ、永遠に彼の中に刻まれるのだ。こんなに嬉しいことはない。私の口許にも笑みが浮かぶ。

「……だから、さよなら」

 さようなら、私が初めて恋をしたひと。恋を教えてくれたひと。
 あなたがいたから、私はしあわせでした。





 名前を呼ばれた気がして、振り返る。
 けれど雑踏の中に知っている顔は見当たらない。気のせいだったのだろうか。それにしては納得がいかず、俺は首を捻る。

「なぁ〜にボヤっとしてんだよ」

「あぁ、」

「早く帰らねーと腹減らしたパワ子に俺が噛まれんだろ」

「そうだな」

 デンジに急かされ、再び前を向く。しかし歩みを進めても後ろ髪を引かれる感覚が抜けきらない。何かを忘れている。そんな気がしてならなかった。

「さみぃな」

「雪ふんのかな」

「そうなったら面倒だな」

 似たような会話を、かつてした。どこでだったか。……誰と、だったか。俺の隣ではデンジが鼻を啜っている。朧気な記憶とは重ならない。じゃあ、これは誰だ?
 胸に巣食う空虚。すきま風に吹かれ、俺は身を縮める。
 俺は何を忘れてしまったのだろう。そのことにすら、どうして今の今まで気づかなかったのだろう。遠く霞んでいく面影に、胸が痛む。それでも何も思い出せなかった。
 ただひとつ、確かなことがある。
 それはこの欠落が永遠だということだ。永遠にこの穴は埋まらない。俺は寒々しい空虚を抱えたまま生きていく。
 それはひどく悲しいことのようで、同時に救いでもあるのだと俺は思った。

カテゴリ:ネタ
2020/12/25 23:37


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