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じゅ
本誌のじゅじゅについての小話です。
脹相くんの母親(義理)になるだけの話です。
原作沿いと同一主人公、夢主視点一人称、名前変換デフォ名なし。
ネタバレしかないので本誌組の方は追記からどうぞ。







 虎杖くんを庇うようにして立つその青年に、私は困惑を隠せなかった。

「えっと、そちらの方は」

「あー……、こいつは、」

「俺は悠仁のお兄ちゃんだ」

 説明しかけた虎杖くんを遮って、青年──虎杖くんの兄を名乗る彼は言う。言い切る。断言する。そこには一切の躊躇がない。真実味を帯びた、声。
 「こいつは脹相」そう続けた虎杖くんは目に見えて疲弊している。特級との死闘、謎の呪詛師との会敵。身体はとっくに限界を超えているはずだ。できることなら早く休ませてあげたいところ。……しかしそうも言ってられないのが現実である。

「……虎杖脹相くんですか?」

「違う違う、俺、一人っ子だし」

「何を言っているんだ、悠仁。俺たちは兄弟じゃないか。ほら、お兄ちゃんと呼んでくれ」

「いや、呼ばねーからな!?」

 よくわからないけれど、たぶん東堂くんみたいなものだろう。それに何より先ほど虎杖くんを助けてくれたのは本当だ。
 敵ではないと判断し、私は警戒を解く。代わりに差し出したのは右手。

「はじめまして、脹相くん。先刻は手を貸してくださりありがとうございました」

「礼を言われることじゃない。弟を助けるのはお兄ちゃんの役目だ」

「それでも、です。虎杖くんは私にとっても大切な人ですから」

 共に過ごした時間は決して長いものではないけれど、それでも家族以上に家族らしい感情を抱いている。
 だから、と笑みかけると少しの沈黙を置いてから脹相くんは口を開く。

「……お前は?お前は悠仁の何なんだ?」

「私は……そうですね、できれば虎杖くんの義理の母親とかそういうのを担当したいですね」

 脹相くんの目は真剣そのもの。つられて私も真面目くさった調子で答えてしまう。義理の母親としたのはさすがに良心が咎めたからだ。本音としては虎杖くんの誕生から今までを見守りたかった。
 脹相くんは「なるほど」とひとつ頷いた。「義理か、それならまぁ、悪くない」……悪いパターンもあったのか。私はホッと胸を撫で下ろす。虎杖くんのお兄ちゃんに嫌われなくてよかった。
 当の虎杖くんは「わけわかんねぇ……」と頭を抱えているけれど。

「改めて。俺は脹相、悠仁のお兄ちゃんだ」

「よろしくお願いします、脹相くん」

「ああ、こちらこそよろしく頼む。……義母かあさん」

 脹相くんは僅かに表情を緩めて、私の手に応えてくれた。少し体温の低い人間の肌、感触。虎杖くんを守ろうとしてくれた、手。私にとってはそれで十分だった。
 その後ろで虎杖くんは「どんどん俺の家系図が複雑になっていく……」と宙を仰いだ。

「そうでした。虎杖くん、早く手当てをしましょう」

「や、へーきだよ。今は痛みも感じないし」

「それは後から激痛に襲われるものですね」

「クソッ、俺の弟に手を出すなんて!」

 膝を叩く脹相くん、対する虎杖くんは「お前も俺を殺そうとしてたじゃん……」と微妙な顔。兄弟で殺し殺されるとは家系図同様複雑な関係らしい。
 ともかく詳しい事情は後回しだ。私は術式を反転させる。《反射》から、《吸収》へと。

「あれっ?傷が……」

「はい、虎杖くんの負った外傷は私が引き受けました。とはいえ反転術式を回しているので私自身に影響はありませんから、ご安心を」

 だがこれは硝子さんの反転術式ほど有能なものではない。
 「疲労は残っていますから無理は禁物ですよ」続けて言うと、それでも虎杖くんは「ありがとう」と笑ってくれる。その笑顔に私はいつも救われているのだ。
 そんな彼の兄だから、私は脹相くんにも術式を発動させた。滲むような光が発生した後で、彼の負傷も消え去る。

「どうですか?痛むところは?」

「いや、問題ない」

「……よかった」

 息をつくと、脹相くんは首を傾げてみせる。「なぜ?」不思議そうにする彼は、自分の言った台詞を覚えていないのだろうか。

「私はあなたのお義母かあさんですから。息子には元気でいてもらいたいのです」

「……そうか、……そうだな」

 脹相くんは噛み締めるように言って、私を見た。その目には穏やかな光が宿っていて、私に「ありがとう」と言ってくれるところはやはり、虎杖くんと似ているなと思った。

カテゴリ:ネタ
2021/01/18 02:13


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