吉田くん
電鋸2部吉田くん夢です。
夢主は原作沿いと同じく信仰の悪魔です。
付き合ってる設定。
名前変換なし、デフォ名なし。
イチャついてるだけです。女殴ってそうな吉田くんが好きな方には向いてないです。
(そういう吉田くんもいいですよね……違う夢主で書いてみたい……)
青い空、白い雲、糊のきいたシャツ、はためく濃紺のスカート、規格化された少年少女の群れ。その一員であることが嬉しくて、口許は自然と笑みの形を作る。
「ごきげんだね」
からかうような声。薄い笑みを刷いているのは学生服姿の青年。「吉田くん、」同じ高校に通うこととなった彼に指摘され、少女は頬を染めた。
「だって学校に通えるんだよ?キミは嬉しくないの?」
「学校自体に思い入れはないからなぁ」
「それはキミが人間だからわかんないだけだよ」
彼女は信仰の悪魔だった。だから学校に通ったことだって当然ない。とある人──実際は人ではなく悪魔であったのだけど──に拾われてからはずっと、公安でデビルハンターをしていた。
もちろん今でもデビルハンターは続けているし、それが厭なわけではない。それでも普通の人間らしい生活というものに憧れは尽きなかった。
だから今、こうして通学路を歩いているだけでも笑みが溢れてしまうのだ。この感情はきっと、人間には理解できないものだろう。悪魔だって──目を伏せた彼女が思い浮かべるのは、今ではもうこの世にはいない女性のことだった。
もしも今ここにマキマさんがいてくれたら──私はもっと幸せだったのかしら?
足元には暗い影が伸びている。セミの鳴き声。彼女のいない夏が始まる。それをとても悲しいことだと思う。
「……でも俺だっていつもよりかは楽しみだよ」
「そうなの?」
とてもそうは見えないけど。
長い前髪の奥にある目は、いつも通り涼しいものだ。そしてその透き通った目を緩めて、口を開く。
「そりゃあね、好きなコが一緒なんだから」
……………………
「照れてる?かわいいね」
「ちょ……っ、覗き込まないで!顔が近い!し、照れてないから!」
「でも耳が赤いよ?」
「やっぱり照れてるじゃん」と、笑み含む声に、口を真一文字に結ぶ。頬が熱いのは自分が一番わかってる。けど。
「どうしてそういうことを真顔で言えるのかなぁ」
「言わなきゃ伝わんないでしょ」
それはまぁ、たしかに。言わなくても伝わってる……なんてのは思い上がりも甚だしい。故に破局を迎えるのは何も恋人たちに限ったことではないだろう。物語の中ではありふれた話だ。
でもだからってそんな、さらっと言えるものなのかしら。少女は両の頬を押さえる。愛を語るには悪魔の身が邪魔だった。
「まぁ、急ぐことはないよ」取りなすように彼が言う。「気は長い方だからね」
でもそれじゃだめなんだよ、と少女は思う。だって、いつ死んじゃうかわかんないんだよ?人間はか弱い生き物だ。そうなった時──もちろん、そんなの考えたくもないけど──
「……吉田くん、」
「な、に──」
踏み越えた一線。彼の腕に絡めたのは自身のそれ。衣擦れの音。縮まる距離。感触が、衣服越しに伝わってくる。セミの鳴き声がうるさい。熱気が、足元から這い上がってくる。
「……どうしたの?」
「べつに。ただ、腕を組みたくなっただけ」
ううん、うそ。
「……誰にも渡したくなかったから」
キミがすきだよ、と囁く。ちいさく、大切なものを差し出すみたいに。
ちゃんと届いたことは、握り返す手のひらが教えてくれた。
「それなら首輪でもつけようか」
「変な目で見られるよ」
「俺はいいよ、他人なんか気にならない」
「キミがよくても私が厭なの。キミが注目されるのは、どういう理由であれイヤ」
本当は閉じ込めてしまいたい。誰の目も手も届かぬ場所。そんな素敵なところがあるのなら連れ去ってしまいたい。他の誰にも侵されぬよう──黙示録の四騎士でさえも奪えぬように。
「すごい口説き文句だね」
「いやになった?」
「ううん、まさか」
よかった。今更いやになったと言われても、離してなんてあげられないから。
きっと私のほうが吉田くんに依存してるんだろうなぁ。
じぃっと見上げていると、彼もまた静かな目で見つめ返す。
「さっきの、」
「うん?」
「『そういうことを真顔で』って言ったけど。あんたも時々、結構なこと言うよね」
「そう?吉田くんには敵わないよ」
「いやいや、それはこっちのセリフだって」
目を合わせ、笑み交わす。たったそれだけのことが嬉しい。手のひらはじんわりと熱を持って、夏の熱気が肌に纏わりつくけど、でもそんなの気にならない。
それはたぶん、相手がキミだから──
「あのね、吉田くん──」
今の私が幸せなのは、キミが隣にいるからなんだよ、って。
そう言ったら、キミも少しは照れてくれるのかな。
カテゴリ:ネタ
2022/07/21 17:07
2022/07/21 17:07
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