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2022年5月17日分の拍手返信+お礼SSです。
追記からどうぞ。
長らくお待たせして申し訳ないです。。



>>楊戩と妹弟子の番外編の続きを〜の方へ

お久しぶりですこんにちは。
楊戩と妹弟子の番外編を〜とのことですが、すっかりどういった話だったか忘れており……。
自分が書いたものを読み返せば思い出せるかもしれないのですが、封神夢を書いたのは何年も前なので今読み返すのは恥ずかしすぎて……今以上に稚拙な文章に耐えられず…………すみません。
申し訳ないので代わりの楊戩夢を書きました。求めてるものとは違うと思いますがご容赦を……。


というわけで以下楊戩夢SSです。

原作沿いの主人公(周の武官)が普通に生きて死んだあと。その生まれ変わりの女の子(康国の踊り子、商団と共にスイアーブを目指す道中、楊戩に助けられる)と楊戩の話です。
名前変換なし、デフォ名なし(彼女表記)。
楊戩視点です。
時代的には630年前後くらい。玄奘法師がインドへ向かってる辺りをイメージしてます。唐代が好きなので……。
ちっとも甘くないのでくっつくまでシリーズ化したいなぁとぼんやり思ってます。








 砂漠の夜は驚くほどに静かだ。草の一本さえ生えない荒涼とした大地。風は何に遮られることもなく吹き抜けていく。昼間は見えていた雪を頂く山々も、夜の闇に覆い隠されている。ぽっかりと浮かぶ月と足許でパチパチと音を立てる焚き火だけが、この世界に存在するすべてだった。
 生命の死に絶えた世界で、楊戩は空を見上げていた。深い意味はない。他に視線をやるべきところが見つからなかった。だから満天の夜空を眺めていた。それだけのこと。でも長い夜を明かすには必要なことだった。
 尤も、寝ずの番をしたことは過去にもあったけれど。
 でもそんな過去も今では遥か昔のこと。あれから幾つの国が滅び、生まれたことか。思い出は今もまだ色鮮やかに残されているが、過ぎ去った日々を懐かしく思いこそすれ、生じる距離を惜しむこともない。そんなことも考えられないくらい、長い年月を生きてきた。
 だから、そう──【こんなこと】にだって、慣れているはずだ────

「お隣、よろしいですか?」

 背後から声をかけられた。軽やかな、女の声。楊戩は微笑む。
 「どうぞ」本当は声をかけられる前から彼女が歩み寄ってくるのは知っていた。顔を上げずとも、空気の震え、気配でわかる。彼女のことなら、なんだって。
 ──何しろ、生まれた時から見守ってきた存在だからね。
 愚かなことだと思う。我ながら、酷く滑稽だ。たとえ魂が同一であっても、彼女は自分の知る【あの人】ではないのに。

「眠れないのですか?」

「ええ。少し、考えごとをしていたものですから」

「おや、何か悩みでも?」

 訊ねると、女は「そうですね……」と思案するように視線を泳がせた。焚き火の炎によって、ほの赤く燃える輪郭。紅色の唇がゆるり、弧を描く。

「貴方のことを考えていたから……と言ったら?」

 蠱惑的な、それでいて子供の無邪気さも持ち合わせた笑み。悪戯っぽい顔は、記憶のそれと少しも重ならない。【彼女】がこういった冗談を言うところは見たことがなかった。からかうのはいつも、自分の方だったのに。
 楊戩は「光栄ですね」と答えた。それ以外に言えることなどなかった。そう、何ひとつとして。

「もうっ、楊戩さまったら」

 女は不服そうに頬を膨らます。
 「ちっとも照れてくださらないのね」その言葉は、先の問いがからかいによるものだという証。本気にするだけ馬鹿なこと。
 ……別に、残念だなんて思っちゃいないけど、

「もう若くないからね」

「そのお顔で言われても説得力に欠けますわ」

 はぁ、と溜息。抱えた膝に頬を埋めた彼女に、上目でじとり、睨まれる。

「自信をなくしてしまいそう、貴方のせいで」

 女は踊り子だった。康国サマルカンドの麗しき姫君。胡姫である彼女は、行商人たちと共に東にある大都市、素葉スイアーブへ向かう途上にあった。
 しかしその道中、妖怪に襲われ、あわや──というところで、助けに入ったのが楊戩だった。
 とはいえ当初は彼女の旅に同行するつもりなどなかった。ずっと見守ってきて、妖怪などに奪われたくなかったから助けた。それで終わりにするはずだった。
 そのはず、なのに──

「一体どんなお手入れをなさっているの?そろそろ白状してくださいな」

「いや、だから何も……。僕のこれは生まれ持ったものだから」

「……貴方、それで今まで何人の人を敵に回してきたの?」

「さぁ?覚えてないな、多すぎて」

 ははは、と白々しく笑う。と、
 「むっかぁ〜」「いてて」片頬を引っ張られ、言葉だけの抵抗を試みる。というのも、痛みはなかったから。女の、柔い指の二本くらいで傷つくようなヤワな身体はしていない。

「なんにもしてなくてどうしてこんなにスベスベ肌なのかしら?悔しいわ……」

 女の手が膚の上を滑る。言葉とは裏腹な、優しい手つきで。
 楊戩は彼女の好きにさせておくことにした。
 継ぐ息と、火花の弾ける音。辺りは変わらずの静寂。色素の薄い髪が一房肩から滑り落ち、瞳を炎がちろちろと舐める。琥珀色の目。頬を撫でる手が止まる。

「──どうしてわたくしを助けてくださったの」

 たとえば本当のことを言ったとして、彼女はどうするだろう?大切な【友人】の生まれ変わりなのだと、だから助けたのだと打ち明けたら?
 彼女は、僕は、……僕たちは、

「……妖怪に勝手な真似をさせるわけにはいかなかったからね」

 ふ、と微笑んで、息を継ぐ。嘘は言っていない。ただそれだけが真実というわけじゃないだけで。
 でもこの選択はひとつの分岐点だった。何も知らないはずの彼女、けれど踊り子として多くの人間を見てきた彼女はそれだけで何かを悟った。
 彼女も微笑んだ。「そう、」そうね、貴方はきっとそういう人なんだわ。「お優しくって、イヤになる」頬に添えられていた手が離れていく。その指先が少し惜しむように宙を藻掻いた。……ように見えたのは、幻だったか。

「天幕に戻ります。もう少し眠る努力をしてみますわ」

「送りますよ」

「お気遣いありがとう。でもその必要はありません。自分の身くらい自分で守れますから」

 おやすみなさい、と立ち上がる。その様子は普段と何ら変わりない。薄い笑みと凪いだ瞳。歩き去る背はぴんと伸び、やがて夜の中に帰っていった。
 また、世界に一人取り残される。ぽっかりと浮かぶ月と足許でパチパチと音を立てる焚き火だけが、この世界に存在するすべて。
 でもこんなことには慣れている。ひとりであることだって、

「……夜は冷えるな」

 独り言に、焚き火がパチリと答える。同意か、それとも?
 楊戩の傍らにあるのは、突き刺すような空気だけだった。

カテゴリ:ネタ
2022/07/25 21:59


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