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アンケートで直哉くんのコメントくださった方へ。
以下京都校の直哉くんと原作沿いと同設定の夢主のSSです。
追記よりどうぞ。
これもシリーズ化できたらなぁと思ってます。
※関西弁わからないので何となくで書いてますすみません……。










 東京都立呪術高等専門学校。はるばる京都からやってきたというのに、直哉を待っていたのは最強の呪術師ではなく、落ちこぼれと名高い女だった。

「なんや、悟くんはおらんの?」

 青みの強い黒髪に、凍てついた二つの目。そういえば同い年だったか、と不確かな記憶をたぐる。雑魚に興味はない。珍しい術式を持っているとはいえ、自身のそれすら自由に操れないなど言語道断。直哉は一瞥のうちに女の存在を忘却した。
 姉妹校による交流会。という名の元に繰り広げられるは呪術界の醜い権力争い。禪院と五条、因縁深い二つの家。その片方の看板を背負う直哉にとって、もっぱらの関心は五条悟にあった。
 しかし彼の姿はスタートの合図が鳴った後も見当たらない。その可能性はもちろん高かったけれど、実際にとなると落胆の方が大きい。直哉は端正な顔を歪め、溜息をつく。
 それを見て、女は首を傾げる。

「五条先輩は出ません。事前にお話があったはずですが、お聞き及びでは?」

「うっさいわカス。誰に断って俺に話しかけてんの」

 苛々する。出来損ないのくせに平然としている女、「すみません」と謝るのは口先ばかり。傷つきもしなければ怒りもしない。凪。実力はこちらが上だ。だというのに侮られている気がしてならなかった。
 直哉は唾を吐く。「しょうがないから俺が相手したるわ」どうやって虐めてやろう。どうすればこの女の顔を歪められる?泣いて、縋って、許してって懇願されたら、少しは溜飲も下がるだろうか。
 だからって、許してやるつもりは毛頭ないけど。
 なのに女は、

「本当ですか?」

 嬉しい、と。笑って、刀を構える。馬鹿な女だ。直哉の口は酷薄な笑みを作る。その頭にはもはや交流会のことなど残っていない。くだらない遊びのことはくだらない学生たちに任せておけばいい。自身の同級生のことも、直哉は見下していた。

「よろしくお願いします、直哉さん」

「は?馴れ馴れしいわ」

「では、……えっと……、禪院さん……?」

「【直哉さま】やろ、普通。礼儀ってもん知らんの?」

「はぁ……」

 なるほど、とわかったようなわかってないような。まぁどうでもいい。どうせその生意気な口もすぐ使い物にならなくなるだろう、し、──

「わぁ」

 びっくりした、と呟く顔は相変わらず無感動。おかしいやろ、と直哉は瞠目する。
 いま倒れてるのは俺やない、お前のはず。なのにどうして。どうして俺の方がお前を見上げてる──?

「お前、術式が……」

 【反射】の術式は、まともに使えないはずでは──?
 聞いていた話と違う。混乱する直哉を見下ろして、女は「ええ」と物憂げに息をつく。

「自分の思うように使えないんです。練習したいのですが、術式の特性上ひとを傷つけてしまいますから、灰原くんや七海くん……お友達には頼めなくて」

 だから嬉しい、と女は笑う。「直哉さまなら平気でしょう?」禪院家の優秀な術師ですもの──。
 その言葉は間違いなく賛辞であった。直哉の好きな言葉。禪院家の跡取り。優秀な術師。そうだ、その通りだ。
 「よくわかってるやないの」なのにそう笑う頬が引き攣る。喉が干上がり、鼓動が速まる。なぜだ。否、答えはわかっている。わかっているけど、認められない。認めるわけにはいかない。

 俺がこの女を恐れているなんて──!

「そんならルールを決めんと」

「ルールなら先ほど……」

「ああ、ちゃうちゃう。交流会のやなくて、君と俺とのや。君は俺とヤれるだけで嬉しいんやろうけど、俺にだってメリットが必要やろ?」

「そう、ですね……、ですが私に差し出せるものなんて何も……」

 困った様子で女は頬に手をやる。先に直哉の方が『相手してやる』と言ったことすら忘れた様子で。
 その様を見て、『アホか』と思う。恐るるに足らず。冷静さを取り戻し、直哉は改めて女の全身を見回す。
 家柄は及第点、顔は上々(好みではないが)、尻は貧相だが胸はそれなり。何より従順なのはいい、と直哉は笑みを深める。女に必要なのは従順さと尻と胸、この三つだけだ。

「そんなら君自身を賭ければええねん。俺が勝ったら君は俺のペットになる、これでどうや」

「ペット……愛玩動物ですか?私に務まるかしら……」

「ごちゃごちゃ言わんと、ほら!」

 先手必勝。「嫌なら君が勝ったらええねん」1秒間に24フレーム。女は直哉の術式を知らない。対して女の術式は明らか。ならば反応できないほどのスピードと重さで打ち破ればいい。勝算はある。あるからこそ、直哉は距離を詰めた。
 驚きに見開かれた目。透き通った双眸に、男の顔が反射する。直哉と、それから──
 それから────?

「チッ」

 邪魔が入った。交流会の獲物。呪霊の一体が木立の間から飛び出してきた。
 毛むくじゃらの、真っ赤な呪霊。疱瘡神の一種……いや、その紛い物かと体勢を立て直しながら考える。
 せっかくいいところだったのに。クソ。

「残念。続きはまた今度、ですね」

 隣に並んだ女が言う。滲むような笑みを浮かべて。笑う女の唇の、その紅さがいやに目についた。平然としたこの顔、痛みも恐れも知らぬこの顔を歪めてやりたい。
 加虐心の萌芽。灯された小さな炎が、直哉の胸で揺らめいた。





 どうやって虐めてやろうか、そう考えていたはずなのに──これはどういうことだろう?

「……は?」

「ですから、こちらを差し上げようかと」

 交流会後。さて京都に帰ろうかという段になって、直哉に声をかけてきた女。「愛玩動物をご所望なのでしょう?」灰原くんに貰いました、と彼女が差し出すのはチケットらしきもの。『猫カフェ』、と書かれているのがちらりと見え、直哉は青筋を立てる。

「いや、自分頭悪いん?」

「それは否定できませんが……」

「……あっそ」

 怒らんのかい。肩透かしを食らって、言葉を重ねる気も失せる。

「ご不要でしたか?」

「……なんや、そんなに俺とデートしたいん?」

 女なんてチョロいもんだ。ちょっと優しくしてやればすぐに靡く。『結局のところこいつも同じ手合いか』失望と共に、唇は弧を描く。
 それはそれ、これはこれ。玩具は壊れるもの、だからどれだけ持っていても困ることはない。
 女の顎を掴み、クイと持ち上げる。遠くで女の同級生たちが騒いでいる。あぁ喧しい喧しい。クズどもの寄せ集め。有象無象のガラクタたち。お前もそうなのか?
 水底の深き瞳。いつか見た、青空を思い出す。
 ──悟くん、

「……貴方はそれで満足なのですか?」

 ニセモノめ。

「うっさいわ」

 お前じゃ悟くんの代わりにはならない。悟くんも、甚爾くんも、お前とは違う。お前は、違うのに──
 一瞬でも重ねてしまった自分が許せなくて、直哉は顔を歪めた。


カテゴリ:ネタ
2022/08/02 15:50


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